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アウトドア系男子が、自宅警備員になる方法  作者: たいちょー
ep.15 君が紡いでくれた道
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乗りかかった舟

「お兄ちゃん、じゃあ行こ?」


「えっ、ちょ、茜、引っ張るなって!」


 村木先輩が、茜ちゃんに引っ張られながら奥へと去って行ってしまう。

 ……ふと気が付くと、落ち込んだ様子の七泉がこちらへやってきては、静かに私の横へと座った。


「……大丈夫……じゃ、ないよね」


 こんなとき、どんな言葉をかけてあげればいいのだろうか。取り敢えずなんでもいいから話さなければと、そんな情けない言葉を第一声に発してしまう。


「あはは。ちょっと、ね。楽しみにしてた分、ショックが大きかったっていうか……」


 七泉は苦笑いを浮かべながら、そんなことを告げた。


「諦めたとはいえ、好き人に誕生日を忘れられてたんだもんね。そりゃあショックかぁ」


「うん……」


 昼間に話していたことから察するに、七泉はきっと記念日や誕生日を特に大事にするタイプの子なのだろう。それならこれほどショックを受けてしまうのも、分かるような気がする。


「なんだろうなぁ。この間、実お兄ちゃんに気持ちを伝えてから、ちょっとだけ浮かれてたんだろうね。両想いでないとはいえ、大事に想ってくれてることに変わりはなかったから。それでなんか、変に期待し過ぎてたというか。……バカだよね、私」


「まぁ……仕方ないよ。あの人って、女の子を変に期待させることだけは人一倍だもの。それで浮かれちゃうのは、全部が全部七泉のせいじゃないよ」


「うん……」


「あの人の言葉は、全部が全部本気に捉えないほうがいいんだよね。言葉選びが下手くそだから、すぐ浮かれちゃうようなことばっかり言うんだもん。私も罠にハマりそうになることはたくさんあるよ」


「そっか……」


 すると七泉は、私に近付いてきては、頭を私の肩に寄せてきた。


「……ごめん。ちょっとだけ、こうしてていいかな? すぐ終わるから」


「……うん」


「ありがと……」


 そう言うと七泉は、再び黙り込んでしまった。お互いに無言のまま、徐々に薄暗闇になってきた空を見上げる。



『……なんで、泣くんですか。私なんかに』


『なんでって……。そりゃあ今まで、本城さんのことを必死で勧誘してたから。それがようやく一歩進んだんだと思ったら、嬉しくて……。ごめんね、先輩のくせに情けなくて』



 ――あの言葉は、ホントに本気だったのかな?


 思い返してみると、それすらも半信半疑になってしまう。あの時は、本気で私のことを想ってくれているのだと思い込んでいたが、いざ考え直すとあれは演技だったのではないかとも思ってしまう。


 ――短時間であんな演技をできるんだから、あのくらいなら出来ても不思議ではないんだよね。まぁ、演技で涙を流せるのならの話だけど。


 もはやそこまでいくと、ほとんどが本気で役者を目指す人しかできない、なかなか難しい技だ。演劇を去年から始めた村木先輩が、まさかそんな技術を持ってるとはあまり思えない。


