ミストシャワー
ペットボトルが散乱している部屋の中で、僕は1人ベッドに横になっていた。
母親は男遊びに明け暮れてしばらく家に帰ってきていない。
父親は毎日ギャンブル三昧。僕が折角貯めた金もほとんど使われギャンブル仲間と朝方まで酒をかわしているらしい。
弟は頭が良く、こんな家庭を見限ってさっさと1人暮らしを始めている。最近は彼女もできて楽しい生活を送っているらしい。
なんでこんなことになったんだろうな。
そんなことは分かっている。原因は全て僕にある。
よくあるのは僕が受験に失敗して家族全員が自暴自棄になったとか、あるいは僕がグレて学校を辞め、変なやつらと屯していたからとかだろう。
しかし、僕は普通に志望校に受かり、変なやつらと遊んだこともない。
みんながおかしくなったのは、1年前のあの夏のことだ。
僕は元々医療従事者になりたかった。
心や体が弱い人を助けたかったとかではなく、色んな人間をたくさん見て楽しみたかったから。ある意味、人間観察をしたかったからこの夢を抱いていた。
そんな、今思うと気持ち悪い志を持って必死に勉強していた。
その時は母親は専業主婦として毎日家事に取り組み、父親は普通のサラリーマンとして家に金を入れてくれていた。むしろ弟が少しグレていて家族会議が行わることもしばしばあった。
結論から言うと、僕はある少女を助けてしまった。助けてしまった
人助け?ならいいじゃないかと言ってくれる人もいるだろうが、この少女は普通の少女ではなかった。
僕から見ても、誰から見ても変わった少女だっだろう。
少女と出会ったのは、公園で勉強の気晴らしにブランコに乗っていた時、隣に座ってきたことから始まる。
「なんで1人で、こんなに楽しそうになくブランコに乗っているか。そんな死んだ目をするのをやめろ」
突然のことに僕は驚愕。急に喋って来たと思えばタメ口だしなんか怒られるし。腹は立ったが無視した。
少女も僕を見限ったのか、そそくさと立ち上がり何処かへ行った。
次の日、僕は無性にもう一度少女に会いたくなった。勉強で疲れているから、誰かと屈託もない話をしてみたいと思ったからだ。
昨日と同じようにブランコに乗っていると、少女が来た。
「なんで1人で、こんなに楽しそうになくブランコに乗っているか。そんな死んだ目をするのをやめろ」
昨日と全く同じセリフを言った。
「別にいいだろ、誰に迷惑をかけている訳じゃないんだし」
不貞腐れるように言うと、少女は僕の膝の上に座って来た。女の子のいい香りが鼻孔をくすぐる。柔らかい尻が当たり、僕は昇天しそうになる。
「私に迷惑がかかるんだ。今日はもう帰って寝ろ。また明日な」
そういうと少女はまた何処かに行ってしまった。いや、僕はゆっくりと少女の後を追っていった。
大きな通りに出ると、横断歩道もない道路に少女は明らかに飛び込もうとしていた。
「何やってるんだ!」
僕は少女の手を引き、腕の中に抱き寄せた。
ん?つんとくる刺激臭。先程の少女とは思えない香りがした。
「なんでいるの?まぁ助かったわ、ありがとう」
にやりと笑った後、少女は消えたんだ。
まるでどこかにワープしたかのように、音も立てずに消えていった。困惑した僕はしばしおどおどしていると、通行人から大丈夫?と話しかけられたので大丈夫です。と言いその場から離れた。
謎しかなかったこの体験が、僕の身の回りを崩壊させていく。