第44話 「謁見」
翌日、私はマテリアに連れられ、城下町を歩いていた。
「フェリス、こっちよ」
「う、うん…」
人が賑わう通りを巧みに避けながら進んでいく彼女。今日は仕事の日だということで、黒の甲冑を着用している。
そのせいか…
「このまま行けば予定通りの時刻に着けるわ。行きましょう。」
昨日とはまた別人のように変わってしまっていた。
それでも今はそこが重要ではない。
昨日マテリアから聞いた話が正しいのであれば、おそらく一刻を争う事態のはず。
「見えてきたよ。」
「あれが…」
ーーーアライア・ヘウン城 王の間ーーー
「なんで…」
なぜ私は今ここで片膝を着いているのだろうか…
マテリアに言われるがまま、流れで着いていったらとんでもない場所に来てしまった。
無知でも分かる。
ここはこの王都内で最も位の高い場所のはずだ。
色鮮やかなガラス越しに陽の光が差し込み真っ赤な絨毯を照らし、視界に入る物全てがまるで輝いているように見える…
隣にはマテリアが同じように片膝を着いているが、赤い絨毯に添うように、見たこともない装飾が施された高価な白いローブを着た人達がずらっと並び、圧が凄かった。
「あ、あの…マテリア…ここは…?」
「すぐだから、もう少し待ってて」
何がすぐなのだろう…
この絨毯の先、広間の奥に一際目立つ大きな椅子が見えていた。
緊張で胸が押し潰されそうになるが、必死に耐えてその答えを待っていると、その大きな椅子から右手側に見える扉が開いた。
その扉の開閉音と共に、広間にいた私以外の全ての人が片膝をつき一斉に頭を下げる。
「…フェリス、私と同じようにして」
「え?あ、はい…!」
マテリアに言われるがまま頭を下げ、複数人の歩く足音だけが情報として入ってくる。
足音が鳴り止み、興味本位で恐る恐る頭を上げてみると…
「わぁ…」
先ほどの大きな椅子に腰掛ける装飾の施された白く美しいドレスを纏った女性が座っていた。
思わず、見惚れてしまう程の美しさだった。ドレスがではなく、その人の美しさに。
「そこの者っ!!頭が高いぞっ!!」
その女性の隣に立っていた男が声を荒らげて指を指してきた。明らかに私に対して怒号をあげている。
「え、いやその…!」
「フェリス、まだ頭を下げてないと…!」
マテリアに頭を抑えられ、慌てて視線を足下の絨毯に向ける。
「貴様何故フードを被っておる!女王陛下の御前でなんという無礼なっ!まさかアヴァロンからの刺客ではあるまいな?!」
女王陛下…?
それに刺客って…一体何の事を言っているんだろう…
「早々にフードを外し素顔を見せよ!!」
「これは……」
私の姿を見られてしまえば、騒ぎになってしまう…呪われた一族の象徴を見せることはしたくない…でも…
「申し訳ありません。この者は容姿を他者に見せることは…」
マテリアが庇ってくれてはいるが、男の怒りは収まらない様子だ。
緊張で震える手をゆっくりとフードに持っていこうとしたその時だった。
「おやめなさいヴィジアルテ!!」
今度は女性の怒号が響き渡った。だが、男の怒号と明らかに違ったのはその一言でこの広間から一気に緊張が伝わってきたことだった。
「ヴィジアルテ、いつも言っているだろう。相手の話を、理由を確認せよと。」
「し、しかし陛下の面前であのような…」
「貴方の悪いところですよ?」
「も、申し訳ございません…」
「その御方はマテリアがお連れした者…であればまず疑う事はありません。」
不快感を感じず、余裕のある声。
とても心地の良い声色だった。
「頭を上げてください。」
恐る恐るゆっくりと頭を上げて、もう一度その女性の姿を見た。改めて見て、見惚れてしまうほどの人だった。
「側近が失礼した。代わって謝罪させてほしい。」
「い、いえそんな…」
「マテリアよ。この御方がそうなのだな?」
「はい。間違いございません。」
「ふむ、見たところやはりこの都の人間ではないようだ。」
「……?!」
一目見て言い当てられた事に何も言葉が出てこなかった。
「皆の者、マテリアだけを残し外してくれ。」
その言葉を聞いて広場にどよめきが響く。
「お、お待ちください陛下!それはあまりにも危険であります!身元も分からぬ者と一緒になど…」
「マテリアがおるではないか。」
「し、しかし…」
ヴィジアルテという側近が食い付いて止めにかかってはいたが、女王に睨まれるとおずおずと広間から出ていった。
「ふぅ...あの男は昔から心配性でな…」
「ヴィジアルテさんは昔から全然変わらないですね」
さっきまでと打って代わってどこかフランクに話し始めているマテリアと女王陛下と呼ばれる女性。
立ち位置がもう分からなくなってしまった。
「では改めて…私はエーメル・トゥ・アライア・ヘウン。この都の女王である。」