 ――……考えすぎだよなぁ。


 本当は、彼のことを信頼しているはずなのに。心の中にいるもう一人の私が、どうしてか彼のことを否定する。

 これはただ、いつまで経っても素直になれない私のせいなのだろうか。それとも、私がただ単に心配性なだけなのだろうか。

 どれほど考えようと、出てこない答えを探りながら、私達はぼんやりと虚無の時間を過ごした。






「二人とも、お待たせー……って、なんかお通夜状態だけど、大丈夫ですか?」


 ようやく戻ってきた茜ちゃんが、私達二人の様子を見て告げた。


「ごめんごめん、ちょっと二人でボーっとしてたんだ。……七泉が寂しいって言うからさ」


「ちょ、寂しいとまでは言ってないじゃない」


 咄嗟に七泉が体勢を戻しては、反論してみせた。


「えー、でも寂しいからくっ付いてきたんじゃないの?」


「それはっ……。そうかも、しれないけど……」


 しかし、すぐにこれ以上は何も言えないと判断したのか、まるで縮こまるようにして口をつぐんでしまった。


 ――可愛い。


「えー、何々? 七泉ちゃん、綾乃お姉ちゃんとギューってしてたの?」


 そんな何も知らない様子の茜ちゃんが、ニヤニヤと笑みを浮かべながら、すかさず七泉へと問うた。


「し、してないよ! ただ……ただちょっと、綾乃ちゃんの肩を借りてただけ!」


「ふぅん。七泉ちゃんも、そういうところあるんだなぁ」


「うるさいなぁ、放っておいてよぉ!」


 顔を真っ赤にしながら、七泉はそっぽを向いてしまった。そんな恥ずかしがり屋なところも、七泉らしくて可愛らしい。


「はいはーい、ごめんごめん。……えっと、それはそれとして、綾乃お姉ちゃん。バスの時間ですけど、調べたらあと十分くらいで来るみたいですよ」


「ホント? それじゃあ、もうそろそろ行かないとだね」


「そうなんです。……七泉ちゃん、私達そろそろ行くけど、一人で平気?」


 ふて腐れている七泉に向かって、再び茜ちゃんが問うた。


「……うん。本音を言うと、ちょっと怖いけど……なんとか頑張ってみる」


「お、よく言った! じゃあ七泉ちゃんを信じて、私達はもう行くね。今度は私のほうから福島に遊びに行くから!」


「うん、待ってる。今日は楽しかったよ、また遊ぼうね」


「私もー! あっ、綾乃お姉ちゃんもいつか、一緒に三人で遊びましょ!」


 咄嗟に茜ちゃんが、私の腕を掴みながら告げる。


「えっ? あ、うん。私でよかったら、いつでも呼んで」


「もちろんだよー。また暇なとき通話もしたいな」


「私もしたい! 今度三人で通話しましょ!」


「……そうだね、しよっか。楽しみにしてるよ」


 私が告げると、ようやく七泉は不器用ながらも微笑んでみせた。どうやら少しだけ元気になってくれたようで、こちらもホッとした。


「じゃあ、私達行くね。またね、七泉ちゃん!」


「またね」


「うん、またね二人とも」


 そうして私達は七泉に別れを告げると、二人でバス停へと向かい始める。


 ――ちょっと心配だけど、村木先輩なら大丈夫だよね。……大丈夫だと、いいんだけど。


 こんな不安が募るのは、やはり自分が彼のことを信じ切れていないからなのだろうか。無事に二人の仲が戻ることを、ただただ願うばかりだ。



 ◇ ◇ ◇



「なんか、ごめんね。私だけ座っちゃって」


 発進するバスに揺られながら、私の隣で立っている茜ちゃんへ告げた。

 無事にバスへ乗れたまではよかったのだが、中は乗客が多く、偶々私が座っている席が空いただけだった。茜ちゃんに促される形で、私だけ座らせてもらっている次第だ。


「いいんですよー。私は全然疲れてませんから、平気です!」


「凄いなぁ、流石は元運動部。体力あるなぁ」


「えへへー、もっと褒めてもいいんですよ? こう見えて、体力は結構あるんです。今年の20mシャトルランなんか、九十回いけたんですから! 女子で最高記録叩き出してやりましたよ!」


