食べず嫌いの理由(3)
「あなたはっ……! あなたはいつもそうやって、私に優しくするんです! なんでなんですか!?」
本城さんの叫び声が、学食じゅうに大きく響く。流石に今度の声量は大きかったようで、周囲の人間がチラホラとこちらに視線を向けていた。
「なんでって言われても……本城さんだからとしか、言いようが……」
「それがワケ分からないんですよ! 私だからなんですか? どうせ私じゃなくたって、あなたはみんなにそんなこと言いまくっているくせに!」
「あぁ、分かった! 一旦落ちつこ。ね? みんな見てるから……」
「ん……」
俺になだめられて、ようやく彼女はハッとして周りを見回した。そうして、一度深呼吸をしてから「すみません、取り乱しました」と呟く。
「……本城さんはさ。いつも俺のことを陽キャだ陽キャだって言ってるけど、そんなに陽キャの俺の言葉は信用できない?」
半ば苛立った様子でそっぽを向いてしまっている彼女に問う。
「陽キャだけじゃないですよ。人間なんて、基本信用できません。けれど、それでも特に陽キャは信用を取るに足らないと思っているだけです」
「それはもしかして、前に色々あったから? この間も、高校の頃の同級生に呼ばれなかったっていう話もしてたけど」
「……その件もありますけど、それとは別です。それと、それはだいぶ前に話しました」
「え、だいぶ前に? いつ?」
「自分の口からは言いたくありません。話もしたくないので、自分で思い出してください」
「えぇ……。なんだっけそれ……?」
本城さんが陽キャ嫌いになった理由。そんなこと、いつか話しただろうか。だいぶ前に、と言っているくらいなのだから、きっと本城さんと出会って間もない時期のことかもしれない。……そんな時期の話なんて、ほとんど俺は覚えちゃいないぞ。
「とにかくです。それほど私に固執する理由があるんですか? サークルに勧誘したいからですか? やっぱりそれだけなんでしょ?」
「えぇ? いやっ……」
せっかく過去の話題を思い出していたところで、彼女が割り込んで話題を変えてしまった。これほど強引になるということは、よっぽど他人に話されたくない話なのだろうか。
そんなにもったいぶられてしまうと、逆に好奇心が働いて知りたくなってしまうじゃないか。知りたいという衝動と、彼女の質問の圧力の二つがもどかしくて、頭の中が一瞬パニックになる。
それはともかくとして。やはり彼女はまだ、俺のことをサークルの勧誘マンだと思っているのだろうか。これだけ俺は彼女のことを友達として接しているのに、未だに彼女との間の壁は壊れるどころか、益々丈夫になってしまっているのだろうか。
「……どうなんですか?」
未だに言葉を発さない俺を見越して、彼女が追い打ちを掛ける。
――違うんだよ、本城さん。なんで気付いてくれないんだよ……。
これではダメだ。せめて、勧誘マンのイメージだけでも払拭しなければ……。
「じゃあ分かった。今から話すことを、よーく聞いててほしいんだ。いいかな?」
彼女に問う。彼女は返事も頷きすらもしなかったが、特に文句を言わないということは了承したということだろう。
意を決して俺は、本城さんに向けてその言葉を投げ掛けた。
「……本城さんが、好きだからだよ」
「……それ、やっぱり前も聞きましたけど?」
「あぁ、言ったね。でも、今ならハッキリ言えるよ。君が俺のことをどう思っていようと、俺は本城さんが好きだよ」
「そうやって陽キャは、すぐ好きだ好きだって言葉の乱用しますよね。本当は思ってないんじゃないですか?」
「思ってるよ! 俺は、誰よりも優しい本城さんが好きなんだ」
「優しい? どこかですか。何ヶ月もずっと、あなたを騙し続けていた私のどこが?」
口元をへの字にして彼女が苦笑してみせた。
