第48話 「目的」
暗闇に身を隠し、二人の様子を伺う。
エヴァンスさんとマテリアが片膝をついて待機しているのが見える。
そこに、薄暗く良く見えないが、白いローブを着た男が二人の目の前に現れた。
「エヴァンス、何かあったのか?」
「何がでございますか、教皇様?」
「獣共の様子がいつもと違うようだが」
「申し訳ありません。私が獣達の看病をして回っており、それで身を守る為に興奮状態に入ってしまっているのかと…」
マテリアがなんとか誤魔化して弁明している。
「そうか、あまり余計な事はしないでくれたまえよ。こいつらはまだ計画に必要な個体達なのだから。それに…」
教皇は不適な笑みを浮かべ、鉄格子の獣達を見ていた。その目は決して命を見る目ではない。物を見るような冷徹な目をしていた。
「グリフォンも様子が違うようだが、まさかマテリアが?」
「いえ、グリフォンは自然治癒によるもので…希少種ゆえ、自然治癒能力も高い事が分かりました。」
「では、あの懐が膨れているのは?」
「それは…まだ原因を解明中でして…」
グリフォンが教皇にまるで近づくなと警告をしていた。誰も近寄れぬような鋭い目を向けている。
「…まぁ良い。エヴァンスにマテリアよ、明日計画を実行する。」
「あ、明日…?!」
「教皇様、本当に実行するのですか…?」
「何か不都合でも?」
「いえ…ですがその計画を実行すればいよいよ大陸間での戦争が…」
「問題無い。既に最大兵力の準備を進めておる。まぁ、あの女の娘を捕縛できなかったのは非常に残念ではあるが…」
「娘?あの者に子が…?」
「忌まわしき呪われた一族の女の娘だ。その娘が必要だったのだが…」
「……っ!?!?」
「……あぁ、その娘が器としての…いや、この話は忘れてくれ。私は一度"研究室"へ向かう。おまえ達は指示通りに動くのだ。」
「…仰せのままに。」
そう告げて教皇はもと来た道を悠然と戻っていった。
「お爺様…」
「いかん…このままでは本格的に戦争が始まってしまう…」
「今の話はどういうことなの…!!」
我慢出来ずグリフォンの懐から飛び出し、二人に駆け寄った。感情のコントロールが上手く出来ない。
二人も驚いたような表情をして私を見ているが、そんなの関係ない。だって…
あの人が言っていた呪われた一族の女は……
「フェリス、一度落ち着いて…」
「落ち着けるわけない…だって私は…母を探してこの王都に来たのだから…!」
「フェリス…」
「青い髪に青い瞳…やはり、君はあの方の娘さんだったか…」
「エヴァンスさん…お願いします!母について知ってることを教えてください!」
「あの方は突然、この教会を訪れてきた…」
ーーー1ヶ月程前ーーー
「教皇はどこにいますか?」
そう訪ねてきたのは、青い髪に青い瞳をした女性だった。
一目見て分かる。
呪われたあの『ノアの一族』だと。
教会の外には民達が教会の扉を開いたこの女性を見て騒いでいるのが見えていた。その容姿も隠さずにここまで来たとなると、余程の事態があっての事かと…そう思わせた。
「教皇様は今は不在です…一度出直しいただきたい…」
「捕縛された獣達はどこにいますか?」
「……何をおっしゃっているのか…」
その目は確かに、そして静かにわしを捉えておった。
「ここは教会です。お祈りでなければここから…」
「"人造種"生成計画の犠牲となっている獣達の居場所を教えてください。」
「………なぜそれを…」
「この教会のどこかにいるのは分かっています。その場所まで案内を。」
「もしその話が真実で…案内をしてその後はどうするおつもりで?」
「解放します。」
その目に嘘はなかった。
初めて見たのだ。
こんなにも綺麗で…
嘘偽りのない…
他の命を尊重する人間の目を…
愚かにもわしは教皇からの指示に背き、地下牢までその方をお連れした。わしもきっと、この方と同じ考えを持っていたからだ。
その方は1頭ずつ、丁寧に治療を始めていった。
見たこともない治癒魔法を使って。
獣達の怪我を一瞬で治していき、本当にこのまま解放させてくれると思っていた。
だが…
「何をしておる、呪われた女よ。」




