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アウトドア系男子が、自宅警備員になる方法  作者: たいちょー
ep.15 君が紡いでくれた道
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従兄妹のこれから

 次の日。月曜日ながら、文化祭の振替休日だった俺は、七泉と共に水戸駅の中にあるショッピングセンターへと来ていた。今回の大きな目的としては、ちょっと早い七泉の誕生日プレゼントを買うことだ。

 とはいえ、七泉自身もとりわけ何か欲しいものがあるわけでもないようで、取り敢えず適当に店を回りながら決めようということになった。サプライズ好きな茜とは違い、自分で欲しいものを決めてくれるタイプなのが、唯一の救いといったところだろう。


 そんな彼女と共に、一通り建物の中を回ったのち。ようやく欲しいものが決まり購入し終えると、俺達は駅前の広場へと出てきた。






「七泉。ホントにそれでよかったのか? 一応予算的には、まだ全然余裕はあったんだけど」


 俺がそんな風に問う彼女の手には、今回誕生日プレゼントとして買った物が入った小袋が握られていた。


「だから、いいって言ってるじゃない。私はアクセサリーとか、そういうのあんまり似合わないから」


 これで三度目となる俺の同じ質問に、ちょっとだけムキになりながら七泉が告げた。


「そうかなぁ。今だって十分だけど、ちゃんとオシャレすれば七泉だって、普通に可愛いと思うけど」


「もうっ! またそうやってお兄ちゃんは、私のことを浮かれさせようとする!」


 七泉は俺の前に立ち塞がるなり、俺のことを睨みつけてみせる。


「え、えぇっ? 別に、思ったことをそのまま言っただけなんだけど……」


「それがダメなのー。その言葉、私とか茜ちゃんとか、綾乃ちゃん以外にはあんまり言っちゃダメだからね?」


「ん、本城さんもなの?」


 はて。七泉や茜はまだ分かるが、どうしてそこで本城さんの名前が出てくるのだろうか。


「当たり前じゃない。綾乃ちゃんも実お兄ちゃんにとっては、大切な友達なんでしょ? だったら、友達として褒めることは大事なことだよ」


「まぁ……それもそう、か?」


「そうそう。それでいいの」


 なんだか納得させられた感が否めないが、これ以上は面倒くさいことになりそうなので、追求しないでおこう。


「はぁ、そうですか。……それはそうと、他にも何か欲しいのってあったりはしないの?」


「もう、心配性だなぁ。大丈夫だって。タブレットで絵を描く機材も、今年新しいのを買ったばかりだし、身の回りのことで特に困ってることはないし。言うほど私、あんまり物欲ないからなぁ……」


 空を見上げながら、口元に人差し指を当てて七泉が考え込んでいる。どうやら本当に、何も思い当たるものがないらしい。


「まぁ、ホントにそれでいいって言うなら、俺も構わないんだけどさ。……誕生日プレゼントに、リップの一本だけっていうのも、なんか贈る側としても拍子抜けするというか、なんというか……」


 そう。広い駅ビルの中を長々と歩き回った結果、彼女はコスメショップに売っていた、水色のケースに入ったリップ一本でいいと言ってきたのだ。それも、周りにはまぁまぁ値段が張るものがあったにもかかわらず、彼女が選んだのは下から数えたほうが早いものだった。

 てっきりそれなりに値段がするものを強請られると思っていたのだが、千円もしないリップで満足されてしまうのもまた、不思議と俺は納得ができなかったのだ。


「なら、コスパが良い女ってことでいいじゃない。高いブランド品強請られるよりは、よっぽどいいでしょ?」


「それはそうなんだけど……なんだかなぁ」


「あのね、お兄ちゃん。こういうのは、気持ちが大事なの。お兄ちゃんと一緒にお店を回って探したことも良い思い出になるし、例えそんなに高くないリップ一本だったとしても、私はお兄ちゃんに買ってもらったってだけで嬉しいんだよ?」


