表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アウトドア系男子が、自宅警備員になる方法  作者: たいちょー
ep.14 さそり座娘の解毒法
109/123

さそり座娘の解毒法

「それで? さっきの続きだけど、話しておきたいことって何?」


 フライドポテトを山の中から、適当に三本ほど手に取る。それを一気に口の中へ放り込みながら、七泉へ告げた。


「うん、それなんだけどね。もしかしたら、余計なお世話になっちゃうかもしれないんだけど……」


「それならもう、嫌というほど焼かれまくってるから平気。あの人以上の世話焼きなんて多分いないだろうから、そんな気にしないよ」


「あはは……そっか。……それじゃあ、話すね」


 小さく苦笑いを浮かべると、七泉はミネストローネを一口飲んでから話をし始める。






「ついこの間、聞いたんだけどね。お兄ちゃん、高校生のときに付き合ってた彼女のことを、未だに忘れられてないらしいんだ」


「あー……。その話なら、軽くだけ茜ちゃんに聞いたよ」


「茜ちゃんと、知り合いなの?」


 途端、そんな事実に驚いたようで、七泉が声を上げた。


「うん。どうしても茜ちゃんが私と会いたいって思ったらしくて、村木先輩に強引に頼んだんだって。でまぁ、先月末ぐらいに会ったんだけどね」


「それで、何か言われたの?」


「『お兄ちゃんのことを助けてあげてほしい。私しか、助けられる人はいないんだ』って、そう言われたよ」


「……茜ちゃんらしい」


 そう言って笑みを浮かべながら、再び彼女はミネストローネを一口運ぶ。


「それでまぁ、村木先輩が元カノのことを引きずってることも聞いたよ。でも流石に、妹の茜ちゃんには相談されなかったみたいで、詳しくは知らないみたいだった」


「そうなんだ。……じゃあもしかすると、私に話してくれたのも、私ぐらいしか言える相手がいないって、思ったのかもしれないね」


「そうかもね……」


 そう相槌を打つと、私はフライドポテトへを手を伸ばした。


「で、具体的に先輩はなんて言ってたの?」


 それを口の中へと放りながら、七泉に問う。


「そうだなぁ。まず別れた理由は、彼女さんのほうから『私達二人のために別れよう』って突然言われただけで、詳しくは教えてくれなかったんだって。特に嫌い合ったわけでもなくて、少し前までは高校卒業した後の話もしてたって言ってた」


「二人のためね……。まぁ、その言葉の意味も分かるような気がするけど、先輩みたいな無頓着な男の人には、分からないのかもなぁ」


 元カノの意思としては、確かに言葉通り嫌いになったわけではないのだろう。ここから私が考えられるのは、大きく二つだ。

 一つは、何かしら彼の一面がずっと気に食わなくて、卒業を機にその気持ちが爆発してしまった。そのせいで将来、結婚するとなったときのビジョンが見えなくなった。もしくは、あまり良いものではなかったなど、そんな風に思い至ったということ。

 もう一つは、今の自分の力量、または自分の性格や考え方などでは、彼のことを支え切れる自信がなくなってしまったということ。自分なんかよりも、もっと良い女はいるのだと思ってしまったのかもしれない。


「それでね。何度も理由を聞いたらしいんだけど、『私が言ったらお兄ちゃんのためにならないから』としか言われなかったんだって。そのまま連絡先も消し合って、別れることになったんだって言ってた」


「なるほどね……」


 彼女の言葉の真意は不明だが、少なくともその元カノは、その時点で彼との一切の関係を断ち切るつもりだったのだろう。友達に戻るのではなく、赤の他人へと成り返るまで至った彼女の気持ちは恐らく――相当辛かったのかもしれない。

 だがそれと同時に、彼女の言った「私達二人のために別れよう」という言葉の意味も、私には痛いほど理解できた。


「村木先輩はなんだって?」


「それが……『もし自分がその子の言ってたことを直せてたら、また復縁できるんじゃないか』って」


「はぁ……。そういうところ、男の人ってバカだよね。なんで別れたのか原因を考えようとしないで、復縁するためにはどうすればいいかとしか考えてないんだ」


「流石にちょっとね。私もそれを聞いたときは、そういうところあるんだなぁって……」


 どうやら彼女も、彼のそんな一面には呆れてしまったみたいだ。


「しかもそれが原因で、次の彼女だって作ろうと思えないんでしょ? 呆れた。陽キャのくせに情けないなぁ」


「あはは……そうだね……」


 苦笑いを浮かべると七泉は、それまであまり手をつけていなかったグラタンをスプーンですくい、口へと運んだ。それにつられるように、私もカフェオレへ手を伸ばす。






「でもさ。そうだったとしても、綾乃ちゃんはお兄ちゃんのことを、嫌いになるわけじゃないんでしょ?」


「えっ? それは……まぁ。男の人らしいなってだけで、別に嫌いにはならないけど」


「ならよかった。もし嫌いになっちゃってたら、今から言うことも気持ち悪がられるだけだと思うから」


「ん、何々?」


 それは一体何だろう。七泉は嬉しそうにニコッと笑うと、そのまま言葉を続ける。


「この前綾乃ちゃんが、お兄ちゃんの家に来たときなんだけどね。綾乃ちゃんが帰っちゃった後、お兄ちゃんが追いかけていったでしょ?」


「あ……う、うん。そういえば、そうだったね……」


 そう言われた途端、その時のことを思い出しては、一人で恥ずかしくなってしまった。そういえば村木先輩に、情けない自分の泣き顔を見られてしまったのだ。あの程度で泣いてしまうだなんて、いま思い返すと思わず顔が熱くなる。


