第46話 「マテリア」
「おじいちゃん見て!変な虫捕まえた!!」
マテリアと出会ってから5年が過ぎた頃、彼女は元気で活発な女の子に育ってくれていた。
「おぉ、マテリアちゃんは今日も朝から元気だなぁ(笑)」
「マテリアちゃん!そんなに走ったら危ないよ!」
「だーいじょーぶだーいじょーぶ…きゃっ!?」
「あ~、いわんこっちゃない…」
町の民達にも愛され、まるで我が子のように可愛がってもらっている。
いや、これもあの子の愛嬌。あの子自身に備わっていた周囲を幸せにさせる力のおかげで愛されているのかもしれん。
「大丈夫か、マテリアよ」
「えへへ、転けちゃった(笑)」
妻を早くに亡くし、大陸間の関係性が悪化した影響で唯一の息子も戦死してしまったわしにとって、たとえ血が繋がっていなかろうと、この子は孫のような存在に思えて愛しくてたまらなかった。
だが、願っていたその幸せが続く事は無かった。
マテリアが10歳を迎えようとする頃、彼女に魔力が顕現。物質量を自在に変幻させ、大きさを変化させられるという珍しい魔法だったのだ。
それは無機質の物体だけではなく、有機質の物体まで…
つまり、人間を含めた命あるものの大きさまで自在に大きさを変える事ができてしまったのだ。
最初は混乱していたが、彼女はその力を悪用しようとは決してしなかった。
そんな事をせずとも、彼女は幸せを感じ生きていたのだから。
しかし…
「マテリア、その力を有効活用しないのは実に惜しい。」
マテリアをただ己の野望の為に利用しようと企てていた者がいた。
その男は言葉巧みにマテリアを促し、王都郊外に生息する獣の捕獲を始めた。
身体の大きい獣であれば、人件費や運搬費用もかかる。だが、マテリアの魔法を使えば、虫かごの大きさに何百もの命を詰め込む事が出来たのだ。
だが、人よりも巨大な獣を昆虫程の大きさにし続けていると負荷がかかり、王都に着くまでに死んでいた事も多々あった。
それをマテリアは自身のせいだと責任を感じ、男に協力することを拒むようになっていた。
だが、男は既に捕らえた獣を人質に脅し、獣の捕獲を続けさせたのだ。
その頃からだろう…
「マテリア、帰っていたのか」
「……………」
夕刻頃、教会に戻ってくる彼女の顔が日に日に暗くなっていくのが分かった…
マテリアは、笑わなくなってしまったのだ。
無理も無い。
まだ幼い彼女にはとても耐えられない事だ。
命あるものの自由を奪い、殺してしまっていたのだから。
自身の願ってもいないその力のせいで。
地下へと続く階段を下りながら、ただ黙々と話を聞いていた。
「じゃあ、昨日一緒に過ごしていたマテリアは無理をして笑って…」
「ううん。今はある人のおかげで昔よりも笑えるようになったんだ。」
「ある人?」
「うん…あ、フェリスそろそろ着くよ」
話の途中だったが、階段が終わり、松明に照らされた通路が続いているのが見えた。
「この奥じゃ。」
「私が連れてきてしまった子達が閉じ込められている…」
「この先に...」
決して人が住めるような環境などではない。
ましてや獣がこんなところに閉じ込められているのが本当なら耐えられるはずがない。
心が締め付けられながら進んでいくと、左右に鉄格子が見えてきた。
「……ッ!?」
本当にいた…
鉄格子の中でぐったりと倒れ込み、まるで生気を感じさせない獣の姿が…
「この子は…ホムラマトイ・ライノス…こっちの子達はダイアウルフ…?」
今まで見たことのある獣から、まだ資料でしか見たことのなかった獣まで…
何十頭もの獣がこの暗い地下牢に閉じ込められていた。
すでに瀕死の子もいる…
「ひどい……」
「………そうだよね…」
「わしらではあの男の陰謀を止める事は出来なかった…」
「とにかく、すぐに重傷の子から治療を始めます。案内をお願いします。」
「わ、分かった!こっち!」
「間に合うのか?夕刻にはあの男が戻る予定だと…」
「分かりません…けれど、この子達を見て見捨てるつもりはありません…だって私は……」
「母のような獣医師を志す者だから…!」




