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アウトドア系男子が、自宅警備員になる方法  作者: たいちょー
ep.6 その豚に真珠は与えるべきか否か
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狼になれない夜

 その後――あと数十分経てば、日も完全に落ち切ってしまうであろうタイミングで、山のおじいちゃん宅へとたどり着いた。

 既に家に戻っていた山のおじいちゃんとおばちゃんの二人に迎えられて、改めて四人で居間に座りながら、昼ご飯の続きという名の、夜ご飯を食べる。


 山のおじいちゃんに聞いたところ、結局真珠は見つけられなかったらしい。それを、わざわざ軽く頭を下げてまで、本城さんへ謝っていた。

 明日も俺達が帰るまで、探してくれると豪語してはくれたが――恐らく、見つかることは無いだろうと俺は思っている。きっと、本城さんも同じことを思っているだろうが、今は敢えてこれ以上の追及はしないでおこうと思う。


 そうして、夜ご飯も食べ終わり、なんだかんだと数時間の団らんを経て、解散になった。そのまま、今日寝泊りさせてもらう部屋に戻ろうと立ち上がったとき――すっかり忘れてしまっていた、恐ろしい事実が脳裏に蘇る。


 ――あ……。今日俺、本城さんと同じ部屋で寝るんだった……。


 誰かさんには、“襲ってもいい”という許可を頂いてはしまったが……俺のたかが外れて、狼にならないことを、今はただただ祈ろう。






「はー……疲れた。やっぱり、先輩にタメ口使うのって慣れませんね。こっちのほうが気が楽です」


 二人きりの部屋に戻ると、早速本城さんは座布団に座って、机の上に突っ伏した。今の今までずっと縛られていた一本の髪を解き、いつも通りの本城さんへと変身を遂げる。

 ぐったりと机に身を任せているその様は、言葉の通りお疲れのようだ。


「それに、今日一日動きっぱなしでしたし。アドレナリン全開だったのか、なんだか急に足が痛くなってきました」


「あははっ。あるある、不思議だよね」


 そんな俺も同じくして、彼女の向かいの座布団へと座った。


「……ねぇ、先輩」


「ん?」


 彼女は突っ伏したまま、こちらを見ずに俺を呼んだ。


「……今思ったんですけど、なんで私達、今日同じ部屋で寝るんでしたっけ?」


「え。いや、それは朝、君がそれでいいって言ったんじゃないの?」


「それはそうですけど、それはおじいちゃんに嘘を吐いたからであって。……普通、陰キャと陽キャの男女が同じ部屋で寝るなんて、おかしいと思いません?」


「例え陰キャと陽キャじゃなくても、十分おかしいシチュエーションだよ……」


 どうやら、彼女は後先考えずに、この状況をオーケーしたらしい。やっぱりこの子は、変なところがアホっ子のようだ。


「そもそも、なんで今日ここで一泊なワケ? 別にここから水戸なら、全然今からでも十一時前くらいには家に帰れるじゃない」


「……また歩きで駅まで行くんですか? こんなに疲れてるのに?」


「……バスは」


「出てるわけ無いじゃないですか。こんなど田舎なんですし」


「あぁ……。そっかぁ、そうだよなぁ……」


 ため息を吐きながら、思わず両手を後ろに出した。


「ホントなんにも分かってませんね。それに、ここで一泊すると言っておけば、それだけ女友達を連れて来ると思わせられるじゃないですか。連れて来ちゃえばこっちのもんですし、言ったもん勝ちってやつですよ」


