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アウトドア系男子が、自宅警備員になる方法  作者: たいちょー
ep.1 本城さんってどんな人?
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本城さんは、意外と優しい

 今日は土曜日。せっかくの休日だというのに、天気はどんよりとした曇りだった。こうも天気が悪いと、休んでもなかなか休まる気にならないのは、果たして俺だけだろうか。

 特に用事があるわけでもなく、サークルも今日はお休みだ。とはいえ、ただ家にいるだけではなんとなくつまらなかったので、DVDレンタルでもしようかと俺はワ○ダーグーへやってきていた。この店はDVDやCDから、本やゲームなど多くの品物を取り扱っている。家からそこそこ近い場所にあるので、休日には俺もよく通っている店だ。何か面白そうなものでも借りられたらという思いで、今日もこの店の自動ドアをくぐった。






 ――そういえば、前から見たいと思ってたあの映画のレンタル、もう始まってんのかな。


 いつもの如く、ドラマや映画のDVDが並んでいる棚へと歩みを進める。そんなあやふやな疑問を抱いていたのもつかの間、お目当ての映画は注目タイトルとして、棚に大きく宣伝されて置かれていた。他の人に取られないよう、見つけた途端すぐに一本を手に取り確保しておく。

 他にも何かもう一本ぐらい借りようと、雑多にタイトルが並べられた棚へと向かう。ふと、ちょうど以前から気になっていた海外のアクション映画が目に入ったので、せっかくの機会だとそちらも手に取った。


 ――さてと、取り敢えずこの二本でいいかなぁ。


 早いこと家に帰って、どちらも見たい。最初にどちらか見ようかと、そんなことを考えながら陳列棚を抜けて、レジへ向かおうとした。


 ――……あれ?


 そのとき、一瞬だけ目に入った人影に、不思議と既視感を覚える。見えたのはたったの一瞬だったが、自分の記憶が正しければ、それは確かに一人の女性だったはずだ。


 ――いやぁ……まさかね? こんなところに来るような人とは思えないし……。


 向こうの棚には、ゲームソフトが置かれていたはずだ。だがあの彼女が、まさかゲームをするような人物だとは思えない。なんとなくだが、俺のイメージがそれに反した。

 その瞬間までウキウキ気分でレジへ向かおうとしていた足は、そんな疑問のせいで立ち止まってしまった。半ば疑心暗鬼になりつつも、やはり人間は真実が気になる生き物なのである。どうしても気になった俺は、一歩一歩その人影がいた場所へと向かうと、そっと棚の間を覗き込んだ。






「……げっ。本城さん?」


 驚きのあまりに、声を出してしまった。その声に反応して、しゃがみ込んでパッケージを見ていた彼女と目が合う。その顔はまさしく、本城さんそのものだった。

 普段学校で会うときと違い、今日はグレーのパーカーにジーンズ、更に足にはサンダルという、なんとも緩い服装だった。


「あぁ、えっと……。奇遇、だね」


「……最悪です」


 そして第一声がそれだ。その一言を聞いた俺も、まさに最悪な気持ちになった。


「いきなり最悪って言われても困るんだけど……」


「はぁ……。どうしてお休みの日なのに、よりにもよって先輩と会わなきゃいけないんですか? 今日の運勢は、大凶ですね」


「俺には出会った人の運勢を大凶にさせるような、そんな能力があるとでも?」


「まさにそうじゃないですか。少なくともこの一分間で、今日の私の運勢は大吉から大凶にまでダダ下がりました。誰かさんのせいでね」


「どこまで俺が嫌いなんだ、君は……」






「……それで? そんな能力を持った嫌われ者さんは、どんな悪運をばら撒きにここへ?」


「せめて先輩と呼んでくれ」


「どうでもいいです。何しに来たんです?」


 腰に手を当てて、呆れ気味に彼女が聞いてくる。なんだ、俺の行動は彼女にとって、全てくだらないものなのか?


