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アウトドア系男子が、自宅警備員になる方法  作者: たいちょー
ep.6 その豚に真珠は与えるべきか否か
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夏の陽、朝の陰

 ――うるさいなぁ……。


 暗闇の奥から、何やら聞き慣れない鳴き声が聞こえてくる。あまりにも甲高い鳴き声に嫌気が差しつつも、それにはどこか不思議と懐かしさも覚えた。


 ――……? なんだぁ?


 時間を確認しようと、ぼんやりとしたままいつもの如く手を伸ばす。――しかし、どこを手探ってみても、目当ての物は見つからない。


 ――あぁ……? あれ、目覚まし時計は……?


 ボーっとしたまま、薄らと目を開いてみる。……見慣れない天井に、違和感を覚えた。

 途端、再び甲高い鳴き声が外から聞こえてきた。そんな声に思わず、体がビクッと驚く。どうやら、どこかでニワトリが鳴いているようだ。


 ――……あぁ、そうだ。俺、本城さんとおじいちゃんの家に来てて……それで……。


 寝起きの頭に、ようやくそんな事実が思い浮かぶ。見たことも無い天井に、ホッと一安心したのもつかの間――俺の鳥頭は、そんなことを思い出してしまった。


 ――……そういや、本城さんがそこで……。


 体を寝転ばせて、反対方向へと向ける。……目線の先には、案の定もう一つの盛り上がった布団が、そこには置かれていた。


 ――寝てんのかな?


 寝起きの鳥頭のまま、興味本位でむくりと体を起き上がらせる。膝立ちでゆっくり物音を立てないように、俺はその盛り上がった布団へ近付いてみた。


 ――あー、寝てんなこれ。ぐっすりだわ。


 長い黒色の前髪が、若干顔に掛かってしまっているが、まるでそんなことも気にしない様子で、スヤスヤと眠っている。俺の布団から体を逸らして、まるで猫のように体を丸めていた。

 彼女の寝顔は、以前にも一度見たことがあるが、あの時はマスクをしたままだったので、素の彼女の寝顔は初めてだ。


 ――ははっ、寝顔は可愛いのになぁ。なんかまるで、もう一人妹ができたみたいだな。……猫じゃあるまいし、そんな体丸めて寝るか? 普通。


 なんと言えばいいのだろうか。彼女の寝顔は、可愛らしいというか、愛くるしいというか、なんと言うか。まるで守ってやりたくなるような寝顔だ。

 それ自体に特別な感情が含まれているわけでは無いが、彼女が年下の女の子ということもあって、もう一人の妹ができたようにも思えた。


 そんな、新しくできたもう一人の妹の寝顔があまりにも愛くるしかったので、普段自分がいじめられている分、仕返しをしたくなってしまった。

 そーっと右手を伸ばして、彼女の左頬へ向けると、そのままチョンッと頬を突いてやった。






「んんっ!?」


「うわっ!?」


 突然、彼女の体がガサっと動いては、伸ばしていた右腕を彼女に掴まれてしまった。あまりにも早すぎる拘束に、寝起きの鳥頭は理解が追いつかずに、ただただボーっと目の前の彼女を見つめることしかできなかった。


「あー……。起きてたの?」


 そんな俺の一言に、ゆっくりと彼女が瞳を開く。いつもよりもちょっぴり開き切っていない眠たそうな目と、俺の目線が絡み合う。


「起きてたの、じゃないですよ……。先輩、昨日の夜言ったこと、もう忘れたんですか?」


「あいや、その……」


 カッスカスの情けない声が、俺の口から出てくる。

 まさか、こんなことになると分かっていたら、俺だって悪戯(いたずら)しようとは思わない。ただ、ぐっすり眠っている可愛らしい妹への、ちょっとした悪戯のつもりだったのだから。


「まったく……。私が寝てる間に、変なことしてないでしょうね? なんだか心配になってきました」


「いやいや! それは何もしてないよ! ただ今のは、ちょっとその……出来心、と言いますか……」


「その出来心から、危ない方向へそういうのは走ってしまうんでは無くて?」


「うぅ……。それは、そうかもしれないけど……」


 ――っていうか、分かったからその手離してくれないかな君? なんか段々握る力強くなってきてる気がするよ?