「優しいよ! ……君が日和ちゃんから貰った花の種をずっと大事に育てていることも、俺のテスト勉強に文句言いながら付き合ってくれたことも、おじいちゃんとおばあちゃんを安心させたくて強引にでも俺を連れて行ったことも、養豚場から逃げ出した豚を必死になって探し回ったことも、俺が熱出して寝込んだ時にわざわざ看病してくれたことも、俺の妹への誕生日プレゼントの相談に乗ってくれたことだって。
本当に心から人間を嫌ってる奴が、そんなことするわけ無いだろ? ……君が優しいから、そうやって君はすぐ自分を犠牲にしようとするんだ。一番人間を信用したいのは、本当は君なんじゃないの?」
「っ……」
「……君が俺の看病しに来てくれた時さ。頼んでもいないのに、君は俺が寝ている間に台所の掃除もしてくれてたよね。君はいつも不器用だから口では文句ばっかりだけど、ホントは俺やみんなのことをいつも心配してくれてるんだなって、あの時改めて分かったんだ。
あの時は花火に夢中になっちゃって、お礼言うの忘れちゃってたから今更だけど……嬉しかったよ、ありがとう」
何かを思い出したかのようにハッとすると、本城さんは再びこちらから体ごと逸らしてしまった。不器用な表情を浮かべて、ただ黙々と俯いてしまっている。
――あれ、ちょっと余計なこと言いすぎちゃったかな? ……っていうか、改めて考えてみると、俺いま凄く臭いこと言ってないか? なんか、恥ずかしくなってきたぞ……。
「……てください」
「……え?」
ふと、目の前の本城さんが何かを呟いた。
「……恥ずかしいから、やめて、ください」
周囲の雑音に掻き消され、ギリギリ耳に入るぐらいの小さな声が聞こえた。
「……え、今、恥ずかしいって言った?」
「っ! そういうのやめてくださいっ! だから嫌なんですよ!!」
すると再び、本城さんが顔を真っ赤にしながら怒鳴り声を上げてみせる。
「わぁっ!? 分かった、ごめんって! 謝るから!」
「もうっ……!」
珍しく顔を赤くさせて、半泣きになりながら嫌そうにぼやいている。
先程の話も相まって、これが普段は見せない本来の本城さんなのかと思うと、なんだか可愛らしく思ってしまって、思わず吹き出して笑ってしまった。
「なに笑ってるんですかっ!?」
すかさず、彼女からお叱りの声が響く。
「ごめん……ははっ、なんか面白くって」
「なんですか、面白いって……。ワケ分かんない……」
「まぁそう怒んなって。悪かったよ」
必死に本城さんへ謝罪の言葉を並べるも、彼女は未だにこちらと向き合おうとはしてくれない。それどころか益々機嫌を損ねてしまったようだ。一体次は何を言えば、こちらを見てくれるだろうか。
「……でも、俺が本城さんにそう思ってるのはホントだよ。だから俺は本城さんのことが好きだなって思うし、本城さんの助けになるなら、色々としてあげたいなとも思う。
そりゃあ、今まで散々酷いことも言われたし、色々と振り回されてばっかりだったけどさ。それはそれで本城さんらしいなって思えたし、俺も文句は言いながらも楽しかったから。……あ、野良犬に襲われた時だけは、死ぬかと思ったけどね……。
本城さんもまだ、色々と思うところがあるかもしれないけどさ。少なくとも俺の前ではそういうの関係無しに、単なる一人の友達として思ってくれればいいなって。本城さんは陰キャで、俺は陽キャなのかもしれないけどさ。それでも俺は、本城さんのことを一人の大切な“友達”だと思ってるから」
彼女に向けて、長々としたまとまりの無い言葉を告げる。それでもまだ彼女は体を背けながら、黙々と俺の言葉を聞いていた。
――うーん、反応が微妙だなぁ。あとはなんて言ったらいいんだろう。尊敬してるとか、君が羨ましいとか……。そういうのは、逆に怒らせちゃいそうだよなぁ……。
こんなとき、どんな言葉を投げ掛ければこの場合は正解なのだろうか。どんな風に説得すれば、彼女は分かってくれるのだろうか。
普段から少しだけ考えがねじ曲がった彼女のことだ。ちょっとやそっとのことじゃ分からないだろう。今まで俺が言った言葉も理解してくれているか分からない。なら、どうすれば……。
