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アウトドア系男子が、自宅警備員になる方法  作者: たいちょー
ep.15 君が紡いでくれた道
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まだ見ぬ新しい窓を開けて

 そうして私は、まるで双子のような二人に引き連れられながら、出店が並ぶ広場へとやってきた。ここでは主に食べ物の出し物が多く並んでおり、昼下がりだというのに、広場にはまだまだ人盛りができていた。


「うわぁ、もう一時過ぎたのに人多いですねぇ」


 私の前を歩きながら、茜ちゃんが告げた。


「でも見た感じ、学生さんが多そうだね。多分、今が休憩時間の人が多いんじゃないかな」


 それに続いて、彼女と並んで歩く七泉も告げる。


「そういえば綾乃お姉ちゃん。お昼買うって言ってましたけど、何かお兄ちゃんからリクエストとかあったんですか?」


「えっ? ……あ、そういえば何も聞いてなかったな……」


 茜ちゃんに言われて思い出した。こっちが奢ると言った身なのに、彼の意見を全く聞いていなかったのだ。これじゃあ私が買ってきたものを、強制的に食べさせるようなものじゃないか。


「あちゃー、そうなんだ。じゃあ何か、実お兄ちゃんが好きそうなものがあればいいんだけど……」


 そう言いながら、七泉が辺りをキョロキョロと見回す。


「茜ちゃん、妹でしょ? 実お兄ちゃんが好きそうなものとかないの?」


「えー、うーん。あの人、コーラが好きなイメージしかないなぁ……。昔から中毒みたいにコーラだけは飲んでるんだけど、他は特別好き嫌いはなかったりするから」


 そんな茜ちゃんの言葉に、ギクリとしてしまう自分がいたのはここだけの話だ。


「そ、それじゃあさ。さっきの学食のハンバーガーでも買ってこようかな。いつも私達、二人で食べてるわけだし」


 そんな二人に、私はそんな提案を投げた。


「でもそれっていつも食べてるわけだし、わざわざ文化祭でも選ぶのは味気なくないですか? せっかくの機会なんですし、偶には違うものを食べるのも、私はいいと思いますけど」


 しかしそんな案は、茜ちゃんに全否定されてしまった。


「そ、それもそっか……」


「……ま、つまりは綾乃ちゃんが選んだものなら、なんでも喜んでくれるってことでしょ? それなら、綾乃ちゃんが『これだ!』ってものを選びなよ」


 そんな私達の議論を全てぶっ壊すように、七泉がそんな一言で一蹴してみせた。そんなことを言ったら、話が元も子もなくなってしまうではないか。


「えっ……私が選ぶの?」


「そ。大丈夫だよ、実お兄ちゃんなら喜んでくれると思うから」


「そうかなぁ……? 私、村木先輩の好き好みとかあんまり知らないし……」


「じゃあ、これから知っていけばいいじゃない。きっとこれからも、長い付き合いになるんだろうしさ」


 そう言って、七泉が私の背中をポンと押してみせた。


 ――なんか、もう私達が付き合うこと前提で話が進んじゃってるけど……ホントにこれでいいのかな……?


「わ、分かったよもう。このままじゃらちが明かないし、そうするね」


「うんうん。じゃあ早速行こー」


「おー!」


 七泉と茜ちゃんの掛け声に後押しされながら、今度は私が先頭に立って歩き始める。人混みの中、二人とはぐれないように、何か良いものはないかと探し始めた。






 ――っていうか、私もお昼ご飯食べてないから、お腹減ってるんだよなぁ。もうこの際、私が食べたいものでもいいかな?