「その時ね。お兄ちゃん、言ってたよ。『何か悩んでるのかもしれない』『あの子と約束したんだ、俺でなきゃダメなんだ』って」


「そんなこと言ってたの……?」


「そうだよ。あんな酷いこと言う人なんて、追いかけなくてもいいじゃんって、私は必死に止めたのにさ。それでも無視して、お兄ちゃんは走って追いかけてったよ。……その時思ったんだ。お兄ちゃんが求めてるのは私じゃなくて、綾乃ちゃんの笑ってる顔なんだなって」


「私の……」


「綾乃ちゃんだって、結局は色々悩んじゃって、あんな風に言っちゃったんでしょ? 簡単にだけど、お兄ちゃんから聞いたよ。……それって要するに、私にお兄ちゃんのことを奪われちゃったら、自分のポジションは一体どうなるんだろうって、そう思ってたってことだよね?」


「それはっ……その……うん」


 一瞬否定の言葉を口にしたかったが、そこまでバレてしまっている以上、何も言える言葉が見つからなかった。泣く泣く私は、小声になりながら首を縦に振る。


「ふふっ、素直でよろしい。お兄ちゃん自身も自覚ないみたいだし、綾乃ちゃんも信じられないかもしれないけどさ。意外と二人とも、お互い思ってる以上に好きみたいだよ」


「っ……!」


 ――好き? 私達が……お互いに?


 そんな“好き”という二文字が、私の中でふわふわと宙を舞っている。そう言われたところで、すぐには全く実感が湧かない。

 私達は陰キャと陽キャで、本来ならば絶対に関わることがなかったはずの二人だ。それがお互い一線を越えて、そこまで仲良くなっているだなんて。こんなことが本当に、許されるのだろうか。


「だからまぁ、何が言いたいかっていうとね。もしかしたら、茜ちゃんと重なっちゃうのかもしれないけど……。綾乃ちゃんに実お兄ちゃんのことを、支えてあげてほしいなって」


「私が……?」


「うん。本当は、私がそうなりたかったけど……それは私には、無理みたいだから。だから、綾乃ちゃんにお願いしたいんだ。きっと綾乃ちゃんなら、お兄ちゃんの良いパートナーになれると思う。あの茜ちゃんのお墨付きなら、尚更ね」


 そう言って、七泉はクシャっと相好を崩してみせた。――そんな彼女の目には、薄っすらと涙が潤んでいたことを、私は見逃さなかった。


「で、でも、七泉はいいの? そんなこと言うってことは、先輩のことを諦めちゃうってことだよね?」


「……そりゃあ、辛いよ。本当は私だって、好きな人と一緒にいたい。従兄妹とかそういうの関係なしで、色んなことを一緒にしたい。色んなところに行ってみたいし、色んな話もしてみたい。そんな、普通の恋人みたいなことを、私もお兄ちゃんと一緒にしたかったよ。


 ……本気だったんだ、ずっと。小学生の頃から、お兄ちゃんのことが大好きだった。住んでる場所も離れてるから、あんまり連絡も取れないし、なかなか会えもしないからさ。久しぶりに会えるときは、ずっとドキドキしてたし、お兄ちゃんといつも一緒にいて仲良しな茜ちゃんが、ずっと羨ましくも思ってた。私もあんな風に、一緒に仲良くできたらいいなって」


 まるで涙を誤魔化すように目を擦りながら、彼女が言葉を続ける。


「私ね。昔からずっと引っ込み思案で、小学生の頃からなかなか友達ができなくてさ。いつも休み時間は図書室で本を読んでたり、教室で絵を描いたりしてたんだ。そのせいでクラスの男の子から、よくちょっかい出されたりしてて。でもなかなか誰にも相談できなくて、一人でずっと我慢してたんだ。それに最初に気付いてくれたのが、実お兄ちゃんだったの。


 夏休みのときにね、お兄ちゃんの家族がウチに遊びに来たときに、私のお母さんからお使いを頼まれたの。私とお兄ちゃんの二人で、近くのスーパーに行ったんだけどね。その途中で、クラスメイトの男の子達とバッタリ会っちゃって、色々と悪口言われちゃったんだ。


 ……でもね、その時お兄ちゃんが、私のことを庇ってくれたの。それだけでも嬉しかったのに、その時お兄ちゃんは言ってくれたんだ。『読書好きでも、絵を描くのが好きでもいいじゃん。どんなに悪口言われてても、好きなことをしてる七泉ちゃんのほうが、見ててカッコいいよ』って。その言葉で、思わず泣いちゃったんだけど……それが凄く嬉しくて、今でもずっと覚えてる。お兄ちゃんのおかげで、私は助けられたんだ。