「そうなのか?」


「そうだよー。私はこれだけでも十分嬉しいし、幸せだよ?」


「……そっか。ならまぁ、それでもいいのか……?」


 そんな彼女の言いたいことも、それ以上は要らないという気持ちも分かる。……だが、それでもまだ心のどこかで、納得のいっていない自分がいた。


「……もー、まだ納得いってないみたいだなぁ。じゃあ逆にこっちから聞くけど、なんでそんなに高いもの買わせようとするの?」


「それは……ほら。誕生日忘れちゃって、落ち込ませちゃった分もあるし。そのぐらいはせめて、何かで償えないものかと」


「まったく……お兄ちゃん気にし過ぎだよ。そんなに心配性だと、逆に面倒くさがられて嫌われちゃうよ?」


「う……め、面目ない」


 申し訳ない気持ちもあるが、やはりここまで言われても、何かで償えないかと思ってしまう自分がいる。これはもう、根っこの性格の問題なのかもしれない。


「はぁ。……じゃあそんなに言うなら、もう一個だけお願いしちゃおうかなぁ。本当は、お給料が入ったときに自分で買おうと思ってたんだけど」


 半ば諦めるような表情で、腰に手を当てながら七泉が告げた。


「えっ、何々? どんなやつ?」


「……なんでそんなに嬉しそうなの? もう……じゃあほら、付いてきて」


「はいよ」


 そう言って、渋々先導する七泉の後ろを俺は付いていった。






「えっと……あれ? なんかこれ、どっかで聞いたことがある気が……」


 七泉が指差したパッケージを見るなり、不思議と既視感が頭をよぎる。確か俺は、これを以前にどこかで見たことがある気がする。


「知ってるの? へぇ、ゲームをしないお兄ちゃんでも聞いたことあるんだ」


 意外だと言わんばかりの表情で、七泉が告げた。


 俺が七泉に連れてこられたのは、ゲームショップの一角だった。何か欲しいゲームでもあるのかと彼女の後ろを付いてきてみると、そこには見覚えのあるパッケージがあったのだ。


 ――このブロックの塊みたいなキャラクター……どこかで……。


「これね、『デジタルクエスト』っていうんだけど、今年の五月に発売して、未だに人気なんだよね。……うーん、やっぱりまだちょっと高いや」


 七泉がパッケージを手に取って、値段を確認する。その数字を見るや、彼女は苦笑いを浮かべた。


「どれ、見せてみ? ……おぉ、六千七百円……」


 一人暮らしの大学生には、なかなかに辛い値段だ。あまりゲームの値段など見たことはないが、こんなにもゲームとは高いものなのか。


「これね、昨日綾乃ちゃんが凄く楽しいって言ってたから、遊んでみたいなぁって思ってたんだよね」


「本城さんが? ……あぁ! 思い出したぞ。そういえば本城さんも、このゲームが楽しいって前に言ってたな」


 ようやく思い出した。そういえばだいぶ前に、彼女もこのゲームについて絶賛していたはずだ。……ついでに、色々買い過ぎて破産もしていたんだった。


「あ、そうだったんだ。だから覚えてたんだね。でも、これをお兄ちゃんに強請るのは流石に悪いと思ったから、敢えて言わなかったんだけど……」


「まぁ、そこそこ値段も張るしな……」


 ――約七千円。今週末には文化祭の打ち上げもあるから、この出費はかなりの痛手だな……。しばらくの間は、スーパーの特売品を買い回って自炊をすれば、なんとかなるか……?


 バイトの給料日はまだ、だいぶ先だ。果たしてそれまで、無事にやりくりしていけるだろうか。


 ――うーむ……困ったときには、本城さんにでも頼ってみるか。っていうか、前にあの子がお金に困ったときに、飯を奢ってあげたんだっけ。それなら万が一があったときに、俺もお願いできるかな……?


 そもそもからして、こんな考え方をしてしまう時点で、恐らく俺は間違っている。だが、向こうが一度そうして頼ってきたことがある時点で、俺も同じように頼り断られる義理はないはずだ。

 ならば最悪の場合、その手段を考えた上で、七泉にお詫びを含めた誕生日プレゼントを送るべきだろうか。それとも、やはりここは七泉に我慢してもらうべきだろうか。……まさに俺は今、究極の選択を迫られているのかもしれない。


 ――いいや、決めた。俺と本城さんの仲だ。多分、なんとかなるだろ。……多分!