 いくつも並ぶ出店たちを一つ一つ見回しながら、何かお腹が膨れそうなものがないかを探す。たこ焼きにパンケーキ、焼きそばと、なんとなく味の想像がつきそうなものばかりが並んでいた。


「……あ、お好み焼きかぁ。お好み焼きもいいなぁ」


 一通り全ての出店を見回して、最後に見えたお好み焼きの出店。それとなく他に比べて人盛りも少ないことから、あまり売れていないものと見受けられた。

 お好み焼きなら私のお腹も膨れるし、彼も満足できるだろう。関東では普段あまり食べるようなものでもないことから、口も慣れていないし丁度いい。


「……あれ?」


 ふと、そんなお好み焼きの出店の中にいた人物を見たとき。私の口から無意識のそんな言葉が出た。


「? どうしました、お姉ちゃん?」


 そんな私を見て、すかさず茜ちゃんが問うてくる。


「あ、うん。ちょっと友達がいてね。……おーい、秋那」


 説明は後ですることにして、私は中で作業をしていたエプロン姿の彼女に呼びかけた。すると彼女はこちらを見るなり、嬉しそうに身を乗り出してこちらにやってくる。


「綾乃じゃん! 文化祭来てたんだ!」


「秋那こそ。文化祭の出店やってたんだね」


「そうそうー。綾乃には言ってなかったんだけどさ。私、編み物の同好会入ってるんだよね。で、担任の先生が関西出身でさー。たこ焼きとかお好み焼きの作り方は、めちゃくちゃ叩きこまれてるってわけ」


「へぇ、そうだったんだね」


「……それで? そっちの二人は……妹か何か?」


 秋那は私の後ろに立っていた二人を見て、そんな風に問うた。


「あーいや、ちょっと説明が面倒なんだけど……。ほら、この間紹介した村木先輩っていたでしょ? その妹ちゃんと、従妹の子なの」


「こんにちはー!」


「こ、こんにちは」


 私が紹介をするなり、二人はそれぞれ秋那に挨拶をした。


「え、へー……。なるほど、もう既に親族交流はできてるってわけね」


 私の説明を聞くなり、秋那は不気味にニヤリと笑ってみせる。……なんだか、嫌な予感がする。


「別にそんな、変な意味じゃないけど……。ただまぁ、色々あって、なんというか……」


「つまりー、要するに、家族ぐるみで仲良しってことっしょ?」


「う、うーん。別にご両親と会ったことがあるわけではないけど……」


「まぁまぁいいじゃないの! そんなことよりさ、よかったらお好み焼き買ってってよ! ウチ他に比べて売れ行きよくなくてさー、お願いっ!」


 そう言うと秋那は、両手を合わせて私に頼み込んできた。出店の様子を見てなんとなく感じてはいたが、どうやらその通りのようだ。


「あ、うん。構わないよ。寧ろいま、村木先輩とお昼食べるってなってて、何買おうか迷ってたところなんだ」


「ほう? それは聞き捨てなりませんなー。何々、やっぱり文化祭デート?」


「ち、違うよ! 他に二人いるんだし、見たら分かるでしょ!?」


「でもでもー、綾乃お姉ちゃんがお兄ちゃんのところ行くときには、私達お邪魔虫は喜んで別行動しますよー?」


「えっ?」


 後ろから突然、茜ちゃんがそんなことを言ってみせた。


「うんうん。やっぱり仲良し二人の間には、私達はお邪魔だろうしね」


「ねー」


 続けて七泉もそんなことを言っては、茜ちゃんと顔を見合わせてみせる。


「……だってさ。やっぱりデートじゃん、お前」


「うぅ……三人とも!!」


 存分にからかってくる三人に向かって、私は思わず大声で叫んでしまった。しかしそれでも三人は、楽しそうにケラケラと笑っている。

 今まではこんな風に、あまりイジられるような体質ではなかったはずなのだが……どうして私はいま、こんな境遇に陥っているのだろう。恥ずかしさのあまりに私は、みんなから顔を背けてしまった。






