第33話 「朝市」
結局、眠ることもできないまま、朝日を迎えてしまった。
窓の外には黒い羽の小鳥が飛び交うのが見える。
「ラズリ…大丈夫かな…」
一人で小屋に待たせてしまっているけど、その安否が不安になる。
早く母を助けて合流しないと。
そう考えていると、部屋の外から温かい香りが漂ってきた。
「お母さん…?」
いや、そんな訳はないか…
フードを被り、部屋を出て香りを辿っていくとおばさんが朝食を用意してくれていた。
「おはようフェリスちゃん。良く眠れ…ては無さそうだね」
私の顔をひと目見てそう話してきた。
多分、ひどい顔をしていたのだろう。
「あれ…フォルテさんは?」
1人分の食べ終えられた朝食の皿が机に残っていた。
「あぁ、あの子はもう公務で城に行ったよ。全く、皿ぐらい片付けて行ってくれば良いのにね」
「城…?」
「そうさ、一応あんなのでもこの王都の軍隊長だから。」
おばさんが窓の外に視線を向け、その先を見てみると一際大きな建物が視界に飛び込んできた。
「うわぁ…大きい…」
この王都城壁の中央に位置しているであろう、初めてみる大きさの城に圧倒された。
「フェリスちゃん、王都の外から来たのだろう?」
「え?」
「これでももうこの王都で何十年も過ごしてきているからね。住人は皆、顔馴染みだ。」
「いや、あの…」
「何か事情があるんだろ。別に衛兵に突き出したりなんてしやしないよ。ほら、冷めないうちに食べちゃいな。」
この人は母とは雰囲気も口調も何もかもが正反対だ。
それでも、尊敬している母と一緒だった。
「美味しい…」
昨夜頂いた食事もそうだったが、おばさんの料理は本当に……
「あれ…」
涙が勝手に流れていた。
昨夜と同じようにまた、思い出してしまったからだ。
母と過ごしていたあの時間を。
何度も思い出さないようにしていたのに…
「フェリスちゃん、この後買い物に付き合ってくれないかい?明日からあのバカ息子が遠征に行くから色々作って持たせておかないといけなくてね」
「……はい...」
涙を拭いながら精一杯の返事をした。
「遠征って…フォルテさんどこかに行かれるんですか?」
「王様の命令でアヴァロン大陸に行くんだ。多分1年は帰って来ないよ」
「1年?!そんなに遠いところに…寂しくはないんですか…?」
「あの子は守るものの為に行くんだから、応援しなきゃね。」
そう言うおばさんは少し寂しそうに見える。
「今まで何度も家を留守にする時はあったけど、無事に帰ってきてくれればそれでいい。それまであたしはあの子が帰る場所を守ってあげないと。」
「帰る場所…」
私にとっての帰る場所は…
プロト村が頭をよぎるが、もう帰れるかは分からない...
どこに帰るか…帰ればいいのか…
「ほらほら!朝食食べたら出掛ける準備だよ!ついでにこの王都も案内してあげるから!」
その頃…
─王都 教会の地下牢にて─
「…ハァ…ハァ…」
か細い呼吸が無音の地下牢内に響く。
拷問を受け続け、もう息をするのもやっとなほどの姿が無情にも固く縄に繋がれている。
「………………フェリス……」
「わぁ…!」
初めて見る王都の朝市の姿。
どこを見ても活気ある人々で埋め尽くされていた。
見覚えのある食材や、初めてみる食材。
誰もが自分の店を繁盛させようと声を出して呼び込みをしている。
「さぁ買った買った!!今朝水揚げされた新鮮ファングフィッシュだよ!!」
「ランドポークの姿焼きはいかが!焼きたてすぐに食べれるよ!」
「すごいですね…」
「ここの朝市は大陸中から色々な物が集まってるからね。基本的にはお望みの物は何でも買えるよ。」
「そこのフードを被ったお嬢さん!このアクセサリーが似合いそうだ!お一ついかが?」
「え…あの…」
「お嬢さんにはこの耳飾りが…」
「間に合ってるよ!押し売りは御免だよ!」
強引に手に持たせようとしてきた宝石商をおばさんが押し退けてくれた。
「すみません...」
「中には強引な手口を使う商人もいるんだ、きっぱり断るんだよ。それじゃあ買い出しを始めよっか」
メモを取り出し、藁で編んだ手提げかばんを持ち直す。
「まずは…ケガワウシのミルクを買いに行かないと。」
「え?ケガワウシ?」
「流石に知ってるのかい?プロト村でしか採れない稀少なミルクで、いつもの食事はもちろん、体調を崩した時に使う良薬にもなるんだ。毎朝争奪戦になる人気商品さ。」
「そうなんですね…」
「特にここ数年のミルクの質は更に良くてね。きっと大切にお世話されてるんだろう。」
……嬉しかった。
自分のやっていた事が、まさかこんな遠い所にまで人の助けになってるとは…
「あっ!!最後の一瓶じゃないか!!」
突然、おばさんが走り出した。
その恰幅の良い見た目からは想像出来ない早さで。
「買えた買えた~!これであの子にも持たせてあげられるわ!」
たった一瓶だけど、嬉しそうに微笑むおばさんを見てると、心が温かくなるのを感じた。
人々が朝市を足早に歩く中、一際大きな建物が目に入った。
「あれは…」
「えぇっと、あと買うのは…どうしたんだいフェリスちゃん?」
「あの大きな建物は何ですか?」
「ん~?あぁ、あれは教会さ。」
「教会…?」
「皆が幸せになれるよう神様にお祈りしてる所だね。まぁ、あたしゃ信じてないけど。」
「幸せ…」
「あとで行ってみるかい?あそこは本とかも置いてあって、王都の資料とかもあるから…」
「本?!」




