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アウトドア系男子が、自宅警備員になる方法  作者: たいちょー
ep.15 君が紡いでくれた道
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「凄い人は意外と身近に一人いる」という法則

 そうして私達はまず、お昼ご飯を食べるために、私がいつも村木先輩と会う学食へとやってきた。普段この学食は土日は閉まっているのだが、どうやらこの文化祭の間だけ、特別に営業しているようだった。

 せっかくの機会であるし、二人にもここのハンバーガーを食べてもらいたいと思い、この場所へとやってきた次第だ。


 自動ドアをくぐり、あの自販機の前を通って、いつもの学食の中へと入った。


 ――うわぁ、流石文化祭。いつもの倍以上に人がいるじゃん。


 いつもは半分ぐらい空いてるはずの席が、今日に限ってはほぼほぼ満員だった。流石は多くの人が集まる、陽キャのお祭りと言ったところだ。


「うわーお、満席ですねぇ。どっか空いてないかなぁ」


 私の後ろから中を覗いた茜ちゃんが、辺りをキョロキョロと見回す。


「……あ、二人とも。そこの席がちょうど今空いたみたいだよ」


 すると、その隣で同じく辺りを見ていた七泉が、一つの席を指差した。


「あっ、そこは……」


 その先を見るなり、思わず声を上げてしまった。

 そう。七泉が指差した先にある席。それはまさしく、私がいつも村木先輩と二人で座っている席だったからだ。


「? お姉ちゃん、どうかしたんですか?」


 そんな私を見て、すかさず茜ちゃんが訪ねてくる。


「えっ? あ、ううん。大したことじゃないんだけど……。取り敢えず、座ってから話すよ。じゃああそこに座ろっか」


「はーい!」


 元気いっぱいな茜ちゃんを連れて、その席へと向かう。いつもの席にたどり着くなり、私達は三角形になってそれぞれ席へと着いた。






「……それでー? さっき言ってた“大したことじゃない”話って、何なんですか?」


 席に着くなり、早速茜ちゃんが私にそう問いかけてくる。


「あ、うん。……この席なんだけどね。いつも私と村木先輩が、一緒にお昼ご飯を食べるときに座る場所なんだ。普段この学食って、あんまり人が入らないから、もはや指定席みたいになっちゃってて」


「へぇ。それじゃあこの席は、二人の特別な場所ってことなんだね」


 両手を机の上に乗せながら、七泉が告げた。


「まぁ、そういうことになるのかな……?」


「いいなぁ。大切な人とそういう思い出があるのって、きっと何十年後でも忘れられない大事なものになるんだろうな」


「七泉って、そういうのにこだわるタイプ?」


「そうかも。物でも場所でも、とにかくなんでもいいからさ。大切な人と二人だけに通じ合えるような、そんな掛け替えのないモノがあったらいいなぁって思うよね」


「へぇ、そうなんだ」


「……なんかそう言われてみると、思い当たるものないなぁ、私」


 すると茜ちゃんが、ぼんやりと天井を見上げながら口ずさむ。


「ないって、何が?」


「うーん。私、付き合ってもうすぐ二年になる彼氏がいるんですけどね」


「えっ!? 茜ちゃんって、彼氏いたの!?」


 あまりにも衝撃的な事実に、思わず声を上げてしまった。そんな私を見て、二人が苦い顔を浮かべている。


「な、なんですか急にぃ。私って、彼氏いるように見えませんか?」


「だ、だって……。あんなに『お兄ちゃん大好き―』ってしてるとこ見てたから、彼氏がいるとは全然思ってなくて……」


「あはは、でも綾乃ちゃんが言いたいことも分かるよ。実お兄ちゃんにいつもベッタリな茜ちゃんを見てたら、他の男の子と仲良くしてるようなイメージ湧かないよね」


 すかさず七泉が、私にフォローを入れてくれた。そう、まさに私が言いたいのはその通りなのだ。


「そうかなぁ。確かにお兄ちゃんのことは大好きだけど、同じぐらい彼氏のことだって大好きなんだけどなぁ」


「でもきっと、茜ちゃんって彼氏の前だと、あんな風に甘えられないでしょ?」


「うぐっ、それは……」


 どうやら七泉の言葉が図星だったらしく、茜ちゃんは彼女から視線を逸らした。


「前に茜ちゃんの彼氏の写真見せてもらったけど、全然実お兄ちゃんみたいな感じじゃなかったもの。どっちかというと、大人しくて優しい男の子って感じで」


「た、確かに彼氏は大人しかったりもするけど……。でも、そこが可愛らしいというか、偶に男らしくなるところも、ギャップ萌えでカッコいいというか……」


 珍しく頬を赤らめながら、茜ちゃんが告げる。


「でもそんな彼氏の前だと、大体は茜ちゃんのほうが主導権握ってる感じでしょ? だから思うように甘えられないから、その分お兄ちゃんの前だとあんな風に甘えちゃうんだ?」