「ほい、お好み焼き二人分ね」


「……ありがと」


 秋那からお好み焼きが二パック入れられた袋を手渡されると、私はふて腐れながら小声でお礼を呟いた。


「んじゃま、後でどうなったか話聞かせてよ。私も気になるし」


「なんでまた……」


「いいじゃんかー。秋那おばちゃんに、青春話聞かせておくれよー」


 そう言いながら、秋那が私の肩をポンポンと叩いてくる。


「わ、分かったよっ! 話せばいいんでしょ、話せば」


「そーそー、素直でよろしい。綾乃はちょっぴり頑固なくらいが、一番可愛らしいと思うよ」


「何それ……」


「アドバイス。デートのときにも使いなよ。……彼を落とすためにも、ね」


 そう言いながら、秋那はウィンクをしてみせた。


「はいはい……。それじゃあ私、そろそろ行くね。先輩のこと、待たせてるから」


「あいよー! またね、綾乃。頑張って!」


「うん……。秋那も接客、頑張ってね」


「ありがとう!」


 そんな言葉を置き去ると、いつも以上に調子に乗った秋那の元から、私は一目散に立ち去った。ようやく彼女のテリトリーから出ることができて、一息を吐く。

 出店が立ち並ぶ広場を出ると、私達は演劇サークルの部室がある棟へと向かい始めた。


「それにしても、綾乃お姉ちゃんにあんなお友達がいるなんて、なんか意外です」


 ふと、私の後ろを歩く茜ちゃんが唐突にそんなことを告げた。


「ん、そうかな」


「はい。綾乃お姉ちゃんとは見た感じ正反対でしたし、よく仲良くなったなぁって感じが見ててしました」


「……そうかもなぁ。確かに前まではお互い、顔を合わせる度に悪口言い合ってた仲だったから」


「えっ? それなのに今は、あんな風に仲良しになったの?」


 すかさず七泉が驚いた様子で、会話の中に入ってくる。


「うん。ちょっとまぁ、秋那に色々あってね。あの子には悪いから、詳しくは言えないんだけど……」


 果たして、どこまで言っていいものか。聞いたところによると、秋那の一件は一部のネットニュースにも、軽く取り上げられたらしい。それを軽々しく、彼女のいないところで話すわけにはいかない。


「……少し前に、あの子が事件に巻き込まれちゃってね。困ってるみたいだったから、流石に私も放ってはおけないと思って、声をかけたんだけど、断られちゃって。……その後に、それを凄く後悔したんだって。それで次に会ったときに、向こうから謝ってきてくれて、なんとか和解できたって感じなんだ」


「へぇ……大変だったんだね、あの子」


「うん。この間まで凄く大変だったはずなのに、もうすっかりあんな風に笑えるようになったんだから……やっぱりあの子は凄いよ」


 あの事件が解決してから、まだ一ヶ月経っていない。それなのに彼女はもう、元の生活に戻ってきては、あんな風に笑顔でいられている。

 なんだかんだと腹が立つ部分もあるが、そんな彼女を私はとても尊敬しているのだ。


「きっとお姉ちゃんが声をかけてくれたから、あの人も嬉しかったんだと思いますよ。そういうときって、誰かが寄り添ってくれるのが、凄く嬉しかったりしますから。お姉ちゃんの優しさがあったから、仲直りしようって思ってくれたんだと思います」


 茜ちゃんが微笑みながら告げた。


「……そうだと、いいんだけどな」


「えへへ、きっとそうですよー! それに私だって、お兄ちゃんから話を聞いたときに、『この人なら大丈夫そう』って感じたから、お友達になりたいって思ったんですよ?」


「えっ? な、なに急に」


「言葉の通りですよー。お兄ちゃんって、超鈍感の鳥頭野郎だから、並の女の子じゃ支え切れないと思うんです。妹の私でさえ手一杯なんですから、他の女の子なんて以ての外じゃないですか。あんな人を支えられるのは、お兄ちゃんと引けを取らないぐらいお節介で、諦めの悪い人じゃないといけないと思うんです」


「……なんか、褒められてるのかバカにされてるのか分かんないんだけど」


「褒めてるんですよ! ちょっと言い方は悪いかもしれないけど……。でもでも、あのお兄ちゃんのお節介に付き合うどころか、相談に乗ってくれたりもして、優しい人もいるんだなぁって思ったんです。だからこそ私は、お兄ちゃんに『会ってみたい』ってお願いしたんですよ」


