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アウトドア系男子が、自宅警備員になる方法  作者: たいちょー
ep.14 さそり座娘の解毒法
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仲直りの飲み物

 そうして私は、彼女と一緒に大学近くのファミレスへと向かい始めた。未だ彼女との距離感が分からなかった私は、先導する彼女の後ろをついて、一列になって歩いていた。


「あの……なんで大学の前で待ってたんです?」


 そんな中私は、一番気になっていたその謎を彼女へぶつけた。


「お兄ちゃんに、大学の場所を聞いたんです。ちょっとだけ、嘘吐いちゃったんですけどね。このことについては、私が言うまで内緒にしておいてください」


「はぁ……」


 彼女は振り向きながら、小さく苦笑いを浮かべてみせた。


「……その、どうしても二人で、こうやってお話してみたいなって思ったんです。迷惑だと思われてたらすみません。でも、お兄ちゃんがあそこまで信頼してる本城さんって、どんな人なんだろうと気になって。


 今日はお兄ちゃんもバイトでしばらく帰らないので、チャンスは今日しかなかったんです。一か八かで、お昼からずっと校門の前で、本城さんのことをずっと待ってました」


「お、お昼から?」


 ということは、約四時間ぐらい校門の前で待っていたということか。学校への入り口は、あそこ以外にもいくつかある。そんな中、限りなく低い可能性にかけて、私のことを待っていたということになる。

 ずっと外に居続けるのも、寒くて仕方がなかっただろうに。そこまでして、私と話がしたかったというのか。


「あ、そういえば自己紹介がまだでしたっけ。名前、名乗っていませんでしたよね」


「……そういえば、まだ知らないかも」


「ごめんなさい、私ばっかり話しちゃってて。私、水城七泉と言います。そのまま七泉とでも呼んでください」


「七泉さん……。あ、わ、私は、本城綾乃、です」


「ふふっ、そんなに固くならなくても平気ですよ。さっきはちょっと怒っちゃったけど、本当はそんな話をするつもりはないんです。同い年なんですから、もうちょっと気楽にただ普通にお話したいなって思っただけですよ。……綾乃ちゃんって、呼んでも?」


「え、あ、全然平気です」


「ありがとうございます」


 そう言って彼女は、ニコッと嬉しそうな笑顔を見せた。


「……あっ、ありました。あそこのファミレスでいいですよね?」


 そんな彼女が指差す先には、町中でよく見るチェーン店が一軒、薄暗くなった夕暮れの中で輝いていた。



 ◇ ◇ ◇



 店内へ入ると、私達は窓際にあるシート席へと案内された。

 特別私はお腹が空いているわけでもなかったのだが、目の前の彼女がまるで当たり前のように、メニュー表を一枚こちらに手渡してきた。渋々それを受け取って、メニューを眺め始める。


「その……じつは私、お昼ご飯まだ食べてなくて。お腹減ってるんですよね」


「え、そうだったんだ」


 そう言ってメニュー表を片手に、彼女が苦笑いを浮かべている。


「なのでその、自分からこうして連れてきておいて申し訳ないんですけど、いくつか頼んじゃってもいいですか?」


「あぁ、全然大丈夫ですけど」


「よかった、じゃあそうさせてもらいますね。頼むもの、決まりました?」


「まぁ、はい」


 私がそう言うと彼女は、店員を呼び出すチャイムを鳴らした。それからものの数十秒で、奥から女性店員が一人、席へとやってくる。

 私は適当に、ドリンクバーとフライドポテトの二つを注文した。一方で彼女は、ドリンクバーと一緒に、グラタンとミネストローネも注文していた。食べ物を二つも頼むあたり、どうやら本当にお腹が空いているようだ。


