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非日常の末端

 帰りのバスに揺られながら、ぼんやりと車窓を眺める。この時間は部活帰りなのか、制服姿の中高生が多く乗っていた。

 相変わらず、ツ◯ッターの通知がうるさいのは慣れっこではあるが、その件数を見る度に憂鬱になる。その度に、どうしてこうなってしまったんだろうと自分のことを呪うのがルーティンだ。


 ――……村木先輩も、やっぱりそういう人なんだよな。分かってはいたけど。


 先程彼から聞いた、私の質問の答え。大体予想はついていたが、ほぼ予想通りの回答が返ってきた。



『俺だったらさ……多分だけど、河辺さんのお父さんと同じことをすると思う。そのくらい自分のことを想ってくれる奥さんなら、俺もその気持ちを返してあげたいから。


 言葉だけなら、好きだなんていくらでも言えるでしょ? そうじゃなくて、ホントに好きって伝えたいのなら、やっぱり行動で示さなきゃ。それを恥ずかしがってたり、怖がってたりして何もできなかったらさ……万が一のことがあったとき、後悔すると思うんだ。――()()、後悔はしたくないんだよね、俺』



 ――そりゃあ、引かれるかもって心配になるよね。だってあんなこと言われたら、誰だって“重い”って感じちゃうし。


 次のバス停に到着して、バスの扉が開く。そこで降りた人々よりもほぼ倍の人数が乗り込んでくると、バスは次の目的地へと向かい出す。


 ――何があったのかは知らないけど、きっと色々あったんだろうな。だから私みたいな人にも、友達だなんて言えるんだよね。


 ふと思い返して、スマホの写真アルバムを開き、昔の写真を探し始める。だいぶ昔のほうに保存してある画像の中から、一枚の写真を画面に出した。


 ――……顔は全然似てないのに、やっぱり似てる。


 彼と一緒に写った唯一の写真。当時自分はまだ高校生で、だいぶ生温い考えをした人間だったと思う。


 ――……レン君。


 思い返す度に、この写真を見ては胸が焼けるように痛くなる。彼との思い出が、この写真一枚きりだという事実が悔しくて、何度も当時の自分を悔いた。


 ――羨ましいな。あんな風に好きな人のことを、好きだって言い切れるんだから。私なんか……。


 不意に目頭がジワッと熱くなるのを、グッと堪える。こんなところで急に泣き始めたら、それこそおかしな奴だ。


 ――こんなこと言ったら、先輩に笑われるんだろうな。だってそうだもん。私なんか……()()()()()()()()()()()、最低な女なんだから。


 バスの運転手が、次のバス停の名前をアナウンスする。危うく次が自分の降りるバス停だということを忘れかけていたところで、降車ボタンを押した。

 このバスが、私を地獄へと連れて行ってくれるバスだったらいいのに――そんなことを思ってしまった自分が、そこには存在していた。



 ◇ ◇ ◇



 ――疲れた、眠い、寝たい、でも腹減った……。


 ようやく家へとたどり着き、自転車を駐輪場へと停める。

 思わぬ出来事があったせいで、借りていたドラマのディスクを返す時間が遅くなってしまった。すっかり空も暗くなって、時刻は夜の七時前だ。


 ――あー、また家の前に栗置かれてんのかな……。あ、いや、それさっき解決したんだっけ。じゃあもう大丈夫か。


 ここ一週間で、すっかり家の前を警戒するようになってしまった。

 だがこれにて、もう家の前に何かが置かれる心配は無いのだ。安心して、家へと帰ってくることができる。


 ――さてと、適当に飯でも作って食うか。冷蔵庫に何があったっけ……って。


「あ?」


 ふと、電灯に鈍く照らされた玄関前に、茶色い何かが落ちているのが見えた。一瞬、また栗かと思いながらも、それはすぐに否定された。


 ――え……これって、もしかして……。


 すぐさま玄関前へと向かい、しゃがみ込んで正体を確認する。――それはまさしく、何者かが生み落としていった茶色いフンだった。


 ――は、え? これってあの二匹じゃなかったの? それとも偶々? なんか見る限り、比較的新しいし……えちょ、分かんない分かんない……。


 てっきり全てはあの二匹の仕業だと思い込んでいたが、まず根本から間違っていたようだ。

 せっかく解決したと思っていたのに、これじゃあ振り出しに戻っただけじゃないか。いい加減今度は、このフンの犯人は一体誰なのか、再び探さなければ……。


「にゃあ」


「……ん、にゃあ?」


 ふと、近くでそんな鳴き声が聞こえて振り返る。暗くて気付かなかったが、駐輪場の横に何者かが座り込んでいるのが見えた。


「猫……?」


 あまり刺激しないよう、そーっと声の元に近付いていく。徐々に目が慣れてきておかげで、ようやくその容貌が見えてきた。そこには茶色い背中に、白いお腹をした毛並みの猫が、気怠そうに座っていた。


「……まさか、お前か?」


「うにゃあ?」


「あっ!」


 今の一言のせいで、すぐに猫は立ち上がり走り去ってしまった。追いかけようにも辺りが暗く、もはやどこに行ったのかすらも分からなくなってしまった。


 ――ああもう、行っちゃった。……あいつが座ってたところに、落ちてたりしないかな?


 ポケットからスマホを取り出して、スマホのライトを点けてみる。そこには予想通り、家の前と同じような色や形をした、新しめのフンが落ちていた。


「あっ……あの猫ぉ……っ!」


 思わず怒りが口に出てしまったが、その言葉は暗闇の中へと溶けていった。結局どこにも向けられない苛立ちに、深々とため息を吐く。

 こうして、俺のちょっぴり歪な非日常は幕を閉じた。実に様々なことが起こったが、それぞれ無事解決したことはよかったと思う。……たった一つを除いては。






 その後。管理人さんと相談して、家の前に猫対策の水撒きをしばらくの間、欠かさずするようになったのは言うまでもない。

これにて、本章は終わりです。ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


さて、次回と次々回はいつも通り、二人がそれぞれメインの回です。これまでの中でも、特に重要なお話になるかも……?


お楽しみに!


【P.S.】

たいちょーさんが出している小説『アンノウンストーカー』を先に読んでおくと、より楽しめるかもしれません……。


もしよろしければ、ブックマーク・感想・評価もしていただければ幸いです。執筆のモチベーションになります!


【筆者のTwitterはこちら→@sho168ssdd】

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