「えっ、すご! 九十回なんて、男子でもそうそうできないよ」


「でしょでしょ? 体力づくりだけは欠かさずしてきたんで、メチャクチャ自信あるんですよねー」


 そう告げながら、茜ちゃんは無邪気に笑ってみせた。


 ――凄いな……私なんて、三十回でやっとだったのに。


 足の速さこそちょっとだけ自信はあるものの、体力に関しては昔からまるっきりダメだった。おかげで何かするとすぐに疲れるし、風邪をひいては熱を出してしまうのだ。

 休みの日は決まって家でゲームをしていたことが原因なのは明らかだが、これはもう何かきっかけがない限り、変われることはないと思っている。






「まぁ、それはそれとして……。どうだったんですか? 文化祭」


「えっ? あーまぁ……」


 唐突に話題を切り替えられては、なんとも答え辛い質問をされてしまった。咄嗟に顔を逸らして、なんと答えればいいかを考える。


「『あーまぁ』ってことはないでしょー。何かあったんじゃないですかー?」


「あったことはあったけど。なかったといえば、なかったというか、なんというか……」


「えー、教えてくださいよー。お兄ちゃんと、何があったんですか?」


「うぅ……」


 ここで答えずに引き延ばしたら、恐らくずっと聞かれることになるだろう。面倒なことになる前に、答えておいたほうがいい。

 今日彼と一緒にいた間に起こった出来事を、順々に話していく。そして最後に、彼が私に対して涙を流してくれたことについてを話した。


「え、泣いたんですか!? お兄ちゃんが!?」


 それを聞くなり、それまでニコニコしながら楽しそうに聞いていた顔から一転して、茜ちゃんが口をぽっかりと開けて驚いてみせる。どうやら、妹である彼女でも想定外の出来事だったようだ。


「うん。よほど私に入れ込んでたみたい。流石に泣かれたときは、私も驚いちゃったんだけど」


「そうですか。……やっぱり、私が思ってる以上に、お兄ちゃんは綾乃お姉ちゃんのことを重ねて見てるのかも……」


「それって例の、私が似てるっていう子のこと?」


 そう問うと彼女は、無言でコクリと頷いた。


「……前に茜ちゃんは、先輩本人に聞いたほうがいいって言って、教えてくれなかったけどさ。今でもやっぱり、そう思うの?」


「まぁ。私が話すのと、お兄ちゃんが話すのじゃ、話の重みが違うというか……。それに……」


「……? それに、どうしたの?」


 途中まで言って口をつぐんでしまった茜ちゃんに問い詰める。


「……それに、これを私が話しちゃったら、お兄ちゃんのことを裏切ったことになりそうで、怖いんです。直接話すなと言われたわけじゃないんですけど、お兄ちゃん、このことを昔から相当引きずってて。寝てるときでも偶に、うなされてるときもあるぐらいで」


「それは……重症だね」


「知ってる人も私や七泉ちゃんとか、家族と友達数人ぐらいしかいないし、私が話したって知ったらきっと、お兄ちゃんショックだと思うんです。実際に綾乃お姉ちゃんにだって、話してくれなかったんですよね?」


「そうだね。あのときはまだ、話しづらいって言われちゃって、何も教えてくれなかった」


「……じゃあやっぱり、私からは何も言えません。……これ以上私は、お兄ちゃんのことを苦しませたくないんです。私は妹だから、お兄ちゃんとの一線は越えられないけど……妹だからこそ一番そばで、味方でいてあげたいから」


「茜ちゃん……」


 力強く告げた言葉とは裏腹に、そんな茜ちゃんの唇はふるふると震えていた。それほど彼女の彼に対する想いは強い――いや、妹としては異常なほどかもしれない。


 ――普段は元気な茜ちゃんが、こんな顔をするんだもの。よっぽど村木先輩のことが好きなんだろうな。赤の他人には絶対分からないような、兄妹だけの特別な感覚っていうのがあるのかな。


 私は茜ちゃんから、彼を助けるという大切な役目を請け負ってしまった。もはや乗りかかった舟だ。ここまできたら彼を助けるだけでなく、私は彼女のことも救ってあげたい。こんなにも寂しそうな表情を浮かべさせてしまうのは、やはり黙って見過ごせないのが、私の性だ。

 しかし、一体どうすれば私は、この兄妹を救うことができるのだろうか。未だ手がかりを掴めない現状に、もどかしさを覚える。


 ――……私もいつか、先輩に言わなきゃな……。


 同時に、私自身も抱えている罪をいつか、彼に話さなければならない日が来ることを思うと、胸が痛くなる。きっと彼も、これに似たような感覚なのかもしれない。






「……あー、ダメダメ。お兄ちゃんを支えるって言ってる側が、落ち込んでちゃダメですよね。もっとテンション上げてかなきゃ!」


 茜ちゃんが、自分のほっぺたを両手で叩く。かなり大きな音が鳴ったような気がするが、大丈夫だろうか。


「やっぱり男の子は、女がいなきゃダメですからね。特にお兄ちゃんみたいな人には」


「……そうだね。言えてるかも」


「でしょ? まったくお兄ちゃんったら、私がいなきゃダメダメなんですから。もう早く妹離れしてほしいんですけどねー」


「あはは……」


 やれやれといった顔で茜ちゃんが、そんなことを告げる。なんだかそれは、思いっきり自分にブーメランが刺さっているような気もするが、ここは第三者として何も言わないでおいてあげよう。