「……分かった、決めたよ。七泉、これは俺が買うよ」


「えっ? 本当に言ってる? いいの?」


「あぁ。いいって言ったら、いいぞ」


「本当の、本当に? 無理してない? このせいでお金がなくなって、ご飯食べられなくなっちゃったりしたら、わたし嫌だよ?」


 こちらに一歩詰め寄りながら、心配そうな表情を七泉が浮かべてみせる。


「流石にそんな、生活ができないレベルじゃないけど……。まぁ、なんとかするよ」


「本当にいいの?」


「あぁ、いいぞ」


「……そっか。じゃあ、えっと……お言葉に甘えて……お願いします」


 そう言いながら、七泉は小さく頭を下げた。


「はいよ。じゃあ、レジに行くか」


「うん……!」


 そうして俺達は、ゲームのパッケージを持ってレジへと向かい、とうとう購入してしまった。

 すっかり軽くなった財布を仕舞いながら、それを改めて七泉に手渡す。


「ほら。二個目の誕生日プレゼント」


「えへへ……なんかごめんね、ありがと。嬉しい」


 ちょっと申し訳なさそうにしながらも、笑みを浮かべながら七泉はそれを受け取った。どうやら、喜んでくれたようだ。


「よーし、これで綾乃ちゃんを誘って、一緒に遊んでもらおー」


「ん、本城さんの連絡先知ってるんだ?」


「うん! 交換してもらったんだー。綾乃ちゃん、このゲーム結構やり込んでるみたいだから、色々教えてもらおうっと」


「ははっ、楽しんでくれるのなら、俺も嬉しいよ」


 ――まぁ、財布はほぼ空っぽになったけど……こんなにも喜んでくれてるみたいだし、本城さんにも友達ができたみたいだから、結果としてはいいかな。


 なんだかんだと色々あったが、俺にとっても、七泉にとっても、今回の誕生日はきっと、忘れられないものになるだろう。

 将来、この日の思い出を二人で語る日がくるのかもしれない。いつかそんな日にはまた、揃って笑い合っていればいいなと、彼女の笑顔を見て思った。



 ◇ ◇ ◇



 水戸駅から、家へと帰るバスの中。平日の昼間ということもあり、ほとんど乗客がいない中、俺達は一番奥の窓際席に並んで座っていた。


 ――……よくよく考えてみると、これって近いのか?


 チラッと隣の席を覗きながら、そんなことを考える。俺の隣には、手を置けばその身体に触れられてしまうほど近い距離に、七泉が座っていた。


「どうしたの? 私の太ももなんか見て」


 そんな俺を見て、咄嗟に七泉が聞き出してくる。


「いや……。やっぱりこう、一緒に並んで座ってるとさ。周りの人から、恋人同士に見られてるのかなって」


 俺がそう小声で告げると、七泉はバスの乗客を一通り覗いた。


「まぁ、見られてるんじゃない? 歳も大きく離れてるわけじゃないし」


「だよなぁ。いやさ、昨日の七泉のお父さんの怒りよう、半端なかったから……」


 昨晩はあれから、気が付くと一時間近く説教染みた話を聞かされてしまった。当然のことながら、俺と七泉の関係から、何から何まで隅々まで白状する羽目となった。それもこれも、七泉が余計な一言を言ったからだ。


「あー、確かにね。まさかお父さんが、あそこまで怒るとは私も思わなかったよ」


 そんな張本人である七泉は、あまり反省していない様子で苦笑いだ。


「そもそも、七泉があんな言い方しなかったら、あんな風にはならなかったんだけど?」


 七泉に顔を近付けて睨みつけてみる。すると彼女は、恥ずかしそうに顔を逸らしてしまった。


「それは……まぁ。ずっと実お兄ちゃんに話を聞かれてた上に、泣きそうになってたところを見られてたから、ちょっと意地悪したくなっちゃって、つい……」


「そもそも、スピーカーにしないで一人で話しとけばよかったんじゃないの?」


「そうなんだけど、普段からスピーカーで話すほうが多いから、そのクセというか、なんというか……」


「はぁ。……それはいいけど、良かったのか? 七泉が俺をどう思ってるのか、結局全部話してたじゃんか」


 そう。七泉はお父さんに、俺に対する気持ちも全て話してしまったのだ。――流石に七泉の“好き”が、恋愛感情であったことまでは言わなかったが。

 当然初めの内は誤解をされまくっていたが、なんとか時間をかけて納得してもらえたのだった。


「うん。だって、お兄ちゃんのところに来たって言ったら、後々になってから理由を聞かれかねないでしょ? だったら適当に誤魔化し続けるより、ハッキリ言っちゃったほうがいいと思って」


「それはそうかもしれんが……。七泉って、そういうところはサッパリしてるよなぁ」


「そうかな。ただ単に、面倒事になりそうなことは極力減らしたいだけだよ。だから昨日だって最初は疑われたけど、最後はお父さんも納得してくれてたでしょ? お互い疑いを持つより、よっぽどいいじゃない」


「まぁ……それもそうか」


 七泉が言うことも一理ある。言いづらいことをどれだけ誤魔化し続けるかを考えるよりも、早いうちに真実を告げてしまったほうが、いい場合もあるかもしれない。いかにも七泉らしい考え方と言えるだろう。






