第24話 「知らない」
窓から朝日が差し込む中、食事をしていた手はその一言で動かなくなった。
「な、なんのこと…?」
真剣な母の瞳。
確信を持って聞いている瞳だった。
「あの黒い鱗のドラゴンと、いつから?」
「え、えっと…」
今さら隠し通す事も出来ないだろう。
「なんで…そのこと……」
「そのドラゴンに会わせてくれないかしら?」
「え、ラズリに?」
「ラズリっていうのね…私達一族の呪いは知ってるよね?」
「知ってるよ…!でも私は使役してるつもりなんて…!」
「貴方はそう思ってなくても、そのドラゴンにはその呪いがかかってるかもしれないわ」
「そんな…そんなこと…」
「会わせてほしい、それを確かめる為に。」
「…………分かった…」
その後の母の作ってくれた朝食の味は覚えていない。
いつも歩いている道を初めて、母と二人で歩く。
ラズリの待つ大木にゆっくりと近づいている。
どうするつもりなのだろう…
まさか殺したりなんてしないよね…?
いや、母がそんなことするとは思えない。
でも、あのドラゴンと同じように氷檻に閉じ込めるのかも…
そんなことさせたくない。
ラズリには、この世界を自由に生きてほしい。
そう願ううちに、あの大木が見えてきた。
いつもならこの距離であればラズリは気付いて飛びかかってくる。
でも今日は姿は見えなかった。
「ここにいるの?」
母が辺りを見ながら尋ねてくる。
「いつもはあの大木の下にある穴の中にいるんだけど…」
「見当たらない…か。」
どこか言葉使いのがつかわしくない母に嫌悪感を覚えてしまう自分が嫌になった。
「お母さん、今日はもう…」
「仕方がない」
突然、母が手を掲げ、魔法陣を展開していた。
「お、お母さん…?」
「ア・ピーア〈現れよ〉!」
母の展開する魔法陣から周囲に霧のようなものが噴出されている。
私には、母が何をしようとしているのか、理解できなかった。
目を瞑り、ゆっくりと魔法陣を展開する手を辺りを探るように動かしている。
「…そこか」
大木に向けて手を止めると、更に魔法陣を展開している。
「お母さん!一体何をして…」
「アンパクト〈衝撃波〉ッ!」
次の瞬間、母の魔法陣から大木に向けて積もる雪を吹き飛ばしながら衝撃波が放たれた。
ドォーーーーーーンッ!!!!
「きゃあっ!!」
衝撃波が大木に命中し、辺りに爆風が巻き起こる。踏ん張っていないと吹き飛ばされそうなほどの威力だ。
「うっ…くぅ…!!」
それなのに、どうして…
「……。」
どうしてこの衝撃の中、そんな涼しい顔をして立っているの…?
吹き荒れる風の中でその瑠璃色の髪が乱れるのもお構い無しに、母は衝撃波を打ち込んだところをただ見つめていた。
「出てこい。さもなくばこの娘を殺す。」
私に向けて母は魔法陣を向けてきた。
「お母…さん…?」
知らない。
こんなこと、母は絶対にしない。
今、目の前にいるのは誰…?
キュアアアアアアアアアアツ!!!!!
耳を貫くような咆哮と共に、舞い上がる雪煙から漆黒のドラゴンが飛翔した。
「ラズリっ!!」
「やはりいたか黒竜!」
その牙を母に向けながら母に向けて突っ込んでいく。
普段温厚なラズリが、明らかな敵意を向けている。
「アンパクト〈衝撃波〉ッ!!」
制止する間もなく、容赦無く母はあの魔法をラズリに向けて打ち込んだ。
「ダメッ!!」
魔法が直撃したラズリが地面に叩きつけられる。
「そんな…!」
横たわるラズリに駆け寄るが、着弾した箇所がまるでえぐったかのような重傷を負っていた。
「そこをどけ、小娘」
母の姿をした何かがゆっくりと迫ってきている。
「いや…やめて…!」
グルルルルルッ……!
ラズリが私を守るように牙を剥き出しにして弱々しく威嚇をしているが、無意味だった。
魔法陣を展開し、次の攻撃の準備をしているのが見える。
どうする…混乱して打開策が何も思いつかない…
あの母がどうしてこんなことを…
誰よりも命を大切にしていたあの母が、命をもて遊ぶかのような事をしているなんて…
いや、あれはもう母では…
その場で力尽きたように倒れ込むラズリ。
出血がひどい…
「待ってて!今治すから!!」
ラズリに手を添え、力を込める。
耳飾りから淡い光が腕を伝ってラズリに流れ込んでいく。
「ほぅ…もうその力が使えるのか…」
背後から何か聞こえたが、ラズリから目を離さないよう集中する。
傷が深いのか、治癒するのに時間がかかってしまっていた。
「うぅっ…!」
重傷のせいなのだろうか…いつもよりも脱力感が大きい…
「さすがは”器"といったところ…だがまだ使いこなせてはいないようだな」
「あぅ…」
ラズリの傷が治る前に、淡い光が消えてしまい治し切ることができなかった。
「はぁ…はぁ…そんな…」
まだラズリは気を失ったまま。もうどうすることもできない。
「ここまでのようだな」
魔法陣が完全に展開しきっているのが見えた。
「ラズリ……!」
ラズリを守るように覆い被さり、目を瞑る。
「アンパクト〈衝撃波〉ッ!」
大地をえぐるような衝撃音が近づいてくるのが聞こえ、もうダメだと思ったその時だった。
「ソード・リフレクション〈返照の剣〉ッ!」
衝撃波が反射するように分散し、辺りに雪煙が舞い上がる。
ゆっくりと目を開けると、誰かが剣を構えて立ち尽くしているのが見えた。
だが、雪煙で姿がよく見えない…
「誰…?」
「私の魔法を跳ね返すとは…何者だ?」
「やぁっと見つけたぜ…」
聞いたことのある声…
私達を守るように佇むその姿に見覚えがあった。
「怪我はないかい、フェリスちゃん」
「あ、あなたは…!」
「もう大丈夫だ!なんたってこのライトノーツ・エスペランス様が来たからなっ!!!」




