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アウトドア系男子が、自宅警備員になる方法  作者: たいちょー
ep.14 さそり座娘の解毒法
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「好き」

「……お兄ちゃんってさ。今、好きな人……いるの?」


「……へっ?」


 七泉が真剣な表情で俺に問う。まさか七泉にも、そんなことを聞かれるとは思ってすらいなかった。

 俺は今日の昼にも、似たような状況に陥ったんだぞ。なのにどうしてまた、それが再現されるかの如く繰り返されているんだ。


 ――待て待て、落ち着け。意味は違うのかもしれないけれど、さっき茜によく考えろって言われたばかりだろ。焦るな焦るな。


「な、なんだよ急に。どうしてそんなこと聞くんだ?」


「えっ? それは、その……」


 俺がそう問うと七泉は、途端に戸惑った様子で黙り込んでしまった。視線をキョロキョロとさせて、何やら彼女も焦っているようだった。


「その、ね。そういえば昨日、お兄ちゃんに彼女がいるかどうか、聞きそびれちゃったなぁと思って」


「……あー、そういえばそんなことも言ってたな」


 言われてみれば確かに、昨日もちょこっとだけ、そんな話になった気がする。直後に七泉のお父さんから電話があったせいで、中断されてしまったのだ。


「それでね、さっきの会話の中で言ってたでしょ? お兄ちゃんが女の子から『彼女を作る気があるか』聞かれたって。だから今は、お兄ちゃんに彼女はいないんだなぁと思って」


「まぁ、そうだな。……それで、今度は好きな人はいるのか、ってわけか」


「うん」


 七泉がコクリと頷いた。


 ――いや待て待て。だからといって、なんで七泉がそんなことを知る必要がある? わざわざ俺の好きな人を知ったところで、七泉になんの得があるんだ?


「えっと……仮に俺の答えを聞いたとして、七泉はどうしたいの?」


「ど、どうしたい? どうっていうか、なんというか……い、いるかいないかだけでも、恋愛に対する考え方って、きっと変わってくるでしょ? だから、そこも聞いておきたいなって……」


「あーまぁ確かにね。それはあるのかも」


 確かに七泉の言うことには一理ある。それならば、彼女がそれを聞く理由にも納得だ。


「……七泉は今、好きな人がいるんだっけ」


「えっ? うん」


 半ば驚いた様子で七泉は答えた。


「そっか……」


 それならば、一応頼られる従兄として、俺も七泉に何か少しでも助言ができるかもしれない。多少気恥ずかしいが、今度こそ彼女の話に付き合ってあげよう。






 七泉と向かい合うように席へと座り、彼女の表情を疑う。やはり彼女は先程から、ずっと何かを覚悟しているかのようだった。


「まぁそうだなぁ。好きな人はいない、と言えば嘘になるけど、いるわけでもない、って感じになるのかな」


「? それって、どういうこと?」


「言ってしまえば、ほぼほぼもう叶うことがない恋ってこと」


「それって……? 遠くに引っ越しちゃったとか?」


「ううん、そうじゃない」


「じゃあ、タレントさんとか、女優さんとか?」


「それも違うかな」


「となると、なに?」


「……引かない?」


「えっ? う、うん。それを聞いて、実お兄ちゃんのことを嫌いになることはないよ」


「そっか」


 そんな彼女の返事を聞いても、俺の中ではまだ疑心暗鬼のままであった。こんな情けない話なんて、誰が聞いても呆れてしまうだろう。

 当然茜には言えない話であるし、きっと七泉ぐらいにしか話せやしない。……例えその結果、嫌われてしまったとしてもだ。


「……高校一年の時からさ、高校卒業するまでずっと、付き合ってた彼女がいたんだ。卒業と同時に、別れちゃったんだけどね」


「あ……そう、だったんだ。知らなかった」


 何かを察した様子の七泉の表情が、一気に暗くなる。分かってはいたが、やはりこれを聞いて良い気分にはなるはずがない。


「突然向こうから別れを告げられてさ。ちょっと前までは、『お互い違う進路にいくから、これからどう付き合っていこうか』みたいな話をしてたから、驚いたんだよね。お互い嫌いになったわけでもなかったし、別れる理由が分からなかったんだ」