 顔を上げて、右手の人差し指を立てながら、彼女が告げた。


「はぁ……。そうですか」


「……それから。言っておきますけど、寝てる間に襲ってきたら、どうなるか分かってますよね?」


 彼女がジト目でこちらを見る。


「なっ……。あ、当たり前だろ!? そんな別に、付き合ってるわけじゃあるまいし」


「例え付き合ってても、どうかとは思いますけどね」


「あうぅ……」


 ――……まぁ、許可は貰っちゃってるんだけどな。


「ま、そうですか。別に分かってるならいいんです。最悪の場合、私にはおじいちゃんっていう心強い味方がいるのでね」


「あー……。確かにあの人、絶対戦ったら勝てないよね」


「当たり前じゃないですか。だってあの人、昔は町に出てきた猪を、素手で捕まえてたぐらいなんですからね」


「は。……え、何? 素手? え?」


 何を言ってるんだこの子は。いくら猟師だからと言っても、あの猪突猛進の猪を素手で捕まえるだって? ……ワケが分からないよ。っていうか罠か銃使えよ。


「なんでも、猪ってああ見えて、臆病な性格なんですってね。それを利用して、上手いこと捕まえるみたいですよ。


 私も一度だけ見たことありますけど、暴れ回ってる猪をおじいちゃんがなだめて、落ち着かせるんです。あの体格だから、『よっぽどじゃないと負けないよ』って、笑って言ってましたね」


「へ、へぇ……」


 今でこそ初老のおじいちゃんだろうし、昔より力は劣っているだろう。とはいえ、きっと今でもバカみたいに力は強いのだと思う。

 やっぱり、どんなにおばちゃんに言われようが、ここは山のおじいちゃんに怒られないルートを選んだほうが、絶対に無難だと思う。……わざわざこんなところで、命を投げ出したくは無い。






「まぁ、そういうことなんで。寝てる私に、指一本触れることが無いように。……そうじゃなくても、普段から触れることが無いようにお願いしますが」


「わ、分かってるよ。っていうか、今まで本城さんに触ったことなんて……」


 無い。……と、言おうとしたのだが、一度だけ明確に、記憶に残っていることがあった。


 ――あー……。本城さんが熱で寝込んだ時に、一度だけ肩揺らしちゃったけど……。いや、アレ以外で本城さんに触ったことって無かったよな? ……あれ? 無かったよな?


「……なんですか?」


 そんな、尻切れトンボになった言葉の続きを待つ本城さんが、左手で頬杖を突きながら問うた。


「あ。あぁ、いや! とにかく、大丈夫だよ! 心配すんなって!」


「……陽キャの言葉なんて、九割がた信用できませんが……。まぁ、良しとしましょう」


「……そっすか」


 毎度思うが、どうしていつも俺は九割がた信用されていない割に、こうして彼女に振り回されているのだろう。

 訊いてはみたいが、目の前で眠たそうに欠伸をしている気ままな猫ちゃんはきっと、適当に言葉を並べて答えてくれなさそうなので、今回はそれを呑み込んだ。






「それより、私お風呂入ってきますね。朝からずっと動いてたので、汗でベトベトしてイライラしてたんですよ」


「あ、うん。分かったよ」


 そう告げると、本城さんはその場から立ち上がった。そのまま、壁際に置いてあったリュックを開いて、中をガサゴソと漁っている。

 ふと、そんな本城さんが、チラッとこちらを覗いた。お互いの目線が、数秒間お互いをまさぐり合う。


「……何ジッと見てるんですか、気持ち悪い」


「……えぁ!?」


 そんな彼女のことを、まじまじと見つめていた俺を見兼ねて、彼女が気持ち悪そうな目でこちらを見た。


「確かに今、私は下着を取り出そうとしてましたよ。けど、それをわざわざそんな目で見つめますか? やっぱり陽キャって、そういう目でしか女を見られないんですか? 少しは気を遣って、目線を逸らすとかできないんですか?」


「あいやいやいやいや! ごめん! 別に、そういうつもりは全然無くて! ただ純粋に、ボーっと本城さんのことを見てたっていうか……!」


「信用できません。やっぱり先輩って、意外と変態ですよね。前にもそんなことありましたし」


 はぁっと大きく、彼女がため息を吐く。

 マズい、本当にただ無意識でボーっと見つめていただけだったのに、こんな余計ところで勘違いをさせてしまっては困る。


「待て待て! 俺が変態というよりかは、大体の男がこういう感じだと思うぞ? ……あぁ、いや! 別にマジで、そういう意味で君のことを見てたわけじゃ無くてだな!」


「言い訳無用です。見苦しいですよ? ……ま、そんなこともあろうかと、下着は中身が見えないポーチに入れてきたので、問題無いんですけどね」


 すると彼女は、リュックの中から手のひらサイズの、グレー色のポーチを取り出しては、こちらに見せてきた。……妙にホッとした安心感を抱くと同時に、どうしようもない悔しさが募ったのは何故だろう。


