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第1話 誰もいない世界に行きたいんですか?

「この世界にあなたしかいなかったらどうするんですか」


 そう言いながら死猫(しにねこ)は振り返った。


「いえ、役立たずのあなたしか……という意味ではなく、もし、他の皆さんが本当は生きた人間ではなく幻覚のようなもので、実は存在していなかったら……そうしたらどうするんですか」


 死猫は語りかける。


「そして今私と話しているあなたも存在していない、そういう話ですか?」


 彼女は死猫に問う。


「はい、そうです。話の分かる人ですね。で、この世で一生を終え、死んでから真っ暗な場所で、『ああ、自分しかいないというこの孤独に耐えられなかったから”自分以外の人がいる世界に生まれたという夢”を見てたんだった』と思い出す。無限の空間と時間の中……夢でも見始めなければ、永遠に退屈で」


 まるで彼女を頼っているかのように、若干、甘えたような……寂しそうな声で死猫は言った。そして続ける。


「あなたは先程、『世界に私しかいなければいいのに』と言いましたが、そういう前提でいいのなら、私があなたをお望みの世界へ送って差し上げますよ。いかがですか? あ、帰りたくなった時は、強く私のことを思い浮かべてください。気づいた時にお迎えに上がります」


 彼女は一瞬、考えたように見えた。

 が、決めたようだ。


「私しかいない世界へ連れていってください」


 はい、分かりました。ご協力ありがとうございます。

 死猫はそう答えた。




◆◆




 神には劣るが、人間より優れた存在。

 全知全能ではないが、超能力を持つ。


 死猫(しにねこ)


 その存在に誕生日はない。いつ生まれたというわけでもなく、病や寿命で死ぬわけでもない。


 ただ、自身の超能力を"一定以上"使わないと激しい苦痛に襲われる。なので、強い超能力を使うために、人へその力を向けるのだ。ある時は願いを叶えたり、ある時は異空間へ送ったり、ある時は……。


 しかしまた、ある"一定以上"超能力を使ってしまうと、使わなかった時と同様、激しい苦痛を味わう羽目になる。なので、"超能力を使って自身を苦しみから解放すること"はできない。"超能力の一定の強さ"を超えてしまうからだ。


 つまり、死猫は、超能力を強制的に使わされ続けているということである。


 見た目は、十三歳くらいの、女の子だろうか。黒い、フードのついた膝まで丈のある服を一枚着ていて……白い脚が、か弱そうな印象を与える。





 死猫は、超能力を発散するためのターゲットを決め実行する際、ターゲットになる人間の前に、黒猫の姿で現れる。そして、物陰へ誘い込み、人間の姿に変身し語りかけ、願いを聞き出す……という過程が、ターゲットの恐怖心等により失敗に終われば、ターゲットから死猫の記憶を消し、諦めて次を探す……ということをしている。が、その方法ではターゲットは捕まりにくいので、何の了承も得ずに、適当に決めたターゲットを狙うことが多いのだが……なるべく、その人間の願いを叶えることを心がけている。


 死猫の能力には限りがあり、なんでもできるというわけではない。限られた能力の範囲内で、できる限りのエネルギーを発散しなければならない。


 そういうわけで、死猫は、狙った人間を不幸にしてしまう。

 発散のため力を向けた相手が、結果的に幸福になることはあるが──それは多くの場合、たまたまだ。


 心のエネルギーは、快感情よりも、不快感情の方が強いのだ。

 


 普段は透明人間ならぬ透明猫として街や家の中をうろつき、ターゲットを探している。透明猫になるのにも超能力を使っているのだが、その程度の超能力の発散ではエネルギーが溜まっていきつらくなってしまう。うっかり何かに気を取られていると力が弱まり姿が見えてしまうので、死猫はけっこう神経を張りつめながらターゲットを探しているのだ。




◆◆




 死猫の提案に応じ、自らターゲットとなった彼女は、世界に絶望でもしていたのだろうか。

 死猫にそんなことまでは分からないが、そういう運命の人間もいるのだろう。


 彼女が死猫に「帰りたい」と頼むのは、いつのことなのだろうか。




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