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アウトドア系男子が、自宅警備員になる方法  作者: たいちょー
ep.15 君が紡いでくれた道
115/123

度重なる嘘と、垣間見える本音

「はぁ……確かこの階だよ!」


 その後。私達三人は急ぎ足で、演劇サークルの部室がある棟へとやってきた。あとはこの階の奥へと進めば、部室にたどり着けるはずだ。

 そのまま廊下を突き進んでいくと、T字路の突き当りへと出た。廊下が左右に分かれており、このどちらかに進めば部室があるはずなのだが……。


「あれ? えっと……どっちだったっけな……?」


 分かっていたつもりではあったのだが、すっかり部室の場所を忘れてしまったようだ。ぜぇぜぇと息を切らせながら、半年前の記憶をたどり始める。

 確かに以前部室へ来たときは、この辺りまで来たはずだ。ここまでは間違っていないだろう。問題は、この先どちらに部室があったのかが、思い出せないということだ。


「因みに綾乃お姉ちゃん。実際部室には、何度か行ったことあるんですか?」


 そんな私とは打って変わって、全く疲れた様子を見せていない茜ちゃんが、左右をキョロキョロと見ながら私に聞いてきた。


「えぇ……? ううん、四月に一回来たきりだよ?」


「あー、それじゃあ忘れちゃってても無理ないかぁ。なら時間ももったいないですし、一先ず左から行ってみましょうか」


「それも、そうだね……。時間もないし、急ごうか」


 茜ちゃんの提案に、疲れた様子の七泉が乗ると、早速二人は左側の道へと進み始めた。そんな彼女達から少し遅れて、私もその後ろを歩き始める。


「……あれ、本城さん? おーい」


「ふぇっ?」


 ふと、背後から突然私のことを呼ぶ声が聞こえてきた。そんな声につられて、咄嗟に後ろを振り向く。

 するとそこには、普段からは想像もつかないような、茶色いカーディガンを着た村木先輩の姿があった。


「あ、む、村木先輩!」


 今日ようやく、彼と出会うことができた。急ぎ足で私は、彼の元へと駆け寄った。


「よかったぁ。もしかしたら、迷ってるのかもと思って迎えに来たんだ」


「す、すみません。特に迷ってたわけではなかったんですけど……」


「……っていうか、なんか息切れしてる? 急いで来たの?」


「まぁ……はい。ちょっと話し込んでたら、遅くなってしまったので。先輩のこと待たせてるし、急がなきゃと思って」


「そんな、無理しなくてもゆっくりでよかったのに。……でもありがとうね、わざわざ来てくれて」


 そう言うと村木先輩は、ニッと口元を緩めて笑った。――そんな笑顔を見た途端、胸がギュッと詰まるような感覚を覚えた。


「い、いえ……」


 ――ちょっと、何また緊張してるの? やめてようもう、こんなときに。


 いい加減どうして、彼に対してコミュ障を発揮してしまうようになったのだろう。以前まではこんなこと、ほとんどなかったというのに。






「えっと……お昼買ってきてくれたんだよね? ちょっと急がなきゃいけないけど、一緒に食べようか?」


「あ、はい。それは、そうなんですけど……」


「あれー? おーい、綾乃お姉ちゃーん?」


 彼と話していたのもつかの間。またも背後から、私を呼ぶ声が聞こえてきた。どうやら彼女達とは、すっかり行き違いになってしまったようだ。


「ん? ……本城さん、誰かと一緒にいたの?」


 そんな声を疑問に思った様子の彼が、「はて?」と首を傾げる。――しまった。そういえばまだ、彼には私と七泉が和解しているとは伝えていないんだった。


「あっ、いや、それが、その……」


「あ、いたいた! 綾乃お姉ちゃ……って、お兄ちゃん!?」


「うわっ、茜!? お前なんでいるんだよ!?」


 私のことを見つけると同時に、茜ちゃんが声を上げて驚いた。そして同じように、彼女の兄も驚いているようだった。


「はぁ、待ってよー、茜ちゃん……。私、そんなに体力ないんだってば……」


 それから少し遅れて、とうとう体力が限界に達した様子の七泉が、壁を伝いながらこちらに戻ってきた。どうやら向こうで、だいぶ茜ちゃんに振り回されてきたようだ。


「七泉まで!! いや、七泉が来ることは知ってるんだけど……なんで三人一緒にいるんだよ?」


「えーっと……それは……」


 私達三人が一緒にいるのを見て驚く村木先輩に、茜ちゃんは苦笑いを浮かべながらこちらを見てくる。どうやら、フォローを入れてくれと言っているようだ。


 ――っていうかそもそも、私達を二人きりにさせるつもりなら、ここまで三人で来る必要なかったよね? なんか色々面倒くさくなってきた……。


 渋々彼女へ無言で頷き、了承の意を伝えた。


「あ、あのね! まず私は今日、七泉ちゃんから呼ばれてきたんだ。それでね……」


 そのまま私達は、話の通り村木先輩へ少しだけ嘘の内容を吹き込み始める。

 七泉が茜ちゃんのことを誘って、今日やってきたこと。この文化祭で私と七泉は再会し、茜ちゃんのおかげで和解することができたこと。そんな事実とは異なる話を、村木先輩へ話した。

