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幸福のフェリス  作者: 海野 咲凛木
第三章 王都アライア・へウン編
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第34話 「書庫」


朝市での買い出しを終え、私は教会を訪れていた。


目の前には見たこともない大きな鉄製の扉。

どうやって開くのかと思えば、扉に人が1人通れる程の扉が付いていてそこから入る事ができた。


中は少し暗めの印象だったが、すぐに打ち砕かれた。


「わぁ…」


七色に光る窓から太陽の光が差し込んでいる。長めの木製の椅子が立ち並び、その中央の通路の先には十字架が一つ、神々しく奉られていた。


その十字架に向かってか、人々は何かを祈って静かに座っている。


「本はこっちに置かれているよ」


おばさんが先導して後を追うと、古びた鉄格子を見つけた。その先には地下へと続く暗い階段が続いている。


「おばさん、ここは?」

「地下牢さ。罪人達が処罰が決まるまで一時的に捕まっているところだ」

「え…?」


母は反逆の罪で捕まっていると聞いたけど…まさか…


「おばさん!この先に行けないですか?!」


私は静寂な教会に声を荒げて鉄格子を掴んだ。

周りから視線を感じるが、それでも関係ない。

この先にもしかしたら母がいるかもしれない…!


「ちょっと…!なにやってんだい…!?」

「だってここに母が…!」

「母…?」


冷静さを失いかけている私をおばさんは真っ直ぐに見てくる。

私の言葉を聞いて何かを考えている様子だ。


「とにかく、ここは一般の人間は入れないんだ…こっちに行くよ…!」


腕を掴んで強引に引っ張られ、鉄格子から離されてしまった。


「あ、待って……!」


周りからの視線などどうでもいい。遠のいていく鉄格子から私は目を離すことができなかった。





少しばかり連れられたあと、教会の広場から通路を抜け、本が大量に置いてある書庫にやってきた。

多分、あの鉄格子さえ見てなければこの光景を見て私は目を輝かせていたに違いない。だが、今は到底そんな気分になることはできなかった。


「フェリスちゃん、あそこへは今後も近づくんじゃないよ」

「……どうしてですか…」

「どうしてって…あそこは罪人が収監されている場所だ。衛兵も見回りに来ている時にあんな事していたら、あんたも捕まっちまうんだよ!!」


おばさんは本気で叱ってくれているようだった。


母以外では初めてかもしれない。村長でさえ、ここまで怒ってくることはなかったと思う。


「約束してくれるかい、フェリスちゃん?」

「…はい」

「よしっ!じゃあ好きな本を探すといいさ!持ち出しはできないがこの書庫内であれば何でも読んでいいからね!」


改めてこの書庫内を見渡してみた。

天窓から陽が差し込み、棚に置かれたたくさんの本を照らしている。


王都建国の歴史や魔法書など、実にたくさんのジャンルの本が並んでおり一冊を選ぶのさえ大変そうだ。

それに明らかに手の届かない高さにある本、一体どうやって手に取ればいいのか…

辺りにはハシゴや足場となるようなものも見当たらない。


「おばさん…あの高いところの本ってどうやって取れば…」

「物体浮遊魔法で取るのさ。」


そう言うと、おばさんはいつもやっているかのように淡々と手を掲げ、本を浮かせて吸い寄せた。


「わ、私…魔法は使えないんです…」

「え?!そうなのかい?!」


今までもそうだったが、料理を作る時や家畜の世話をしているときも基礎生活において皆当たり前のように魔法を使っていた。


昔、母にはいずれ力が顕現すると言われたのに15にもなってその可能性を微塵も感じない。唯一、この耳飾りを通じて治癒魔法は使えるけれど、生活において使うことはほとんどない。


「ん〜…フェリスちゃんからは何か力は感じるんだけれどねぇ…まぁそれならあたしに言っておくれ。代わりに取ってあげるよ!」

「ありがとうございます…」


今までも力は感じると言われてきたけれど、自覚はない。第一魔法が使えないのだからそれが魔力なのかどうかも分からない。


天井まで伸びる本棚を見上げながら、私は答えの出ない悩みに頭の中が押しつぶされそうだった。




「おばさん、お願いしてもいいですか?」

「あの3冊だね。ちょっと待ってな」


私の指定した本を吸い寄せ、渡してくれた。


「随分と渋いのを選んだね」


『アライア・ヘウン建国伝記』『獣における医療術』、この2冊は似たような本もあったが、表紙と題名に目を奪われたので選んでみた。そしてもう一冊…


「これは…『五大陸におけるドラゴンとその生態について』…。フェリスちゃん、ドラゴンに興味があるんだね」


なにかラズリの事が分かるかなと思って、ドラゴンについての書物を探しては見たが、ドラゴンについて書かれているのはこの一冊だけしか見つけられなかった。


窓際の椅子に座り、早速この本を開いた。


「え…」


目次を開いてみると、この本の内容には仮説も取り入れていて、実際とは異なる可能性があると注意書きが記されていた。


それでもその目次をなぞってみると、一際目立つ項目で指が止まった。



「『漆黒の竜』……」



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