第37話 「強襲」
教会を後にした私は、おばさんと一緒に王都の大通り沿いにある料理屋で昼食を食べていた。
今は初めて見たカップに注がれている黒い飲み物に目を奪われている。
「おばさん…この黒いスープのような物は何ですか…?」
湯気を立てている怪しげなこのスープをおばさんは香りを楽しみながら優雅に飲んでいた。
「これはコーヒーさ。この大陸には自生していない黒い豆から作られている飲み物だ。」
「コーヒー…」
恐る恐る鼻を近づけてみると、確かに香りはとても良い。
思いきってカップを手に取り、目を瞑って勢いよく口に入れた。
「ちょっとフェリスちゃん!一気に口に入れたら…!!」
「あつっ!?!?!」
舌に棘が刺さるような感覚が襲いかかってきた。
「ごほっ…ごほっ…!!」
「そりゃそんな熱いの一気に飲んだらそうなるよ!!ほら水っ!!」
おばさんの渡してきた水を口に含んでその熱さをなんとか和らげようとする。
「フェリスちゃん…見た目は大人っぽいのに、なんとも世間知らずというか…」
呆れるような苦笑いを浮かべるおばさんを横目に、私はどんどん水を口に流し込んでいった。
「けほっ…うぅ…にがぃ〜…」
熱いし苦いし、このコーヒーというものものはどうも私には合わないようだ。
「このミルクいれたらまだ飲めるだろうさ」
見慣れたミルクを注いでもらうと、黒いコーヒーは白と合わさってクリーム色に変わっていく。恐る恐る一口飲むと…
「あ、飲める…」
まだほろ苦さは残っているが、ミルクの甘さに中和されてこれなら大丈夫そうだ。
乱れたフードを直し、ブローチを留め直すとその様子を見ていたおばさんが問いかけてきた。
「そのフードは取らないのかい?」
「えっと…これは…」
「もうずっと被り続けているけれど、せっかく綺麗な顔をしているのにもったいない気がしてね」
「そんなことないですから……///」
私の髪色を見られて、呪われた一族の末裔だってバレたら…
きっとこの街中大騒ぎになるだろうし…
匿ってくれたおばさんやフォルテさんにも迷惑をかけてしまう…
「良いブローチだね。あんたの瞳と同じで綺麗じゃないか」
このローブの持ち主の人がきっと大切にしていたんだろう。
あの小屋でラズリが見つけてきた時から手入れがされていたし。
優しく微笑んでくれているが、少し気を遣わせてしまったような気がする。
少し気まずい雰囲気が流れてしまい、カップを口に付けて時間をかけながら飲んでいると…
ゴーンッ!!ゴーンッ!!ゴーンッ!!
突然、王都内全土に響き渡るような鐘の音が耳を襲ってきた。
その音がまるで合図かのように、大通りに人が集まり始め、次第に騒がしくなり始めている。
「どうしたんですか急に…」
「来たね…」
「来た?」
おばさんが視線を大通りの奥に見えている王都の城門に向けている。
「開門!!」
その大きな門がゆっくりと開くと、その奥から軍隊が王都内に入ってきたのが見えた。
その行進する鉄の鎧を着た軍隊の最前列には、黒い鎧を身に纏う兵士が闊歩している。
「あれはこの王都の第三軍隊だ。先頭で率いているのがその隊長さんだよ」
王都民が歓声を上げる中、その真中を堂々とした姿で進んでいる。
一目でただならぬ雰囲気を纏っているのがわかった。
「すごいですね……フォルテさんとはまた違う雰囲気というか…」
「あっはっは!息子と比べちゃいけないよ。彼女は史上最年少の17で隊長になったんだ。」
「え?!」
私とそんなに年齢が変わらないのに…
あの大勢の軍隊を先頭で率いてるんだ…
「あれ?そういえば、今彼女って…」
「ハーデリアンさん。いらしてたんですね」
おばさんに問いかけようとすると、艷やかな声が聞こえてきた。
声のした方を見ると、軍隊を率いていた黒い鎧の隊長がいつの間にか目の前に立っていた。
「久しぶりだねマテリア。別に今挨拶にこなくてもいいじゃないか」
「ハーデリアンさんを見つけて無視なんかできないですよ」
周りの人達に注目されながら、マテリアと呼ばれた黒鎧の人はおばさんの前でその兜を外すと、茶色の長髪が現れた。
切れ長の目でとても妖艶な顔立ち、本当に私と年齢が近いのか疑うほどの色気を漂わせている。
周りの男達も鼻の下を伸ばしながらその姿を拝んでいた。
「このローブの方は?」
そんな視線なんか気にもせず、こちらに視線を向けてきている。
「私の連れだよ。昨夜フォルテが連れてきて…」
「フォルテさんが?!こ、婚約者ですか?!」
あれ?
「ち、違います…!」
「落ち着きなマテリア。この子は…」
「そんな…フォルテさんと添い遂げるのは私だとあれほど…!!」
なんだろう…
おばさんの話を最後まで聞かずに一人で慌てている…
「あぁぁぁあああぁぁ…」
そして頭を抱えて絶望している…
「うぅ…ぐすっ…おい!!そこの女!!」
「は、はい?!」
突然立ち上がると、腰に携えていた剣を引き抜きこちらに振りかざしてきた。
「フォルテさんは…私のものだぁぁぁっ!!!」




