運が良いのか悪いのか…
――元来た道を戻りながら、責任者が品の良い女性に声をかける。
「お孫さんと話してどうでしたか?」
『…娘は孫をしっかりした子に育てていたようですね。あの時、夫の言うことなど聞かずに戻らせればよかったと思います。そうすれば、あの子もこんなに早く亡くなることはなかったかもしれないのに…』
「過ぎたことを言っても仕方ありませんよ」
『そうですね。…孫に会わせてくれてありがとうございました』
「いえ、こちらも彼女をあそこから連れ出せないかと思ってしたことです。何度説得しても戻ってくれないものですからね」
『フフ。あの頑固さは娘…、というか父親譲りですわ。私もあの人には散々苦労させられましたから』
「こちらが彼女のせいでどれだけ困らされているか分かってほしいものですよ」
そう言って責任者は溜息を吐いた。
『ええ、すみません。でも、あの子と付き合っていくなら腹を据えてかかった方がいいですよ』
「…怖いことを言わないでください」
責任者がゾッとしたような顔をすると、彼女がその言葉にクスッと笑った。そして二人は港へと向かって行った。
***
目が覚めればボーっと海を眺め、時々散歩したり海を泳いだりする。どれだけ泳いでも疲れない、島から遠く離れることもない。見える範囲しか行けないけど別に困ることもない。
昨日(便宜上、寝て起きたら次の日と考える)は落下者がいたから久々にお喋りしたけど、聞き上手な方でしたね。お金持ちのマダムのようでしたが、何となく既視感を感じました。お金持ちに知り合いなんていないので、きっと気のせいでしょう。
ところで、ここへ落ちてくる人ですが、特に変わった特徴があるわけではありません。昨日の方はとても接しやすい人でしたが、そんな人ばかりが落ちてくるわけでもないのです。
一言も喋らない無口な人もいるし、横柄な態度でアレコレ命令するような人もいます。中には暴力的な人もいますが、触れることができないから暴力なんて意味がないし、そういう奴は相手にせずこちらも無視します。
あちらに引き取られるまでは煩いですが、別に痛くもかゆくもないのでこっちは平気です。それと、極たまにですが、人がかたまりで落ちてくることもあります。
私は気の強い方じゃないけど弱くもないです。死んじゃったから遠慮なしになったのかな? でも昔は私もこうじゃなかったんですよ。何も言い返さずに黙っていましたから。それに、何か言えばメンドクサイことになりますからね。
当時は未婚の母とその娘に世間は厳しかったんですよ。何かあれば『これだから片親の子供は…』なんて言われて母が辛い思いをすることになりますから、悪く言われないように生活態度や勉強は頑張りました。
でもね、それだけ頑張っていても『あの子とは遊んじゃいけませんってお母さんに言われた』なんて言われるんです。まあその友達とは親に隠れて会っていましたけど。
それに、気に食わない奴は何に対しても言うんですよ。そして自分が優位に立つために事実を効果的に使ってくるんです。
言葉だけならまだしも、物を隠されたのは困りましたね。貧乏だったので失くすと生活に直結するんですよ。まあ隠されたものは必ず見つかりましたけどね(汚れてはいましたが)。
世の中にはとんでもないことを強要する奴らもいますからね。そんな相手じゃなかったので、まだ運が良かったと思うしかないです。