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アウトドア系男子が、自宅警備員になる方法  作者: たいちょー
ep.15 君が紡いでくれた道
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お騒がせ姉妹

「おーい、お兄ちゃん!」


 ベンチに座って、しばらく休んだのち。そろそろ行こうかとその場から立ち上がったとき。遠くから、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。そんな風に俺のことを呼ぶのは、この世で二人しか存在しない。


「おー。茜、七泉」


「二人とも、ここにいたんだぁ。……なんだか、お疲れ?」


 俺達の元へたどり着くなり、開口一番に七泉が俺達の様子を見て告げた。


「まぁ……ちょうどさっきお化け屋敷に行ってきてね。戻ってきたところだったから、今二人で休んでたんだよ」


「あ、そうだったんだ。……行ったんだね、お化け屋敷」


「えーいいなぁ。私もお化け屋敷行きたかったぁ!」


 そんな話を聞くなり、茜がそんなことを言い出し始める。


「二人は行かなかったの? 結構怖かったけど、楽しかったよ」


「私は行こうって言ったんだけどさぁ。どうしても七泉ちゃんが嫌だっていうから」


「だ、だって! 私そういうの無理だもん……」


「あー、そういえば七泉って、ホラー苦手だったっけ」


 俺が問うと、七泉は無言で頷いた。


「遊園地とかにある本格派じゃないんだし、大丈夫だと思うんだけどなぁ」


 そんな彼女に向かって、茜がそんなことをぼやく。


「そういう問題じゃないの! わざわざ怖い場所だって分かってて行くのが嫌なの!」


「えー、それがお化け屋敷の醍醐味(だいごみ)じゃん! それ言っちゃったら元も子もないよ!」


「楽しくないよ、怖いだけじゃん!」


「その怖いのが楽しいの!」


「意味分かんないよ!」


「おい、二人とも。落ち着けって……」


 また始まってしまった。この二人は普段から仲良しなのだが、それが故によくこうして対立することも多いのだ。

 あの七泉がこうして、面と向かって茜と口喧嘩をできるというのは、良いことなのかもしれない。だがそれにしたって、都度都度巻き込まれるこちらの身としてもなってほしい。






「分かった分かった。じゃあまた今度、遊園地とか行ったときに俺も一緒に行ってやるから。な?」


「実お兄ちゃんも、一緒に来るの?」


「あぁ。三人でならいいだろ?」


「……それならじゃあ、腕引っ張ってくれるなら、別に、いいけど……」


 顔を伏せて、細々と七泉が告げた。


 ――うん……?


