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まだまだ、異世界は色褪せない。  作者: 柚木
第一章『チュートリアル』
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第一章14『異世界、山あり谷あり』



「私が追いかける」


 凍りついた空気を打ち破ったのは水色髪の騎士、フラッド。


「空に魔法を撃たないと」


「いや、戦える魔力を残しておく必要がある。状況はすでに動いているんだ。敵の拠点は一つじゃない。それに南からすでに援軍が来ているだろう。ヘルさん、ランマル、その後は適当に動いてくれ。では…」


 俺の意見を速攻完全論破したフラッドは俺たちにきちんと指示を出し走り出した。かなりのスピード。メイソンに追いつくかはわからないが信頼度は高めだ。


 フラッドが去った後の森は本当に静かだった。鳥の鳴き声もない。物音といったら時折ヘルのため息が聞こえるぐらいだ。


「どうする?」


「そうね、テキトーと言っていたし、テキトーに済ませようかしら」


「おい、真面目に…」


 フラッドが言ったのは『テキトー』ではなく『適当』だ。ちょうどいいこと。ピッタリみたいな意味だ。

 真面目にと言われたままに真面目な顔をするヘル。目元は隠れているためわからないが顎に手をやり考え込むそぶりを見せた。そして「そうね」と再び前置きし――――、


「私がルカーくんのところへ、ランマルくんは村で草むしりでもしていたらどうかしら」


「わかった、ヘルさんがシャーロットのところに行って俺はスキンテイラに報告。そんでまた合流するのでいいか?」


「そう言ったでしょう?」


 言ってねえだろ。


「じゃあよろしく」


「わかったわ、ランマルくん。がんばってね」


 最後は普通に応援されたので今までの不適切な発言は許してやろう。

 俺たちは背中を向けて走り出した。


◇◆◇◆◇


 身体強化。身体強化。身体強化。


 砂の割合が増えてきた地面を踏み切り全力で身体を前に進める。

 森を抜けると凸凹した荒地。スキンテイラはこの方向にもっと進まなければいけない。全体的に登り坂になっていて村はまだ死角になっているのか目にはに生えない。


「フラッドのやつ、大丈夫かな」


 現状、一番やばそうなフラッドが心配だ。指輪返せばよかった。一人になると独り言が増えてしまうのは皆んな一緒だよね?

 シャーロットは団長とヒューがついてるからまだ安心だがフラッドは単独行動な上相手がメイソンだ。不安すぎる。メイソンの行動が読めなすぎて困る。

 そんな人の心配ばかりしていると…。


「止まれ、黒髪の盗人よ。逃げれば殺す」


「へ?」


 どこからともなく聞こえるそれは厳つい男の声。最近、厳つい男の登場回数が増えているが、今回の声はまた別の厳つい男だ。メイソンでも、レオナルドでもない。もっと厳つい声。

 このタイミングで新キャラ登場はかなりやばい。俺には時間がないのだ。早くエヴァさんに会いに行かなくてはならないのだ。


「右…」


 俺は右を向く。


「上。左…」


 流れるように上を向き左も見る。


「後ろ?」


 さっと背後に体を向けるが、やはり声の主は見当たらない。


「どこでもないなら…、下あああああ!」


「があああああああ!」


 魔力で強化された右腕でNARUTOのサクラちゃんばりに地面に拳骨を打ち込む――――否、俺の右腕は地面ではなく、声の主の顔面に命中した。


◇◆◇◆◇


「座れ!」


「断る」


「いいから座れ馬鹿者!」


「嫌だ!」


 俺はフラッドとお揃いの剣を鞘から抜いた。シャキンと音を立てて抜かれた剣はもう高くまで登った太陽の光を反射し、高いところから俺を見下ろす男の顔を照らす。


 目の前に立っている男、俺の強烈なパンチをモロに喰らった男は先ほどまで地面に埋まっていたのだが、殴られたことに怒りを覚えたのか土の中から出てきた。


「巨人ですか?」


 身長は3メートルはあるだろう。下に伸びた鼻。もみあげと襟足は縛っているが、前髪は下ろされている黒髪。馬鹿みたいにでかい四肢。服は臍が出るほど短いボロボロの上にメイソンと同じようなズボン。どこで売ってるの、それ。そして俺が殴った顔はすでに回復している。即時回復だろう。

 俺は思った。


 こいつは間違いなく巨人だ。


「違う。魔人だ」


 違った。


「まじん。魔の神?悪いやつですか?」


「ちがう。魔の人。それと悪いのは貴様だこの盗人」


 盗人?俺は生まれてこの方人のものを盗んだことはない。きっとこの魔人さんの勘違い、人違いだろう。


「何も盗んでませんよ。えっと、魔人さんはイリス極彩国の関係者ですか?」


「違う。イリスはかつての友だが関係者ではない」


「今そこのイグニス王都の王族がイリス国に殺されそうになっててそれを阻止しようとしているんですが…」


「知らん、さっさと盗んだものを返せ盗人!」


 こいつ…!