 そんな仲良し兄妹が、わだかまりなく笑い合える日は、果たしてくるのだろうか。早くそんな日が訪れてくれるように、私も精一杯支えてあげたいところだ。



 ◇ ◇ ◇



「いたいた、七泉」


 大学の校門前で、レンガ塀に身を預けて立っていた七泉に呼びかける。彼女はこちらに気が付くと、無言のままこちらへ近寄ってきた。


「遅くなっちゃってごめんよ、お待たせ」


「ううん、平気」


 七泉はぶっきらぼうに一言告げると、それきり何も言わなくなってしまった。


 ――うーん、気まずい。やっぱりまだ引きずってるのか。


 この調子では、少なくとも今日一日はずっとこの調子かもしれない。この間も似たような状況になったが、やはり気まずい雰囲気のまま同じ部屋に二人きりで居続けるのは、かなりの苦痛だ。早いうちに、なんとかしなくては。


「えっと、取り敢えず行こうか。もうすぐにバス来るだろうし」


 俺がそう告げるも、彼女は特になんの反応もしてくれなかった。渋々先にバス停へ向かい出すと、無言で彼女も俺の後ろを付いてくる。

 そのままバス停前の列に二人で並ぶ。特に会話することもなく、お互い無言のままバスの到着を待った。






「お、来たな」


 それから数分後。ようやく到着したバスに、次々列に並んだ人々が吸い込まれていく。それに続くように俺達も、二人でバスの中へと入った。


 ――うわぁ、人多いな。席空いてねぇ。


 そろそろ日も暮れる時間だからだろうか。バスの中はほとんどスペースも空いておらず、満員に近い状態だ。まだ後ろから入ってくる人もいるため、なるべく奥へ奥へと進んでいく。最終的に、運転席の近くにまで二人とも押し込まれてしまった。


「狭いな……。七泉、大丈夫か? こっちほうがスペースあるけど、交換する?」


 心做しか、隣で息苦しそうにしている七泉に問うた。――すると。


「えっ? ……あの、七泉さん?」


 七泉は無言のまま、こちらに身を寄せてくると、急に俺の右手と手を繋いできたのだ。それも離さないように、かなり力強く握られている。どうしたのだろうか。


「……もしかして、寂しかったのか?」


「……ん」


 短く七泉が答える。


「そっか……。ごめんな、さっきは。相変わらずの鳥頭で、ホント申し訳ないと思ってる。今度からは、ちゃんとメモして忘れないようにするから」


「……別にそれは、許したって言ったじゃない」


 まるで突っぱねるように、七泉がそっぽを向きながら告げた。


「よく言うよ。その度に鳥頭のせいで忘れてたら、毎年このやり取りするんだろ? お互い嫌な気持ちにはなりたくないしさ。俺のほうに非はあるわけだし、ちゃんと覚えられるよう頑張るよ」


「……約束、してくれる?」


「あぁ、もちろん。約束だ」


「言ったからね? 次は私、本気で怒るからね?」


「分かってるよ。これからは気を付ける」


 そう言って俺は、彼女の頭を左手でポンと撫でてやった。


「……えへへ」


 するとようやく、七泉は顔をクシャッとさせて微笑んで見せた。どうやら、やっと許してくれたらしい。


「でも、帰るまではお兄ちゃんと手繋いでたいなぁ。誕生日忘れてた罰ね」


「えっ? ……まぁそれで許してくれるなら、俺は全然構わないけど」


「やった。茜ちゃんには内緒ね」


「……そうだな」


 そんなことを言いながら、二人して笑い合う。なんとか七泉が機嫌を取り戻してくれて一安心だ。

 その後、七泉から直々に下された罰として、俺達は二人で手を繋ぎながら、一緒に家まで帰ったのだった。

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