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アウトドア系男子が、自宅警備員になる方法  作者: たいちょー
ep.3 とある兄妹のお節介話
20/123

兄のお節介

「それでそれで? お兄ちゃんが気になってる、可愛い可愛い女の子について、話を聞かせてもらおうか」


 いつの間にか俺の膝枕には飽きたのか、今度は俺のベッドの上にうつ伏せに寝転びながら、気まぐれな茜が問うた。


「なんでお前は、俺が片想いしていること前提で話すんだ」


 茜が占領してしまっている、ベッドの端に座りながらぼやく。


「え、だっているんでしょ? 気になってる子」


「気になってるっていうか……。最近よく話す女の子はいるけどさ」


「おー! どんな子どんな子?」


「どんな子って言われてもなぁ……」


 ――よくよく考えてみると、本城さんって、どんな人なんだろう。普段から憎たらしくて、憎まれ口ばっかり叩かれてるから、素の本城さんをほとんど知らないんだよなぁ。


 いざ説明しろと言われると、どんな風に説明すればいいのかが分からない。彼女の素性もまだまだ謎ばかりで、ほとんどこちらが一方的に友達と言い切っている状態だ。


 ――それに、この間お見舞いに行ってから、まだ学食へ顔出しに来てくれてないし。もしかしたら、今度こそ本当に縁を切られたのかもしれないしなぁ……。


 とは言え、今更になって茜へ秘密にしてしまえば、それこそ勝手にガールフレンドと暫定されてしまうだろう。気は乗らないが、ここは説明するしかあるまい。


「一つ歳下の子なんだけどさ。普段から憎まれ口ばっかりで、口は悪いし、俺のこと見下してくるし、言いたい放題言ってくるような子なんだよね」


「……お兄ちゃん。それって、大学でイジメられてるの? 大丈夫それ?」


 茜が心配そうにこちらを見つめてきた。そりゃあ当然の反応である。


「いや、別にイジメられてるわけじゃないんだけどさ……。なんだろう、説明が難しいんだけども……」


 それから俺は、本城さんとの関係性を茜に話した。






「ふぅん……。それはまた、面白い関係だねぇ」


 両脚を交互にバタバタと動かしながら、茜が告げた。


「話を聞く限りじゃ、その子はよっぽどの陰キャなんだろうね。お兄ちゃんが陽キャだ陽キャだって言われて、バカにされるのも分かるよ」


「はぁ。その子に会うまでは、今まで全然そんなこと気にしたことなかったんだけどさ。やっぱり陽キャと陰キャって、そんなに違うものなのかな」


「そりゃあそうだよ。陰キャからすれば、陽キャは別次元に生きてるようなものだからね」


「そういうもんなのかな?」


「そういうもんだよ。ずっと陽キャの世界で生きてきたお兄ちゃんには、分からないかもだけどね」


 そんな風に告げる茜の表情は、何故かニヤニヤ顔だ。今の会話の中に、ニヤついてしまう要素は一ミリもなかったような気がするのだが。


「……なんでニヤニヤしてんの?」


「んー? だって、そんな風に扱われてもなお猛アタックするあたり、お兄ちゃんも本気なんだなぁって思ってさ」


「いや、だからな? 俺はただ、演劇サークルに入って欲しいわけであって、特にその子を女の子として特別視してるわけではないんだぞ?」


 俺がそう言うと、今度はため息を吐かれてしまった。一体全体、何がどういうわけなのか。俺にはサッパリわからない。


「ホント、お兄ちゃんって鳥頭で疎い陽キャの男だね。聞いてて呆れる」


「なんだよもう、陽キャ陽キャって。そういう茜だって、どちらかと言えば陽キャの部類だろ? テニス部なんだし」


「確かに私、テニス部入ってるけどさ。でも私はお兄ちゃんと違って、スマホゲームとかもするし。お兄ちゃん譲りもあって、昔からアニメとかマンガも好きだからさ。運動部の男の子とも話すけど、帰宅部とか、インドア系の部活に入ってる女の子とも、男の子とも話すよ?」