「……それはそうと、君は何? 起きてたの? それとも起きちゃったの?」


 いつまでも、俺の腕を掴みっぱなしの彼女に問うた。


「ん。まぁ、起きてたと言えば起きてましたよ。あまりにもニワトリさんがうるさかったので、目が覚めちゃいました。……まだ朝早いし、もう少し寝ようと思ってたら、これですよ。責任取ってください」


「朝早いって……今何時?」


「そんなの、自分で確認すればいいでしょ」


「……いや、じゃあその手離してくれませんかね?」


「嫌です。また何か変な気を起こされるのが嫌なので」


「……ずっとこの状態を続けるつもり? だったら君だって眠れないでしょ」


 そう告げると、「むぅ……」とぼやきながら、嫌々と本城さんは手を離した。まったく、変なところが素直じゃないんだから。






 そんな彼女にため息を吐きながらも、すぐに俺は自分の枕元に置いてあったスマホを手に取って、時間を確認した。――まだ、早朝の六時十二分。あと一時間くらいは眠れそうだ。


「六時過ぎかぁ。……まぁ、悪かったよ。ちょっと悪戯したいなって思っちゃってさ」


「……先輩も、やっぱりそういうこと思うんですね」


 再びこちらに体を背けては、背中を向けたまま彼女が告げた。


「ん、なんでよ?」


「だって、やっぱり陽キャなんだなぁって思って」


「えぇ……それだけで陽キャになっちゃうの?」


「じゃあ普通、たかだか友達でしかない、寝てる女の子の頬っぺた突こうと思いますか?」


「なら逆に聞くが、たかだか友達でしかない男友達をわざわざ騙して、一日一緒に寝泊りしようとする陰キャの女の子がどこにいるんだ?」


「っ、それは……だって……」


 俺がそう問うと、言葉を詰まらせて、彼女は布団の中で体を丸めてしまった。小学生じゃないんだから、大きい体してそんなことをしなくてもいいだろうに。……まぁ、彼女のことだからきっと、全て素の行動なんだろうけど。


「はぁ。……まぁ、分かってるよ。おじいちゃんとおばあちゃんを、安心させたいって言ってたし。だから昨日も、俺と一緒の部屋で寝てもいいって、勢いで言っちゃったんだろうし。俺を呼んだのも、半ば後先考えないで、勢いで電話掛けたんでしょ?」


「……どうして、そう思うんですか?」


「分かるよ。だって、もう本城さんと友達になって、四月からだから……もう四ヶ月も一緒にいるんだよ? 君が考えることなんて、もうなんとなく分かる」


「……迷惑じゃないんですか?」


「迷惑って、なんでさ?」


「だって……私、先輩のことを騙して、こんなことしてるんですよ? いちいち態度もデカいし、何も伝えずにタメ口使っちゃったし、本当は先輩だって、気を遣って私とは別の部屋で寝ようとしてくれてたのに、私のワガママで同じ部屋で寝ることになっちゃって、あんまり安心して眠れなかっただろうし。


 ……こんなことばっかりだから私、みんなから嫌われるんです。分かってるんですよ、そんなこと。先輩だってきっと、その場限りの友達になっちゃうんだって分かります。いつかは私のことが嫌になって、離れていくんだって、分かってますから。――嫌になったら、いつでも私から離れていいですからね?」


 そんなことを淡々と、長ったらしく本城さんが語ってみせる。

 どうやら彼女はまた、勢いでそんなことを話し出してしまったようで、最後に一言「……すみません、急に」と弱々しく付け加えた。


 ――……バカだなぁ、ホント。


「……なんですか? ……あぅっ! ちょ、ちょっほ! なにすふんでふか!?」


 そんないつもの戯言に嫌気が差した俺は、再び彼女に近付いては、さっきよりも強めに、頬っぺたを突いてやった。

 対して彼女は今、どうして自分が頬っぺたを突かれているのか、全く分かっていない様子で、そんな俺の右手をすぐに振り払おうと抵抗してみせる。


「あはっ、変な顔。本城さんもこんな顔するんだ」


「んー! やめへくだしゃい! ほんほに怒鳴りまふよ!?」


「あー、分かった分かった。やめるよ」


 そうして、ようやく俺から解放された本城さんは、突然がばっと起き上がっては、俺のことをギラリと睨んでみせた。どうやら本気でいじられるのが嫌だったようで、少しだけ涙目にもなっていた。


