第39話 「暴風」
「総員、迎撃用意っ!!」
白い翼を羽ばたかせ急降下する獣へ向けて、マテリアが指示を出す。
その号令と共に、行進を止めた兵士達が一斉に弓矢を構える。その標的はもちろんグリフォンだ。
その獣の咆哮と大気を切り裂く急降下音が王都を襲い、我先にと一斉に逃げ惑う群勢。その騒ぎに驚いてか、檻に閉じ込められている獣達が鎖が食い込むのもお構い無しに暴れている。
飛んでくる矢をその翼から暴風を作り出して払いのけ、着底するグリフォン。
「魔槍部隊!グリフォンを囲め!」
槍を構えた兵士達が逃げ道を塞ぐように取り囲んで行く。だが、グリフォンは動じることなく、翼を羽ばたかせ暴風を生み出しながら何かを探すような素振りを見せていた。
「くっ…うぅっ!!」
暴風で飛ばされないようにテーブルの下に避難するも、おばさんが咄嗟に庇ってくれなければ吹き飛ばされていただろう。
「フェリスちゃんしっかり掴まるんだ!!」
「お、おばさん…!!」
暴風吹き荒れる中、襲来したグリフォンが近付く衛兵達を次々と薙ぎ倒しているのが見えた。
その荒れ狂う姿には恐怖を感じるが、どこか必死に何かを探しているようにも見える。
まさか、捕えられていたグリフォンを探しているんじゃ…
檻に閉じ込められているグリフォンに目を向けると、まるで襲来したグリフォンに居場所を伝えようと鳴いていた。それに気付いたのか、衛兵を倒しながらグリフォンは近付いていっている。
だが、そこに立ち塞がる人影が…
「……。」
あれは…マテリアさん…?
鞘から剣を抜き立ち尽くしているが、どこか悲しげな表情をしているように見える。
だが、グリフォンはその鋭い鉤爪を振りかざし、マテリアへ振り下ろした。
「あ、危ない…!?」
「『プロティアル』…!」
その瞬間、マテリアの突き出した剣先がグリフォンをかすめると、グリフォンはその場に音を立てて倒れた。
静けさに包まれようとする中、捕らわれたグリフォンの悲壮な鳴き声だけが響き渡っている。
「い、一体何が...」
あまりにも一瞬の出来事に理解が追い付かない。
剣を納め、倒れたグリフォンをただ黙って見ながら立ち尽くすマテリアから視線を外すことが出来なかった。
だがすぐに違和感を覚えた。
倒れているグリフォンの身体が小さく収縮し始めていたのだ。
「あれがあの娘の使う変幻魔法『プロティアル』だよ」
「変幻魔法……」
大きな身体をして暴れていたグリフォンが衛兵一人に軽々と持ち上げられ、檻に入れられている。
「あの魔法のおかげで、獣の捕獲が容易になったのさ」
損壊して荒れてしまった街中で衛兵達が民を誘導し、安全を確保しようとしている。
その中で、捕えられている獣達は城へ続く道を進んでいった。
私はただ、何も出来ずに眺める事しか出来なかった。
どうして同じ命なのに、そんなことが出来るのだろうか…
この王都で暮らしている人々にとって獣は…
知る限りの常識はここでは通用しないと、諭されてしまった。
「フェリスちゃん、今日はもう帰ろう。この騒ぎを鎮静させてる衛兵達の邪魔になっちまう。」
「……。」
「フェリスちゃん?」
ただ気がかりなのは、マテリアさんがグリフォンへ剣を向ける前の表情。
あの悲壮な表情は、あの氷檻に入れられているドラゴンを見る母と同じだった。
「大丈夫かい?」
「え?あ、はい…」
「疲れただろう、早く帰ろう。」
「分かりました…」
乱れたフードを深く被り直し、私はおばさんの後を追うように帰路へついた。
~~アライア・へウン城内 王の間にて~~
「それでは、報告を。」
玉座に座るのはこの王都を統べる王。
その前に片膝をつくマテリア。
「本日正午、第三部隊の王都帰還時にグリフォンによる襲撃が発生。セレニス大陸にて捕えたグリフォンのつがいが奪還するため飛来したものと思われます。」
「ふむ。して、被害状況は?」
「幸いにも民への被害は報告されておりませんが、民家及び大通り沿いの破損は確認しています。恐らく、修復には3日程かかるかと。」
「修復を急ぎ、民達の安全を最優先に確保するのだ。」
「急ぎ対応致します。では失礼いたします…」
「マテリアよ。」
「はい?」
「獣の捕獲は、教皇から我への献上の為の指示であろう。」
「…はい」
「我からも教皇には伝えるが、もう獣を捕獲して献上するのはやめてくれ。」
「え?」
「我はもう……」