「……今回こうして、お兄ちゃんと色々あってさ。ちょっとだけ、自分に自信を持てたというのかな。今まであんまり、自分の言いたいことをハッキリ言えてこなかったんだけど、あの時の緊張に比べれば、全然気が楽だなって思えるようになったっていうか」


 七泉は自分の膝の上で、両手で輪っかを作りながら告げた。


「まぁ。俺は自分から告白なんてしたことないから分からないけど、きっとそれ以上に緊張することなんて、滅多にないだろうからな」


「うん。あの時は、心臓が破裂するんじゃないかってくらい、ドキドキしたよ。誰もいない二人きりの公園でさ、『言うなら今しかない』と思って、頑張って勇気を出して言ったんだ。もちろん返事は分かってたけど……あの時自分の気持ちをハッキリ言えて、良かったと思ってる。おかげさまで、前よりもだいぶ気持ちが楽になった」


「そっか。それなら良かったよ」


 すると七泉は、ニコッと笑ってみせた。


「結局、お兄ちゃんとそういう関係になれたわけじゃなかったけど……でも今回、こっちに来て良かったと思ってる。さっきも言ったけど、あの時と比べたら他の緊張なんて、マシに思えるようになったし、頑張ろうって思えるようにもなった。――あと何よりも、私にはお兄ちゃんがいてくれてるって、改めて分かったから」


「なんだよ、恥ずかしいな。そんなに俺がいると良いのか?」


「そうだよー。お兄ちゃんのパワーは凄いんだから。応援してくれるだけで、より頑張ろうと思えるし、話してるだけで嬉しいし楽しいよ。それに、隣にいてくれるだけで安心できるし、何より幸せな気持ちになれるんだ。お兄ちゃんがいてくれるおかげで、私も頑張って前向きになろうって思えるの」


「……そっか。恥ずかしいけど、そう言ってくれると俺も嬉しいな」


「えへへ。とにかくね、私はお兄ちゃんのことが好きだから。だから今後も、もし私が落ち込んで辛くなったときは……またお兄ちゃんのこと、頼ってもいいかな?」


 そう言うと彼女は、体を向けてジッとこちらを見つめてきた。そんなこと聞かれなくても、初めから答えは一つだけだ。


「あぁ、それはもちろんだよ。何か相談したいことがあったときとかは、遠慮なく俺に言ってほしいかな」


「やった、ありがと。……もちろんお兄ちゃんだって、何かあったら私のことを頼っていいんだからね? ……あ、でもお兄ちゃんには私よりも、先に頼れる人がいるか」


「ん……? それって誰のこと?」


「えー、本当は分かってるくせに。……ま、気付いてないのもしょうがないかぁ」


「なんだそれ……?」


 呆れた様子で告げながら、七泉は再び体を前に向けてしまった。

 はて、それは一体誰のことを言っているのだろうか。一番身近で頼れそうな人といえば、茜ぐらいしか思い当たらないのだが。

 確かにあいつには、なんだかんだで度々世話を焼かせてしまっているし、申し訳ないとも思っている。もしかすると七泉は、そのことを言っているのかもしれない。


「とにかく。私はお兄ちゃんのことを信頼してるし、頼りにしてる。だからお兄ちゃんも、こんな私のことを好きにさせたんだから、それなりに覚悟しておいてねってこと」


「おーおー、そっか。じゃあそのときは、お手柔らかに頼むよ」


「どうだろうなー。私の気分次第かな」


「結局かい……」


 微笑んでいる七泉をよそに、俺は呆れながらに視線を窓の外へと向けようとした。……そのとき、入り口近くの席に座っていた一人のおばあちゃんと、ガッツリと視線が合った。どうやらずっと、俺達の会話を聞かれてしまっていたようだ。彼女は微笑ましいものを見るような目で、ニコニコ顔でこちらを見ていた。


「……あの、七泉。すっかり夢中になってたけど、こういう話は家でしよう。な?」


「えっ? ……あ」


 彼女の膝を叩きながら、小声で告げる。するとその合図で、どうやら彼女もおばあちゃんの存在に気付いたらしく、咄嗟に顔を真っ赤にしながら視線を落としてしまった。


「ハッキリ言うのも良いことだけど、時と場所は選ばないとだな」


「……だね」


 彼女は恥ずかしそうに告げながら、これまでのことを誤魔化すようにスマホを取り出しては、今度はそちらに視線を移してしまった。

 それとなく、これ以上ここでの会話はし辛い雰囲気となってしまった俺達は、お互い無言になりながら、バスが到着するのを待っていた。

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