 果たしてそれで納得してくれるかと心配だったが、どうやら彼はすんなりとその話を受け入れたらしく、「あ、そうだったんだ!」と声を上げてみせた。


「それじゃあ茜のおかげで、二人は仲直りできたってことなんだ? いやぁ、よかったよ。この前のことがあったから、どうなることかと心配だったんだよね」


「え、えへへー……。そうだよ、大変だったんだから!」


「そっか。ありがとな、茜。二人のことをまとめてくれて」


「うん!」


 目の前の兄妹二人は、そんな会話を繰り広げてはニコニコ顔で楽しそうにしている。――対して、私の隣にいる七泉はというと。


「……ねぇ。なんかアレはアレで、茜ちゃん一人のおかげみたいになってないかな?」


 と、そんなことを私に小声で問いかけてきた。


「ま、まぁ。一応話としては、そういうことにしようって決めてたわけだし……」


「でもそれにしたって、お兄ちゃんってば茜ちゃんのこと褒めすぎじゃない? なんかズルい」


「あ、あはは……」


 どうやら彼女は、彼に問題児扱いされていたことが気に食わなかったようで、密かにその様子を頬を膨らませながら見ていたのだった。






「……あっ、そんなことよりさ! お兄ちゃん、もうすぐ本番でしょ? 早くお昼ご飯食べちゃいなよ!」


 そんな話をしていたのもつかの間。茜ちゃんは自身の腕時計を確認すると、咄嗟に彼へ呼びかけた。


「おっと、そうだったな。本城さん、買ってきてもらったお昼ご飯は?」


「あ、はい。これです」


 私は彼に、買ってきたお好み焼きの袋を手渡した。


「お。お好み焼きかー。久しぶりだし、いいかも」


「なら良かったです。因みにこのお好み焼き、友達の秋那が作ってくれたんですよ。向こうの広場で、出店やってて」


「そうなんだ。へぇ、上手く出来てるなぁ」


 そんな他愛もない会話を繰り広げている私達をよそに、茜ちゃんが咄嗟に一歩引き下がった。


「……それじゃあー。私達は一旦、ここらでお暇させてもらおっかなー」


 ――あ、ホントに行っちゃうんだ……。


 先程言っていた言葉は、どうやら冗談ではなかったようだ。彼と二人きりになるのは慣れているはずなのに、なんだかそう思うと、不思議と心細く感じてしまった。


「ん、二人はどこか行くのか?」


「どこかっていうか……まぁ、ちょっと小腹空いたし適当に? あ、でもでも、お兄ちゃんの演劇はちゃんと見に行くから!」


「うっ……そういえば、茜にも見られるのか……。なんだかそう思った途端、急にやる気が……」


「なにバカなこと言ってんの! ちゃんとそれ食べて、元気出すこと! いい?」


「じょ、冗談だって。分かったよ」


 半ば冗談には聞こえなかったが、彼は苦笑いで言葉を訂正した。


「それでよし! じゃあ七泉ちゃん、私達は行こ?」


「う、うん。それじゃあ二人とも、また後でね」


「あぁ、また後でな」


「ま、またね……」


 そうして。彼女達二人は本当に、この場を立ち去ってしまった。先程までやかましかった空間が、嘘のようにシーンと静まり返る。


「……えーっと、それじゃあどうしよっか。食べるの、部室でもいいかな?」


 後頭部をカリカリと掻きながら、村木先輩が告げた。


「私は構いませんけど、いいんですか? 部外者が入っちゃっても」


「まぁもう、ほとんどみんな体育館行っちゃってるから。長居はしないし、大丈夫だと思うよ」