「……前に先輩は、『これからも私の友達だよ』って言ってくれましたよね?」
ふと、唐突に彼女が口を開いた。
「え? うん」
「……私でも、友達を作っていいものなんでしょうか」
「な、ちょっと、突然なに言ってんのさ。当たり前でしょ。誰にだって友達を作っていい権利はあるよ」
「……こんなに酷いことをした私でもですか?」
「だから、それはもういいって。言ってるでしょ? 本城さんといると、楽しいんだって」
「……私といると楽しいだなんて、やっぱり先輩は変わってますね」
「そうかなぁ?」
「そうですよ。今まで私なんて……『そこにいるだけで目障り』だとか、『喋るだけで耳が痛くなるから黙れ』だとか、散々言われてきましたから」
「えっ?」
そんな話は初めて聞いた。もう半年も付き合いがあるはずなのに、そんなことは今まで聞いたことがない。
――言われてみれば、本城さんは昔みんなから酷い扱いを受けてたとは聞いたけど、詳しく聞いたこと無かったよな……。まさかホントにそんなことを言われてたのか? だとしたら……。
「もうずっと昔から、誰も私とは友達にならないようにって、学校ではいつも嫌なキャラを作ってました。こんなことはもう慣れっこなので、いつ自分の素を出せているか私も分かりません」
「なら家でとか、日和ちゃんと話すときはどうなのさ? あと、ネットで話すときとか」
「ネットなんて、キャラ作ってなんぼですよ。結構なお姫様キャラでやってるんで、この私を知ったらみんなドン引きするんじゃないですか?」
「そんなに違うもんなの?」
「そんなに違うもんなんです」
「へぇ。……そういえば今思ったけど、本城さんの動画って見たこと無いなぁ。今度教えてよ?」
「嫌です」
即座にキッパリ断られてしまった。
「え、嫌なの?」
「当たり前じゃないですか。どうして先輩なんかに、私の羞恥を晒さなきゃいけないんですか。見せるくらいなら、今ここで床舐めたほうが百倍マシですよ」
「は、はぁ……。そこまで言うなら我慢するよ……。知りたいけど」
「そうしてください。っていうか、そうしてくれないと困りますので」
「はいはい……」
――クソ、メチャクチャ知りたい……。絶対にいつか本城さんの動画見てやろう。決めたぞ。
いつか俺の知らない本城さんの一面を見る。新たなもう一つの夢を今この瞬間、俺は胸に誓った。
「……で、家とかではどうなのさ?」
変わってしまった話題の路線を、改めて本線に戻す。
「んー、お母さんが生きていた頃は多分素だったのかもしれませんが……クソジジイと暮らし始めてからは、どうなんでしょうか。ずっと文句言ってた覚えしかないので、アレが素だったのかキャラだったのかは分かりませんね」
「そう。……日和ちゃんとは?」
「さぁ。確かに日和といるときが一番楽ですよ。特に何も考えずに昔の通りで接してますから。……でもあの子もあの性格ですし、半ば親みたいなもんですよ」
「じゃあ、完全に素の本城さんじゃないんだ?」
「……そうかもしれませんね」
少しだけ寂しそうに、彼女がポツリと呟いた。
「……もうね、分かんないんですよ。色んな人に色んな自分を見せているせいで、どれが本当の自分か分かんないんです。どれもこれも全部自分が演じてるキャラに思えちゃって、平気で思ってもいないことは言えるし、やりたくもないことだってキャラを作ればできちゃうし。
気が付いたらいつの間にか、私が私じゃなくなってました。全部上っ面だけの私みたいな偽物で、それが私として生きてるんです。本当の本城綾乃という人間はもう、もしかしたらどこにもいないのかもしれません」
「……本当の君、ね」
そんな俺の呟きは、再び訪れた静寂の中に溶けて消えた。
相変わらず本城さんの横顔を見ている俺と、俺から体ごと背けている彼女。それは何も変わらない。
俺達はただ、性別が違うだけ。年齢が違うだけ。生きてきた環境が違っただけ。違うことはそれくらいで、あとは同じ人間だ。いくら陽キャと言われようが陰キャと言われようが変わらない、俺達はただの生きた人間だ。
