深夜のガールズトーク
「それじゃあみんな、またねー!」
「バイバーイ」
「チャンネル登録よろしくねー!」
生放送をしていた放送主のルナの言葉に、私と彼女が言葉を続ける。そうして、二時間にわたる生放送がようやく終わりを迎えた。
「……はーい、生放送終わったよー」
「ふぅ、疲れたぁ。ルナちゃんもアヤちゃんもおつかれー」
ハンドルネーム、アンバーこと通称アンちゃんが、ふぅっと一息を吐いた。
「おつおつー。いやぁ、面白かったぁ。ホント、アヤって最高だよねぇ」
思い出した様子で、ルナが再び吹き出して笑う。中身を聞かなくたって、どうせあの話題についてだろう。
「えー、ちょっと!? もうその話やめてよー!?」
「だってアヤ、三大洋って言ってるのにカリブ海って……ポンコツ解答過ぎてさぁ……」
「仕方ないじゃん! そこら辺習ってるとき、ちゃんと授業聞いてなかったし。あと私、地理なんて苦手だし、選択で世界史選んでたし……」
「でもそういうのって、習うの中学じゃなかったっけ?」
アンちゃんが言葉を挟む。
「中学の時が一番私サボってた時期だもん。そんなの全然分かんないよ」
「つったってアヤさぁ、流石に一般常識だよ? そこら辺は覚えとかなきゃー」
「うぅ……。勉強したって、どうせ使わないもん」
「それが社会ってもんなのー。いくら自宅警備員だったって、それすら分かんなかったら恥かくよー?」
「もう既にさっきかいたし……」
「あはっ! 確かにそうだ!」
そんな私の一言に、二人がまたも吹き出して笑った。
「う、うるさいなぁ! 笑うなって!」
「だって……アヤちゃん可愛くて……」
「ホントマジそれ……。シコいわぁ……」
「ああもうっ! 別にいいし。次はルナのポンコツなとこ、放送で曝け出してやるから!」
「えーっ!? なんで私?」
「だって、アンちゃんよりはルナのほうがポンコツだし」
「ひどっ! 言ったなー? まぁ私はちゃんと授業受けてたから平気だし?」
「でもルナちゃん、高校生の時にゼロ点取ったことあるって前言ってなかった?」
アンちゃんが告げる。
「そ、それはだって! インフルで休んだとき、全然数学分かんなくて解けなかったから仕方ないじゃん!」
「ほらー、ルナだってやっぱりポンコツじゃーん」
そんな彼女に、一言投げつけてやった。
「だから違うって! お前、インフルだぞ!? 仕方ないだろー!?」
「ふーん? どうせルナのことだから、分かんないからテスト始まってすぐ寝たとかでしょ?」
「うぇっ……」
ルナが言葉を詰まらせた。
「あ、え? ルナちゃんそうなの?」
そんな私の一言に、すかさずアンちゃんも続く。
「い、いやぁ……。だって、ねぇ?」
「ほら図星だ! そういうところだぞー?」
「いやいやいや! でもその後の補習でちゃんと八十点取りましたー」
「補習でしょ? それ自慢になんないから」
「う、うぅ……酷いなぁもー! アヤのそういう無駄に鋭いとこ嫌い!」
「あははっ、ごめんって! 許してー?」
「んんー! ……もー、アヤ可愛いから許すー」
「わーい、やったぁ!」
そんな他愛も無いガールズトークをしながら、生放送が終わった後も、私達は三人で夜が更けるまでだべっていた。
この間、彼と一緒にお母さんの実家に行ったと思えば、いつの間にかもうお盆休み前になっていた。
昔は早く時間が過ぎて、夏休みになることを待ち望んでいたはずなのに、歳と共に時間の感覚が変わるというのは本当に意地悪なものだ。
世間はもうすぐお盆休みということもあって、SNSを見ていてもその話題で持ちきりだった。
ツ○ッターでも視聴者の人から何件か質問もきており、その度にイラッとしてしまうのは言うまでもない。――当然自分は、帰省なんて一ミリも考えてはいないので、全くの無関係であるが。
動画仲間の何人かも、お盆休みの数日間に帰省すると話しており、その間は動画撮影に関われないと言っていた。
