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アウトドア系男子が、自宅警備員になる方法  作者: たいちょー
ep.15 君が紡いでくれた道
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怒れない女

 それからしばらくの間、私達はいつもの学食でお昼ご飯を食べながら(私は食べてないけど)、雑談に耽っていた。

 二人もハンバーガーを食べ終わり、そろそろ移動しようかという雰囲気の中。茜ちゃんが立ち上がりながら、その一言告げた。


「そういえば、お兄ちゃん達の演劇って、何時からだったっけ?」


「えーっと……確か、この後二時十五分からだったはずだけど。……今って何時?」


 七泉が告げると、茜ちゃんが左腕に付けた腕時計を確認する。今の今まで気付かなかったが、兄妹そろって同じように腕時計を身に付けているのも、お互いブラコンとシスコンである二人らしい。


「……えっ、もう一時過ぎてるよ? 綾乃お姉ちゃん、まだお兄ちゃんから連絡来てないんですか?」


「えっと、ちょっと待ってね」


 すぐに私はトートバッグの中から、スマホを取り出した。しかし、彼からの新しいメッセージはまだ、届いてはいなかった。


「まだ来てないや。……忙しいのかな」


「もうっ! 忙しいとか、そういう問題じゃないじゃないですか! お兄ちゃんのほうから誘ったのに、なんでその本人がまだ来ないの!? その上何も連絡寄越さないなんて、あり得なくない!?」


 私の返事を聞くなり、茜ちゃんが両手を机に叩きつけながら言葉を荒げる。


「あ、あはは……実お兄ちゃんらしいといえば、らしいけど……。じゃあ綾乃ちゃんのほうから一回、連絡してみたらどうかな?」


 そんな彼女を見て苦笑いを浮かべながら、七泉がそんな提案をする。


「あーっ、ダメダメ! メッセだけじゃ絶対見ないから、電話しましょ電話! 一回怒鳴らないと、あの人絶対分かんないから!」


 しかし、すかさず茜ちゃんが口を挟む。どうやら彼女は、私以上にお怒りのようだ。


「で、電話と言われても、ホントに今は忙しいのかもしれないし……」


「いいんですよ! 誘ったのは向こうなのに、謝罪もなしでずっと作業してるんでしょ? おかしいじゃないですか! そんなの、こっちは怒って当然ですよ!」


「そ、そうなのかなぁ……?」


「そうですよ! お姉ちゃんは優し過ぎるんです! 思ったことはハッキリ言っていかないと、特にお兄ちゃんみたいな鈍感男はずっとあのままになっちゃいます!」


「そういうもん、かな……?」


「そういうもんです!」


 私を真正面で見つめながら、茜ちゃんが大きくハッキリと告げた。


 ――なんか同じようなことを、この間桐野さんも言ってた気がするなぁ……。


 彼も確か、女は男にハッキリとモノを言わないとダメだ、みたいなことを言っていた。加えて今、茜ちゃんも同じようなことを言ってくれている。

 私としては正直、怒ること自体あまり気乗りはしないのだが……なんだかこれは茜ちゃんの言う通り、電話をしないといけない流れになる気がする。


「だったらほら! 早くしないと、時間なくなっちゃいますよ! 早くしないと!」


「わ、分かったよ。じゃあちょっと、電話してくるね……」


「そうしてください! 私達は、ここで待ってますから。お兄ちゃんに、ドンと言っちゃってくださいよ!」


「う、うん……」


 渋々私は立ち上がると、荷物を持って一人学食を出た。






 学食の自動ドアの横。ちょうど屋根で日陰になっている建物の壁に背を任せながら、スマホを操作する。彼の連絡先から、あと一つ操作すれば発信できるところまで画面を開いた。


 ――とは言ってもなぁ。普段あまり電話なんてしないし……。正直電話って、掛けるの苦手なんだよなぁ……。


 最近では、“電話恐怖症”なる言葉があるらしい。特に若者のに多くみられるもので、電話を掛けたり取ることに恐怖を覚えることを言うのだそうだ。

 もちろん陰キャである私も、その恐怖症を持つ一人だ。いざ電話を掛けようとすると、どうしても頭の中で会話のシミュレーションを何度も何度も繰り返してしまい、結局掛けるのが怖くなってしまうのだ。

 その点、どうして陽キャは知らない人を相手にも、平気で電話を掛けることができるのだろう。私には、友達にすら電話を掛けることが怖いというのに。


 ――と、とにかく。ああ言っちゃったし、電話掛けなきゃダメだよね……。


 生唾をゴクリと飲み込んで、発信ボタンを押す。スマホをゆっくりと右耳へ近付けながら、彼が電話に出るのを待った。


「……あ、ほ、本城さん!」


 たっぷり6コールほど溜めこんでから、ようやく彼が電話に出てくれた。そんな第一声からは、焦った様子が垣間見える。


「っ! あ、あの、村木先輩……」


「ごめん! 誰かに代わってもらおうと思ってたんだけど、みんな昼飯食べに行ったきり全然帰ってこなくて……。もう午後の部まであんまり時間もないし、結局俺と何人かでずっと作業してたっていう感じで……」