「そうですか。なら、早めに行きましょうか。遅刻したら、元も子もありませんからね」


「そうだね、行こう」


 そうして私は、彼の後ろを付いて歩いていく。

 演劇サークルの部室は、この廊下の一番奥にある。突き当りにあるガラス張りの扉は、体育館へと渡り廊下で繋がっており、直接向かうことができるようになっているようだ。

 彼が開けてくれた扉をくぐると、私はじつに半年ぶりに、演劇サークルの部室の中へと入った。






 他の教室とは違い、椅子や机もほとんどなく広々とした白い空間。床には紺のカーペットが敷かれており、激しい動きをしても問題ないようになっている。

 そして何よりも、他の教室にはない独特の香りが、部屋の中を漂っていた。


 ――この香り……やっぱり懐かしい。演劇館の練習部屋も、こんな感じだったっけ。


 サークルの練習部屋でもあるおかげでここは、様々な香りが混ざりあって、独特の香りを醸し出している。特別良い香りではないのだが、この香りは私にとって、無性に懐かしく感じる。


 昔はよく、私も演劇館の練習部屋で、練習に励んでいた。この部屋にいると、そんな当時のことを鮮明に思い出してしまう。

 まるで当時のように、演劇の練習をしに来たかのような――お母さんに叱られながら、何度も何度も演技の練習をしていたのも、こんな香りのする部屋だった。


 ――……やっぱりダメだな。良い思い出もあるはずなのに、悪いことばっかり思い出しちゃう。ネガティブすぎだよ、私。


 嫌気が差してしまった私は、そんな余計な考えを振り解く。

 ふと気が付くと、村木先輩は中に残っていた一人の男性と、何やら話を始めていた。


「だから、彼女じゃねぇっつーの。何度言えば分かんだよお前」


「んなこと言ったって、ずっと一緒にいたらもう彼女のようなもんだろ?」


「いくらなんでも、それは違うと思うぞ……?」


 そう言いながら、村木先輩は呆れの表情を見せた。


 ――なんか私、ここでも彼女と間違われてる……?


 またか……そんな風に思ってしまう反面、恥ずかしさを覚える自分もいた。

 以前までは、恥ずかしさなどあまりなかったはずなのに。今日は何故だか、無性にこの場にいることがもどかしい。やはり最近の私は、どうかしている。


「あ、ねーねーそこの君。実の友達っしょ?」


「ひゃいっ!?」


 ボーっとそんなことを考えていると、突然村木先輩と話していた男性が、私に話しかけてきた。あまりにも突然だったので、変な声が出てしまった。


「ごめんごめん、驚かすつもりはなかったんだけど」


「い、い、いえ! だ、大丈夫です!」


 度重なる恥ずかしさに、思わず大きな声を出してしまった。とうとう恥ずかしさもマックスになり、思わず顔を伏せてしまう。


「そう? ま、いいだけどさ。それより君、あいつのことどう思ってんの?」


「へ!? ど、どうって、どうですか!?」


「いや……『どうって、どうですか』と聞き返されても困るんだけど……」


「はっ、す、すみません……」


 ――あぁもう、なんでそんなこと聞くのこの人……!? ただでさえコミュ障発揮しちゃってるのに、そんなこといきなり聞く? バカじゃないの!?


「おいおい、やめろよ。困ってるだろ?」


 そんな質問に困っていた私を見兼ねて、村木先輩がすかさずフォローに入ってくれた。


 ――あああっ、先輩ありがとう! ありがとおおおっ!