確かに自分も、両親のお墓参りには行きたい気持ちはあるが、何よりもあのクソジジイと再び会うことだけは避けたい。日帰りですぐに帰ってくることも可能ではあるが、地元の顔見知りの人達に見られたりでもして、あのクソジジイに伝えられたら厄介だ。
最悪、日和の家に泊まらせてもらうことも考えはしたが、わざわざお盆休みに一泊するなんて迷惑は流石に掛けられないので、今回は諦めた。――色々と考えた結果、今回は帰らないと決めた次第だ。
「ねぇねぇ、二人はお盆休みどうするのー?」
ふと、唐突にルナがそんなことを問うた。またその話題かと、内心イラッとしながらも、取り敢えずアンちゃんの言葉を待つ。
「んー? 私はまだ実家だから。おじいちゃんとおばあちゃんとも一緒に住んでるし」
「あ、そっかぁ。アンちゃんまだ高校生だもんねー。お墓参りはやっぱり行く?」
「うん、家族みんなで行くよー。ちょっと遠い場所にお墓があるから、いつもお父さんの運転で行くんだー」
「へぇ、そうなんだ。私はほら、今東京だけどさ。実家は埼玉だから、電車で帰らなきゃいけないんだよねー。親にも帰ってこいって言われてるし、帰らなくちゃいけなくてさぁ」
「そっかぁ、帰るのっていつぶりなの?」
「年末年始かなぁ。小学生のいとこがいるんだけど、私去年から働き始めたし、とうとうお年玉あげる側になっちゃったからさぁ。……あ、そうだ。来年の一月に成人式もあるから、そのときも帰らなきゃいけないんだ。うわぁ、めんどくさー」
「あらら、色々大変だねぇ、ルナちゃん。でも、頼れるお姉ちゃんって感じで、私は好きだよー」
「えーそう? 誰かさんにはポンコツって言われちゃってるけど、やっぱりそう思う?」
「いや、やっぱりって何それ?」
聞き捨てならないセリフに、思わず口を挟んだ。
「だってほらー、アンちゃんは私のことを、ちゃーんとお姉ちゃんだって言ってくれたよー? まぁ実際私が、この中じゃ一番年上だけどねー」
「そうだけど、でも一番年上っぽいのは、ルナよりもアンちゃんな気がするけどね」
「え、えぇ? そうかなぁ?」
私の一言に、アンちゃんが戸惑う様子をみせる。
「まぁ……確かにアンちゃんって落ち着いてるもんね。それは分かるかも」
「ルナは全くの逆で、年上のくせに一番子供っぽいけどね」
「そういうところが、お姉さんのチャームポイントでしょ?」
「……え?」
わざとらしく沈黙を作った後に、短い一言を放つ。それを聞いたルナが、「ちょっとー!?」と思わず叫んだ。
焦りを見せた彼女に、今度は私達が吹き出して笑ってしまった。
「酷いなぁ、アヤってば。でもアヤは三姉妹だったら、次女って感じがするね」
「次女? なんで?」
「だって、普段は結構生意気なくせに、意外とみんなが見てない部分を見てくれてて、結構助かってるし。あとたまーに見せる優しさとかさ。
一見裏がメチャクチャありそうなんだけど、意外と裏表無いし、自分の感情に素直っていうか」
「うんうん、そうだねぇ。アヤちゃんはいつもみんなの間に立ってくれて、話が逸れちゃったときとかいつも戻してくれたりするし、みんなの仲介役だよね」
ルナに続いて、アンちゃんまでそんなことを言ってみせる。一人に言われるだけでも恥ずかしいのに、揃って言われるのは流石に照れるじゃないか。
「ちょっと、なに二人して急に? やめてよ……」
「えー、いいじゃんいいじゃん。そうやってさぁ、普段はちょっとツンツンしてるんだけど、無気力だからあんまりデレないし、かと言ってクーデレって言うほどクールでも無いし。なんかもう、とにかく自分にもみんなにも素直なんだよねー。……あ、あとポンコツ」
「おい? 誰だ今ポンコツって言った奴ー?」
「えぇ、誰かなぁ? アンちゃん知ってる?」
「ううん、知らなーい」
「ちょっと、ルナー!?」
そんな私の叫びに、やっぱり二人がクスクスと楽しそうに笑う。
笑ってくれることは喜ばしいことだが、こうやって自分がいじられるのはちょっぴりもどかしい。