「え。……いや、そうならそうと初めから言ってくれればいいのに……」


「何言ってるんですか? 先輩が、そんな目で私を見なければいい話です。それに私、そんなに良い体していませんから。もっと別の女を(たしな)んだほうが良いと思いますよ」


 ――……いや。君だって割と結構胸あるし、スタイルも良いし、一定数の男のおかずにされてそうだけどね……。


「嗜むって……まるで俺が普段から、女遊びしてるみたいな……」


「陽キャなんて、そういうもんでしょ。違うんですか? 先輩、絶対童貞じゃ無いですよね?」


「……君はそういう話に、陰キャのくせに躊躇いが無いんだな」


「違いますよ。よく言うでしょ? 女の下ネタはエグイって。別にその程度、人前で話そうが、なんにも思いませんからね」


「はぁ。……そういうもんなのか」


 確かに前も、日和ちゃんと初めて会った時に、彼女も堂々と下ネタを話していたし、茜だって平気で、処女だのなんだの言ってた気がする。……マジで女の子って、そういうもんなのか?


「ま、非童貞の先輩には、分からない話ですよ」


 ――……それ、普通逆じゃね?


「勝手に非童貞にするなよ」


「なら、童貞なんですか?」


「……違うけどさ」


「何ちょっと恥ずかしがってるんですか? たかだか後輩の陰キャの女に、それすら言えないんじゃあ、今後彼女ができたときに損しますよ」


「だっ……!? おま、それは別にいいだろ!? ほっとけ!」


 そんな俺の反応が面白かったのか、彼女は相好(そうごう)を崩して、ふふっと笑ってみせた。まったく、先輩いじりも程々にしてほしいものである。


「ま、そういうことです。それじゃあ私、お風呂入ってきますね」


「あ……うん、分かったよ」


 そうして――そのままお風呂へと向かう彼女の背中を、なんとも言い難い気持ちで、俺は見送った。



 ◇ ◇ ◇



 ――あー……。ダメだなぁホント。変に意識しちゃって、全然入れなかった……。


 本城さんがお風呂から上がってから、交替で今度は俺がお風呂に入ることになった。

 ……だが、よくよく考えてみると、それは本城さんが浸かった湯船に、俺が入るということだ。そう思うと、どうにも湯船に入ることを体が拒んでしまって、結局は十五分程、ずっとシャワーを浴びていただけで上がってきてしまった。


 ――普段はシャワーだけだと物足りなくて、湯船に浸からないと気が済まない人間なのに……。やっぱり、状況が変わると人って変わるもんだな。うん。


 そんな自分に、適当な理由を付けて納得をさせると、そのまま自分達の部屋へと戻った。






「あ、おかえりなさい。戻ってきたんですね」


 部屋に入ると、いつの間にか畳の上には、二枚の布団がそれぞれ敷かれていた。どうやら、俺が入っている間に、本城さんが敷いてくれたらしい。やっぱりこういうところは、ちゃっかり優しい本城さんだ。

 ……まぁ、お互いの距離はもちろんそれなりに離れてはいるが。


 そんな本城さんは、布団の上に寝転びながら、ぼんやりとテレビを眺めていた。完全におウチモードの服装で、上下ともに無地でグレー色の、ぶかぶかとした大きなサイズの部屋着だった。


「あ、うん。……敷いてくれたんだ。ありがとね」


「だって、他に敷くタイミングもありませんでしたしね。タイミングですよ、タイミング」


 うつ伏せのまま彼女が、いつもの如く人差し指を一本立ててみせる。


「そっか」


 特段それに対して何も文句は浮かばなかったので、適当に返事をしては、俺はそのまま布団の上へと座った。






「……にしても、ホントテレビっていつまで経っても、バカみたいな報道しかしないんですね」


 ふと、本城さんがそんなことをポツリと告げた。

 急に何を言いだすのかと、テレビへ視線を向けてみると、画面にはニュース番組が映っていた。意外と若い女の子でも、ニュース番組なんて見るもんなんだなと、妙に感心する。


「最近はずっとテレビなんて見ていませんでしたけど、やっぱり何も変わっていませんね」


「……そういや、本城さんの家って、テレビ置いて無かったよね?」


「えぇ。だって、つまんないですもん。テレビを見るなら、ソーチューブで動画を見ますし、アニメとかは配信サイトで見ればいいだけなのでね。全部パソコン一台で済む話ですから。テレビ置くだけスペースの無駄だし、何よりお金の無駄ですよ」


