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アウトドア系男子が、自宅警備員になる方法  作者: たいちょー
ep.15 君が紡いでくれた道
123/123

見送り際に

 次の日。今日からまた、いつも通り大学の講義が始まった。

 本来ならお昼のこの時間、俺は大学にいるのだが――火曜日の三限目が空き時間になっている俺は、二限目の講義が終わるや否や、急いで自転車に乗り水戸駅へと向かっていた。


 ――確か大学から自転車だと、三、四十分くらいか。七泉が帰る電車は、一時ぐらいだったよな。少し急げば、なんとかなるか。


 向かう道中で何もないことを祈りながら、急ぎ足でペダルを漕ぐ。


 二週間近く俺の家に滞在していた七泉は、お父さんとの約束通り、とうとう今日福島へ帰ってしまうことになった。

 ならばせめて、七泉の見送りだけはしたいと無理言って、彼女にはこの時間の電車にしてもらったのだ。このまま言い出しっぺの俺が遅れることだけは、絶対に許されない。






 ――確か……ここの横断歩道を渡って向こうに行ったほうが早かったよな。


 大学を出てしばらくした場所の横断歩道で、赤信号のため自転車を止める。早く青信号にならないものかとうずうずしながら、俺は辺りの景色をぼんやりと眺めていた。


「あのぉ……スミマセン」


「はい?」


 横断歩道で信号を待っていると、横から聞き慣れない片言の日本語が聞こえてきた。一体何事だと横を見ると、そこには外国人の男女がスマホを片手に、俺に話しかけてきていたのだ。


 ――え、えぇ……!? こんなときに、まさかこんな展開あるぅ!?


「アノ……びジュツかん? アー……ミュージアム。ウェアイズイット? ドコですか?」


「えぇ、えーっと……美術館? それって、どこのですか? 名前とか、目印……ネームとかマークみたいなものは?」


「アー……。イントゥアラスティングタワー。イッツ……」


 男性がそう言いながら、両手でタワーのようなものをジェスチャーしてみせる。


 ――タワー? ……あぁ、なんか変な凸凹してる見た目のタワーあったな、あそこか。……でも俺、あそこの場所知らんぞ?


「えっとー……。スマートフォンプリーズ?」


「オーケィ」


 俺がそう言うと、笑顔で男性はすぐにスマホを俺に手渡してくれた。それまではよかったのだが――外国製のスマホなど英語だらけで、何が書いてあるのかがサッパリだった。せめて地図の中から、ルート検索をするところまでできれば、何とかなると思うのだが……。


 ――あぁもう! なんでこんなときに……!


 こっちだって本当は、急いでいるというのに。彼らには申し訳ないと思いながらも、こんな大切なときに俺へ訪ねてきた二人のことを、俺は思わず恨んでしまった。



 ◇ ◇ ◇



 ――なんとか……ギリギリ……。


 階段を駆け上がりながら、走って駅の改札口へと向かう。腕時計の針は、あと十分もしないうちに一時へなろうとしていた。


 ――クソ、まだいるか? もしかして、もう中に入っちゃったとか……。


 幸いまだ、七泉からの連絡は来ていない。ということは恐らく、電車には乗っていないということだ。まだ間にあうことを信じて、息を切らしながら全力で走った。


「……あっ、いた! 七泉……!」


 建物の柱の前に立ち、不安げな様子で彼女は立ち尽くしていた。俺の声が聞こえるなり、ぱぁっと表情を明るくさせて、こちらへと駆け寄ってくる。


「もうっ、遅いよ! このまま来ないんじゃないかと思ってた……」


「うおっ。ちょ、こんな場所で抱き着くなって……」


 そのまま七泉は、俺の胸へと飛び込んできた。ただでさえ県庁である水戸の駅内だ。真昼間でも駅の中は人が多く、一瞬で人々の視線がこちらへと向かってきたのが分かった。


「だって……最後だっていうのに、顔も見ないで帰るのかもって思ったら、寂しかったから……」


「七泉……」


 俺の胸に顔をうずめて、細々と告げてみせる。どうやら本気で、寂しい思いをさせてしまっていたようだ。


「ごめんよ。急いで来たんだけど、途中で外国人に道尋ねられちゃって、こんなに遅くなっちゃった」


「……こんなときにまで、お節介で遅れたの?」


「いや、ホント……。スマホも全部英語だし、向こうも日本語話せないみたいだったから、すげぇ手間取っちゃって」


「……ふふっ、もう。実お兄ちゃんらしいや。遅れたことは怒ったけど、面白いから許してあげる」


「お、おう……。すまん、ありがとうな」


 そう言うとようやく、七泉は俺から離れた。改めて向き合いながら、お互いの顔を見合わせる。






「そういえば、あの漫画家さんにメッセージは送ったの?」


「あ、うん。送ったよ」


 そう問うと七泉は、コクリと頷いてみせる。

 俺が大学に行っている間に、七泉は今回アシスタントとしてスカウトしてくれた漫画家さんに、返事を送ると言っていたのだ。


「その人、なんて言ってたの?」


「『残念だけど、それなら仕方ないね。また機会があったら、一緒にお仕事したいな』って。私の気持ち、分かってくれたみたい。『織物のお仕事、頑張って』とも言ってくれたよ」