「んもうっ! なんなんですか急に!?」


「わー、そんな怒んなって。悪かったよ、悪かった」


「これだから陽キャは嫌いなんですよ! 急に変なことばっかりして! 大っ嫌いです!」


 そう言うと、俺からぷいっと視線を逸らして、頬を膨れた餅のように膨らませてしまった。

 この様子を見るに、普段から自分がいじる側のせいか、逆に自分がいじられるのには慣れていないようだ。


「……でも、嫌いなくせに俺のことを呼んだのはなんでさ?」


「だから! 何度も言ってるじゃないですか!」


「違う、そうじゃなくて。……別に俺のことを呼ばなくたって、よかったわけでしょ? 本城さん一人でこっちに来たってよかったんだろうし、っていうかそもそも、そういう話だったんだろうし。……それなのに、そこにわざわざ俺を呼ぼうと思ったのは、なんで?」


「だから、それは……」


 朝日の陰に隠れて、足元だけ布団をかぶりながら、体だけをこっちへ向けて、俺からそっぽを向いて座っている。まるでどこぞのエロ漫画にでも出てきそうなシチュエーションで、なんだか艶めかしかった。


「……まぁ、いいよ。答えられないんだったら、別に」


「っ! でもっ……」


「何? じゃあ、答えたいの?」


「いや……そういうわけでは無くてっ……!」


「いいよ、別に。分かってるから。……だって、友達だからね」


「……こんな私でも、ですか?」


「違うよ。()()()()()()()()()、友達なんだよ」


「……意味が、分かりません」


「分かんなくていいよ別に。どうせ、陽キャの戯言だからね」


 そうしてそのまま、俺は彼女から離れると、自分の布団へと舞い戻った。改めて布団をかぶって横になりながら、体を彼女のほうへと向ける。

 そんな彼女は、未だに視線を畳に向けながら、いつもの仏頂面でボーっと何かを考え込んでいた。






 ――不思議な子だなぁ、相変わらず。何考えてるのか分かんなくて、それでも凄く単純で分かりやすくって。……なんかやっぱり、妹みたいで放っておけないんだよね。


 こうして、どうしても年下の女の子にお節介を焼きたくなってしまうのは、自分にも妹がいるからだろうか。――それともやはり、心のどこかで無意識にあの時を重ねてしまっているのだろうか。

 どちらにせよこういうものは、年上としての、先輩としての、兄としての要らぬ心配なのかもしれない。


「……先輩」


「ん?」


 ポツリと、本城さんが俺のことを呼び掛けた。


「……正直に言ってほしいんですけど、いいですか?」


「いいけど……何?」


 そうして、数秒程の間を空けた後――彼女はその口を開いた。


「先輩は……私のこと、好きですか?」


「……はい?」


 思わず、素っ頓狂な声が出た。

 一瞬、ワケが分からなかった。一体彼女が、何を言っているのか。それを理解をするのに、またまた数秒程の間が必要だった。


「あの……好きとは、どういう?」


「そのまんまじゃないですか。私のことを、好きかどうかって聞いてるんです」


「……それは、何? 恋愛として好きかって? それともそのまんま、人として好きかって?」


「それは任せます。とにかく、好きか嫌いかを聞いているんです」


「はぁ。……そうねぇ」


 そんなこと、突然言われたって分からない。別に俺はただ、本城さんが友達だから、一緒にいて楽しいからいるわけであって、何か特別な想いがあるというわけでは無い。

 でもだからと言って、大嫌いというわけでも無い。だけど、大好きというわけでも無い。――要は、不明だ。


「まぁ……好きなんじゃない?」


「……なんですか、その“じゃない?”っていう部分は。妙に説得力が無くて、気になるんですけど」


「いや、だって……好きじゃなかったら、こうして一緒にいないだろうし。一緒にいても嫌じゃないから、こうしているんじゃないのかな?


 ……俺だって、好きか嫌いかって言われたら分かんないよ。本城さん口悪いし、憎まれ口ばっかで嫌になるし、いつも後輩のくせに強引で、世話が焼けるからね」


「……それなのに、嫌いじゃないんですか?」


「まぁねぇ。それに、こう言っちゃあなんだけど、特別恋愛感情を持ってるわけじゃないし……。本城さんだって、それはそうでしょ?」


「そりゃあ、当たり前じゃないですか。なんで私が先輩なんか……」


 ――おい、“なんか”とはなんだ、“なんか”とは。それはそれで傷付くんですけど?