「つまり……陽キャと陰キャの中間の人だと」


「んーまぁ、多分?」


「なるほどなぁ……」


 確かにそれなら納得だ。運動部周りの奴らとばかり絡んでいた俺と違って、向こう側の世界を知っている茜なら、陰キャのこともある程度分かるのだろう。

 ましてや、本城さんと同じ女の子でもある茜なら、なんとなく本城さんの気持ちも分かるかもしれない。


「それならさ、その子が俺のことをどう思ってるとか、なんとなく分かったりするの?」


「え。……分かるけど、言わないよ?」


「え、なんでよ?」


 せっかく聞いてみようと思っていた矢先で、出鼻を挫かれてしまった。どうしてわざわざ、分かっていることを隠す必要があるのか。


「だってー、それはお兄ちゃんが自分で気付かないと。初めから、答えが分かりながらマンガを読むなんて、つまんないでしょ? それと一緒」


「俺、ネタバレはオーケー派なんだけど……」


「いいから! そういうことにしておく!」


 眉を細めて、ギラリと睨みつけられてしまった。この様子じゃ、このまま追及しても面倒なことになりそうだ。


「はぁ……そうですか、分かりましたよ」


「それでよろしい」


 そう言うと茜は、俺の枕に顔を押し付けて、脚をバタバタとさせた。きっとまた、「お兄ちゃんの匂いだー!」とかなんとかいって、嗅いでいるのだろう。


 ――はぁ。結局本城さんの気持ちは、分からず仕舞いか。


 やはり……女の子の生態というのは、まったくもって謎である。






「……ところで茜」


「んー? なーにー?」


 枕から顔を上げた茜がこちらを見る。


「そういう茜はさ、どうなんだよ」


「どうって?」


「ほら、その……。彼氏とかさ。さっき、他に好きな人はいるって言ってたし」


「彼氏ー? いるよ?」


「は!? いるの!?」


 サラッと言ってのける茜の言葉に、思わず叫んでしまった。その声量に、叫んでから思わず後悔する。


「お兄ちゃん、うるさい。他の部屋の人の迷惑ー」


 そしてそれを、茜にも指摘されてしまった。


「わ、悪かったよ……」


「もう。妹に彼氏がいるってだけで、そんなに驚く?」


「いや、だってさ……。そんなの俺、知らなかったし」


「言ってなかったんだっけ? もう今の彼氏と付き合って、一年半だよ?」


「そ、そんなに長いのか……」


「うん。何回か家にも連れてきてたし、お母さんも知ってるよ。……あーでも確か、連れてきたときにはいつも、お兄ちゃんはバイトで家にいなかったかも」


「はぁ……左様ですか」


 つまり、去年俺がまだ実家に住んでいた時には既に、茜には彼氏がいたということだ。それを一年以上気が付かなかった俺は、やはり女の子や恋愛には疎いということなのかもしれない。