「そっか。……でもホントに、断っちゃってよかったの? そんなチャンス、もう二度とないかもしれないのに」


 そう。昨日の夜、七泉は悩みに悩んだ結果、まずは織物の仕事を優先すると決めたのだ。絵の仕事は将来、織物業者として一人前になってから、改めて考えることにするらしい。


「そりゃあ私だって残念だと思うよ。でも織物の仕事をしながら漫画を描くなんて、多分忙し過ぎて時間がなくなっちゃうだろうから。だったらまずは、織物の仕事をこなせるように頑張りながら、空いた時間でもっと良い絵を描けるように勉強しようって決めたの」


「……その様子だと、今度こそ本気みたいだね」


「もちろん。絵も織物も、私にとっては大事だから。だからどっちも大切にするし、本気で向き合うよ。もうどっちも粗末になんかしないよ」


 そう告げる七泉の目は、とても真っ直ぐだった。今までのような、どこかおどおどした様子とは打って変わって、とても自信に満ちた表情をしていた。


「そっか。……なんか七泉、変わったね」


「えへへ、実お兄ちゃんのおかげだよ。お兄ちゃんが色々言ってくれなかったら私、まだ決め切れてなかったと思う。だから……ありがとね」


「あぁ、どういたしまして」


 そう言って、笑っている七泉を見て、本当によかったと安堵する。

 もしあのまま、お父さんと仲直りできていなかったら……逆にお父さんの言いなりになって、嫌々と織物をし続けることを選んでしまったとしたら、きっと彼女はこんな風に笑ってはいなかっただろう。彼女もこうして、自信を持てるようになったようで、俺も安心だ。






「もうあと五分だ……もうそろそろ行かなきゃ」


 改札口に設置された時計を見て、七泉が告げる。せっかくこちらに時間を合わせてくれたというのに、最後の最後までこんな情けない従兄で、本当に申し訳ないと思う。


「そっか。……寂しくなるな」


「うん。私も寂しい。……でもこれで、会えなくなるわけじゃないから。また次に会うときまでに、お互い色々頑張ろ?」


「あぁ。次に会うときは、こっちから遊びに行きたいな」


「……そういえば、茜ちゃんも同じこと言ってたよ」


「そうなのか?」


「うん。じゃあ次は、二人でこっちに来てくれたら嬉しいな」


「だな。タイミング見て、二人で遊びに行くよ。……それまでにお金貯めないとだけどな」


「そうだよー。昨日、結構お金使っちゃったんだから、もう使い過ぎちゃダメだよ?」


「はぁい、分かってます」


「えへへ」


 お互いに笑い合ったところで、会話が途切れてしまった。いよいよお別れの雰囲気になってきて、胸の中に寂しさが募り始める。


「……じゃあ、行くね」


「あぁ、また今度な」


「うん。また今度」


 そう言うと七泉は、静かに改札口へ向かって歩き始めた。そんな彼女の背中を、ギュッと苦しくなる胸の痛みを堪えながら、俺は見届けていた。


「……実お兄ちゃん!」


「ん?」


 七泉は振り返ると、再び走ってこちらへと戻ってきた。改めてお互いに、体を向き合わせる。


「ど、どうしたんだよ? 行かないのか?」


「うん、行くけど……。最後にね、私の気持ちを伝えていい?」


「気持ち?」


「そう。……あのね。目、つむって?」


「目? ……ん」


 彼女の言われるがまま、視界を閉ざし暗闇の中へと入る。一体何をされるのだろうと、彼女のことを待っていた。


「……ちゅっ」


「……んあっ?」


 咄嗟に目を開いて、七泉のことを見る。彼女は顔を真っ赤にさせながら微笑むと、急ぎ足で踵を返してしまう。――心做しか、目には涙が浮かんでいるようにも見えた。


「それじゃあね! お兄ちゃん達が遊びに来てくれるの、私待ってるから!」


 大きく手を振りながら、彼女が告げる。あまりに一瞬の出来事に、こちらは言葉を失ってしまったというのに、ズルい奴だ。


「……あ、あぁ! またな、七泉!」


 焦りつつも、こちらも彼女へ向けて大きく手を振る。彼女は嬉しそうに微笑むと、走って駅のホームへと向かっていってしまった。

 今の今まで、彼女と一緒にいた空間が、一瞬にしていつもの日常へと戻る。彼女がいてくれたおかげで異色に見えていた景色は全て、何気ないものへと変わってしまった。


 ――……わざわざあんなこと、しなくてもよかったのに。それほど俺のことを好きでいてくれてたってことなのかな。……七泉らしいや。


 自分の左頬をさすりながら、彼女がいなくなった改札口をぼんやりと眺める。

 いつもの日常へと一瞬で戻ってしまった空間の中、俺の左頬だけはしばらくの間、非日常の時間に取り残されてしまっていた。

これにて、本章は終わりです。ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


だいぶ長々と続いてきましたが、村木先輩と七泉のお話は、これにて一区切りとなります。本城さんとはまた違った雰囲気の内容となりましたが、楽しんでいただけたでしょうか?

さて。次章は前章、本章までとは打って変わって、本作史上一番重い雰囲気になるかもしれません。

そのトリガーとなるのは、本城さんが超毛嫌いしているあの……?

お楽しみに!


p.s 本編に出てきた美術館のタワーが気になったそこのあなた!

ぜひ「水戸芸術館」と検索してみてください。そしたら一瞬で、本編の内容が分かるかと思います。



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