「ま、そういうこと。なんて言えばいいのか分からないけど……でも友達って、そういうもんなんじゃないのかな?


 いつの間にか仲良くなってて、いつの間にか掛け替えの無い存在になってる。ケンカばっかりしてたって、いなくなったら寂しくなる。それと似たようなもんだと思うよ」


「……じゃあ先輩は、私がいなくなったら……寂しいって、思ってくれますか?」


「へ。……なんでそんなこと聞くの?」


「えっ、だって……その……」


 そんな俺の質問に、言葉が詰まってしまった本城さんを見て、思わず吹き出してしまった。ちょっぴり意地悪な質問だったかなと後悔しつつも、ワケが分からないという顔で、ポカンとしている彼女の顔に、益々笑いが止まらなくなる。


「……なんで、そうやって笑うんですか……?」


「ははっ……ごめんごめん。なんか、本城さんらしくない質問だなぁって思っちゃって」


「……私だって、気にしないわけじゃ無いんです。一応これでも、人間やってますから」


「ま、そうだね。……で、俺の答え、知りたい?」


「なんで勿体ぶるんですか」


「いやぁ? せっかくの質問だし、焦らしたほうが楽しいから」


「サイッテーですね」


「言われなくても知ってるよ。……ま、答え言うとさ。そりゃあ寂しいって思うよ。せっかくこうして仲良くなれたのに、本城さんがいなくなっちゃったら……また会いたいなぁってなると思うよ」


「……そうですか」






 そう告げると本城さんは、突然その場から立ち上がった。一体何事かと、ジッと本城さんのことを見つめてしまう。


「……何見てるんですか、気持ち悪い」


「あ、いや……。どうしたのかなぁって思って」


「トイレですよ。朝起きたらしたくなるもんでしょ」


「え。あ、うん。そうね……」


 そんな、当たり前だけど異性にはちょっぴり言いづらいようなことを、サラッと言ってみせた彼女は、俺のことを通り過ぎて、部屋の(ふすま)を開いた。――そんな彼女に、思わず再び吹き出して笑いそうになるのを、必死に堪える。


「……先輩」


「え? あ、うん?」


 襖に手を添えながら、彼女がこちらを振り向く。……異様に尻上がりになってしまった俺の返事に、少しだけ顔をしかめつつも、そのまま言葉を続けた。


「その……こんなことを聞くのは、おかしいって思われるかもしれませんが……。先輩は、これからも私の()()()()()いてくれるかって聞いたら――いいよって、言ってくれますか?」


 彼女がジッと、俺のことを見つめている。その目はどうやら、真剣のようだ。


 ――いやぁ……その後ろ姿で言われても、困るんだよなぁ……。


「んー……嫌だって言ったら?」


「……サイッテーですね。か弱い乙女が勇気を出して、質問してるっていうのに。もういいです」


「あぁ、待った待った! ……別にさ、そんなこと聞かなくたって、俺は本城さんの友達だよ。――これからもね」


「……何ちょっとカッコつけちゃってるんですか、気持ち悪い」


「でもそれが、陽キャの村木先輩らしい答えだろ?」


「あっそ。……そうですか。分かりました」


 そう言うと彼女は、そそくさと襖を閉めて、トイレへ向かっていってしまった。

 いつになく真剣な話に、多少戸惑ってはしまったものの、なんだかよく分からないが、彼女にとってまた少しだけ、俺は友達として近付けたらしい。






 ――……にしても。あの寝癖はやべぇよなぁ……。


 必死に吹き出さないように、堪えていた笑いが思わずこみ上げる。

 真面目な話をしながらも、そんな彼女の後姿を見た瞬間――いつもの背中にまで伸びた長い黒髪が、いつになく乱暴に跳ね上がっていたその様は、きっと鳥頭の俺でも一週間は忘れられないと思う。

因みに、本サブタイトルの“陽”は一文字で“ひなた”と読みます。多分当て字だろうけど、ちょうど良い読み方があったので採用しましたー。

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