「……はい。まさにその通りです……」


「そっかぁ。じゃあある意味茜ちゃんにとって実お兄ちゃんは、“ガソリンスタンド”みたいな感じなのかな。頭撫で撫でしてもらうと、いつも元気いっぱいになってるし」


「むぅ……何も言い返せない自分が悔しい……」


 とうとう恥ずかしくなったようで、茜ちゃんが机の上に顔を伏せた。どうやら茜ちゃんでも、こんな風に恥ずかしがる一面はあるらしい。

 同時に、いつもは気弱そうな七泉も、偶には主導権を握るような面もあるようだ。彼女は茜ちゃんを言い負かせたことが嬉しかったようで、ニコニコと満面の笑みだ。






「そういう七泉ちゃんはさー、好きな人には積極的になれるから羨ましいよね。今回だって、お兄ちゃんに会うためにわざわざ福島からこっちに来たわけだし」


「そ、そりゃあだって、お兄ちゃんに、会いたかった、から……」


 今度は七泉が頬を赤らめると、段々と声のボリュームを落としていってしまう。


「会いたくても普通、そんな無理して家出しようなんて思わないよ」


「そうなのかなぁ……?」


「そうだよ! それにどうせ七泉ちゃんのことだから、お兄ちゃんと添い寝でもしたんでしょ?」


「へっ、添い寝……?」


 またも茜ちゃんの衝撃的な発言に、私は言葉を漏らしてしまった。


「それはっ、まぁ……。で、でもでも、一回だけだよ! 一回だけ! それからはちゃんと別々で寝てるもん!」


 ――いや一回したの……!? 七泉が村木先輩と!?


 もはや聞きたくもないそんな事実が、私の目の前で飛び交った。


「そういう問題じゃないよ! その一回の添い寝が問題なの!」


「いいじゃない別に! 好きな人と添い寝ぐらい!」


「ダメだよ! 私だって恥ずかしくて、ほとんど添い寝なんてしたことないのに!」


 ――えっ、そういう問題なの……?


「それは茜ちゃんが恥ずかしがってるからでしょ!? 私は勇気出してちゃんと自分から言ったもの!」


「それはっ……それはそうだけど! でも……!」


 そんな従姉妹同士とは思えない会話が、いつもの学食、いつもの席で繰り広げられている。周りにはたくさんの人がいるというのに、どうしてこの子達はそんな恥ずかしい話ができるんだ。


 ――なんか……つくづく凄いな、この親族。


 個々の濃さこそ一般的な女の子なはずなのに、それが揃うと飛んでもない力を発揮する。恐らくここに村木先輩も加わったら、それはそれはとても面白いことになるのだろう。……想像するだけでも恐ろしい。


