第50話 「伝言」
気が付くと、見慣れた景色が広がっていた。
「ここは…」
雪が降り積もり、朝日に照らされ輝いている。
茅葺きの屋根からつららを伝って水滴が落ち、家畜の朝を呼ぶ鳴き声が村中に響き渡っていた。
心地が良い…
いつの間に…帰ってきていたのだろう…
故郷のこの村に……
キュルッ!
「え?」
振り返ると、ラズリがいた。
「ど、どうしてここに…」
頬を擦り寄せてきて、その感触が久しく感じる。
「ち、ちょっと待って!こんなところにいたら村の人に見られちゃう…!」
「フェリス?」
懐かしい声が私を呼んだ。
思わず、振り返る前に呼んでしまった。
「お母さん…?」
そこにいたのは、間違いなく母だった。
「フェリス、ケガワウシの世話はどうしたの?」
「え?」
「まだ寝ぼけてるの?早く行ってきなさい」
「うん…お母さん…だよね…?」
「そうに決まってるじゃない(笑)」
「そ、そっか…そうだよね…」
今までのは…夢だったのかな…
「朝からお世話ができないようでは、立派な獣医師になんてなれないわよ?」
「分かってるよ!じゃあ行ってきます…!」
あれ…?
ラズリは…?
「お、お母さん…あの…」
もう一度振り返ると、血を流しながら倒れている母がいた。
「え…?」
その上から大きな黒い影が覆い被さっている。
まるで、飲み込もうとしているかのように…
「だ、だめ…やめて!!」
手を伸ばしても、届かない。むしろどんどん離されていく…
それでも母は血を流しながら、何故か微笑んでいた。
「お母さんっ!!!!」
全身に嫌な汗を感じ、息が切れて呼吸が苦しい…
「ハァ…ハァ…っ!!」
ここは、おばさんの家の私の部屋…
「大丈夫かいっ!?」
おばさんが慌てて部屋に入ってきた。
「おばさん…私…」
「夕方、マテリアがあんたを担いでやってきてね…今まで眠っていたけど、ずっとひどくうなされていたよ…」
窓の外を見ると、真夜中の空に雲がかかっているのが見えた。
「目が覚めてよかったよ…あたしゃてっきり…」
どうやら、母の話を聞いてから気を失ってここまで運び込まれたらしい…
ローブもフードもない姿をおばさんに見られてしまっていた。
「あの…私…」
「今はゆっくり休むんだ…と言いたいところだが…」
「すみません…騙すつもりは…」
おばさんが伝言の書かれた紙切れを取り出した。
「目が覚めたら、マテリアからフェリスちゃんに渡してほしいと預かっていたのさ。読むつもりは無かったけれど、すまないね…」
その紙切れを受け取り、目を通していく。
「…っ!?」
「フェリスちゃん、やるべきことがあるんだろ?」
あの優しい微笑みを私に向けてくれていた。
そしてその腕で抱き寄せられ、少し、安心できたのか涙が溢れそうになる。
「必ず、助けるんだよ」
「おばさん…ありがとう…」
「さぁ、行っといで」
ベッド横に綺麗に畳んで置いてあるローブを羽織り、フードを被って部屋を後にした。
「……会いたいねぇ…バカ息子に…」
街灯が照らされる夜の暗闇の中、おばさんの家を後にしマテリアからの伝言で指定された場所へ急いで向かっていた。
急がないと、間に合わなくなる…
「みーつけた…」
突然、背後から不気味な声が聞こえた。
「誰…?」
身構えるも、この暗闇に紛れて姿がよく見えない…
「教皇様の計画までにはなんとか間に合うかな…いや間に合わせないと…」
なにやら一人でぶつぶつと呟いているが、位置の特定ができない…
「ねぇ、あの黒鱗のドラゴンはどこにいるんだい?」
「…?!」
私は震える手で懐からナイフを取り出し、暗闇に向ける。
「一体、何の話…」
「いやいや、初めましてじゃないよ。覚えてない?」
ゆっくりと足音が近づいてくる。
その正体が少しずつ街灯に照らされ始めていく。
「…?!」
「アウルだよ、幻影のアウル。」
以前、幻影の母の姿を纏ってラズリを捕まえに来た人だ…
「とりあえず行こっか。キャプタラ〈不可視の縄〉ッ!」
次の瞬間、見えない何かに巻き付かれ、身動きが取れなくなった。
「は、離してっ…ムグッ!?」
同じように口元も何かが巻き付いてきて、上手く声を出せなくなってしまう。
「後でドラゴンのこと聞かせてもらうからね。シャドー・シンクム〈影への沈殿〉」
「んぐっ…んっ!?」
助けを呼べない…
身体が影に飲み込まれるように地面に沈んでいく…
誰か…
「んんっ…たす…け………っ!!」
「アハハハハハハハッ!!!」