「でもほら、こうやって偶に困らせると可愛いんだよねぇ、アヤって。扱い方が分かれば分かるほど、味が出るっていうかさ。ホント、アヤ可愛くて大好き」
「うんうん、私もー!」
「もう……二人ともそう言わないでよ……」
「あー、照れてるんだ?」
ルナが問う。きっと彼女は今、画面の前でニヤニヤと笑っているに違いない。
「……そりゃ、そんな風に言われたら照れるじゃん」
「あほらー、やっぱり素直なんだよなぁ。ツンに見えて意外とツンじゃないし、デレでも無いからさぁ、ホント好き」
「はぁ。……もう分かったから、そろそろやめてくださいお姉様……」
「あはっ! 可愛い。しょうがないなぁ、もう。じゃあ話戻そっかぁ」
ようやく私をべた褒めする話題も終わり、彼女が話を戻してくれた。
これ以上聞いていたら、恥ずかしくてどうにかなってしまいそうだ。思わずホッと胸を撫で下ろした。
「それで? アヤはどうなの?」
「ん……どうって?」
「だからほら、お盆休み。アヤも一人暮らしじゃなかったっけ?」
「あ。あぁ……うん」
そういえばそうだった。せっかく話題が変わったのに、どちらにせよ喜ばしくない話題で、どう返事をしようか戸惑う。
「じゃあやっぱり、実家に帰るんだ?」
「実家……」
――あんな場所……私の実家なんかじゃないし。私の実家はもう、どこにも無いんだから。
「……いや、多分帰らないと思う」
「え、そうなんだ。なんで?」
「いや、だって。家にクソジジイがいるから、会いたくない」
「クソジジイ? ……そういえばアヤって、ご両親いないんだよね? なに、おじいちゃんと仲悪いの?」
何も知らないルナが問うた。
「仲悪いというか、私がただ嫌いなだけ」
「あー、そうなんだ。じゃあ実家には、おじいちゃんとおばあちゃんだけなんだ?」
「ううん、おばあちゃんもいないよ。あのクソジジイ一人だけ」
「あー……そうなんだ」
「そう。だから、余計に行きたくない。行ったってどうせ、色々ごちゃごちゃ言われるだけだもん」
「ふぅん……。でも、おじいちゃんとかおばあちゃんって、会えるうちに会っといたほうがいいよ? いつお別れのときが来るかなんて、分からないんだからさ」
「それは……そうかも、しれないけど」
渋々返事をした私に、ルナはふぅっと息を吐いた。この様子じゃ、何かを言われるかもしれないと、思わず身構えてしまう。
「……私もさ。二年前に、おばあちゃんが死んじゃってさ。家族みんな、なかなか会いに行けなくて、今度行こう、今度行こうって言ってるうちに、孤独死させちゃったんだよね」
「え、おばあちゃん一人暮らしだったんだ?」
ずっと話を聞いていた、アンちゃんが告げた。
「うん。お茶会友達の人が、早いうちに見つけてくれたから良かったんだけど、それすら無かったら多分、遺体もしばらくそのままだったと思う」
そんな突然の悲しいお話に、私もアンちゃんも何も言うことができずに、ただただ無言を貫いてしまっていた。
「アヤの話を聞く限り、おじいちゃんもきっと一人暮らしでしょ? もし万が一のことがあったら、きっとおじいちゃん寂しいよ。だからせめて、顔だけでも出してあげな?」
「顔だけ、ね……」
「うん。――きっとアヤと二人で口喧嘩するだけでも、おじいちゃんは嬉しいと思うよ」
「えっ……」
――私とケンカするだけで嬉しい? ……待って、全然意味分かんない。
「何、それ……? どういう意味?」
「んー……。それはアヤがおばあちゃんになったら、きっと分かるようになるよ」
「えー。ルナちゃん、まだ二十歳でしょー? 分かるの?」
そんな一言にすかさず、アンちゃんがツッコミを入れる。
「ふっふっふ、実は私の心はおばあちゃんなのじゃよ」
「もー、どういうことー? ……」
私を放って、そんなくだらないやり取りをしては、二人がクスクスと笑っている。
対して私は、ルナが放った一言の意味が分からずに、ただただボーッと考え込んでしまっていた。