「はぁ。そういうもんなのか」


 俺の家にはテレビを一台置いているし、暇なときには適当な番組を見たりしている。個人的には面白い番組もちゃんとあるし、日常には欠かせないものだと俺は思っている。


 一方で、俺とは全く違う意見が、彼女の口から出てくるとは思わなかった。確かに詳しくは無いが、アニメなどもネットで会員になれば見放題なところがあることも知っている。

 だがそれなら、まだテレビで見たいと思ってしまう俺は、時代遅れなのだろうか?


「でもやっぱり、マスゴミは相変わらずマスゴミのままなんですね。呆れます」


「マスゴミって……。酷い言いようだな」


「陽キャの先輩は知らないでしょうけど、ネットでは“マスゴミ”って言われて有名ですよ?


 偏見放送しかしない、情報操作はする、自分達の都合の良いことしか取り上げない。はたまた、コソコソと有名人の後を追っては、熱愛報道だのなんだのって、興味も無いありがた迷惑な内容ばかり。


 本当に困っている人達を見捨てて、視聴率が取れる内容しか報道しないんです。そんなの、ただのゴミでしょ」


「はぁ……」


 そんなことを言われたって、俺にはマスコミの人達が、どういった悪事ををしているのかが、イマイチ分からない。確かによく、マスコミはどうやらと言われていることは知っているが、具体的に何を行っているのかを知らないのだ。

 それに、マスコミの人達だって、頑張って仕事をしているのだろうし、好きでそんなことをしているわけでは無いんじゃないかと、なんとなく俺は思ってしまう。


「……ま、おつむの弱い先輩には、難しい話でしたかね」


「いや、相変わらず酷い言いようだな君は……」






 そんな俺達の会話を裂くように、テレビの中の男性アナウンサーが突然、大きな声で「さぁ! スポーツです!」と叫び出した。思わず俺達二人とも、テレビの画面に釘付けになる。


「速報です! 女子フィギュアスケートの相葉(あいば)美幸(みゆき)選手が、十四歳らしからぬ演技で、見事優勝を果たしました!」


 男性アナウンサーが告げると、画面にはフィギュアスケートの大会の様子が映し出される。ぼんやりと画面を見つめたまま、俺は彼女の演技をジッと見ていた。


「……すげぇなぁ。十四歳だろ? 頑張ってる子もいるもんだなぁ」


「そうですね。確かに彼女は凄いと思いますが……。やっぱりメディアの報道には、いちいちイラッとしますよね」


 そんな、何気なくポツリと呟いた俺の言葉に、すかさず彼女が文句を投げてきた。なんだなんだ、今度は一体何を言いたいんだ?


「え、何? 急に」


「だって、考えてみてくださいよ。『十四歳らしからぬ』って、どういう意味だと思いますか?」


「そりゃあ……十四歳なのに、そんな演技ができることが凄いってことじゃないの?」


「その“十四歳なのに”って部分が気に食わないんです。十四歳だろうが、十歳だろうが、練習を積めばきっと、できる子は誰だってできます。どうしてわざわざ、この子だけの人生特典みたいな言い方をするんでしょうか? こういううたい文句を聞く度に、私はイラッとしますね」


「は、はぁ……」


 別になにも、十四歳なのに凄い演技ができるというのは、本当のことじゃないか。悪く言っているわけでも無いし、ただただ褒め言葉なだけなのに、どうしてそれが気に食わないのか、俺には全く理解できない。


「じゃあ一つ聞きます。先輩が例えば、十四歳のフィギュアスケート選手だったとして、同い年の選手が、こんな風に報道されていたら、どう思いますか?」


「んー……凄いなぁ、俺も頑張らなきゃなぁって」


「それがバカだって言ってるんですよ。どうしてみんながみんなそう思えるって、思い込んでるんですか?」


「……と、言うと?」


「中にはきっと、これを聞いてやる気を失ったり、目標を見失う子達だっているはずです。自分だって頑張っているはずなのに、どうしてこの子ばっかりなんだって。


 メディアにはもっと、優勝を逃してしまった子だったり、これから頑張っていく子達にスポットを当ててほしいと思うんです。そのほうが絶対、メディアとしての役割を十二分に発揮できるでしょうし、何より未来の子達が頑張れるようなきっかけになると思いますから。