「あ、先にドリンクバー取ってきちゃっていいですよ。私待ってるんで」


「そ、そうですか。じゃあ取ってきます……」


 そう彼女に促されて、渋々私は席を立った。


 ――なんか、やりづらいなぁ……。


 こうも何から何まで世話をされてしまうと、どうも調子が狂う。ほとんど初対面なこともあるのだろうが、なんだか異様に謙遜されているような気もする。

 これならまだ、日和や秋那のようにもっと、勢いよく連れ回されたほうが、慣れていることもあり気持ちも楽だ。


 ――……もしかして、あの子もホントは私と同じ陰キャなのかな。それなのにこうして、勇気を出して私と接してくれてるとか……。


 無理して相手を立てようとしてしまうところや、必要以上に敬語口調で話してしまうところは、陰キャのよくある特徴だ。同い年だというのに、ここまで距離をおこうとする陽キャは、なかなかいないのではなかろうか。


 ――そうだとしたら……私だってちょっとぐらい、勇気出さないとダメだよね。


 こういう場面でこそ、村木先輩達のことを見習わなければならないだろう。私だっていつまで経っても、陰キャの底辺のままでいるわけにはいかないのだ。ここは勇気を出して、一歩を踏み出さなければ。






 コーヒーメーカーのカフェオレのボタンを押して、数十秒ほど完成を待つ。

 店によっては、そもそもカフェオレがなかったり、アイスしかなかったりとまちまちだ。だがここには、ホットとアイスのカフェオレが両方設置されているらしい。カフェオレ愛好家の私としては、夏でも冬でも楽しめるまさに私得のお店だ。


 ようやく完成したカフェオレを持って、席へと戻る。すると、そんな私の姿を見た彼女が何故か、目を丸くさせて驚いてみせた。


「? どうかした?」


「あ、いや……。食後にコーヒーとか飲む人は多いけど、一杯目から飲む人なんているんだと思って」


「え。へ、変なのかな……?」


「変というか……珍しいなって」


「はぁ。そっか……」


 そんなこと、今までで初めて言われた。ファミレスで初っ端からカフェオレを飲むことが、そんなに珍しいのだろうか。


「と、取り敢えず私も、自分の分取ってきますね。ちょっと待っててください」


 そう言って彼女も席を立つと、私と交替でドリンクバーのほうへと向かっていった。それから一分も経たずに、彼女は席へと戻ってくる。


「……それって、野菜ジュース?」


 パッと見オレンジジュースにも見えるが、それにしては色が少し濃い。どちらかといえば、赤色に近いオレンジ色だ。


「あ、はい。私、野菜ジュース大好きなんですよ。たまーにドリンクバーにあったときは、いつもこればっかり飲んでて」


「へぇ、珍しい」


「え、そ、そうなんでしょうか……?」


「でも、なんだろ。野菜ジュース大好きな人って、なんかその……大人なイメージ?」


 ――いや、なんだよ大人のイメージって。もうちょっと褒め方あったでしょ……。


 言葉として口にしながらも、心中では自分で言ったことを後悔してしまっていた。


「そうですか? そんなことはないと思いますけど……」


 それでも彼女はちょっぴり恥ずかしそうに、髪の触覚をクルクルと指で捲き上げてみせた。


「い、いいと思うよ、そういうの。私は悪い印象ではないかな」


「そっか。……えっと、あ、ありがとう?」


「うん」


 ――なんか、可愛い。


 彼女の仕草を見て、唐突にそんな感情が芽生える。こんなにも可愛らしい従妹を持った村木先輩は、相当な幸せものだろう。従兄弟(いとこ)がいない私にとっては、とても羨ましい限りだ。






「え、えっと……それじゃあその、何から話せばいいんでしょうか。一応、お話したいことはいくつかあるんですけど……」


 まるで話題を逸らすように、彼女がそう告げてみせる。その様子から、どうやらあまり褒められ慣れてはいないようだ。


「あ、あのさ! その前に一つ、いいかな」


 そのまま話を切り出される前に、私は強引に彼女の言葉に割って入った。


「えっ。な、なんでしょう?」


 まさかそんなことを言われるとは思っていなかったようで、彼女はまたも驚いた表情をしてみせた。


 ――大丈夫。一言ただ、言うだけなんだから。


 彼女だってきっと、頑張ってここまで私を連れ出したのだ。ならば私も、それに応えてあげなければ。


「えっと、ね。さっき言ってたけど、ただ普通にお話したいから、こうして私のことを連れ出したんだよね? 私達、同い年なんだからさ。敬語なんて使わずに、もうちょっと気軽に話そうよ。ね?」