 私の言葉を遮りながら、半ば興奮気味に彼が告げる。どうやら向こうも、よほど心配していたようだ。


「あ、そ、そうだったんですね」


「だからその、申し訳ないんだけど……。一緒に回れるのは、演劇が終わってからになると思う」


「そうですか……。わ、分かりました」


「うん……」


 スピーカーからは、奥ほうで何かをカッターで切るような、鈍く鋭い音が聞こえてくる。私達の会話は少しの間、まるでそのカッターに切られたかのように、バッサリと途切れてしまった。


 ――ど、どうしよう。怒れって言われたけど、どう切り出せばいいの? なんかお互い黙り込んじゃったし、ここから怒りだすの結構キツイんだけど?


 とはいえ、このまま何も言わずにハイハイとだけ頷いて、通話を切るわけにもいかない。なんでもいいから、話さなければ。


「あ、あのっ。村木先輩」


「ん?」


「その……ずっと作業してて、忙しかった感じですか?」


「え。まぁ、うん」


「それって、その、少しの間スマホも触れなかったぐらいですか?」


「それは……流石にそこで『うん』と言ったら、嘘にはなるけど……」


「……じゃあ、その……せめて、一言ぐらい、『遅くなる』って連絡、欲しかった……です」


 緊張のあまりに、震えた声で細々とした言葉になってしまった。

 必死に頭の中で考えて、絞り切った言葉がそれだった。果たしてこれが、彼にとって怒られていると思われるかは疑問だが、多少でも私の気持ちを分かってほしいところだ。


「……そうだよね、ごめん。また連絡するって言ったのに、一時間近く何も連絡できなくて」


 それを聞いた村木先輩は、ワントーン落とした調子で小さく呟いた。どうやら私が思っていた以上に、罪悪感を感じさせてしまったようだ。


「あ、そ、そんなっ。別に、そこまで怒ってるわけではないんですけどっ! ただその、一言くらい欲しかったなーってだけで」


「ううん。俺が言ったことを守れなかったのが悪いよ。今回、誘ったのも俺のほうだし。本城さんが怒るのも当然だよ」


「いや、えっと……」


 ――ああもう、こういうときどうすればいいの? 傷付けるつもりなんてなかったのに、先輩ってばめっちゃ落ち込んじゃってるし……。


 あたふたと周囲を見回しながら、何か打開策はないものかと考える。


 ――……そうだ! それで一か八か聞いてみよう。これでダメだったら……も、もう知らない!


 そして、つい先程彼が言っていた言葉を思い出した私は、一か八かでその口実を口にした。






「それじゃあ、その、村木先輩。……お昼ご飯って、もう食べました?」


 通話越しだというのに身構えながら、私は彼の言葉を待った。


「ううん、まだだけど……。あとちょっとで終わるから、適当に何か買って食べようと思ってたとこ」


 そんな彼の言葉を聞いて、私は心の中でガッツポーズをした。


「そうですか。……そ、それじゃあ、こうしましょう。私もまだお昼を食べられてないので、今から私が先輩のところにお昼ご飯を持っていきます。なので先輩は、この後の演劇に全力で打ち込むこと。それで許してあげます。――こんなので、どうですか?」


