初め
夕方という時間が私は嫌いだ。その日をどんなに楽しく過ごしても、必ず家に帰らなくてはいけないから。嫌いだ。
「アイノちゃん、また明日!」
隣を歩いていた友人が、十字路に立って私に別れの挨拶を言う。彼女とはここから帰路が違うのだ。私には、今晩の夕食を楽しみにしている彼女に、まだ一緒にいたいと言う勇気がなかった。だからほら、私も手を振って元気よく答える。
「また明日っ!」
何も知らない彼女は、今日も私の繕いにころっと騙されてセーラー服のプリーツスカートを楽しそうに翻し去っていく。
その後、私はすぐに歩き出した。顔に貼り付けていた笑顔なんて道端にポイだ。まっすぐ家には帰らない。日が暮れきるギリギリまで公園で時間を潰すのだ。
目的地は、住宅街のはずれの方にある小さな公園。今となっては閑散としたただの広場で、遊具ひとつない。私が小学生ぐらいまでは子供で溢れていたというのに、数年でこんな寂しい場所になってしまった。
誰もいない公園の隅、私はいつも通り背の高い木の根元に腰を下ろした。公園の中でもここだけは芝生が生い茂っている。尖った芝生が素肌を刺激することを除けば、居心地のいい私の定位置なのだ。
ここで何をするのか。特に。特に何かをするという訳では無いのだ。正面の山陰に沈んでいく大きな夕日をただ眺めるだけ。いつも通り、心では抱えきれない黒い感情を、沈む夕日と一緒に心の奥底に沈めていく。「今日も大丈夫」という自己暗示をかけるための時間。夕方に笑えなくなる私が、あの人に会う前に知り合いのいないところで一人になる時間が欲しいだけだった。