 普段は頼りない彼だが、今この瞬間だけは、なんだかとても頼もしく感じた。……不本意だけど。


「えー、そう? ただ率直にどう思ってるのか、聞いてみたいだけだったんだけど」


「バカ野郎。初対面の相手にそんなこと聞かれて、素直に答えられると思うか?」


「それもそうだけどよー、でも実も聞いてみたくない? この子がお前をどう思ってるのか」


「それは……思わないと言えば嘘にはなるけど」


 ――え。


 心の中で、絶句してしまった。


「だろだろ? だったら聞いてみようって、せっかくの機会なんだし」


「え、え、え? い、言わなきゃ、ダメですか?」


「いいじゃんかー。どうせ二人きりのときは言えないんだし。な?」


「えぇ……」


 ニコニコ顔で、男性がそう告げてみせる。もうこうなってしまったら、何でもいいから言うしか逃げ道がないじゃないか。どうしてくれるんだ。


 ――もうっ、先輩が余計なこと言うから……! このことは絶対根に持ってやる……。


「わ、私は……」


 生唾をゴクリと飲み込んで、何を言おうか即座に考える。

 一瞬正直に言おうかとも考えたが、これ以上言うと恥ずかしさで死んでしまいかねない。――ここは少し、“以前の私”に頼るしかない。


「……だ」


「だ?」


「だ――大っ嫌いです」


「……え」


 彼は素っ頓狂な声を上げた。


「だってそうじゃないですか。あり得ないぐらい鈍感だし、超大バカの鳥頭なせいで、大事なことはいつも絶対忘れてるし、陰キャのことをことごとく下に見てバカにするし。


 あとこっちは大切なもの失くして困ってるっていうのに、自分はお昼ご飯食べた後に行くって言って、全然協力しようとしてくれなかったし。中年親父かってぐらいネットには疎いし、急に一緒に夏祭り行こうとか、ナンパみたいなことしてくるし」


「え、あの……本城さん……?」


 勢い任せでつらつらと語る私に、村木先輩が呆気にとられながら呟く。しかし、それでもまだ“以前の私”は、止まることを知らない。


「それに、寝てる私の頬っぺた突いて喜んでて気持ち悪いし、友達だからって馴れ馴れしく隣の席座ってこようとするし、妹の誕生日プレゼントを女々しく私に相談してくるし。


 あとすぐ心配かけないように嘘吐くし! 超絶お節介でいつもしつこいぐらい焼いてくるし! 全然私の気持ち分かってくれないし! とにかくもう、色々大っ嫌いなんです!!」


 そんな言葉を大声で叫んだところで、“以前の私”の悪口大会はフィニッシュを向かえた。演劇サークルの部室に、そんな私の声が虚しく木霊する。

 語り終わったのもつかの間。私がハッとした頃には、村木先輩は酷く落ち込んだ様子で、しょんぼりと突っ立っていた。


 ――うわ……なんか色々と言いすぎちゃった。大丈夫かな……?


「あ……あはは、そうなのか。ま、まぁ、君がどんだけ実のことを知ってるのかはよく分かったわ」


 彼は苦笑いを浮かべると、瞬間私には聞こえない大きさで、村木先輩に向かってボソッと呟いた。恐らく何か、励ましの言葉でもかけているのだろう。


「突然、悪かったな。それじゃあ俺、先に行ってっから。実も、早めに来いよ? ほんじゃ!」


 すぐさま急ぎ足で扉の近くまで行くと、彼は右手を挙げながら逃げるように部室を出ていってしまった。

 あの様子だと、きっと彼は私以外にもあんな調子なのだろう。村木先輩があのようなタイプと一緒にいるのも、なんだか分かるような気がした。






「あ、あの……村木先輩……?」


 とうとう本当に、部室に二人きりとなってしまった。私のせいで落ち込んでしまった彼に、慌てて声をかける。


「……いや、うん。分かるよ、確かに本城さんが言ってたことは全部、俺が悪いんだよね。ごめん……」


 いつも以上に小声で細々と彼が告げる。どうやら冗談抜きで、本気で落ち込んでしまっているようだ。


 ――そうだった。この人意外と、メンタル弱いほうなんだった。どうしよう……。


「あいや、えっと……私こそごめんなさい! 急にあんな風に言われて、なんて言えばいいか分かんなくなっちゃって……思わずその、前の私が出ちゃったっていうか、なんていうか……」