「……茜。予め言っておくが、ノーコメントでいいからな?」


「ノーコメントでいいって?」


「いや……いい。分からないならいい」


「んー? ……もうエッチしたのかって話?」


「あぁ……せめて茜からその言葉は、聞きたくなかった……」


「えー何々、なんの話? 言ってくれなきゃ分かんないよ」


「いや……うん。ホントにいいから、何も言うな。忘れてくれ」


「ふーん……。変なの」


 兄の気も知らない茜が、よく分からないと言いたげに首を傾げる。まったくこの子は、もう少し兄としての俺の気持ちを理解してほしいものだ。






「でもまぁ、茜に彼氏がいるとはなぁ。お前、結構強がりでワガママだから、彼氏のこと悩ませてるんじゃないの?」


「あー! お兄ちゃんまでそう言う。それこないだ、友達にも言われたよ。別に私、ワガママじゃないもん」


 茜がふて腐れて、口を尖らせる。


「よく言えたもんだな。さっきは『好きな人にはワガママなのだー』なんて言ってたくせに」


「それはあくまでお兄ちゃんに対してでしょ? 彼氏には私、ちゃんとした女の子でやってるもん」


「『ちゃんとした女の子でやってる』とはまた、小悪魔だなぁ。その言葉、彼氏さんに聞かせてやりたいよ」


「別にいいもん。ホントにワガママじゃないし」


「……俺が高校で進路選んでる時に、東京の専門学校の話したら、『地元にすればいいのに』って耳にタコができるほど言ってたのは誰だよ」


「な! べ、別に、お父さん達のこと考えたら、わざわざ東京で高いお金使わなくても、地元で済ませればいいのになって思っただけ!」


「なに驚いてるんだよ」


「別に驚いてないもん!」


「本音は?」


「それが本音!」


「嘘吐け。結局地元から少し離れた大学に行くってなったとき、結構嬉しそうだったぞ」


「んんーーっ!!」


 顔を真っ赤にして、俺の枕を掴んでペチペチとベッドに叩きつけている。一体どこの何歳児なんだこの子は。


「いい加減素直になりなさい。そんなとこで強がったって、バレバレなんだからな?」


「……だって、お兄ちゃんと一緒にいたかったんだもん」


 枕に顔を伏せながら、恥ずかしそうにチラッとこちらを覗いている。


「の割には、彼氏作ってるけどな」


「だから、彼氏とお兄ちゃんの“好き”は違うもん。彼氏にだって、お兄ちゃんのこと大好きだって話、いつもしてるし」


「え。……マジで?」


「マジで」


 そうなってくると、また話は違ってくる。この子はまた、調子に乗ると簡単に口を割る性格だから不安だ。


「お前……変な話してないよな?」


「私が小六の時まで、一緒にお風呂入ってた話はした」


「はぁ!? お前それしたのか!?」


「したよ? 『思春期初めの茜の裸見て、お兄ちゃん興奮してなかった?』って笑って言ってた」


「はぁ……。マジでお前ふざけんな……」


 何をまた余計なことを……。もし今後その彼氏と会ったときに、どういう顔をすればいいんだ。


「あの時だって、やめろって言ってるのに、お前が素っ裸になってどこも隠さずに、強引に風呂に入ってきてただけだからな? 俺からは一言も、一緒に入ろうだなんて言ってないからな?」


 よく両親が家を空けて、二人きりで夜を過ごすことになった日は、決まって俺が入る風呂に茜が一緒に入ってきていた。それを見計らって、茜が入った後に俺が入ろうとすると、わざわざ風呂に入らずにずっと俺が先に入るのを待つ上に、急かしてくるからまた厄介だった。

 別々で寝るようになったことをきっかけに、ようやくそれは無くなりはしたが、まさかこんなところで掘り起こされるとは。


「別に、そこまで言わなくてもいいじゃん。私は今だって、お兄ちゃんと一緒にお風呂入っても全然いいよ?」


「やめろ、俺が嫌だ」


「ひどっ! 世間の男性が憧れる、JKの裸見たくないの? もう今年で私、JK卒業なんだよ? 見るなら今のうちだよ?」


「例え茜の裸を見られたとして、俺になんの得がある? 兄妹同士だし、その先があるわけでもあるまいし」


「あー……。やっぱり男の子って、お風呂のその先が重要なんだ。勉強になるねぇ」


「いや、勉強すんなし……。しかも話はそこじゃないだろって……」


「えへへー」


 てへぺろと言わんばかりに、茜は可愛らしく笑ってみせた。


「とにかく。今後彼氏には、変な話は吹き込まないこと。いい?」


「えー」


「えー、じゃないの。もしこの先、茜がその子と結婚したとして、義理の兄となる俺の気持ちを考えてください」


「んー、そういう話って、やっぱりされたくない?」


「当たり前。だから、よく頭撫でてる話とかもするなよな?」


「あ、それもうしてる」


「……他はもうしないこと。いい?」


「はぁい」


 つまらなさそうに、唇を尖らせて返事をする。

 きっと茜にとっては、「私、お兄ちゃんがこれくらい大好きだよ」アピールだったのだろうが、それらが全て反動で俺にダメージが跳ね返ってくるのだから、今後はもう話さないことを願う。