「何も盗んでないって言ってるだろ?魔人さんの人違いですよ、いい迷惑です」


「このガキ!」


「あ!何すんだよボケジジイ!」


 ボケジジイこと、黒髪の魔人さんは俺の剣に恐れることなく左手で俺をひょいと持ち上げると、右手でローブの中を漁るが、もちろん何も出てこない。

 ほれ見たことか。


「言ったろ?だから何もないって…」


 俺が言うとほぼ同時に、ポケットから何かが落ちた。荒地の硬い砂の上にガチャンと音を立てて落ちたそれは、俺の初の武器、剣の柄、魔力刀だった。


 それを見た魔人は俺から手を離しそれを拾い上げた。

 魔力刀を魔人が持つと剣の柄だったものは光を放ち大きくなり魔人用のサイズになった。俺はその光景を見て、魔力刀の持ち主がこの魔人であることをすぐに理解した。


「あの…それは、人にもらって…」


「わかっている」


 なら盗人とか言うなよ、と思ったが俺はそれを口にしなかった。その理由は今見た光景よりももっと衝撃的な光景が目の前に広がっているからである。


 魔人の黒の髪が火山のように赤い光を溢れさせていた。魔人が魔力刀に魔力を込めたのだ。魔力刀は魔力を込めることで刀身を顕現させる。俺の刀身は漆黒だった。フラッドは青。そして――――、


 魔人の剣は赤い。この世の何よりもそれは赤かった。赤い光を放つそれに俺は見惚れてしまった。


「やはり良いものだ」


 魔人はそれを見ると魔力放出をやめた。同時に赤色の刀身が霧散する。


「余は火の魔人、イグニート。この『狂躁修羅魔剣キョウソウシュラマケン』の持ち主だ」


「イグニート!?狂躁修羅魔剣!?」


 魔人の名前が魔法の名前と一致していることとめちゃくちゃカッコいい厨二心に突き刺さる名前が出てきて大興奮の俺だったが突然一つ疑問が浮かんだ。


「どうして火の魔人さんは地面にいたんですか?」


 もしかして、十二紫が魔人さんを生き埋めにしたとか?


「植物の気持ちを考えていたのだ」


「暇人だな。俺を手伝ってくれるか?」


 俺の言葉に暇人、ではなく火魔人は無言で頷いた。


「『ルーチェ』っていうところにピンチな仲間がいるんですけど…」


「知らない地名だ」


「そうですか…。じゃあ『イグニス王都』は?」


「わからん」


 スキンテイラにヒマジンを連れて行っても意味がないので先に送り出し、後から追いかけることにしたのだが――――、


「使えねぇ…」


 ヒマジンさんが予想以上に無知だった。ここにきて一週間にも満たない俺より地理感がない。だいぶ重症。そりゃ植物になりたくなるよ。

 しかし、地理感がないなら言い方を変えるまでだ。


「では、ヒマジンさん」


「なんだ」


「あっちの方です」


 俺は走ってきた道の方を指差す。その方角をヒマジンさんも見た。少し遠くに先ほどまで俺がいた森が見える。


「あっちに走り続けていけば城壁に囲まれた都市があります。フラッドという水色髪の男の指示を聞いてください」


「うむ、わかったぞ。フラッドだな」


「そうです」


「急いでいるのだろう?そちらも健闘を祈るぞ」


「ありがとうございます」


 火の魔人イグニートが歩き出したのをしばらく見てから俺も背中を向けて走った。


◇◆◇◆◇


 右足で踏み切り、酷く朽ちて使い物にならない騎士剣を松葉杖の使って左足を軽く地面について右足で着地、そして再び右足で踏み切る。左足の痛みはすでに気にならなくなっている、というか気にさせてくれるほどの時間は微塵もなかった。

 潰れた左目ができるだけ動かないように気をつけて視線を正面へ向ける。

 即時回復に使う魔力はすでに枯れ果ててしまった。


 人生山あり谷あり。人間万事塞翁が馬。本当によく当たっている。

 夢を叶え、狼に襲われる。美少女に命を救われ、知り合いが死ぬ。優しくされ、貶されて。救われて、救えない。


 同じように、仲間を一人増やした俺は現在――――、


 二人の強敵と対峙している。


 相手は十二紫の『鹿』。そして『蠍』。

 とにかく早くこの場から立ち去らなければ、命はない。確実に死ぬ。


 右足で踏み切り、剣を地面について、右足で着地。右足で踏み切り、剣を地面について、右足で着地。右足で踏み切り、剣を地面について、右足で着地。右足で踏み切り、剣を地面について、右足で着地。右足で踏み切り、剣を地面について、右足で――――、


 着地失敗。


「があああああああああああああ」


 刹那、激痛が走る。痛む場所もわからないまま叫び声を上げる。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたいたいたいたいたいたいたいた…いが、止まったら死ぬ。逃げなければ。逃げなきゃ死ぬ死ぬ死ぬ。

 頭ではそう考えているが、身体は当然のように動かない。ほとんど機能していない目を足元に向けると先ほどの転んだ原因と、痛みの正体が分かった。

 右脚の、膝から下がない。なくなっていた。それは俺の体からなくなったという意味ではなく。すでにこの世界に存在していなかった。足首から先が潰された左足がマシに見える。

 俺の近くにある芝生は真っ赤だ。


「早く殺してやれよ、スコルピス」


「ああ」


 二人は軽く言葉を交わすと、スコルピスと呼ばれた無表情の男が、俺に手刀を振るった。


感想を頼むのだ。お願いしますなのだ。

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