 それと、確かに優勝した子を褒めるなとは言いませんよ。だけど、この子だけが特別だ、みたいな言い方はやめてほしいんですよ。それこそ、『十四歳らしからぬ』とかね。


 一度こういうことが起こったら、一週間は同じ話題で持ちきりだし、大会後はわざわざ独占インタビューをするなり、番組に呼んで出演させますけど、そういうのこっちは望んでいませんから。それはもういいから、次いこ次って、毎回思いません? ねぇ、先輩?」


 こちらを向いて、枕の上で左肘を突きながら、頭を手に乗せて彼女が長々と熱く語ってみせる。

 言いたいことは、確かになんとなく分かる。彼女が優しい性格だということは承知だし、そこからそういった考えに至るのだということは、今の話だけでも十分に理解することはできた。……だが。


「うーん。分かるような、分からないような……」


 そうは言っても、テレビはテレビだ。優勝した側は、もっと自分のファンを増やしたかったり、知名度を上げて、自分のモチベーションにもするだろう。

 それでこそテレビの影響力は大きいし、何よりその人が再び頑張るためのきっかけにもなる。その人に憧れてその界隈(かいわい)に入る人もいるだろうし、たくさんの人の目標にだってなり得るのだ。今テレビがやっていることだって、決しておかしな話では無い。


「……そうですか」


 すると彼女は、なんだか少し寂しそうに、ポツリと一言だけ告げた。


 きっと、俺と本城さんでは、話の論点――根本からまず、思うところが違うんだと思う。このまま言い合っていても答えは出ないだろうし、何よりも時間の無駄だ。


「まぁ……先輩が言いたいことは、なんとなく分かりますよ。先輩は、陽キャですからね」


 そしてそれを、彼女も同じく感じ取ったのだろう。特にそれ以上俺を咎めることも無く、諦めた様子で、静かにそう言った。


「じゃあいいです。分からないのなら、それで。どうせ私の戯言ですからね。気にしないでください」


「あ、うん……ごめん」


「謝らなくていいですよ。だって私達は――陽キャと陰キャなんですからね」


「……そっか」


 なんだか、せっかく自分の意見を言ってくれたのに、理解ができてやれなくて、申し訳なく思ってしまった。

 何か、フォローすることはできないかと、必死に言葉を探してみたけれど、思うように言葉は見つからずに、お互いに無言の時が続いた。


 二人の間には、ただただテレビから流れるCMが、自分達の商品を訴え掛ける声がしているだけだった。






「ふぁ……。イライラしたら、眠くなってきました。少し早いですけど、私寝ていいですか?」


 口元に手を添えながら、眠たそうに欠伸をしてみせる。自分から質問しておいて、俺の答えを聞かないまま、彼女はこちらに背を向けて、布団をかぶってしまった。


「あ、うん。いいよ。電気消す?」


「いえ。先輩がまだ起きてるなら、大丈夫です。私、明るくても眠れるタイプなので。テレビも、静かにして頂ければ平気です」


「そっか。分かったよ」


「……じゃあ寝ますね。おやすみなさい、先輩」


「……うん。おやすみ」






 そうして――お互いにおやすみの挨拶をしてから数分。早くも隣の布団からは、静かな寝息が聞こえてきた。どうやら今日は、だいぶ疲れていたらしい。


 ――まぁ。一日中ずっと動いてたし、お母さんからのプレゼントの真珠も失くしちゃって、気が張ってたんだろうなぁ。……言わないだけで、強がりなんだよね。


「……おやすみ、本城さん」


 そんな可愛らしい後輩ちゃんに、返事が返ってくるはずの無い挨拶を改めて、俺は彼女の背中に投げ掛けた。


 時刻は夜の十一時半。もうすぐ日付も変わりそうな、夜の闇も深まる時間。

 あとは――今から朝に至るまで、俺が狼男にならないことを、ただただ祈るばかりだ。

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