「で。まぁ、話を戻すとだよ。そういうところも含めて、やっぱり茜はワガママだってわけだ」


「むー、またワガママだって言うー」


 頭を両手に乗せて、うつ伏せから仰向けに茜が体勢を変える。


「そうふて腐れんなよ。でも、そういうところが、茜の良いところなんじゃないの? ある意味、茜らしいしね」


「ん……そう、かな?」


「あぁ。確かに茜はワガママで面倒くさいけど、俺は嫌いじゃないよ」


「じゃあ……好き?」


「え。……まぁ、どちらかと言えば」


「ホント!?」


 咄嗟にガバッと起き上がって、茜が顔を近づけた。その顔は、なんだかとても嬉しそうだ。


「そ、そんなに喜ぶか?」


「えへへ、だってー。なんだかんだ言ってても、お兄ちゃんも私のこと、好きでいてくれてるんだなぁって思ってー」


「……まぁ、兄妹だし。昔から一緒にいるからね」


「もー、お兄ちゃんも素直じゃないなぁ。普段から突っぱねないで、素直にそう言えばいいのにー。このー、このー」


 茜が人差し指で、俺の頬を突いてきた。やはりこうも素直に言葉にしてみると、どうも照れ臭いものだ。


「まさか分かってるだろうけど、兄妹としての話だぞ?」


「分かってますよー、もー。……あー! さてはお兄ちゃんも私と同じ、シスコンだなー?」


「シスコン? ……俺が?」


「だって、私のこと好きじゃなかったら、私のワガママなんて、絶対聞いてくれないでしょ?」


「それは……そうかもしれない」


 そんなこと、今まで思ったことも、気にしたこともなかった。ただただブラコンである妹の相手を、仕方なくしているだけの大変な兄貴だと思い込んでいたが、もしかすると俺もそっち側の人間なのだろうか。……なかなかに信じ難い事実だが。


「えへへ、そっかそっかぁ。私達、相思相愛だったのかぁ。なんか今、すっごく嬉しい」


 ユラユラと体を揺らしながら、満面の笑みで茜が告げる。よっぽど俺に好かれていたことが嬉しいらしい。


 ――もしかしたら、彼氏ができたときよりも喜んでるんじゃないか? こいつ。


「……でも、流石に風呂には入らんぞ?」


「えー! そこは譲ってくれないのー!? 今、せっかく二人きりなんだよ?」


「バカ野郎。そういうのは、彼氏と入りなさい。せっかく相手がいるんだから」


「こないだ彼氏とは入ったもん」


「……そういう話は、兄貴にはしないでください」


「え、なんで? 別にいいじゃん、兄妹なんだし」


「兄妹だからこそ、俺の心が耐えられん……」


「えー、何それ。変なの」


 脚の間に手を挟んで、ベッドにちょこんと座る茜が、不思議そうに首を傾げる。


 シスコンというのは、妹がどこまで進展しているのかを聞いても、果たして耐えられる人種になるのだろうか? はたまた、俺がシスコンだからこそ、そんな話は耐えられないのだろうか?

 どちらにせよ、俺は実の妹の恋愛発展事情を、不可抗力に知ってしまったわけである。






 そんなこんなで、何故か妹との距離感が妙に縮まってしまった、とある休日の出来事であった。

短いですがこれにて、本章は終わりです。ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


次回はなんと、いよいよあの子の素性が分かるかも……?

お楽しみに!


もしよろしければ、ブックマーク・感想・評価もしていただければ幸いです。執筆のモチベーションになります!


【筆者のTwitterはこちら→@sho168ssdd】

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