「っ……綾乃ちゃん」


「だから、その……。な、七泉って呼んでも、いいかな」


「……うんっ、もちろんだよ。寧ろ、そう呼んでくれると嬉しいかな」


「そっか。それならよかった」


 お互いに笑みを浮かべ合う。一時はどうなることかと思ったが、どうやら和解することはできたようだ。おかげでお互いの雰囲気も和らいで、一安心だ。






「それで、えっと……話って、何かな?」


 改めて私は、七泉が話そうとしていた話題についてを問うた。


「あ、うん。……その、単刀直入に聞いてもいいかな?」


「いいよ」


 そう口では言ったものの、なんとなく私は分かっていた。言ってしまえば、女の勘というやつだ。


 ここまで話した感じを見るに、恐らく普段の七泉は、私と似て相当奥手なタイプだろう。あまり自分の気持ちを表に出すことなく、よほどなことがない限り動こうとは思わないはずだ。

 それなのに今回は、たかだか一瞬だけ顔を合わせた私のことを待ち伏せしてまで、会話を試みようとしてみせた。そこまでして彼女を動かすには、何か裏に大きな原動力があるに違いない。――そしてそれが、私に怒りをぶつけるわけでもなく、ただ単に話がしたいというだけなのならば、ある程度の内容は想像がつく。


 少し間を空けて、ようやく決心がついたような表情を見せると、彼女はゆっくりとその口を開いた。


「……綾乃ちゃんはさ。実お兄ちゃんのこと、好き?」


 ――……やっぱりか。


 予想的中。しかもオブラートに包まれることなく、言葉通りのド直球な質問だ。


「好き、か……」


 この間の出来事で、彼は私にとって必要不可欠な存在だということは再認識できた。だがだからといって、彼をそれ以上の存在として見られるかと問われたら、また別問題だ。


「正直に言うとね、まだハッキリとは分かんないんだ。確かに先輩は大切な友達だし、これからも一緒にいてほしいとは思うんだけど……いざ恋愛できるかって聞かれたら、まだできる勇気はないというか」


「そうなんだ……」


 そう相槌を告げながら、七泉が野菜ジュースを一口飲む。


「……あ、あのね。じつはその……私は、好きなんだ。お兄ちゃんのこと」


「好きって、恋愛対象として?」


 私の問いに七泉は、無言でコクリと頷いた。


「そうなの? ……従兄妹同士で恋愛なんて、エロ漫画だけの話かと思ってたけど、意外といるんだ」


「や、やめてよ恥ずかしいから。それに、私が好きなだけの片想いだし。お兄ちゃんは別に、私のことをそういう目で見られるわけじゃないらしいから」


「ん。ってことは、言ったんだ? 好きだって」


「……一昨日ね。こっちがいくら頑張っても、気付いてくれる気配すらなかったから、もう自棄になって言っちゃったよ。結構頑張ったと思ったんだけど、予想以上に驚いてたから、全然気付いてなかったんだなって思ったよね」


「うわぁ、やっぱり酷いねあの人。よほど鈍感なんだなぁ」


「よほどどころか、一つ抜きん出てるよ。あれじゃあ女心が分かってないってバカにされても、仕方ないよね」


「あはは、言えてる」


 そんな彼についての愚痴を言い合っては、二人で笑い合った。






「……でもね。私がお兄ちゃんの好きなところは、自分がどれだけ傷ついても、相手のことを第一に考えられるところかな。あの人って、自分のために動くよりも、他人のために動くほうが多いんだよね」