「いや、DVD借りにきただけだけど……」


「……え、嘘、それだけ? デジタルクエストじゃないんですか?」


「でじた……? なんだ、それ」


 デジタルクエスト、初めて聞く名前である。


「来週発売する、約束された神ゲーですよ。先輩、知らないんですか?」


 ほら、これ。そう言いながら、彼女は手に持っていた広告のパッケージを俺に手渡してくる。

 渋々それを受け取って見てみると、そこには四角く角ばったデザインの、勇者のようなキャラクターが数人描かれたパッケージだった。


「見た目だけでは、その辺のクソゲーそのものなんですがね。コアゲーマーからアマチュアゲーマー達まで、みんな揃って予約してしまっていることから、かなり品薄になってるんです。


 このお店も、もう予約は受け付けていませんし、この辺のお店は大半予約数が多くてもう受け付けてませんね。もちろん私は予約開始とともに予約したので、大丈夫でしたが」


「へぇ……今はこんなゲーム出てんだなぁ」


「……先輩。一応、聞いておきますね。先輩って、ゲームします?」


 今の俺の一言が耳についたのか、眉をひそめて彼女が問うてきた。


「いや? 全然。そもそもウチにゲーム機ないし」


「……嘘でしょあり得ない。この人時代の流れに付いて来られてないよ。まさか先輩、見かけによらず四十とか五十のおっさんなんですか? それとも、過去にゲームを遊ぶ過ぎて飽きちゃった廃人なんですか? いや、違う、陽キャだからですか? 陽キャはみんな、ゲームしないんですか?」


「陽キャ云々は知らないけど……。俺は今までゲームなんて、買ってもらったことはないよ?」


「は。……はぁ、これだから陽キャは……」


 目を丸くしたと思ったら、今度は白い目でこちらを見てきやがった。やめろ、そんな目でこっち見るなっての。

 ってか待て待て、俺のことをそんな風に言うのはいいが、それでは他の陽キャ逹にまで同じようなイメージを持たれてしまうじゃないか。撤回させなければ。


「いや待て待て待て! 陽キャでも、ゲームする奴はたくさんいるぞ! ……多分」


「あ、否定するとこそこなんですね。じゃあ先輩はおっさんなんだ。へぇ」


「え。いや、そこは冷静にツッコむなよ……」


 確かに言われてみれば、四十代や五十代のおっさんのほうにツッコんでいたほうが、話が弾んでいたかもしれない。……いや、待て。これそういう問題か?






「じゃあ加えて聞きますけど。先輩って、今までどのくらいのゲームを触ったことあります?」


 俺から返されたパッケージを受け取りながら、再び彼女が問う。


「いやぁ? 友達の家で少し触る程度で、ほとんど触ったことないな。見てるほうが面白かったし。おかげでなんだ、コントローラー? アレとか、全然分からないんだよね」


「うわぁ、ある意味希少価値の高い天然記念物がここに……」


 若干身を引きながら、彼女が驚きのあまり震えている。なんだ、そんなに驚くことなのか?


「天然記念物て……なんで?」


「今の時代、先輩みたいな人のようが珍しいですよ? 自覚ないんですか?」


「いや、ないけど……。っていうか、今は分からないけどさ、俺の友達にも高校まではずっと親に禁止されてた奴がいるよ? 俺は特に禁止されてたわけではないけど、興味なかったからね」


「うわぁ……類は友を呼ぶってやつだ……。天然記念物ブラザーズだ……」


「ブラザーズって……本城さん、さっきから何を言ってるの?」


 よく分からないが、今まで俺が当たり前だと思っていた世界が、本城さんにとってはあり得ない世界だったということなのだろうか。






「と……とにかくです。先輩は、もっと日本の良さを知りましょう」


「日本の良さ? ゲームで?」


「はい。日本のゲームはまだまだ世界に比べて未発達な部分はありますが、世界的な神ゲーもあれば、まだ世に名を轟かせていない隠れた名作までたくさんあります。先輩だって、名前ぐらいは知ってるでしょ? スーパーマ○オとか、ゼ○ダの伝説とか……」


