第30話 「王都」
村長から教えてもらった王都までの道をラズリと共に空を飛びながら追っていた。
決してその姿が見られぬよう、高度を保ちながら。
イリアンには結局、会うことができなかった。
村長の家にはもういなかったし、村長に尋ねても村の外にいるかもしれないと、曖昧な返事だった。
一応、村の周りは探してみたが、見つけることはできなかった。
村長はひたすら南に向かって飛んでいけと言っていた。
そうすれば麗峰を抜けて、橋のかかった川を三つ越えて王都が見えてくるという。
正直、ラズリの背に乗っている間も不安が胸を押し潰そうと襲いかかってきていた。
母が無事でいるのか。
母を助けられたとして、その後は…
きっと母と村に戻れたとしても王都からの使者が来れば…
……ダメだ。
今は母を助ける事だけを考えなくちゃ。
丁度村長の言っていた二つ目の橋を越えた所で、飛行速度を緩めた。
ラズリも周囲を見渡し、少し警戒している。
「ラズリ、もう少し高度を上げて」
雲と同じ高度まで上昇した理由。
それは…
「何だろう…あの大群…」
進行方向に黒い大きな塊のようなものが見えたからだ。
目を凝らして見ると、それは1羽の鳥のような生物の集合体。その数はざっと数千羽はいるように見える。
本能で近付いてはいけないと感じた。
その大群の頭上を越え、私達は王都の方角へ向かった。
三つ目の橋を越えた時。
初めてではあったが、それが王都だろうと一目で確信した。
その視線の先には、平原の真ん中にそびえ立つ大きな城壁。
それに囲われるように城下町とその中央には大きな城。
「あれが…王都…」
村以外の建物を初めて見た。まさかあんなにも大きいなんて…
高度を保ちながらその姿を視界に収めるも、どこを見ても初めて見る物ばかり。
茅葺きで出来た屋根なんて一つもない。
石を積み上げたような頑丈で、色彩豊かな建物が目立つ。
王都内への正門も見えたが、そこには屈強な衛兵が立ち尽くしているのも見えた。
「どうしよう…」
ラズリと共に行くのは良い判断ではないと悟った。
かといって1人で侵入する事も出来るとは思えない…
一度、王都の周りに見える朽ちた小屋の一つに降り立ち、その中に身を隠すことにした。
もう長い間使われた形跡もない。
かなり昔から放置されている様子だ。
ここは王都へ続いている道からも外れているので、余程見つかる事は無いだろう。
自身とラズリが入っても少し余裕がある広さだ。
小屋の中を見渡すと、朽ちた家具が散乱している中で、見たことの無い物もある。
「何だろうこれ…」
一枚の紙が入っている四角い縁取りをした物が壁にかかっている。
少し汚れていて良く見えないが、黒髪の男性と青い髪の女性がその紙に描かれている。
恐らく夫婦だと思うが、これは「絵」という物だろうか。
そういえば、村長の家でもこの絵というものを飾っていた気がする。きっと裕福な家ではこういうのも飾っていたのだろう。
昔、この小屋にいた人間もこれを飾れる程の人間がいたということか…
古ぼけた机に手を置くと、長年放置されていた事を証明する埃が纏わりついてくる。
そっと引き出しを開けると、埃と共にあるものを見つけた。
「これは…」
使われずにこの引き出しに眠っていたのか、はたまた持ち主が大切にしていたのか。
牛革で出来たその小さな鞘からゆっくりと刀身を抜き確認すると、小型だがしっかりと手入れの行き届いたナイフだ。
鞘を良く見ると、何か記号のような物が彫られている。
「アリ…ソン……?」
このナイフの持ち主の名前だろうか?
多分、王都にはラズリを連れていくことは出来ないだろう。
何も無しで行くくらいなら…
「すみません、お借りします」
鞘に刀身を納め、そのナイフを懐にしまった。
キュルッ!
ふと振り返るとラズリがなにかを咥えてこちらを見ていた。
「それどうしたの?」
咥えていた物を手に取ると、それは黒いフード付きのローブだった。
留め具として、瑠璃の宝石を施したブローチも付いている。
キュルルッ!
ラズリが着ていけと言っているようだった。
確かに、私のこの髪色や瞳だと目立ってしまうかもしれない。
そのローブを羽織ると、ラズリは嬉しそうにすり寄ってきた。
「フフッ…あなたと同じ色だね(笑)」
潜入するのは日が落ちてからにしよう。
このローブもあれば、暗闇に紛れ上手くいくかもしれない。
このどこか落ち着く小屋の中で、私達は少しの休息を取った。