 そんな七泉の一言に、なんだか嫌な予感を覚える。


「えー何それ! じゃあ私も手繋いでもらう!」


 早速そんな俺の予感は的中し、すかさず茜が割って入ってきた。


「ず、ズルい! ならやっぱり私も手繋ぐ!」


「それじゃあお兄ちゃんの両手塞がっちゃうじゃんか!」


「なら茜ちゃんは平気なんだから、そっちが我慢すればいいじゃない!」


「七泉ちゃんだけ独り占めは嫌なの!」


「妹なんだから、それぐらい我慢してよ!」


「じゃあそっちも従妹なんだから我慢しなよ!」


「茜ちゃんのほうが、一緒にいる時間長いじゃない! ……」


 ――あれぇ……こうして口喧嘩することはあったけど、俺の取り合いは初めてだなぁ。おかしいなぁ……。


 いつの間にか、どうしてこんな風になってしまったのだろう。茜一人だけでも大変だったというのに、まさかここに七泉も加わってくるなんて。


「分かったわかった! なんでもいいから、一旦落ち着け二人とも」


 いよいよ収拾がつかなくなってきた。なんとかして二人をなだめようと、彼女たちの頭に両手を乗せる。


「……じゃあさ、お兄ちゃんはどっちと手を繋ぎたい?」


「へ?」


 すると茜が突然、そんなことを問うてきた。


「そ、そうだよ! 実お兄ちゃんは、どっちかと言えばどっちなの?」


 それに乗じて、七泉も俺に迫ってくる。


「な、なんだよそれ。別にどっちだって……」


「どっちだってよくない! たった二択だよ? お兄ちゃんは、二択も決められないの!?」


「えぇ……」


 どうしてこんなことになってしまっているのだろうか。そんなことを今ここで決めたところで、何も良い結果は生まれないというのに。

 何か打開策はないかと頭を悩ませる。ふと、そういえばすっかり存在を忘れていたもう一人の女の子の様子を見てみると、彼女は一歩退いた場所で眠たそうに大欠伸をしていた。加えて俺と目線が合うや、両手を広げてお手上げだというジェスチャーをしてみせる。どうやら、自分で解決しろと言いたげだ。


 ――この状況で、どうしろってんだ。まったくもう……。


 結局、自分を救えるのは自分だけだということだ。結論を出さなくても、何か二人を納得させられることを言えばいい。取り敢えずなんでもいいから、黙っておらずに話さなければ。






「まぁ……なんだ。俺にとっては二人とも、大事な妹と従妹だからさ。どっちかなんて、決められないというか」


「えー、何それ」


 俺の返事が気に食わなかったのか、茜が頬を膨らませている。


「でもさ、ほら、逆に考えてみろよ。ということはつまり、どっちとも俺は手を繋ぎたいってことだろ? 寧ろそれで安心して楽しめるなら、俺も喜んで繋ぐし。だから、その……一気には無理かもしれないけど、交替でとか、順番でとか、そういうので……」


「……なんか納得いかないけど、要するに私達どっちとも、お兄ちゃんは手を繋ぎたいってこと?」


「え? あぁ、まぁ。それで二人が仲直りしてくれるなら……」


「そっかぁ。……ま、お兄ちゃんが私と手を繋ぎたいっていうなら、別に順番でもなんでもいいけどさぁ」


 腕を組みながら、うんうんと茜が頷いている。なんだか不思議と、嬉しそうだ。


「じゃあ私、お兄ちゃんと手を繋いでないときは、茜ちゃんと手を繋いでいい?」


「んー? いいよー。じゃあ、七泉ちゃんの番のときは、私も一緒に繋ぐー」


「もちろんいいよー」


 ――ん? それだと結局二人の両手が塞がっちゃうし、本末転倒では?


 おかしいな、俺の両手が塞がるからケンカになっていたんじゃなかったのか? どうしてそれでお互い納得し合っているのかは謎なところだが……一先ずそれで仲直りしてくれるのなら好都合だ。


「じゃ、それで決まりだな。二人とも、あんまりケンカするんじゃないぞ? 仲良くな」


「はぁい」


 まるで親に叱られた子供のように、二人は渋々俺の提案で納得してくれたようだ。あまり大きな揉め事にならずに済み、俺自身も一安心だ。






「……ところで、二人はどこに行ってたの?」


 話がひと段落付いたところで、今度はこちらが彼女達へ問うた。


「そうそう。お兄ちゃん、見てみてー。ほら、七泉ちゃん、さっきの!」


「あ、うん」


 茜が七泉へ呼びかけると、彼女は鞄の中から数枚の色紙を取り出した。

 色紙にはそれぞれ、ケモ耳の少女や傘を差した女子高生が、とても柔らかい画調で描かれていた。


「お、可愛いイラストじゃんか。七泉が描いたの?」


「ちっ、違うよ! 私、こんな柔らかい表現できないし……」


「もー、分かってないなぁ」


 そんな俺の言葉に、呆れた様子で茜が代わりに答える。


「あのね、向こうでデザイン系のゼミの人達が、手書きで描いたオリジナル色紙を売ってたの。で、七泉ちゃんがずっと見惚れてたから、せっかくだし()()()として私がプレゼントしてあげたってわけ」