「……聞いたことあるような、ないような」


「あぁ終わりだ。この人明らかに人生損してる。人生の六十九パーセントくらいは損してる、勿体ない……アーメン……」


 額に手を当てながら、やれやれと本城さんが呆れている。その仕草は、やけに大げさだ。


 ――六十九パーセントって……残りの三十一パーセントは、何で満たされてるんだろう……。


「先輩はとにかく、ゲームに付いて知るべきです。将来お嫁さんができて、結婚して子供ができたときに、百パーセント後悔します」


「え、そんなに?」


「当たり前じゃないですか。今の時代、ほとんどの若者から中年、高齢者にまで遊ばれているんですよ? 先輩のような人種のほうが、よっぽど探す難易度が高いです。難易度壊滅級……いや、轟絶(ごうぜつ)級です」


「か、壊滅……? ごうぜつ……?」


 分からない。彼女が次々と出してくる、意味不明な用語達。もしかすると、これらは全てゲームに関係する言葉なのだろうか。そうなると、彼女の言う通り、この無知さはかなりマズイのかもしれない。






「はぁ。……まぁ、もういいです。やっぱり先輩は、先輩だったということですね」


 そう言うと本城さんは、持っていたパッケージを棚へと戻した。そのまま、その場から立ち去ろうと背中を向けてしまう。


「え、もう帰るの?」


「はい。特に何も買う予定はなかったのですが、先輩がいたので見る気が失せました。先輩と同じ空間で、同じ空気を吸っているだけで運気が下がってしまうので、帰ります」


「ちょちょちょ、じゃあちょっと待って! すぐ戻るからさ!」


 俺はその場から百八十度体を回転させて、ダッシュで先程のDVDの棚へと戻った。借りようと思っていたパッケージを素早く元の場所へと戻すと、急いで本城さんの元へと戻る。


「あ、あれ……」


 いない。先程までここにいた、本城さんの姿がない。

 まさか、本当にもう帰ってしまったのだろうか。急いで俺は、店の出口へと走った。


「あ、いた! 本城さん、待ってよ!」


 悠々とした様でスタスタと歩く本城さんの背中に呼びかける。彼女はチラッと後ろを振り向きはしたが、そのまま止まらずに歩いていってしまう。


「はぁ……追いついた。もう、勝手に行かないでくれよ? 待ってって言ってるんだからさ」


 少し息を切らしながら告げる。マズい、最近運動をしていないせいか、以前よりも息が切れるまでが早い気がする。もう少し、運動しなければ。


「別に私は、『はい分かりました』なんて一言も言っていません。よってそのお願いは、破棄されたことになりますね」


「いやそんなこと言ったってさ……」


「それにさっき先輩は、私に拒否権を与える前に走っていきましたね? そもそも人には、拒否権というものがあります。相手から出された案に、ノーと言える権利です。それを私に与えてくれなかったのですから、先輩にだって多少なりとも責任はあると思いませんか?」