「え。ちょ、待って。それってつまり、本城さんがお昼ご飯奢ってくれるってこと?」


「そうですよ、それ以外ないじゃないですか」


「だ、だよね。なんかそれはそれで、申し訳ないんだけど……」


「いいんですよ。先輩が連絡してくれなかった罰です。その代わり、変な演技見せたら一生今日のこと恨みますから」


「なんか色々とツッコミたいところはあるけど……ホントにそれで許してくれるの?」


「えぇ、構いませんよ」


「……そっか、分かった。じゃあ、そういうことにさせてもらおうかな」


 そう言って、彼もその話を了承してくれた。どうなることかと思ったが、意外となんとかなったようだ。


「ごめんね、ありがとう」


「いいんですよ。気にしないでください。先輩って今は、前に私が行ったサークルの部室にいるんですか?」


「あぁ、そこで合ってるよ」


「分かりました。それじゃあこれから向かうんで、待っててください」


「あぁ、分かったよ。それじゃあ、また後で」


「えぇ、また」


 そうして一度、私達の通話は切れた。

 無事に話が着地できて一安心だ。安堵した私は、ゆっくりと深呼吸をした。

 そのままスマホを仕舞おうと、トートバッグの中を覗こうとしたときだった。






「……ん」


 自動ドアを介した、建物の中。何やら二つの影が、こちらを覗き込んでいるのが見えた。


 ――……まさか。


 数歩だけ歩いて、学食の中を覗き込む。

 するとそこには、茜ちゃんと七泉が苦笑いを浮かべながら、二人並んで立っていた。


 ――こいつら……。


 その姿を見るや否や、急いで私は自動ドアをくぐり再び中へと入った。


「……もしかして、聞いてたの?」


 二人に私は問うた。


「あ、あはは……。どうしても茜ちゃんが、綾乃ちゃんのことを見守りに行こうって言うから……」


「ち、違うよぉ! 七泉ちゃんが先に『一人で大丈夫かな』って言ったんじゃん!」


「それはそうだけど、別に私は盗み聞きしたいとまでは言ってないもの」


「盗み聞きなんて言ってないじゃん! 人聞き悪いなぁ!」


「でも茜ちゃんは、わざわざ自動ドア開けっ放しになるような場所にいて、綾乃ちゃんの話ずっと聞いてたじゃない。私はやめなって言ったのに」


「うぐっ、それはそうかもしれないけどぉ!」


「はいはいそこまで。二人とも、私のことを心配してくれたってことでしょ?」


 放っておいたら終わらなくなりそうな二人の口論を止めて、間に入る。……なんだか段々と、村木先輩の大変さが分かってきたような気がする。

 二人はお互いに顔を見合わせると、無言のままコクリと頷いた。


「えっと、勝手に盗み聞きしちゃって、ごめんなさい……」


 続けて茜ちゃんが、静かに一言を告げる。


「まぁ、聞かれてたのはあんまりいい気はしないけど……ありがとうね、心配してくれて。でも、次からはちゃんと怒るよ?」


「はぁい……」


 茜ちゃんはまるで拗ねた子供のように返事をすると、続けてこんな言葉を口にした。


「……でも綾乃お姉ちゃんてば、結局あんまり怒ってなかったですね」


「えっ? あれでも結構、ハッキリと言ったつもりなんだけど……」


「いやぁ、てっきりもっと怒鳴りつける勢いで怒るのかと思ってましたよ。でもあれはあれで、綾乃お姉ちゃんらしいとは思いましたけどね」


「そうだねぇ。確かにあれは、綾乃ちゃんじゃないと無理だよね」


 茜ちゃんの言葉に続けて、七泉も同じようなことを言ってくる。


「……それって、どういう意味?」


「言葉の通りだよー。あんな風に言って実お兄ちゃんを言い包められるのは、綾乃ちゃんしかいないなぁって思って。私や茜ちゃんだったらきっと、感情的になっちゃうだろうし」


「そうそう。つまり綾乃お姉ちゃんは、流石だなぁってこと!」


「は、はぁ……」


 なんだかよく分からないが、どうやら私は褒められているらしい。納得こそいかないものの、一先ずは褒め言葉として受け取っておこう。






「と、に、か、く! お姉ちゃんはこれから、お兄ちゃんのところに行くんですよね? 時間もあんまりないんですし、早く行かなきゃですよ!」


「えっ? あぁ、そうだったね。行くって言っちゃったし、早めに行ったほうがいいよね」


「ですです! さぁさ、早くお昼買いに行きましょー!」


「うわわっ! ちょ、ちょっと!」


 私の後ろに回ると、茜ちゃんが私の背中を強引に押してくる。急な出来事にビックリする私をよそに、七泉も楽しそうにニコニコ顔だ。


 ――村木先輩も、可愛い妹と従妹がいて羨ましいとは思ってたけど……やっぱり人付き合いって大変なんだなぁ……。


 嫌とは思わないものの、こんな彼女達の相手をずっとし続けるのは、なかなか至難の業だ。彼はまだ陽キャだからいいのだろうが、陰キャの私にとっては結構キツい。


 ――……まぁ、二人とも子供っぽいところあるし、双子だと思って相手すれば、案外可愛いものなのかも?


 これが彼女達の親だったら、ここは一度怒る場面なのだろう。だがやはり私は、なかなか怒れないどころか、可愛らしいとさえ思ってしまった。もはやこの考えは、ただの親バカなのかもしれない。

 もし自分に女の子の子供ができたら、こんな感じなのだろうか――茜ちゃんに背中を押されながら、私はそんなことを考えては、思わずクスッと笑ってしまった。

因みにどうでもいい余談ですが……。

筆者は大学の文化祭で、先輩から「お昼奢るから食べてきなよ。お釣りは要らないから」と言って渡してくれた五百円玉を使わずに、食べてきたフリをして頂いたというなかなかのクズな行いをしたことがあります。

あのとき五百円をくれたN先輩、本当にごめんなさい……!

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