第32話 「不安」
「全くもうっ!!アンタがしっかりしないからこの子が嫌な思いしたんでしょうがっ!!」
目の前の机に見たこともない食材が使われた温かい料理が並んでいく。
「いや…でもなんとか間に合った...」
「うるさいっ!!身体に触られた時点で間に合ってないのよこのバカ息子っ!!」
「すみません...」
私はこの威厳のある背中を追って歩いていたらいつの間にか、この石造りの家でご飯を食べていた。
暖炉の中にくべられた焚き火の上の鍋から美味しそうな香りが漂って食欲をそそられる。
そして今目の前にいる助けてくれた男は女性に罵られて萎縮して威厳の欠片も無くなっている。
「あ、あの…」
「軍隊長だがなんだか知らないけど、ちゃんとこの街を守りなっ!」
「はい...」
女性の迫力がスゴすぎる。
会話に入ることすらできない。
「す、すみません...ご馳走になってしまって...」
「あらいいのよ!大変な思いをさせてしまったんだからせめてものお詫びよ!」
「は、はぁ…」
「まぁ食べてくれ。そういえば名乗ってなかったな。俺はフォルテ・ハーデリアンだ。この王都の第一軍隊の隊長を勤めている。」
「あ、私はフェリスです…助けていただいてありがとうございました」
「このうるさいのは一応俺の母親だ」
ガツンッ!!
「痛っ…!?何すんだババアっ!!」
「親に向かってうるさいだのババアだのなんだい!!そんな子に育てた覚えはないよっ!!」
なんだろう...どこかで見た光景な気がする...
「全く…25にもなって嫁もとらず…情けない!!」
「うるせぇ仕方ねぇだろうが!!国務とか色々やって忙しいんだよ!!」
「フェリスちゃん、良かったらこのバカ息子に嫁いでくれないかい?」
「え…!?いやあの、私まだ15で…」
「15?!」
同時にこちらを見てきたが、その驚いた顔は親子ということもあってかそっくりだった。
「そうだったのか...なら尚更どうしてあの時間にあんなところを…」
「それは…」
理由に関してはどうしても話すことは出来ない。それだけで怪しまれるかもしれないが...
「家出したい時もあるだろうさ。このバカ息子もそのくらいの時には一人で勝手にぶらぶらとしては怪我して泣いて戻ってきて...」
「その話はやめろッ!」
「まぁフェリスちゃんが良ければ、いつまでもこの家にいて良いからね」
「え?」
見ず知らずの自分に、どうしてここまでの事をしてくれるのだろうか?
「突然来た私に、なんでそこまでしてくれるんですか…?」
「そりゃあまぁ、人は助け合って生きていかないとねぇ…」
即答された返事に俯いてしまったが、すぐに顔を上げると私が考えようとする間もなく私を見つめながら微笑んでくれていた。
「目の前に困っている人がいれば助ける、それは目の前に腹空かせてる人がいるなら食べさせてやるくらい当たり前の事だよ」
「ありがとう…ございます…」
この後食べた味は少ししょっぱさが混じっていたが、それでもお腹が満たされた。
「この部屋を使うといいよ。ベッドのシーツも変えておいたからすぐに眠れるさ。」
「本当にありがとうございます…えっと…」
「なんだい?」
「あの…なんてお呼びすれば…」
「そんなことかい。あたしの事はおばさんとでも呼んでくれりゃいいよ」
「え?わ、分かりました…」
「そんなに戸惑わなくても(笑)じゃあゆっくり休んで」
おばさんが部屋を後にすると、賑やかだった空気が一気に静まり返るのを感じた。
部屋を見渡すと、今まで見たことのない素材でできた家具等が目に入る。
壁は石を加工して積み立ててあるが、触っても崩れたりはしない。隙間を埋めるように何かを流し込んで繋げてあるように見える。
ベッドの骨組みは木材ではなく、触ってみるとひんやりと冷たい。おそらく鉄を加工して作られているのだろう。
直感で、この王都の技術は私のいる村よりも進んでいると感じた。
「わっ…」
ベッドに腰掛けると、身体が埋もれていった。とても心地が良い。
思わず身を任せて横になってしまった。
目の前には月明かりが差し込む小窓が一つ。
この景色は同じだ。
「お母さん…」
母の帰りを待っていたときの記憶が蘇ってくる。
帰ってくるかどうか分からず不安だった時、いつも覗き込んできていたあの月明かり。
どうか…どうか無事でいてほしい…
私だけ心地よいベッドと温かい人達と関わっていることが…
罪悪感が私から眠りを遠ざけていった。




