第肆話
そのターミナル駅は、いつもの雑踏のなかにあった。
何本もの鉄道路線が集まり、一日に三百万人を超える乗客が往来する。
だから、俺のようなやつがひとり消えようが紛れ込もうが、だれも気づかない。
俺は、ごったがえす人波に紛れて、品定めをしながら街頭テレビのニュースに目をやった。
政治や経済のネタの合間に、アナウンサーがそのニュースを読み上げる。
『今朝、解体撤去工事中の廃駅で、男性の遺体が発見されました。遺体には左手と下半身がなく、警察は殺人事件として捜査をはじめました。所持品から、遺体は都内に住む……』
アナウンサーが、俺の名前を読み上げる。
俺は、それを他人事のように聞いていた。
もう、なにもかも終わったことだ。
あの駅も、そして、この俺も。
俺はかろうじて残った右手を見る。
そこには一枚の入場券があった。
それは、最近ではほとんど見かけることもない、硬券の入場券だった。券面に書かれているはずの駅名は、やはり梵字のようで判読できない。
だが、それは問題ではない。
俺がここから旅立つために何をすればいいのかは、もうわかっているのだから。
俺は、ひとりの中年男に目をつけた。
ずいぶん酒に酔っているようで、不満やら愚痴やらを大声でわめきながら、切符を通すタイプの自動改札機に向かっていた。
ちょうど、おあつらえ向きだ。
俺はそいつの前に割り込み、あの入場券を投入した。
背後から舌打ちが聞こえる。
だが俺は振り返らない。
あんたに恨みはないが、しかたがないんだ。悪いが、俺は先に逝かせてもらうぞ。
そして。
フラップドアに阻まれるまえに、俺はさっさと自動改札機を通り抜けた。
(了)




