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幸福のフェリス  作者: 海野 咲凛木
第一章 プロト村 幼少期編
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第4話 そこにいたのは


見つかったら怒られる…お母さんにも迷惑をかけてしまう…


檻の中に見えた正体も気になるが、今は隠れないと。

と言ってもどこに… どうしたらいいか分からず、その場でうろたえてしまう。


すると…

「え?」

突然、身体が浮き始めた。

「えぇ?!」

宙に浮くと、何かに引っ張られるかのように、置いてあった木箱に向かっていく。

「きゃっ?!」

少し乱暴に木箱に引きずり込まれると、口を塞がれてしまった。

「ん、んんっ!!」

「静かに!」


塞いできたのはイリアンだった。

どうやら物体浮遊魔法で私をこの木箱に引きずり込んだらしい。

「ぷはっ!ちょっとイリアン急に…!!」

「しょうがないだろ、声出すわけにも…」

「というか、さっきはよくも置いていっt…」

「ちょっと黙れって…!」


また強引に口を塞がれてしまった。

せまい木箱の中だからか、身体が密着して彼の体温を直に感じてしまう。


「…///」

「見ろよ、あそこ」


木箱の隙間から除くと、氷檻の前に数人の大人が立って何か話しているが、その中心にいるのが誰なのか一目でわかった。


「お母さんだ…」


やっぱりここがお母さんの担当する厩舎なんだ。

瑠璃色の髪を靡かせ、忙しなく周りに指示を出している。


どこか緊張している顔なのに、それは的確な指示だと分かる。

誰一人反論せず、その通りに動いているからだ。

檻の中にいるであろう生物へ対する行動は、私がケガワウシの世話でしている事と通ずるところがある。

でも、


「フェリスの母ちゃんすごいな…動きに無駄がないというか…」

「うん…」


初めて、お母さんの仕事を見た。

感じたのは、私が助けられる事なんか何もなかった。

むしろ邪魔になってしまう。10歳ながらそう感じさせられてしまった。


「なぁ、あの中何がいるんだ?」

「わかんない」

「なんで?何も聞いてないのか?」

「だって、お母さん仕事の事は話そうとしないし…」

「聞いてみろよ。気になるだろ」


確かに気になる。

あんなに大きな尻尾は見たことがないし、尻尾であの大きさなら身体はもっと大きいはず…

でも、この世でそんなにも大きい生物がいるとは思えないし考えられない。 きっと見間違いだ。


コソコソと話していると、気づけば周りには誰もいなくなっていた。


「イリアン、今のうちに帰ろうよ」

「あ、あぁ…ん?」


イリアンが足下から一匹の虫を拾って見せてきた。

「それ、雷電甲虫?なんでここに…」


人の中指ほどの大きさで、腹部に蓄電池のような役割を持った器官のある甲虫の一種であり、あまりこの峡谷では見かけない珍しい虫だ。

強い刺激を与えると蓄電池器官が発光し、目をくらませるような眩い閃光を放つ性質を持っている。

「こんなところになんでいるんだ…」


「ちょっと…絶対に刺激しちゃダメだからね…!」

「わかってるって…ゆっくり離すぞ…あ…」


だが、雷電甲虫が急に飛び立ち、木箱の隙間から逃げていってしまった。

「だ、だめ…!早く捕まえないと!」

「フェリス!危ない…!」

慌てて木箱から飛び出し、手を伸ばすも僅かに届かず、反動で木箱ごとたおれてしまった。


静かだった空間に予期せぬ大きな雑音が響き渡る。


次の瞬間…


ピカッ!!!


雷電甲虫が発光し、辺り一面まるで昼間のような明るさのように照らされた。

そして、檻の中にいた生物の全体像がはっきりと見えたのだ。


「え…?」

「おい今のって…」


見えたのは一瞬だけだったが、そこにいたのは…





ドラゴンだ。





キュアアアアアアァッ!!!


突然、あの甲高い声と共に地響きが起きた。

檻の中で巨大なドラゴンが暴れ回っている。雷電甲虫の強い光に驚いたのだろう。


「やばい…!」

「あっ…!!」


パニックを起こしているのか、身体を檻にぶつけてもお構い無しに暴れ、木箱などが次々と倒れていく。


「きゃあっ!」

「うわぁっ!」


立っていることもできず、ただ耐えることしかできなかった。

そして頭上からミシミシと何かが壊れていくような音が聞こえる。

見上げると、氷檻にヒビが入りはじめている。


「ど、どうしよう…!」

「どうするって…きゃっ!?」


眼の前に割れた氷塊が落ちてきた。

さらに氷塊がこちらめがけて落ちてきている。


「フェリス!!」

間一髪、イリアンがフェリスを抱きかかえて飛んだことで直撃を防ぐことができた。


だが、次々と氷塊が容赦無く落ちてきており、避けきれなくなっている。


絶体絶命と思われたその時だった。


目を開けると、落ちてきていたはずの氷塊が目の前ギリギリで宙に浮いて止まっていた。

「あれ…何が起きて…」


恐る恐る視線を横に向けると、少し息を切らした金髪の男が氷塊に向けて魔法陣を展開して止めていた。


「と、父ちゃん?!」

「二人とも無事か?!」


いつの間にか、地響きも収まっている。

檻に視線を向けると、そこには暴れ狂っていたはずのドラゴンに手をかざし、何かを呟きながら立っている母の姿があった。


「お母さん…?」

それはまるでなだめているかのような行動…

巨大なドラゴンが母の言う事を聞いているように見える。


私はただ呆然と座り込むしかなかった。

イリアンも同じように動けなくなっている。


静かになったドラゴンは攻撃することなく、薄暗い檻の奥へ消えていった。

見届けた母がこちらへ向かってきている。

「お、お母さん今のって…」




パシッ!!



私はその時初めて、母に頬を叩かれた。




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