「そうかも。私があの人と仲良くなったきっかけだって、あの人が私に無理やりお節介を焼いてきたからだもん」


「うん、お兄ちゃんから聞いたよ。初めはずっと、サークルに勧誘され続けたって」


「あー、聞いたんだ。……そうやって、私のことを想って色々と世話を焼いてくれるのは嬉しんだけどさ。それはただ、あの人が“人助けをした”っていうステータスが欲しいだけで、本心では何とも思ってないんじゃないかなって、ずっと思ってたんだよね」


「……まぁ、お兄ちゃんみたいな人からそんな態度を取られ続けたら、そう思っちゃうのも無理はないかも」


「でしょ? でも、何回もあの人と話せば話すほど、『この人は本心から相手のことを助けたいって思ってるんだ』って、そう思えるようになったんだ。あの人ってもう、根が優し過ぎるんだよね」


 そう言いながら、思わず笑ってしまった私を見て、七泉も笑顔を返してくれた。


「……でもさ。私のことを助けたいって気持ちが本心だったとしても、あの人にとっては私なんて、人助けをした一人に過ぎないんだよなって。ずっと、そう思ってたんだ。私がどう思っていようが、あの人にとっては関係なくて、ただ行く先が心配な後輩としか、思われてないんだろうなって」


「……そう、かもね。お兄ちゃんって自分の気持ちよりも先に、相手の気持ちを優先しがちだから。そういう意味では私も、お兄ちゃんがなに考えてるんだろうって、分かんないときはあるよ」


「やっぱり、そうなんだ……」


 彼女の言葉に同調する。しかしそれと同時に、もう一つのとある感情が再び、私の中で一気にこみ上げてきた。


「……でもね。今日のお昼に村木先輩と話したとき、言われたんだ。『私と一緒に、文化祭回りたいな』って」


「っ……お兄ちゃんが、言ったの?」


 それを聞くなり、七泉は目を大きく見開いて驚いてみせた。


「うん。私も先輩からそんな風に、何かをお願いされたことは初めてだったから、驚いちゃったけど。……でも、嬉しかったんだ。やっと私はあの人の中で、ワンランク上にあがることができたんだって」


「……そっか」


 私が嬉しいと感じた話を七泉に言うと、私とは対照的に彼女は、落ち込むようにして顔を俯かせてしまった。そんな顔を見た途端、しまったと思いハッとする。

 彼女はつい先程、彼のことが好きなのだと言っていたではないか。それなのに私は、わざわざ彼女が傷つくような話をしてしまったのだ。これは完全に、私のほうに落ち度がある。


「あっ、ご、ごめん! そういうつもりで言ったんじゃなくて、その……」


「ううん、いいんだ。どっちみち私は、お兄ちゃんとはそういう関係になれないって、分かってるから」


「七泉……」


「……だからね。その上で綾乃ちゃんに、話しておきたいことがあるの」


 はて、と思わず首を傾げてしまう。

 話というのは、さっきのが本題ではなかったのか。となると、一体彼女は私に、何を言いたいのだろうか。


「あのね。お兄ちゃんは……」


「失礼しまーす! こちらフライドポテトとグラタン、そしてミネストローネになりまーす!」


 彼女が何かを言いかけたとほぼ同時に、横から元気な女の子の声が聞こえてきた。話に夢中ですっかり忘れてしまっていたが、ようやく注文していた物が到着したようだ。

 テーブルの上に、それぞれの皿が置かれる。そこで私達の会話は、一旦中断されてしまった。






「……食べる?」


 彼女へ向けて、フライドポテトの皿を近付ける。


「いいの?」


「うん。言うほどお腹空いてないし。つまんで食べてもらっていいよ」


 ――まぁ、普通にグラタン食べられるぐらいには空いてるけど……なんか今更恥ずかしいし、いいや。


「ありがと。じゃあ、ちょっと貰うね」


 七泉はフライドポテトを一本取ると、口へ運び美味しそうな表情を浮かべてみせた。

(因みに筆者も、ドリンクバーに野菜ジュースがあったときは必ず飲むほど大好きです)

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