「ううん、いいよ。本城さんのことは、ちゃんと分かってるから。……でもまぁ、いざ言われると、まぁまぁ心にくると言うか、なんというか……あはは」


 彼が苦笑いを浮かべる。そんなことを言われたって、こちらとしては嬉しさよりも申し訳なさが勝る。


 ――だ、ダメだ。もうこうなったら……恥ずかしいけど、言うしかない。


「……もちろんそりゃあ、嫌だなって部分も偶にあったりはしますけど……。でも、その、本音を言うと……村木先輩と一緒にいると、今は凄く楽しいんです。話題こそ合わないけど、ノリは合うし、雰囲気も好きだし、話してて苦じゃないし……」


 そこまで言って、彼のことをチラッと見る。彼は私のことを、いつにもなくまじまじと見つめていた。思わず恥ずかしくなって、視線を逸らしてしまう。


「前なら絶対思えなかったけど、今は思うんです。――村木先輩と友達になれて、よかったなって。これは嘘じゃなくて、ホントのことです」


「本城さん……」


「だ、だから、えっと……さっきのは、ほとんど嘘ですから。……何個かだけ、ホントのこともありますけど……」


「……ふっ、ふふ、あはは! そういう正直なところも、本城さんらしいや」


 すると村木先輩は、楽しそうにクスクスと笑ってみせた。どうやら、元気になってくれたようだ。


「ありがとう、そう言ってくれて。嬉しいよ。俺も本城さん友達になれて、ホントに良かったと思ってる」


「そう、ですか」


「うん。まぁさっきみたいのは、流石にメンタルにくるけど……でも、それも含めて本城さんだから。――ちゃんと分かってるから、平気だよ。だから、あんまり気にしないで」


「……はい。ありがとうございます」


 そんな彼の言葉にホッとする。思わず安堵して、私は胸をなでおろした。






「……あ、やば。もう二時過ぎちゃった! 急いで昼飯食わなきゃ!」


 ふと、自身の腕時計を見た途端、彼が驚愕の声を上げた。マズい、本番は二時十五分からだったはず。もうほとんど時間が残っていないじゃないか。


「嘘!? ちょ、先輩、急がなきゃ!」


「あぁ! ……あ、そっちの席に座っちゃって。この机使っていいから」


「はーい!」


 村木先輩に指示された椅子に座って、急いでお好み焼きを取り出す。買ってからかなり時間が経っていたおかげで、すっかり熱も冷めてしまっていた。


「そうだ、さっきはごめんな。あいつ、俺の高校からの友達で、黒澤って奴なんだけど……」


 お好み焼きを一口食べながら、村木先輩が告げる。


「あの人、ずっとあの調子なんですか?」


「あぁ。結構な女ったらしでさ。付き合ってる彼女とは仲良いんだけど、あいつがあの性格だから、ちょいちょいケンカばっかしてるらしい」


「でしょうね。村木先輩とはまた違った意味で、放っておけない男って感じです」


「……ん? それはどういう意味?」


「そのまんまですよー。……あ、このお好み焼き美味しー」


 私の言葉を聞くなり、意味が分からんと言いたげな表情で彼が首を傾げる。

 当然だろう。先程私が自棄になって言った言葉の意味を、彼は全く分かっていないぐらい鈍感なのだから。


 ――ホント……私の気持ちなんて、全然分かってないんだから。


 私は村木先輩と出会ったことで、人生が百八十度変わった。まだまだ不甲斐ない部分も多いが、それでも私は彼のおかげで、少しずつ前を向いて生きることができるようになった。彼には、感謝してもし切れないぐらいだ。

 だが今は、もう少しだけ“以前の私”にも頼ることになるだろう。この不器用な関係が、今の私にはちょうどいい。


 静けさが残る演劇サークルの部室で、彼と談笑しながらお昼ご飯を食べる。

 いつもとは全く違う風景のはずなのに――隣に彼がいるというだけで、私は不思議と安心することができた。

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