「その時って、彼女さんは何か言ってたの?」


「『私達二人のために別れよう』って言ってた。よく意味が分からなくてさ、何度も聞いたんだけど『私が言ったら実のためにならないから』の一点張りでね。結局何も分からないまま、連絡先も消すことになって、それっきり」


「そうだったんだ……」


「……だからさ。もし今の俺が、あいつの言ってたことを直せてたとしたら――また復縁できるのかもしれない、なんて考えちゃうんだよね。無理なものは無理だって、分かってはいるんだけど。心のどこかでまだ、立ち直り切ってないっていうか。……それくらいあいつのこと、本気で好きだったから」


「お兄ちゃん……」


 七泉が俺に、憐みの目を向ける。彼女は今、本心では一体どう思っているのだろう。俺に女心が分かったとしたら、彼女の気持ちも分かるのだろうか。


「ごめんな、急にこんな情けない話をして。きっと、こんなことを聞きたいわけじゃなかったよな」


「あ、ううん! それは気にしないで。例えどうだったとしても、実お兄ちゃんが素敵な人なのは変わらないから。寧ろごめんね。お兄ちゃんがそんなことで悩んでたなんて、知らなかったから。……辛いこと、話させちゃって」


 両手を振って、必死に七泉が励ましてくれる。そうは言われても、年下の従妹に慰められる男なんて、やはりどう見てもカッコ悪い。


「そんなことない、別に七泉が謝ることじゃないよ」


「うん……。それっきりお兄ちゃんは、気になる人はいないの?」


「んー、どうなんだろう。あんまり意識したことなかったから、分からないや。もしかすると、自分が気付いてないだけで、いるのかもしれないけど。今のところは、特にいないってことになるのかな」


「……そっか」


 ポツリ、と七泉が呟くと、それきり彼女は俯いて黙りこくってしまった。それもそうだろう。従兄に会いにきたと思ったら、そんな彼から情けない話を聞かされてしまったのだから。きっと俺が逆の立場だとしたって、反応に困る。

 それから数分程、お互いに口を開くことなく黙々と様子を窺っていた。次に何を言いだそうか、どんなことを話そうか。話題に行き詰っていたところで、ようやく口を先に開いたのは、七泉のほうだった。






「……そういえば、実お兄ちゃん。さっき茜ちゃんと話してた時に、一回私のことを話してなかった?」


「さっき? ……あぁ、そういえば」


 先程の電話で、茜が七泉に聞いてみろと言っていたことがあった。だが今の流れからその話をするのは、少々気が引ける。


「でも七泉、さっきの話はもういいのか? 結局俺の情けない話だけで終わっちゃったけど」


「平気だよ。これ以上お兄ちゃんに嫌な思いはさせたくないから。……それになんとなく、聞きたかったことも分かったし」


「うん?」


 はて、なんのことだろうか。俺の元カノとの話しかしていなかったはずだが、そこから何か知りたかったことのヒントでも得られた、ということなのだろうか。


「あの、七泉。それって一体……」


「あー、いいよいいよ。気にしないで! そんなことより、茜ちゃんはなんて言ってたの?」


 俺が聞こうとするよりも先に、七泉が笑顔で言葉を被せてきた。どうして突然そんな風に強引な対応をされたのか、理由は分からなかったが、渋々俺は茜に言われたことを七泉に話した。