 そう淡々と言ってのける彼女の顔は、いつもの如く仏頂面だった。そんなことを言われてしまったら、言い返しようがない。


「う……悪かったよ。まぁいいけどさ、追いついたし」


「先輩。それから私は、付いてきていいとも言っていません。よってここで私がストーカーとして通報すれば、あなたは罰せられるでしょう」


「いや、罰せられるまでの過程が、あまりにもアホ過ぎて逮捕にすらならないと思うんだけど……」


「いいじゃないですか、ストーカーしてるのはホントなんだし」


「俺がいつ、君のストーカーになった?」


「少なくとも、今日それがほぼ確定しましたね。休みの日なのに、運悪く出会ってしまったのは事実です」


「休みの日に偶々会っただけでストーカーとして訴えられるなんて、飛んだとばっちりだな……」


「そうですね。……さて、スマホはどこに仕舞ったかな……」


「いや、例え冗談でもやめてくれって……」


 そんな本城さんの言い訳を嫌々と聞きつつ、俺達は自動ドアをくぐって外へ出ようとした。――だが。






「あれ、雨降ってる。さっきは降ってなかったし、今日は一日曇りの予報だったのに……」


 これまた、運が悪い男として彼女に何か言われてしまいそうだ。まさか雨が降るとは思っていなかったため、傘も何も持っていない。今日の荷物は、財布とスマホの二つだけだ。


「こりゃあ、しばらく降りますねぇ。先輩、傘持ってないんですか? 私はフード被りますが」


 同じく空を見上げながら、パーカーのフードを被る隣の彼女が問うた。だが残念ながら、その返事はノーである。


「いや、持ってきてないや」


「というか、第一先輩はここまで何で来たんですか? 私は家が近いので、歩きですけど」


「うん? チャリだけど」


「……なんだ、自転車か」


彼女がボソッとつまらなさそうにぼやいた。


「だって、陽キャといったら車でしょう? 先輩、まさか免許ないんですか?」


「免許はある。けど、車は持ってないペーパー」


「陽キャだったら、車の一台や二台は持っておくべきでしょうに……」


「毎度言ってるが、君は陽キャをなんだと思ってるんだ。一人暮らしの大学生なんざ、車なんて持ってる人のほうが少ないだろうに……」


 二人のため息が、淀んだ雨空へと飛んでいく。

 しばらく打開策も浮かばないまま、お店の屋根の下に二人して、ボーっと佇んでいた。俺は特に何も思わなかったが、きっと隣の彼女は今にも雨が止むことを、呪うような勢いで願っているに違いない。






「……はぁ。仕方ないですね、分かりましたよ」


 ふと、しばらく黙りこくっていた本城さんが、ようやくその口を開いた。その様子は、諦めに近いようなものだった。


「先輩、私の家に行きましょう。少しなら、雨宿りしてって結構ですから」


「……へ? でも、いいの?」


「ここで二人して永遠と突っ立ってても嫌でしょう? それに、ここを通る人にカップルと間違われていたら堪ったもんじゃない、血反吐が出ます。早いとこ、撤収すべきです」


「は、はぁ……」


 ――でも血反吐は言いすぎだろうが……。


 きっと本音は二言目のほうであろうが、それでも家の中に入れてくれるのならありがたい。とはいえ、恋人でもない女性の部屋に入るのは少し気が引ける。


「いいの? 別に、本城さんに先に帰ってもらっていいんだけど。俺はどうせ今日一日暇だし、いくらでもここで暇つぶしはできるからさ」


 俺がそう言うと、本城さんが大きなため息を吐いた。


「はぁ。人がいいって言ってるんだからいいんですよ。先輩は黙って、私に付いてくればいいんです。そういう遠慮は、大嫌いなんですよね」


「えぇ……。い、いいの?」


「だからいいって言ってるじゃないですか。まったく……」


「……じゃあ、そうさせてもらおうかな」


 だいぶ強引だが、まさかあの本城さんのほうから誘ってくれたのだから、ここはありがたくお言葉に甘えさせていただこう。


「一応言っておきますけど、部屋漁った瞬間にイチイチゼロ押しますからね?」


「わ、分かってるよ! そんなことしないよ」


「陽キャの言葉なんて、あんまり信用できませんが……まぁいいでしょう」


「相変わらず、君の陽キャ対するイメージは最悪なんだな」


「当たり前ですよ。……はぁ、なんで今日はこんな目に。行きましょう、こっちです」


 自分から強引に連れ出そうとしたくせに、なんだその言い草は。思わずツッコみたくなったが、また面倒な言い争いへとなるのは目に見えていたので、今回はそれを飲み込んだ。お店の駐輪場に停めてあった自転車を押して、急ぎ足の本城さんに付いていく。


 雨は益々強くなっている。このままではもしかすると、今晩は止みそうにないかもしれない。少しでも雨が弱まったタイミングを見計らって、帰るのが一番良いだろう。

 そんなこんなで、休日に偶然出会った本城さんと、偶然降り始めた雨のせいで、偶然にも気を利かせてくれた彼女の恩義のもと、何故か俺は偶然にも、彼女の家へ向かうこととなった。

本編に出てきたお店は、「WonderGOO(ワンダーグー)」というエンタテインメント専門店です。書いている最中は知らなかったのですが、こちらは東日本に多く展開されているチェーン店で、全国展開はされていなかったようですね。分からなかった方には、申し訳ないです。


もし気になった方は、調べてみてくださいね。

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