「へぇ、そうなのか。……ん、待て? 茜、お前いま、誕プレって言った?」


「え? 言ったけど。……もしかして、お兄ちゃん……?」


 みるみるうちに、目の前の二人の表情が青ざめていく。同時に俺も、背筋がまるで凍るように全身に寒気が走った。


「……すまん、七泉。完全に忘れてた……」


「えぇーっ!? ひっどーい!」


 俺が答えた途端、茜が大きな声で叫ぶ。一方で当人である七泉は、まるで落ち込んだように顔を伏せてしまった。


 ――やべぇ。せっかくここまで良い感じで乗り切ってきたのに、ここにきて完全にやらかした。これはもう、どう言い訳しても許してもらえるはずないじゃんか。


「ちょっとお兄ちゃん! もしかして、誕生日の日付も忘れちゃったの!?」


「そ、それは流石に覚えてる! えっと……十一月の、十八日、だったよな?」


「合ってるけど、若干うろ覚えじゃん! 私のときもそうだったけど、どうしてお兄ちゃんってそう鳥頭なのかなぁ!?」


「め、面目ない……」


 こればかりはもう、脳の性質というのだろうか。覚えようと思っていても、すっかり頭から抜け落ちてしまうのだ。

 彼女の言う通り、メモでもすればいいのだろうが、それすらも忘れてしまうから元も子もない。つまるところ、相当努力しなければ改善できないだろうとも思っている。


「もー、七泉ちゃん落ち込んじゃったじゃんか。どうするの?」


「ど、どうするのって言われてもな……」


 文句を言えば、大抵はスッキリしてくれる茜とは違い、七泉は恐らく相当ショックを受けていることだろう。わざわざこの時期に会いに来てくれたのだ。もしかすると、変に期待もさせてしまっていたのかもしれない。


「い、いいよ。茜ちゃん。実お兄ちゃんのことだし、別に怒ってはないよ」


 すると七泉は、苦笑いを浮かべながらそう告げてみせた。……しかしその声は、明らかに笑ってなどいなかった。


 ――あ、これ嘘だ。絶対怒ってる。


 こんな俺でも、女付き合いはそれなりにあるから分かる。しかもこの手のタイプは、後々ケンカになったときに爆発して全てぶつけてくるタイプだ。早いうちにどこかでけじめをつけておかないと、大変なことになるだろう。どうにかしなくては。


