第54話 「マテリアⅣ」
「避けろマテリアっ!!」
襲いかかってきた甲冑の人間は迷わず私目掛けて錆びた剣を振り下ろしてきた。
「きゃあっ!?」
だが斬りかかられる寸前でその剣の動きが止まった。
「誰だか知らないが、女性から狙うとは卑劣な野郎だ」
その錆びた剣の刃を片手で握り締め、フォルテさんがガッチリと止めていた。
「おるあぁぁぁっ!!!!」
襲いかかってきた人間は、甲冑が割れながら殴り飛ばされていった。
「すごい…本当に拳で…」
「大丈夫かマテリア?」
「え…あ、はい…///」
「おいおい、ありゃアンデッドだぞ。ここは五神獣の結界とやらで守られていたんじゃないのか?」
「アンデッド…?」
「死んだ人間に微生物が寄生して、細胞を再活性させられて動き出しているやつのことだ。」
「え…」
「身体を火葬でもして肉体を消せば寄生されることはまずないが、おそらくここで死に絶えてそのまま放置されていたんだろう。」
「それじゃあ、この結界内の森に昔人間が入り込んでいたってことですか?」
「細かい事までは分からんが、まぁそうなるだろうな」
とても嫌な予感がした。
「総員、戦闘用意っ!!正面に複数の敵影!!」
衛兵の一人が声を荒らげて指令を出す。
「まさか、群れってあれの事か?」
フォルテさんの視線の先を見ると、
「あれ全部…アンデッド…!?」
おびただしい数のアンデッドがこちら目掛けてゆっくりと近づいてきていた。
しかも、その中心には、アンデッドとは全く姿形の違う獣の姿が確認出来る。
「群れって…何でも良かったんだな」
翡翠色に輝く一本角、神々しいまであるその姿。
「ユニケルスを視認っ!!周囲のアンデッドを殲滅し、捕獲するぞ!!」
襲い来るアンデッド達を次々と倒していく衛兵達。
だが数があまりにも多すぎる。
確実に倒していくがこれでは時間がかかりすぎる。
「教皇、まさか分かってたんじゃないだろうな…」
「何か言いました?」
「いや、何でもない……衛兵っ!俺がやるっ!」
その一声で、衛兵達は戦闘を止めてその場から離れていく。
「獣相手じゃなくて良かった。マテリア、ちょっと下がっててくれ」
「は、はい…」
その背中を見ながら、少しずつ後ろへ下がっていく。
ユニケルスはまだこちらを見ながら佇んでいた。
早くしないと、数が減っていけば警戒が強くなって逃げてしまうかも…
「すぅぅぅぅぅっ………いぃくぞぉぉぉぉぉっ!!!!!」
突然、フォルテさんが叫んだかと思ったら、アンデッドの群れに突っ込んでいった。
「フォルテさん危ないっ!!」
「う"ぅぉら"ぁ"ぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「大丈夫だ。場も整えてあるし、後は彼に任せておけばいい。」
衛兵の一人が何も心配していない表情でフォルテさんを見ていた。
「で、でも…あの量を一人では…」
いや、そんな不安なんてすぐに吹っ飛んでいった。
今、目の前にいるフォルテさんがどれだけアンデッドに囲まれようともその拳で薙ぎ倒していっていたからだ。
「すごい…一体どんな魔法を…」
「彼に魔力は顕現していない。」
「え?魔力が…ない?」
「あぁ、彼は"天性の勘"を持っている。どれだけ囲まれようとも最短で危険を及ぼす敵を瞬時に判断して倒すことが出来る。まぁ後は…」
「後は?」
「努力で身に付けた並外れた身体能力と筋肉量だ。最近ではそんなあいつを"無双のフォルテ"と呼ぶ者もいる。」
「へ、へぇ...」
まさか魔法も使わずにここまで戦う人がいたなんて…驚きで声も出ない…
「フォルテは本当にすごいやつなんだ。俺達はあいつより歳上だが、あいつがいてくれたらとても頼りにしてしまう。」
「マテリアっ!いけるかっ?!」
気付けばユニケルスの前にいるアンデッドはもう片手で数える程しかいなかった。
「あ、はい…!!」
剣を構え、魔力を流し込む。
そう、いつも通りにやればいい。
いつも通り、この魔力を込めた剣を当てさえすればそれで終わる。
アンデッドの間を通り抜け、対象に向かって剣を突き出す。
でも…
「あ…」
この剣で斬りかかった時の感覚と…
倒れていく獣達の目が…
まるで重い枷のように、私の足を止めてきた。
「マテリア?!」
周囲にいるアンデッドが私目掛けて襲いかかってきている。
ユニケルスもただ佇む私を見て、その場から逃げ去ってしまった。
「あ…あ……」
どうしよう…失敗した…
教皇様の期待を裏切ってしまった…
また…
人質に取られている捕獲した獣達が…
私のせいで、殺される…