「そ、そうなんだ……。なんか、そう言われると照れくさいな……」


 そう改めて言われると、どんな顔をすればいいのかが分からない。褒められ慣れていないせいで余計だ。


「それを言ったら、私だってそうだよー? 前にも言ったとは思うけど、実お兄ちゃんがあれほど大事にしてるなんて、どんな人なんだろうと思って会いに行ったんだから」


 それに便乗する形で、七泉もそんなことを言ってみせる。


「そういえば七泉、ずっと校門の前で待ってたって言ってたけど……もし会えなかったら、どうしようと思ってたの?」


「その時はその時だよ。会えたらいいなーってだけで、まさか本当に会えるとは思ってなかったし。それに正直言うと、お昼からずっと立ってたせいで疲れちゃってたし、あれからあと十分くらい会えなかったら、帰ろうかなって考えてたんだよ? 本当に奇跡だったんだから」


「そうだったの? そりゃあまた……凄い偶然だね」


「でしょ? でもそのときは、ただ会って話してみたいなって思っただけで、まさかあのまま綾乃ちゃんとこうして友達になれるとは、思ってなかったから……。ある意味私も、さっきの友達みたいに偶然できた関係なのかもしれないね」


「あはは、そうかもー」


 七泉に言葉に、茜ちゃんが笑って納得の声を上げた。


「そっか。……なんか、不思議な感じだな」


「うん、何が?」


 私の呟きに、七泉が首を傾げる。


「……ちょっと暗い話でごめん。私ね、小学生の頃からずっと周りに省かれてて、友達と呼べる人は幼馴染の一人しかいなかったんだ。私には兄弟も従兄弟もいないし、家族もおじいちゃんとおばあちゃんしかいなくて、ほとんど一人で生きてきたからさ。今こうして、友達と一緒に文化祭にいるんだと思うと、凄く不思議な気分なんだ。……なんか、私なんかがいいのかなって」


 私の話を聞いた途端、二人は黙り込んでしまった。分かってはいたが、やはりしんみりとしてしまったようだ。






「そうだったんだね。……ねぇ、綾乃ちゃん。『ジョハリの窓』って知ってる?」


 ふと、七泉がそんなことを私に問うた。


「ジョハリ……? ううん、知らない」


「『ジョハリの窓』っていうのはね。主に心理学で使われるものなんだけど……自分の性格や特徴を、大きく四つの窓で分けるっていう手法なんだ。これを使うことで、自分のことをもっと知ることができるの」


「へぇ……というと?」


「えっとね。まず一つが『自分も他人も知っている窓』だね。例えばこれは、綾乃ちゃんで当てはめてみると、“可愛い”とか、“ちょっぴり頑固”なところとかかな」


「ふぇっ!? ちょっと、急に可愛いとか言わないでよ……」


 そんな私の反応を見て、二人がクスクスと笑った。


「ごめんごめん。ちょっと反応が見てみたくって」


「もう……」


「でね。次に二つ目と三つ目に『自分だけが知っている窓』と『他人だけが知っている窓』があるんだ。これも分かるよね?」


 七泉の問いかけに、私は無言で頷いた。


「で、最後の四つ目が『自分も他人も知らない窓』だね。これはどう考えても答えは出てこないから、難しいところなんだけど……きっと誰にだって、そういう部分はあると思うんだよね」


「それはそうかも」


「うん。そしてこの四つの窓に、自分のことをそれぞれ当てはめていくの。そうすることで、もっと自分のことを知ることができるって手法なんだ」


「そうなんだ。……それで、その『ジョハリの窓』がどうかしたの?」


 その説明を聞いても、イマイチ七泉の言いたいことが分からない。思わず私は、彼女へ意図を聞いてしまった。


「そうだねぇ……。簡潔に言うなら、綾乃ちゃんは『自分も他人も知っている窓』の内容が少なすぎる、ってことかな」


「……あー」


 その一言で、ようやく七泉の言いたいことがなんとなく理解できた気がする。


「もっと言うと、『自分だけが知っている』ことと『他人だけが知っている』ことにも偏りがあるようにも見えるし、『自分も他人も知らない』ことも多い感じがするんだ。それに加えて綾乃ちゃんって、きっと周りからのマイナス評価ばかり気にして、プラスの評価はほとんど分かっていないでしょ? なんだかそれって、凄くもったいないと思うんだ」