今この瞬間、同じ時間を生き、同じ場所で過ごし、同じものを食べて生きている。ただそれだけだ。――本質なんて変わらない。たったそれだけのことで変わられたら、堪ったものじゃない。そんなことは、あってはならないことなのだ。
――今この瞬間、逆に俺が言われたら嬉しいことはなんだ? 言われたら嬉しいこと……俺が本城さんに言える、この子が安心できるような言葉……。
「……分かった」
その一言は自分でも驚くほど弱々しく、掠れた小さな声だった。
「君が本当の自分が分からないって言うならさ――今から俺と一緒に、本当の君を作ればいい」
「……は?」
素っ頓狂な彼女の声が聞こえた。
「だって、今までのことをひたすら考えても、答えが出なかったんだろ? ならしょうがないじゃん。だったらこれから、自分が胸張って『本当の自分』だって言える自分になればいいんだよ。だろ?」
「は、わっ……! あなたは……どうしていつもそうやって……!?」
俺の言葉に驚いた様子の彼女が、ようやくこちらに体を向けて、身を乗り出して聞いてきた。その顔は、あまりにもらしくない表情である。
「決まってるだろ? 友達だからだよ」
「……友達……」
「あぁ。君がいくら文句を言おうと、俺は友達だと思ってる。君だって俺のこと嫌いだったら、こうやって一緒に飯食わないだろ?」
「………」
「ずっと前に、一緒に飯食おうって本城さんから誘ってくれたでしょ? あの態度だったし、絶対に俺からは誘えなかったからさ。あの時誘ってくれてよかったなって今は思うよ。だって、おかげでこんなに良い友達ができたから」
「私が……良い、友達?」
「あぁ、良い友達。……もちろん、普段から俺をバカにする言葉は直してほしいけどね?」
ちょっぴり苦笑いを浮かべながら彼女に言う。
すると途端、今の今まで膨れっ面だった彼女が、急に吹き出して笑ってみせた。
「ふふっ……。まったくもう……あなたって人は……」
「ん?」
「……飛んだ大バカ者ですよね、先輩って」
「えぇ、今!? せっかく良いセリフ言ったと思ったのに!」
「ほら、そういうところ。なにカッコつけようとしてるんですか。バレバレでカッコ悪いですよ」
「あ、嘘、バレてたの?」
「当たり前じゃないですか。私を誰だと思ってるんですか」
「あぁ……そうですよね……」
彼女に暴露されてしまい、思わず恥ずかしくなってしまった。彼女に代わって、今度は俺が視線を逸らす。
「……分かりました。そういうことなら、そういうことにしておきましょう」
「へ、そういうことって?」
「なに聞き返してるんですか。今まで散々鼻高々に自分で語ってたくせに。……先輩と私が、改めて友達だっていう話です」
「っ! ホント!?」
「だから、何度も言わせないでください。なに聞き返してるんですか?」
「いやだって、嬉しいじゃん! 今まで冗談混じりに友達とは言ってくれてたけど、いざこうしてホントに友達だとは言ってくれてなかったからさ」
「もう……」
小さく息を吐きながらも、呆れた様子で苦笑いを浮かべている。せっかくこっちは純粋に喜んでいるのに、そんな顔はしないでもらいたい。
「……本当の私、作ってくれるんですよね?」
そうして、彼女が俺に問うた。
「作るっていうか……最終的には本城さんが作るものだけどね。でも、その手伝いは俺もしたいなって思うよ」
「そうですか。……期待、していいですか?」
「え?」
「だから、期待していいですかと聞いたんです」
「期待? まぁ、そうだなぁ。絶対にできると断言はできないし、自信も無いけど、大船に乗ったつもりでいてくれればと思うよ」
「……それ、かなり自信あるやつじゃないですか?」
「え、『大船に乗ったつもりで』って? そうだっけ?」
「はぁ。先輩はもう少し、日本語のお勉強しましょうね」
「うぐっ、後輩のくせに……」