 それからはちゃんと、好きなことに自信が持てるようになったの。今でもなかなか引っ込み思案で、思うようにはいかないことも多いんだけどね。そんなときは、お兄ちゃんが言ってくれた言葉を思い出して、頑張ろうって思えるんだ」


「……そうだったんだ」


「だからね。ずっと何年も大好きだったお兄ちゃんのことを諦めるのは、凄く悔しい。これは本当は夢で、全部が嘘だったって思いたいよ。でも、そんなわけはないって分かってるからさ。


 ……自分勝手でワガママだとは思う。けれど、そういう私の気持も含めて、綾乃ちゃんにお願いしたいんだ。実お兄ちゃんのことを、これからも支えてあげてほしいなって」


 そう言って、下手くそな笑みを七泉が浮かべる。声を震わせながら話す彼女はずっと、涙を堪えているようだった。


 ――この子、そんなに村木先輩に本気だったんだ。従兄妹同士なのにも関わらず、ずっと好きだったんだよね。それをこうやって、私にお願いしてるんだから……ホントは相当、辛いんだろうな。


 私には、彼女の気持ちを想像することすらできない。私には従兄弟なんていないし、兄弟もおらず一人っ子だ。彼女のように、身内に近い相手へ恋心を抱くというのは、一体どんな心境なのだろうか。私には到底、理解のできない領域だ。


 ――強いんだな……七泉も。羨ましい。


「……そっか、分かったよ。なんとか頑張ってみようとは思う」


「本当?」


「うん。でもさっきも言った通り、まだ私はあの人のことを、恋愛対象として見られてるわけじゃないからさ。七泉が言う意味でのパートナーには、なれるかどうか分からないけど……。でも少なくとも、あの人を近くで支えられるような相手には、なれるように頑張ってみる」


「……よかった。それだけでも、そう言ってもらえて、ちょっと安心」


 安堵したかのように七泉は、ホッと胸をなでおろした。


「もしかして、断られると思ってたの?」


「だって……綾乃ちゃんの第一印象がアレだったからさ。いくらお兄ちゃんが良い人だって言ってたり、いざこうして接してみたとしても、まだちょっと怖かったというか……」


「あーそれは……あの、ホントに、ごめん……」


「そ、そんな! 私のほうこそ、そんなこと言っちゃってごめんね! 今はもう、そんなこと思ってないからさ!」


「そっか……大丈夫だよ」


 そうして、お互いに笑い合う。一時は一体どうなることかと心配だったが、どうやら無事に解決できたようだ。






「……綾乃ちゃんって、意外と優しいんだね。なんか第一印象と全然違くて、ビックリしたよ」


 ふと、野菜ジュースを飲みながら、そんなことを七泉が告げた。


「え、そんなこと……。ただ思ったことを言ってるだけだよ」


 こちらもカフェオレを口に含みながら、彼女の言葉に返事をする。


「それが優しいんだよ。ただ、建前もなく本音で話すから、勘違いされやすいのかもね。実お兄ちゃんが言ってたこと、分かる気がする」


「そ、そんなことまで言ってたの? あの人」


「そうだよー。だから言ってるじゃない、意外と綾乃ちゃんのことが好きなんだって」


「う……わ、分かったから! 恥ずかしいから言わないで……」


 これ以上言われると、恥ずかしくて死んでしまいそうだ。ただでさえ、彼の話を聞いただけでもまぁまぁ恥ずかしかったというのに、それ以上褒められるのは耐えられない。

 しかし、そんな私を見て七泉は、楽しそうにクスクスと肩を震わせて笑ってみせた。


「あははっ、可愛い。……ねぇさ。よかったら、その、連絡先交換しようよ? せっかくできた仲だし、これからも仲良くしたいな」


「えぇ……? もう、しょうがないなぁ。いいよ、交換しよっか」


「うんっ!」


 そう言い合っては、お互いにスマホを取り出す。

 数十分前までは、まさかこんな展開になるとは想像すらしていなかった。思った以上に意気投合してしまったようで、私自身もビックリだ。


「……ところでさ。七泉は絵を描いてるって言ってたけど、どんな絵描いたりしてるの?」


「んー? そうだなぁ……いざ人に見せるってなると、ちょっと恥ずかしいんだけど……」


 するとそのまま、彼女はカバンの中からタブレットを取り出した。どうやら、タブレットを使って絵を見せてくれるようだ。






 なんだかまた、私には一風変わった出会いをした友達が増えてしまった。もう少し正当な出会い方をしたいものであるが……こんな出会いをしてできた友達も、意外と悪くはないのかもしれない。


 いつの間にか、私たちの会話はガールズトークへと移り変わっていた。ほぼ初対面とは思えないほど話も合い、すっかり長話となってしまった。

 そんな私達の時間は、気が付いた頃には数時間と経ってしまっていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