「だねー。せっかくお姉ちゃんは良い人なのに、自分も周りも分かってないのって、凄くもったいないと思う!」


 七泉の言葉に、茜ちゃんが強く賛同してみせた。


「だからね。その幼馴染の人や、実お兄ちゃんって、綾乃ちゃんの知らない部分を見つけてくれる、重要な人物だったってことなんだよ。お兄ちゃんのおかげで私達は、綾乃ちゃんと友達になることができたし、まだ出会って日は浅いけど、良い人だなって思ってる」


「七泉……」


「“他人からの評価”って、凄く重要な要素でしょ? 本当に救いようのない人だったら、絶対お兄ちゃんも良いようには言わないだろうし。――だから、何が言いたいかって言うとね」


 そこまで言うと七泉は、立ち止まって私の右手を両手でギュッと握ってみせた。


「今度は私達も一緒に、綾乃ちゃんの知らない部分をいっぱい見つけてあげる。良いところも、悪いところも、それを含めて綾乃ちゃんだもの。良いところは伸ばせばいいし、悪いところは直せばいいの。何も気に病むことはないから――私達はもう、ちゃんと君の友達だからさ、『私なんか』なんて寂しいこと言わないで。君だからこそこうやって、私達も一緒にいたいと思えるんだから」


 そう言って七泉は「ね?」と呟きニコッと笑ってみせる。そんな彼女の笑顔を見るなり、私の心にはじんわりと温かさが滲んでいった。


 ――私だから……か。そっか……私だから七泉はこうして、友達として一緒にいたいって思ってくれたんだ。


 そう思った途端、涙腺に嬉しさがこみ上げてきた。それを溢れさせないように、必死にグッと堪える。


「あー、ズルい! 綾乃お姉ちゃん、私も同じ気持ちだよ? お姉ちゃんだからこそ、こうして一緒にいるんですから!」


 すると横から、茜ちゃんも私の右手を握ってきた。


「二人とも……。そっか、ありがとうね。そう言ってくれて、凄く嬉しい」


 とうとう我慢の限界に達した嬉しさが、目に滲み出してきたようだ。それを隠すようにそっぽを向きながら、袋を持った左手で拭う。


「あー、お姉ちゃん。ちょっと泣いてるー」


 しかしそれも容易くバレてしまい、茜ちゃんに指を差して笑われてしまった。


「う、うるさいなぁ。二人がそんなこと言うからでしょ?」


「えへへ、ごめんね。……でも綾乃ちゃんが、そんな風に言ってくれて、私も嬉しいよ」


 そっと手を離しながら、七泉が告げた。


「そ、そう?」


「うん! 凄く怖くて不安だったけど、あのとき勇気を出して綾乃ちゃんに会いに行って、良かったなぁって思ったよ」


「そっか……」


 ――やっぱり七泉、あのとき凄く不安だったんだ。


 私の予想通り、あのとき七泉は相当不安を抱いていたようだ。だがそのおかげで、こうして友達として今は仲良くできている。それもこれも、彼女の勇気のおかげだろう。


「なんかもう、色々頭の中ごちゃごちゃだけど……二人とも、ホントにありがとう。えっと……なんか照れくさいけど、これからもよろしくね」


「もちろん、こちらこそだよー」


「私も! これからもお兄ちゃん共々、よろしくです!」


 そうして。三人で改めて、そんな照れくさい挨拶をし合う中――そんな茜ちゃんの一言で、私はすっかり忘れていたことを思い出した。


「……あっ! そうだいけない、村木先輩のことすっかり忘れてた!」


「あ、そういえばそうだった!! いま何分!?」


 途端に三人であたふたしながら、茜ちゃんが腕時計で時間を確認する。


「あわわ、もう一時半過ぎちゃってる! お姉ちゃん、急がなきゃ!」


「うっそ! マズいマズい、急ごう!」


 今の今まで、クサい話をしていたのが嘘のように、私達は急いでその場から走り出した。

 村木先輩が出る演劇が始まるまで、もう残り少ない。申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、急ぎ足で私達は演劇サークルの部室がある棟へと向かった。

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