第35話 「漆黒の竜」
そこには、こう記されていた。
いつ如何なる時代において、その姿を見た者は数えられる程の希少性。
その数が非常に少ないのか、それとも凶暴さゆえ発見者が無事に生還出来ずにいるのか、この伝記において最も稀少な種である。
目撃者が口を揃えて話すのは漆黒の鱗に覆われた影の姿をしていたと。
そもそも竜なのか否かさえ特定出来てはいないが、ある1人の目撃者は、五神獣の一角である『絶望の蒼龍 ノア』と似た姿をしていたと話す。
なので仮説ではあるが、この漆黒の鱗を持つ獣を竜の一種としてここに記させてもらう…
『漆黒の竜』
体色:黒(仮説)
体長:4〜6m(頭部から尾まで)(推定)
食性:不明
生息域:不明
繁殖時期:不明
生存数:不明
息吹属性:不明
「ほとんど不明……でも漆黒の鱗って、まさかラズリは…」
漆黒の竜は決して人に慣れることはないだろう。姿を見れば戦うことはせず逃げるべし。
「いや違うか…ラズリは最初から敵意なんてなかった…」
ラズリとの過ごした日々を思い出せば分かる。魚を取ってきてくれたり、一緒に朝まで眠ったり、背に乗せてくれて空を飛んだり…
他のドラゴンのページも開いてみた。
『火竜 サラマンダ』
体色:紅
体長:8〜15m(頭部から尾まで)
食性:肉食
生息域:火山地帯
繁殖時期:火山活性化時
生存数:絶滅
息吹属性:炎
『海竜 オセアン』
体色:青
体長:15〜25m(頭部から尾まで)
食性:肉食
生息域:海
繁殖時期:不明
生存数:絶滅
息吹属性:水
『雷竜 ボルネクス』
体色:緑
体長:10〜15m(頭部から尾まで)
食性:肉食
生息域:森林
繁殖時期:不明
生存数:絶滅
息吹属性:雷
どのドラゴンもすでに絶滅と表記されているものばかり...
この世界においてドラゴンはやっぱり稀少なんだ…
「そういえば…」
漆黒の竜の説明書きの中に、気になる名前があった…
その名前の項目を開くと、その姿が描かれたページに目が止まった。
『絶望の蒼龍 ノア』
体色:瑠璃
体長:30m(頭部から尾まで)
食性:不明
生息域:不明
繁殖時期:不明
生存数:不明
息吹属性:氷
この竜の降り立つところ、無に帰し生命消える地と化す。その蒼き鱗を持つ姿を見た者たちは絶望し、いつしか呪われし一族にもその名を与えたと言われる。
「私達一族に名を与えた……このドラゴンが…」
五神獣の一角であり、蒼く輝く瑠璃色の鱗と宝石のように透き通る二本の角を持つ。その姿を最初に見た人々は美しさのあまり神が降臨したと錯覚したほど。だが、このドラゴンが降り立った時、同時に氷柱が出現して瞬く間に大地を侵食し、その侵食する氷に触れたもの全てを飲み込んでいったと言い伝えられている。
「蒼く輝く瑠璃色の鱗と…宝石のように透き通る二本の角…まさかプロト村にいたあのドラゴンって…」
この『絶望の蒼龍 ノア』は対となるドラゴンが存在する事が判明している。
次のページをめくると、
『幸福の蒼龍 ラ・ノア』
体色:瑠璃
体長:30m(頭部から尾まで)
食性:不明
生息域:不明
繁殖時期:不明
生存数:不明
息吹属性:氷
前述した『絶望の蒼龍 ノア』の出現後、氷に覆われた大地に突如姿を現した蒼い鱗のドラゴン。
その姿は『絶望の蒼龍 ノア』と瓜二つであり、姿を見た人々はまた絶望に襲われたが、このドラゴンは大地を覆ったその氷を融解し、もう一度大地に息吹を与えたのだ。
絶望していた人々にとって、このドラゴンはまさに幸福を呼んだドラゴンとして崇め奉られていった。
「『ラ・ノア』…」
プロト村にいるあのドラゴンはこの二体の特徴とほぼ同じ…
おそらく、この二体のどちらかがあの氷檻にいるということ…
「おやおや…その本を手にしているとは、珍しいですな…」
突然、背後から声をかけられた。




