第28話 「雷轟」
ーー王都アライア・ヘウン 教会地下牢にてーー
冷たい空気が漂い、苔むした壁に松明の灯りが蠢いていく。いくつもの鉄格子の奥には鎖に繋がれたまま白骨化した人骨が並ぶ。
整備もされておらず、生きとし生けるものが近づくことはないような場所だ。
「邪魔さえ入らなければ…どうしたものか…」
幻影魔法を使い姿を変えながら暗い地下牢の通路を進んでいく。
「もうこの女も使えないときたか…」
その視線の先、牢獄内には身体から冷えた水蒸気が漂い、まるで人を寄せ付けまいとしている瑠璃色の髪。
「おい、まだ生きているのだろう?」
ゆっくりとその瑠璃色の髪が揺れ、纏っている氷が割れながら瑠璃色の瞳と目があった。
「まだあのドラゴンについて知っていることがあるだろう、答えろ。」
「……。」
「まあいい、それならば時期に娘に会わせてやる。あの世でだがな」
「…フェリス……」
ーープロト村にてーー
「おかしいな…おばさんも帰ってきてるって聞いたんだけどな…」
誰もいない家の前に立つイリアン。
「もう浴場に行ったとか…おーーい!フェリス!」
返事は返ってこず、夜風が吹く音だけが聞こえる。
挨拶だけでもと来てみたが、また改めるしか無さそうだ。
一人、雪の降る来た道を戻るが、どこか虚しく感じる。どうしてか、この静けさが不気味に思えてくる。
「お、こんなところにいたのか」
ふと顔を上げると見覚えのある顔が立っていた。
「あんたは確か…ライトノーツ…だったか?」
「正解。イリアンだろ?あんたに用があって探していたんだよ」
「俺に?」
「フェリスちゃんがあんたのこと探しててよ、ついてきてくれ」
それだけ告げたこの男は、俺の返答も待たずに背を向け歩き始めていった。
「お、おい!ちょっと待て!」
呼び止めてもその足を止めようとしない。
「フェリスが俺を探してるって…どういうことだ?」
「そのままの意味さ、こっちだ。」
この方角は…
「着いたぜ」
「ここって…お前たちと最初に会った大雪原じゃないか。フェリスはどこに…」
「あそこだよ」
ライトノーツの指差す方を見ると暗くて良く見えないが、確かに誰かが立っていた。
「フェリスか…?どうしてこんなところに…」
ズバッ!!
「がはっ…?!」
突然、背中に激痛が走った。
激痛に耐えながら振り返ると、剣を構えるライトノーツの姿。
「ぐっ…どういうつもりだ…!」
「……。」
間合いを取りながら、魔法陣を展開し雷電甲虫を呼び寄せる。
さっきの人影は…いや、今この男から視線を外すのは危険だ。
「雷槍…!」
数匹の甲虫を縦に繋げ、雷の槍を創り出し戦闘態勢をとった。
「面白い魔法を使うじゃないか」
「ただの物体浮遊魔法だ…」
「物体浮遊?いや、その魔法は…おっと!」
言葉を最後まで聞く前に、雷槍を飛ばした。
だが、紙一重でかわされたその瞬間…
「刹那斬りっ!!」
「なっ…?!」
安全圏まで間合いを取っていたのに、一瞬で目の前まで間合いを詰め寄られてしまった。
その剣の切先が喉元に伸びてくる。
「くっ…!?」
瞬時に雷槍を創り出しギリギリで弾き返すも、ライトノーツはその反動を活かして回転して二撃目を放つ。
甲虫ではその攻撃の速さに追いつかない…
反射的に腕でその剣撃を受け止めてしまった。
ダメだ…今の自分ではまず勝てない…
嫌でもその現実を悟った。
「はぁ…はぁ…フェリスはどうしたんだ…!」
結局、彼女の姿を見ていない。この男が命を狙ってきていることにも理解が追いつかない。
「…。」
「黙ってないで…答えろ!!」
背中と腕の激痛を耐えながら、魔法陣を展開する。
電気を纏った無数の甲虫達が集まり始め、周りに稲妻が走る。
「それは…ヤバそうだな」
危険を感じ取ったのか、ライトノーツは低く剣を構え直していた。
身体を伝って、空中から地面へと放電され、その熱で降り積もった雪が稲妻の形に溶けていく。
この力を、甲虫たちを最大限活かすために特訓を続けてきた。
殺られるわけにはいかない…あいつに、まだ気持ち伝えてないだろうが…!!
「おおぉぉぉぉっ…!!」
放電した電気が一気に身体に戻る。
「トゥルエノ・バースト〈雷轟・解放〉ォォっ!!」
耳を塞ぎたくなる程の爆音と共に放電され、大雪原の雪がその雷の熱と衝撃で吹き飛ばされて辺り一面に埋もれていた地面が広がった。
「雷…?」
少し遠くから雷鳴が聞こえてきたような気がする。
うずくまるラズリの傍ら、穴の外に視線を向けた。
雷雲は無いようだが、気のせいだろうか…?
その後、二度と雷鳴は聞こえず、また弱い風と雪の降る音だけが静かに響いていた。




