第53話 「マテリアⅢ」
「あぁそうだ、ケガワウシがそもそもその村でしか家畜化されてない珍しい種類だからな。」
「へぇ、だからそのバターも特産品の中でも珍しい物なんだ…」
気付けば、最初の事なんか忘れてるくらい打ち解けて会話を続けていた。
というより、フォルテさんが会話をどんどん広げてくれて、しかも私が質問や返答がしやすいように流れを作ってくれている。
ただ、こんなにもお爺様以外と会話したことがなく、私の知らない事を教えてくれるから楽しくて仕方がなかった。
「あの、今さらなんですけど…」
「なんだ?」
「この遠征、どうしてフォルテさんが同行することに?」
「あぁ、今回の捕獲対象が別種の群れに紛れて行動しているみたいでな、しかもすばしっこくてかなり手の妬ける獣だと聞かされている。それで、俺に声がかかったんだ。」
「フォルテさんなら大丈夫なんですか?」
「はっはっはっ!!信用されてないな(笑)」
「いやそんなつもりでは…!」
「分かっているよ、まぁ多数戦闘の経験は部隊の中でも多い方だ。それで選ばれたのだろう。」
歴戦の猛者なんだ…
どうりで雰囲気というか、大人だな…
「もう11歳だし、フォルテさんみたいに私も一人で戦えるように頑張らないと…」
「おいおい、まだ11歳なんだ。そんなことはしなくてもいいんだぞ。そういう戦闘事は俺らみたいなお兄さんに任せておけばいい」
「お兄さん?」
「またトゲがあったぞ。俺はまだ18のバリバリのお兄さんだ」
「へっ…?………えぇっ?!」
突然の大声に馬車を引く馬が驚いたのか、大きく揺れた。
「きゃっ?!」
「おっと…!」
バランスを崩した拍子にフォルテさんに抱き付いてしまった。
「大丈夫か?」
「……っ?!///」
優しく支えられるように抱き締められてしまい、顔が熱くなるのを感じた。
「あ、あの……すみません大丈夫です…!!///」
「まさか、馬にも驚かれるとは思わんかったぞ(笑)」
いや多分私の声に驚いたんだと思う…
でもそんなことを言っている余裕は無かった。
心臓の高鳴りが止まらない…止まってくれない…
こんな事、産まれて初めてだった。
「お、そろそろ着くぞ~」
王都から南西に位置する「古代樹ヴェルトーテの森」。
その名の通り、樹齢数百年以上の大木「ヴェルトーテ」が何百と連なり、入れば最後、迷い二度と出ることは不可能と言われた場所だ。
「ここにはまだ未知の生態系が残っているらしく、開拓も進んでいないみたいだ。」
「王都からそこまで離れている訳でもないのに、どうして開拓が進んでいないんですか?」
「それはだな…」
「遥か昔にここで五神獣の一体がその身を削り、植樹してできた森と言われ、他の生態系の侵入を拒む結界が今も残っておるのだ。」
自身の馬車から教皇が優雅にコーヒーを飲みながら、話しかけてきた。
「その結界がここ最近で弱まり始めておってな、時間は制限されるが入ることが可能となったのだ。」
「ちなみに、今回の捕獲対象はなんです?」
「ユニケルスという鹿だ。」
「鹿…」
「鹿なら、簡単に捕獲出来そうだな。」
「侮れんぞ。ユニケルスはかなり素早く、警戒心も強い。さらに先行させた調査部隊の話では他種の群れに紛れて擬態しておる。」
「擬態…じゃあ見分けなんて…」
「特徴として、ユニケルスは翡翠色の一本角を持っているからそれで見分けるといい。だが、本当に気を付けるべきは…」
ーーーヴェルトーテの森ーーー
少人数の衛兵部隊を連れ、日の光が遮られるほど実った大樹の合間を抜けていく。
風一つ吹かず、遠くから聞いたことの無い獣の鳴き声が響き渡ってきている。
「マテリア、その剣は?」
「これですか?私の武器です。」
背中に背負った身の丈ほどの大きな剣に手を振れる。
「鞘には入れないのか?」
「そしたら抜けなくなってしまいます。」
「その剣、魔力を流し込めるように特殊な構造になっているな。」
「見ただけで分かるんですか?」
「まぁな。」
「そういえば、フォルテさんは武器持っていないですか?」
「俺か?俺の武器はこれよ」
そう言って、自身の拳を叩き合わせる。
「己の拳で充分だ…と言いたいところだが、本当は持ってきていないだけだ。」
「忘れてきたということですか?」
「いや、獣に武器なんて使いたくないんだ。殺す理由などない。」
「でも、自己防衛で必要では…」
「だからこの拳で問題無いのだ。はっはっはっ!!」
フォルテさんが高らかに笑うと、聞こえていた獣の鳴き声が遠退いていってしまった。
「フォルテ殿、ここでは静粛に願いたい」
「おっと、すまない」
「ふふっ…」
衛兵の一人に注意され、口を抑えるフォルテさんを思わず笑ってしまった。
あれ…
自然と笑えている自分がいた…
つい今朝まで、そんな感情すら忘れていたのに…
「前方、動きあり」
正面の茂みが不自然に揺れていた。
衛兵部隊が武器を構えて体制を整えている。
私も剣を構え、魔力を流し込む。
「いや待て、少量の魔力反応を確認。獣ではないぞ」
「え?」
その瞬間、茂みから襲いかかってきたのは錆びてボロボロの甲冑を纏った人間だった。