 そんな二人の話が落ち着いたのは、それからしばらく経った後だった。



 ◇ ◇ ◇



「んー! 美味しいですね、ここのハンバーガー」


 いつものハンバーガーを一口かぶりつくなり、茜ちゃんがそんな声を上げた。


「でしょ? 食べ過ぎは良くないって分かってはいるんだけど、値段的にも美味しさ的にも飽きなくて、結局いつもこれにしちゃうんだよね」


「これは学食にしては、反則級の美味しさだねぇ。下手したらマ○クとかモ○バーガーのより私好きかも」


 それに続くように、七泉も嬉しそうな声を上げた。


「よかったぁ、二人とも気に入ってくれて。あんまり私、おすすめとか紹介したことないから、ちょっと不安だったんだ」


「そうだったの? 美味しいよ。いま綾乃ちゃんが食べられてないのが、もったいないと思うぐらい」


「うぅ……そりゃあ私だって食べたいけど、茜ちゃんがダメだっていうから……」


 チラッと茜ちゃんのことを見る。彼女は美味しそうにニコニコしながら、もう一口ハンバーガーにかぶりついていた。


「そりゃあ……だって……この後お兄ちゃんと会うのに、一人だけお昼食べちゃってたら、ダメじゃないですか。せっかくの……機会なんですし」


 もぐもぐと食べながら、茜ちゃんが告げる。


「そうかもしれないけど……二人の見てたら私も、お腹空いてきたよ……」


「我慢してください。……デートっていうのは、そういう……ものなんですからね」


「別にデートじゃないし……」


「つべこべ言わない!」


「……はぁい」


 ここは言葉通りつべこべ言わずに、彼女に従ったほうが話が早いだろう。本当はめちゃくちゃお腹が減っているが、ここは我慢するしかない。






「……そういえば綾乃ちゃん。さっき言ってた『あそこでは言えない話』って何なの?」


「えっ? あー……その話ね」


 ふと、思い出したかのように七泉が、先程の話を持ち出してきた。


 ――とはいえ、ここでも話づらいんだよなぁ。でもこれ以上引き延ばすと、それはそれで面倒なことになりそうだし……。


「そうだなぁ。……あの、さ。L○NEのトークで話しても、いいかな?」


「え? 別に構わないけど……そんなに口じゃ話づらいの?」


「まぁ……うん。ホントは人のいないところで話すべきなんだけど、七泉も気になるだろうから……」


「……えっ、何々? 二人ともL○NE持ってるの?」


 そんな私達の会話に、すかさず茜ちゃんが口を挟んでくる。そういえば彼女とはまだ、連絡先を交換していなかった。


「あ、うん。この間交換してね」


「えぇー、ずるーい! 綾乃お姉ちゃん、私とも交換しよー?」


 咄嗟にスマホを取り出しながら、食い気味に茜ちゃんが言う。そんなに私と連絡先を交換したいのか。


「いいけど……そんなに?」


「そうですよー! せっかくお友達になれたのに、私だけ連絡先も知らないのは嫌じゃないですかぁ」


「まぁ、そうかもしれないけど」


「ほら、早く早く! QRコード出してください!」


「あ、うん」


 茜ちゃんに急かされるがまま、QRコードを表示してスマホを彼女へ差し出す。

 なんだか成り行きで交換してしまったが、これでいつでも彼女へ連絡ができるようになったということだ。これはこれで良しとしよう。






「それじゃあー、私が三人のグループ作りますねー。ちょっと待っててください」


 そう茜ちゃんが告げると、すぐに三人のグループへと招待された。てっきり七泉と二人で話せばいいと思っていたのだが、彼女が加わることで何か面倒になるわけでもないので、まぁいいだろう。

 グループに入るなり、早速茜ちゃんが羊のスタンプを送ってきた。ペコリとお辞儀をしながら、「よろしくお願いします」と書かれたプラカードを持っている。なんとも可愛らしいスタンプだ。


「……じゃあまぁ、こっちで話すね」


 そう私が切り出すと、早速グループ内で私は文字を打ち始めた。


「さっきも見せたんだけど、私ね。『キャラメル・バンキッシュ』っていうグループのメンバーなんだよね」


「そうなんだ。それって、どんなグループなの?」


 七泉が問うてくる。


「メンバーは六人で、みんなネット繋がりの人だよ。基本的な活動としては声劇とか、ショートアニメとか、あとはアニメキャラの声真似とかかな。メインは声の活動をしてるグループだよ。偶にメンバーでゲームもしたりするけどね」


「綾乃お姉ちゃんね、凄く声劇上手なんだよ? 私もその一人だけど、いっぱいファンがいるんだから!」


 私の説明に補足するように、茜ちゃんが告げた。


「そんな、褒められるほどでもないよ。まぁ、応援してくれる人がいるのはありがたいんだけどね」


「へぇ、そうなんだ。綾乃ちゃんって、意外と凄い人だったんだね」


「そうだよ! めちゃくちゃ凄い人なんだから!」


「茜ちゃん、そんなにハードル上げないでよ……」


「だって、本当のことですもん!」


「それはありがたいけどさ……」


 そんな風にハードルを上げられると、なんだか自分から説明しづらくなるじゃないか。ファンでいてくれるのはありがたいが、そう言われるとどうも調子が狂う。


「ところでさ。どうして『キャラメル・バンキッシュ』ってグループ名なの?」


 再び七泉が私に問うた。


「リーダーがシャビって人なんだけどね。その人がグループを立ち上げる時に、シャビさんが『甘いものが苦手だから』っていう理由で、『キャラメルを克服したい』って意味を込めてそんな名前にしたんだって。ほら、キャラクターボイスの略で『CV』って言うでしょ? だから同じように略せるように、『キャラメル・バンキッシュ(CV)』っていう風になったらしいよ」


