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学校の屋上の話  作者: 屋上の餃子
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「屋上から見た小火騒ぎ」

 真っ赤な夕焼けに彩られた学校の屋上。

 太陽の光を反射する金属のタンク。塗装がはがれ、金属が錆びている扉。大きな穴が開いて、そこにある意味を失った緑の塗装のフェンス。

 そんな様子の屋上に一人、フェンスの外側に腰を下ろし、空中に足を投げ出して、全体を照らす夕焼けを眺めている紺の学ラン姿の少年がいた。

 足を緩くばたつかせているだけで、5分、10分、と時間だけが進んでいく中、ギギィ、と神経を逆なでするような金属音が扉の方から鳴る。

 学ラン少年が扉の方に目を向ければ、先ほど扉を開けたであろう茶髪の少年がポケットに手を入れながら、こちらに歩いてくるところだった。


「今日は他にはいないんだな」

「あぁ、今日は俺一人だ」


 茶髪少年が口を開き、学ラン少年が素っ気なく返す。

 両方とも馴れ馴れしい口調だが、実際に会ったのは2~3回ほどだ。

 この屋上は色んな人が何の目的もなくやってきて、そこで出会った人と、ただ雑談して去っていく。そんな場所だった。

 初対面だとしても、友人と話すような口調で話すことは、ここの暗黙の了解だった。

 茶髪少年は同じように腰を下ろすことなく、フェンスに手をかけて、フェンスの内側から夕焼けを眩しそうに睨みつけた。

 すると、そんな茶髪少年に応えたのか、夕焼けの下の小さくごちゃごちゃした建物群の中から、黒い煙が立ち昇り始め、夕焼けを覆い隠してしまう。


「小火騒ぎか?」


 それでも、夕焼けが発する光は煙を突き抜け、屋上に居るたった二人の人影を照らしていたが、眩しいとは思わなくなったようで、茶髪少年は少しだけ大きく眼を開くようになった。

 それと同時に余裕が出来たように、煙の正体について、学ラン少年に問いかけた。


「多分な。多分、油に水を入れちゃったんだろう」


 変わらず素っ気なく返す、学ラン少年。

 会話が途切れ、再び沈黙が屋上を支配し始めた、と思ったが、また茶髪少年が何かに気づいたように、身を震わせ


「向こう、俺の家がある方向だ」

「え?」


 そう、少しばかり震えた声で独り言を漏らしたかのように言った。

 それを聞いた学ラン少年は、それは嘘じゃないのか? と、暗に聞くように茶髪少年の顔を振り向いて覗き込む。しかし、そうした結果見えたのは、驚愕に目を向く茶髪少年の顔だった。

 すると、今度はヤケクソのような笑顔を一瞬だけ浮かべ


「こりゃ、家には帰れないな……」


 そう言って、流れるように、悲痛そうな表情へと変化する。

 そんな茶髪少年にかける言葉を探す学ラン少年だったが、その言葉は頭の中をぐるぐると回るだけで、それが喉から先へ出てこない。それでも無くなった歯磨き粉のチューブを力を入れて押すように、ちょっとの言葉を絞り出す。


「いや、でもお前の家だっていう確証はないだろ」

「……俺の母さんは、料理でよくそういうドジを踏む」


 驚愕のあまり、逆に淡々と語るようにそう答える茶髪少年。その姿を見て、これ以上何か言うのは逆効果だと学ラン少年は結論付け、その悲痛そうな表情から逃げるように、目線を煙の奥の夕焼けに戻し


「前にお前、一人暮らしって言ってたよな?」

「バレたか」


 学ラン少年はまた振り返ることはしなかったが、茶髪少年は悲痛な表情を仮面を付け替えたように変えて、悪戯な笑顔を浮かべ、軽い足音を鳴らしながら戻っていく。


「今日は実家に帰るか……」


 茶髪少年は最後にそう捨て台詞のように言い残し、また嫌な金属音を出しながら扉を開き、屋上から姿を消した。

 その後ろ姿を見送り、学ラン少年も立ち上がり、扉の方へ歩いていく。

 その右手には鍵が握られている。


「今日の時間は終わり」


 そう言って、学ラン少年は扉を開け、学校の中に入り、屋上への扉のドアノブの中央にある鍵穴に鍵を差し込み、鍵をかけて、その場から立ち去った。

小説の練習用に書いていこうと思う短編集です。

こうした方がいい、という指摘等を募集中です。

どうぞよろしくお願いします。

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