「……俺って、どういうところが思わせぶりなのか聞いてみろ、って言ってた」


「お兄ちゃんの、思わせぶりなところ?」


 俺の言葉をオウム返しすると、まるで言葉の意味が分かったかのように、七泉がクスリと笑みを浮かべた。


「な、なんだよ」


「うーん、そうだなぁ。……いっぱいあるかもね」


 悪戯を企む女の子のような笑みを浮かべて、七泉が答える。


「い、いっぱい? 例えば、どんなよ」


「んー、例えば……。好きだなーと思ったことを、素直に『好き』って言っちゃうところとか」


「……え、それの何がダメなの?」


「ダメなものはダメなんだよー? 『好き』っていう言葉は、もっと大切に使わなきゃ」


「そう言われても……俺だって好きだと思うことはそう多くないし、ホントに『好きだ!』と思ったことにしか、言ってないと思うんだけど」


「ふふっ、お兄ちゃんはやっぱり素直だなぁ。そういうところ、私も好きだよ」


「えっ……」


 唐突な彼女の『好き』という言葉に、思わずドキリとする。そんな急に言われても。どう対応すればいいかが分からない。

 しかし、対して七泉はそんな俺を見て、楽しそうにクスクスと笑っていた。


「もう、驚きすぎだよー。……どう? 『好き』って言われる気持ち、ちょっと分かった?」


「う……分かったような気がする。急に言われると、ドキッとしちゃうね」


「でしょ? だからこれからは、お兄ちゃんが心の底から『これは伝えないと!』って思ったときにしか、使っちゃダメだよ? 分かった?」


「はーい……分かったよ」


 そんな俺の返事に、七泉は嬉しそうにニコニコとしながら、うんうんと頷いていた。






「さてと。ちょっと重い空気になっちゃったけど、もう終わりにしよっか。帰ってきてからお兄ちゃんってば、お腹空いてるでしょ? ちょっと遅いけど、夜ご飯食べよ」


 そう言うと七泉は、その場から立ち上がった。


「そういえばそうだった。七泉はもう食べたの?」


「ううん、まだ食べてないよ。でも冷蔵庫にあったもので、予め簡単に作っておいたから。温め直せば、すぐ食べられるよ」


「え、ホントに?」


「えへへ、お泊りさせてもらってるからね。その分、家事もしっかりさせてもらうから、任せて」


「そっか。ありがとう、七泉」


「どういたしまして。あ、お兄ちゃんはそこにいて。私、準備するね」


 七泉はニコッと微笑むと、そのまま台所へと向かおうとしていた。――そんな後ろ姿を見て、突如とある疑問が浮かび上がる。


 ――……そういえば。


「……七泉。あのさ」


「うん?」


 その疑問を確認するために、七泉のことを呼び止める。彼女は一体何事かという顔で、俺のことを見つめていた。


「さっきのその、『好き』っていう言葉を使い過ぎないって話なんだけどさ」


「ん、それがどうしたの?」


「えっと……。七泉がさっき俺に言った『好き』ってのは……アレは俺に、わざわざ教えるために言ってくれたの?」


「っ……」


 その瞬間、七泉は口をぽっかりと開けて、言葉を失ってしまった。理由は分からなかったが、何かマズいことを言ってしまったのではないかと、途端に後悔する。


「……ころだよ」


「え?」


 小声で、静かに、七泉が何かを呟いた。


「……そういうところだよ、お兄ちゃん」


「そういうところ……?」


 その言葉の意味が、俺にはよく分からなかった。


「……でもね。そういうところを含めても、私は――実お兄ちゃんのことが、昔からずっと『大好き』だよ」


「へっ……!?」


 俺の驚いた顔を見て、七泉はニッと歯を出して笑うと、そのまま台所へと入ってしまった。そんな彼女の後ろ姿に、益々俺の頭の中が混乱する。


 ――なんだ? わざわざそんなこと言うなんて、七泉らしくない。どうしちゃったんだ?


 まさか、とは思ったものの、それはすぐに俺の理性が反対した。彼女は昔から何度も会ってきた、俺の従妹なのだ。そんなこと、あるはずがないじゃないか。そんな物語のような出来事が、現実で起こるはずがない。……だが、だとしたら何故?


 ――あぁもう……女ってマジで分かんねぇよ……。


 連続した出来事に、俺の悩みは増えていく一方だ。そろそろパンクしそうな頭を抱えながら、一体何度目か分からないため息を深く吐いた。

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