「面白いねー。ユニークだし、何よりそのシャビさんって人の想いがこもってる感じもするね」


「実際シャビさんも面白い人だからね。動画見てみれば分かるけど、結構喋っててアホだったりするし」


「そうなんだ。じゃあちょっと見てみようかなー、綾乃ちゃんが出てる動画」


「まぁ、自分から見てって言うのは恥ずかしいけど……興味があったら見てみて」


 そう文字を打った後に、私は一番大切なことを思い出した。咄嗟に、急いでそれを文字に起こす。


「あ、それから! この話は、村木先輩には絶対に言わないで!」


「えっ、なんで?」


「だって……なんか、見られたくないじゃん?」


「そうかなぁ。私だったら平気だけど。それに私も、あんまり人には言わないこと、実お兄ちゃんに言っちゃったし」


「え、何それ」


 それは一体何だろう。そう言われると、なんだか気になる。


「そうだなぁ。せっかく綾乃ちゃんも秘密を言ってくれたんだし、私も言っちゃおうかな。……ちなみにこの話、茜ちゃんにも言ってないことね」


「え!! 何それ!?」


 咄嗟に七泉ちゃんが、文字ではなく声で驚いてみせる。すっかり声を出すことを忘れてしまっていたので、ちょっぴりこちらも驚いてしまった。


「ちょっと待ってね、いま画像貼るから」


 そう声で七泉は言うと、すぐにグループに一枚の画像を貼った。それはツ○ッターのプロフィール画面だったのだが、この名前は私も見たことがあるものだった。






「『七色イズミ』って、この人わたし知ってるよ? 偶にタイムラインに、絵とか漫画が回ってくるけど……」


 今度は文字で、茜ちゃんが告げた。


「私も知ってる。偶に回ってくるの見て、尊いなぁって思いながら見てるよ」


 それに続いて、私も文字を打つ。


「……もしかして、これ七泉ちゃん?」


 画像と七泉を視線で行ったり来たりしながら、茜ちゃんが声で告げてみせる。……もしかすると、もしかするみたいだ。


「まぁ、うん。これ、私」


「えぇ!?」


 そんな私と茜ちゃんの声が、同時に重なった。しかし、こっちはこんなにも驚いているというのに、七泉は不思議と落ち着いた様子だ。

 そのフォロワー数、約四万二千人。絵や漫画のツイートには、どれも五千から一万近くのいいねが付いている。凄い人は意外と身近にいるとは言うものの、そんな人がいま自分の目に前にいるとは、まさか思うまい。


「そ、そんなに驚くことなのかな……?」


「驚くよ! だって七泉ちゃんが、そんなに凄い人だなんて思わないじゃん! フォロワー数もとんでもない数いるし!」


 声を荒げながら、茜ちゃんが告げた。


「一週間前は一万人ちょっとだったんだけど、なんか急に増えちゃって……」


「増えすぎだって! 七泉ちゃん、なんでそんなよく分かってない感じなの!?」


「だって……私の絵とか漫画なんてまだまだだし……」


「そんなことない! 七泉ちゃんがそう思ってたとしても、数字は嘘を吐かないよ! もっとちゃんと自信持ちなさい!」


 とうとう文字ではなく小声で、それでも声を荒げながら茜ちゃんが話し始める。


「うーん、そっか……。やっぱり私の感覚が鈍ってるのかなぁ。最近よく鎌田(かまだ)さんとか、アユムさんとかとゲームをご一緒させてもらったりしてるから、感覚が麻痺してるのかも」


「ちょちょちょ、それってどっちも本だしてる有名な漫画家さんじゃんか! 七泉ちゃん、そんな凄い人とゲームしたりしてるの!?」


「うん。それもつい最近だけどね。絵師仲間で一緒にゲームやろうってなって、偶々私も誘っていただいてね。凄く緊張したけど、楽しかったよ」


「そういう問題じゃなくってぇ!」


 まさか目の前にいる彼女が、そんなにも凄い人だったとは。加えて彼女は、こうして堂々と胸を張って自分の活動を言えている。それに対して自分は、いつも陰に隠れながら活動していると思うと、なんだか恥ずかしくなってきた。

 活動している界隈こそ違うものの、ファンがいる身としては同じだ。あんな風に軽々しく友達へ打ち明けられる、そんな彼女の肝が据わった性格が、私にはとても羨ましい。






「……まぁだからね。綾乃ちゃんも、実お兄ちゃんに言っちゃっても平気だと思うよ」


 すっかりボーっとしてしまっていた私に、そんなことを七泉が告げる。


「えっ。い、いや、それとこれとは話が違うというか、なんというか……」


「? それって、どう違うの?」


「だから……と、とにかく、村木先輩に見られるのが恥ずかしいの!!」


「ふぅん、そうなんだ。……なんか照れてる綾乃ちゃん、可愛いね」


「そ、そういう問題じゃないでしょうが!!」


 焦っている私を見て、七泉がニコニコと楽しそうに笑っている。

 そんな、ある意味で鈍感な七泉に対して、私は思わず大声で叫んでしまった。

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