「えー、でもいいの? 怒るなら今のうちだよ? 今ならなに言っても許されるよ?」


 七泉の肩を揺らしながら、茜が告げる。


「なに言ってもはおかしいだろお前……」


「お兄ちゃんは黙ってて!」


「はいっ……」


 茜に怒鳴られて、渋々俺は口を閉ざした。


「確かに、忘れられてたことはショックだったけど……。でもお兄ちゃんだって、悪気があって忘れてたわけじゃないんだし。今回は許すことにする」


「今回はってことは、次はないってことだよね?」


「……まぁ」


 そう茜が問うと、七泉は小さく頷いた。


「……だってさ。お兄ちゃん、分かった?」


「分かったよ。来年からは、もう絶対忘れないって約束する。……もちろん、茜も」


「言ったなー? じゃあ来年も私の誕生日忘れてたら、もう絶対、一生許してやんないから!」


「あ、あぁ、言ったさ。もうぜってー忘れねぇわ」


「ほー。果たして本当かなぁ? ま、あんまり期待しないでおくよ」


「……はいよ」


 ――次こそはマジで、絶対許されないよな……。あとでちゃんと、スマホにメモしとこ……。


 そんな、俺のことを煽ってくる茜に対して、俺は何も言うことができずに、ただただ頷くことしかできなかった。






「……さ、さて。そろそろ四時になるし、悪いけど俺は一旦部室に戻るよ」


 腕時計を見て時間を確認すると、俺は二人とずっと後ろで黙り込んでいた本城さんへ向けて告げた。


「あれ、まだサークル終わってないの?」


 茜が問うた。


「最後に、部長と先生からの話があるんだよ。どっちにしろ、荷物も全部部室だからさ」


「あー、そうなんだ」


「あぁ。……そうだ、七泉。今日はこの後すぐに帰れるんだけど、一緒に帰るか?」


 未だ表情が曇ったままの彼女へ、そう呼びかけてみる。


「ん、打ち上げとかないの? っていうか、お兄ちゃん今日自転車じゃないんだ?」


 しかし、彼女が返事するよりも先に、茜が続けて質問を飛ばしてきた。


「あぁ。打ち上げは今度の金曜日の夜なんだよ。で、文化祭の日は駐輪場は全部来客用に使われるから、学生は自転車以外で来いってなってるんだ。だから、今日はバス」


「なるほどねぇ」


「……で、どうする? 茜と一緒に、先に帰ってるか?」


 改めて俺は、黙り込んでいる七泉へ問うた。


「ん……。じゃあ、実お兄ちゃんと帰る。終わるまで待ってるよ」


「分かった。んじゃ、終わったら連絡するよ。そんなに長くないとは思うから」


「……うん」


 そう言って、七泉は小さく首を縦に振った。


「……で。本城さんはどうするの?」


 気が付くと彼女はいつの間にか、ベンチに座り込んでいたようだ。今の今まで、ずっとマイペースにボーっとしていた彼女へ、今度は問いかけた。


「えっ、私ですか? まぁ、結局先輩とは帰る方向違いますし……」


「綾乃お姉ちゃんって、いつもどのバスに乗ってるんですか?」


 ふと、またも茜が会話に割って入ってきた。


「ん、水戸駅行きのバスだよ。そのあと乗り換えだけど」


「あ! じゃあお姉ちゃんは、私と帰ろー? 私も水戸駅に行くんで!」


「いいよ、じゃあそうしよっか」


「やったぁ!」


 茜が嬉しそうに、両手を大きく広げてみせた。


「……じゃ、話は決まったな。取り敢えず俺はもう行くから、ここで解散ってことで」


「はーい。あ、お兄ちゃん! 私ちょっとトイレ行きたいんだけど、場所ってどこ?」


「ん、じゃあ茜も一緒に行くか」


「うん! 行く行く!」


「おっけ。それじゃあ、本城さんとはここでお別れだな。また今度、学食でね」


「あ、はい。また今度です」


 彼女が小さく、俺へ向けて手を振ってくれる。……ふと、彼女が座っている横へ、静かに七泉が座った。


「お兄ちゃん、じゃあ行こ?」


「えっ、ちょ、茜、引っ張るなって!」


 茜に腕を引っ張られてしまったおかげで、七泉と本城さんが何を話そうとしていたのかは分からなかった。仕方なく彼女と歩幅を合わせて、部室がある棟へと向かう。






「……ねぇ、お兄ちゃん」


「ん?」


 隣を歩く茜が、ポツリと呟く。先程までとは違い、やけに真剣な口調をしていた。


「七泉ちゃんのことだけど……。七泉ちゃん、お兄ちゃんに誕生日を祝われるの、凄く楽しみにしてたんだよ?」


「七泉が?」


「うん。『なんて言ってくれるのかな』って、笑って話してたの。あまりにも楽しそうだったから、私もそのときは“忘れてるかもよ”って、敢えて言わなかったんだけど……」


「……そっか。茜も茜なりに、気を配ってくれてたんだな。……ごめん、俺が情けないばかりに」


「本当だよ。……もう誕生日も今週なんだし、それまでに何かしてあげなよ。そうじゃないと、せっかく来てくれたのに、嫌な気持ちで帰しちゃうことになるんだから」


「あぁ、分かってるよ。……わりぃ、いつも色々心配かけて。ありがとうな」


 そう言って俺は、茜の頭を撫でてやった。しかし彼女は小さく「うん」と告げて笑ってみせたものの、いつも以上に喜んではいないようだった。まぁ、それも当然だろう。


 ――何か……なんでもいいから、あいつにしてあげないとなぁ。


 どうにかして、七泉に機嫌を取り戻してもらわなければ。何か良い案はないものかと、俺は頭をフル回転させて、しばらくの間ずっとそのことについてを考えていた。

(余談ですが、一応ここで前章タイトルの回収となってます。いや、ここでかいっ!)

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