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幸福のフェリス  作者: 海野 咲凛木
第二章 プロト村 青年編
22/39

第22話 「一番の喧嘩」


「しょっぺぇぇぁぁっ?!」

海水を飲んだイリアンの絶叫が大木を揺らすほど響き渡った。


「だよね、私もそういう反応したもん」

「ごほっごほっ…!人が飲むもんじゃねぇ…」

「もしかしたらだけど、普通の人は海水は飲まないのかも」

「なんで俺に飲ませた?」

「なんとなく」

「おい」

「だって海なんて初めて見たし、分からなかったし」

「分からないものなら人に飲ませようとするなっての…」

「またアスカに色々聞いてみるよ」


初めて見た海、どこまで続いているのか、その先にあるアスカの故郷はどんなところなのか。

早くアスカに聞いてみたい。何を聞こうか考えるだけで胸が高鳴るのを感じた。

多分だけど、アスカと話がしてみたいという気持ちもあるんだと思う。


だって、アスカは初めての同性の友人だから。


「アスカって、あの三人の冒険者の一人か?」

「うん。昨日浴場でたまたま会って、海のことを教えてくれたの。」

「……。 」

「どうしたの?」


いや、表情を見れば分かる。イリアンはまだあの三人のことを良く思っていない。


「あれから、特に怪しい言動はまだ聞いてはいない。」

「だったら、もう傍聴しなくても…」

「フェリス、昨日の夜アスカから何も聞かれていないか?」

「え?特になにも…」

「ラズリの事もか?」

「う、うん…」

「あの三人、あれからずっとラズリの事を一切口にしていなかった。」

「それは私達がお願いしたからじゃ…」

「三人しかいないときも一言も話していなかったんだ。普通、ドラゴンに乗ったことなんて話題に上がるだろ。」

「他の人に聞かれないようにしてくれたんだよ。」

「まるで、最初から知っていたかのような…」

「もう疑うのはやめて!」

「いや、俺はフェリス達が心配で…!」

「友達なの!」

「なんだよ…もういい、勝手にしろ!」


怒って乱暴に穴から出ていったが、私は視線を向けることすらしなかった。


キュル…!

「ラズリ!あんなの放っとけばいいの!」


立ち去っていくイリアンを引き留めようと、飛び出そうとしたラズリを制止したところで、少し罪悪感を感じた。


それでも、友達を悪く言われて良く思うわけがない。

困惑するラズリを他所に、絶対に視界には入れまいと意地を張ってその日は別れてしまった。







次の日、仕事場で彼と会っても一切口を合わせなかった。

そればかりか、お互い相手の動きを予測して鉢合わせないよう動いている。


今までの経験もあってか、彼の動きは大体理解している。

それはきっと向こうもそうなのだろう。

阿吽の呼吸ともいうべきか、口を合わせなくても相手の仕事をフォローしつつ、黙々とこなすことができていた。


結局、その日は一日彼と会話することはなかった。



「彼と喧嘩でもしたの?」

浴場の湯に浸かりながら、身体が温まり少し頬を赤らめたアスカが尋ねてきた。

「な、なんで…」

「図星か(笑)フェリスってなんか分かりやすいから」

「別に喧嘩では…」


いや、正直ここまで彼と話すこともせず喧嘩したのは初めてかもしれない。

今までも喧嘩なんてたくさんしてきたけれど、今回はどこかお互いが引こうとはせずにいた気がする。

「多分、今までで一番口聞いてないかも…」

「そうなんだ、仲良いんだね」

「え?」

「今までで一番ってことは、ずっと一緒にいて一番だったってことでしょ?」

「そう…なのかなぁ…」


「それに、きっとお互い自分じゃない誰かの為に言い合ってたんじゃない?」

「な、なんで分かるの…?」

「当たってた?なんとなくだけどね」


何か、見透かされてそうな気がしたが、それよりも彼への罪悪感が込み上げてきた。

「アスカ、私どうしたら良いかな…」

「ん〜…やっぱり素直に謝るのが一番だと思うけどなぁ。ライト達も喧嘩してもなんだかんだでお互いが謝って喧嘩が終わってたし。」

「そっか…」


今日、会いに行くべきか…

でも今更っていうのもあるし…

「はぁぁ……」


一つ、長めのため息を吐いてしまった。






「はぁ〜………」

村の中央にある広場のベンチに腰掛け、村中に聞こえそうなほど大きなため息をついてしまった。


フェリス、今日口聞いてくれなかったな…


いままでも喧嘩なんてたくさんしてきたはずなのに、どうしてか今回は引くに引けなかった。

そればかりかあんな態度とって…


そりゃ怒るよな…

「明日からどうすっかな…」


「おぉ〜これはこれは…確か君はイリアン…だっけか?」

顔を上げると、あの冒険者の男が立っていた。

「あんたは確か…ホワイト…」

「ライトだよ。ライトノーツ・エスペランス」

「あぁ、そうだった。すまん」

「なんで項垂れてたんだ?」

「あんたには関係ない」

「冷たいなぁ、せっかくの顔馴染みなんだぜ?話くらい聞いてやるよ」

そう言いつつ馴れ馴れしく隣に腰掛け肩に腕を回してきた。

「随分と簡単に人の領域に入ってくるんだな。」

「悩める若者は放っとけない主義でね。」

「あんた俺と三つくらいしか離れてないだろ、フェリスに聞いたぞ。」

「なんだそうだったのか。まぁまぁ、細かいことは気にすんなよ」


「はぁぁ…」


一つ、長めのため息を吐いてしまった。







「とにかく、私から言えるのは喧嘩なんて長引かせても何も得しないよってこと」


少し微笑みかけながらアスカは私に諭してきた。


「そうだね。次会ったらちゃんと謝る」

「うんうん、それで良いと思うよ」


浴場を後にし、温まった身体が冷えないよう足早に自宅へ向かう。


いつもは外に出るとイリアンが待っててくれたけど今日はどこにも見当たらなかった。


明日、ちゃんと言おう。


そう思いながら、自宅の前に着くとあることに気が付いた。

自宅の灯りが点いている。

浴場にくる前に消したはず…






扉を開け、自宅に入るとそこには…




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