「先輩後輩は関係無いですよ。だって私達――“友達”ですからね」
「っ……本城さん……」
そう言うと彼女は、そっと相好を崩してみせた。珍しく可愛らしい笑みを浮かべる彼女の表情に、ちょっぴり不思議な感情が沸き起こる。
ついもどかしくて直視できなくなってしまい、俺は静かに彼女から視線を逸らした。
「……あ」
二人揃って、同時に声を出した。瞬間、俺達の耳に聞き捨てならない効果音が割って入ってくる。……昼休みの時間が終わり、三限目の講義が始まるチャイムが学食に鳴り響いたのだ。
「やっべ。話に夢中で、もう三限の時間になっちゃった! 急がないと!」
揃って椅子から立ち上がりながら、急いで荷物をまとめ始める。話に夢中になってしまったせいで、まだ半分しか食べていないハンバーガーを一口かじった。
「あぁ、もう。先輩が変な話持ち込むからですよ。次の講義、五分でも遅れると減点されるのに……!」
「ええっ!? ごめん、そんなつもりは……」
「あぁ、いいですいいです。話はまた今度聞きます。じゃあ先輩、私急ぎますんで」
トートバッグを肩に掛けながら、小走りでさっさと歩き始めてしまう。その片手には、俺と同じく食べ切っていないハンバーガーだ。
「あ、うん。分かった、ごめんね!」
「いえ。……村木先輩」
「ん?」
急いでいるというのに、突然彼女はその場で立ち止まりこちらを振り向いた。再びもどかしそうな表情を浮かべながら、何かを言わんとしているようだ。
「えっと、今日は、その……。ありがとう、ございました」
「っ……!?」
その一言にドキリとする。日常にありふれた言葉のはずなのに、それは今までのどんな彼女の言葉よりも温かく、そして安心できる言葉だった。
「私もその、何かあったら、頼っていいんですよね……?」
「え、あぁ! なに言ってんだよ、当たり前だろ? 友達なんだからさ!」
「……そうですね。じゃあそのときは、そうさせてもらいます」
「うん、分かったよ。そうして」
「えぇ。……それじゃあ失礼します。また明日!」
「うん、また明日!」
小さく微笑みながら告げると、すぐに彼女は走り去ってしまった。いつもの如くまた一人、学食に取り残されてしまう。
――あれ俺、本城さんから『ありがとう』って言われるの、もしかして初めてじゃなかったか……?
果たして、どうだっただろうか。今の今まで皮肉や悪口ばかり言われてきた印象が強過ぎて、思い当たる節がない。
――……あぁダメだ、後にしよう。俺も急がなくちゃ!
思わず彼女の後姿に見惚れてしまっていた。いけない、俺も早くしないと遅刻になってしまうではないか。
ハンバーガーを口に咥えて荷物をまとめると、同じく俺も小走りで学食を飛び出した。
――あ、そういえば忘れてた! 本城さんにもう一つ、演劇館の話も聞きたかったんだ!
教室へと向かう道中、鳥頭がすっかり忘れていた記憶を今更になって思い出した。
よくよく考えてみれば、せっかく本城さんの演劇話について聞こうと思っていたのに、すっかり脱線してしまったじゃないか。なにやってるんだ、まったくもう。
――まぁ、いつかは俺に話したいって本城さんも言ってたし……その話はまた、向こうが話してくれるまでお預けにしておくか。
せっかく彼女が俺のことを初めて友達だと認めてくれたのに、そんな友達が嫌がるようなことはしたくない。ここは一旦、彼女の気持ちを汲み取って我慢したほうがいいだろう。それよりも今は、改めて彼女と友達になれたことを喜ぼうではないか。
まるで棘の鋭いイガグリのように中身を隠した彼女が、本当は一体どんな本性をしているのか……それを見られるようになる日を、今から楽しみにしておこう。
すっかり彩りが秋色に染まり出した構内の道ばたには、素足で踏み付けたらケガをしてしまいそうな痛々しいイガグリが、ところどころで日向ぼっこを始めていた。
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