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アウトドア系男子が、自宅警備員になる方法  作者: たいちょー
ep.14 さそり座娘の解毒法
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勇気を出して

 木曜日。いつもの時間、いつもの場所で。私はいつものように、彼と二人でお昼ご飯を食べていた。

 もうこんな時間は、二度とこないのではないか。てっきりあんなことがあったので、一瞬でも私はそう思い込んでしまっていた。そんな過去の自分が、今ではアホらしい。


 彼はあの程度で、関係を切ってしまうほど浅い人間ではないのだ。それを自分は、身に染みるほど分かっていたはずなのに。私の勝手な思い込みで、また暴走しかけてしまった。やはりその原因としては、まだまだ自分が弱いからだろう。いい加減私だって、成長していかなければならないのに。この課題は未だ、解決に至れる見込みはない。

 だがそれでも、今回の一件で私は一つ、重要な手がかりを見つけることができた。――今後私が、もっと強い人間へとなるために。そして、本当の私になるために。そのために必要なものが、ようやく分かったかもしれなかった。






「そういえば、本城さんさ。土日の文化祭って、来るの?」


「文化祭、ですか?」


 他愛もない会話をしながら、何気ない時間を過ごす。そんな中、彼が一つの質問を私に投げてきた。

 そういえば、最近の騒動のせいですっかり忘れていた。土日の二日間が文化祭の本番で、明日は丸一日文化祭の準備日として、関係のない学生達は休みとなる。

 当然私も、どこかに所属しているわけではないため、振替休日となる月曜日も含めると、しばらくの間は休みなのだ。


「……そういえば、なにも考えてなかったです」


「あ、ホント? まぁそりゃそうか、サークルに入ってるわけでもないもんなぁ。自由参加なわけだし、来る必要はないよね」


 そう言って村木先輩が、苦笑いを浮かべる。


「先輩はやっぱり、サークルで出るんですか?」


「まぁ一応ね。土日でそれぞれ、午前と午後で一回ずつ、三十分ぐらいの小さい演劇をやることになってる。俺も出るっちゃ出るけど、今回はあんまり出番もないから、比較的楽なほうなんだけどね」


「そうなんですか……」


 ――そういや先輩の演技って、あの日以来一度も見たことないや。


 前に一度だけ、私が演劇サークルに体験入部で入ったとき。部長であろう男の人から、軽く私の演技を見せてほしいと頼まれた際、その相手役だったのが村木先輩だった。

 正直あの時は、ずっと緊張しっぱなしであったがために、自分のこと以外はほとんど何も覚えちゃいない。

 だが一つハッキリ言えるのは、久しぶりに人前で演技をしたはずなのに、不思議とやり易さがあったことだった。


 ――前の劇で、大事な役を貰ったとか言ってたし、きっと上手なんだろうなぁ……。


「……まぁ、それでなんだけどさ」


 ふと、私がそんなことをボーッと考えている一方で。彼が自分の鼻をポリポリと掻きながら、不器用に告げる。


「その……もし良かったらなんだけどね。もし土日のどっちか、暇だったらでいいんだけど……演劇を見に来てくれないかな、と思って」


「……私がですか?」


「うん。……あいや、ホントに暇だったらでいいんだよ。本城さんって、色々やることとかあるだろうし、無理だったら全然構わないんだけどさ」


 急にあたふたしながら、村木先輩が何かを誤魔化すようにして焦っている。そんな彼を見て、私は思わずクスリと笑ってしまった。


「何ですか? らしくないですね。私に来てほしいって、何か理由でも?」


「理由? うーん……まぁそりゃあさ。今後もこのまま、サークルに入るか入らないか分からないんだし、見るだけでも雰囲気とか、ちょっと分かったりするじゃん? だから、そういうのも知ってほしかったりするし」


「そうですね。確かに私も、絶対入らないとは言い切れませんから。サークルの雰囲気を見ておくのも、大事かもしれませんね」


「……まぁそれと、なんだ? その……」


 私から視線を逸らして唸りながら、村木先輩が何かを言いづらそうにしている。こんな風に言葉を悩む彼は、なんだか珍しい。


「なんです? 言ってみてくださいよ」


「あ、あぁ。……せっかくの文化祭なんだしさ。本城さんと一緒に、回りたいなって、思って……」


「っ……!?」


 今、彼は一体なんと言ったのだろうか。文化祭を一緒に回りたい? それも私と? まさか彼が、そんなことを言うだなんて。何か変なものでも食べたのではないだろうか。


「な、なんですか急に……。普段はそんなこと、一ミリも言わないじゃないですか。どうしちゃったんですか?」


「いや、あのね。昨日知り合いにさ、『もっと俺は自分に素直になったほうがいい』って言われちゃったんだよね。だから俺、せっかくだし本城さんと一緒に、文化祭見て回りたいなと思って」


「いやいやいやいや、例えそうだったとしても、急にそんなこと頼みます? いま自分がなに言ってるか、自覚ありますか?」


「自覚って、なんだよ?」


「だから! それって、その……文化祭、デート……的な、やつ、でしょ?」


 上手く回らない口を動かして、精一杯の言葉で告げる。


「え、そ、そうなるのかな?」


「いや、自覚ないんですか……」


 まったく、この人はいつもいつもそうだ。そうやって恥ずかしいことを、サラッと言ってのけてしまう。だからこちらとしても思い上がって、変に身構えてしまうのだ。


 ――でも……。


 なんだろう、この不思議な感覚は。嬉しさもあり、恥ずかしさもある。彼から必要とされたことが、こんなにも嬉しくてたまらない。この気持ちは一体、なんなのだろう。






「ご、ごめん。別にそういうつもりじゃなかったんだ。それに本城さんは、人が多い場所って好きじゃなかったよね。きっと文化祭だって、あんまり気乗りしないだろうし、今回はやめておくよ」


 そう一人で舞い上がっていた一方で、村木先輩は苦笑いを浮かべながら、そう言い切ってしまった。


「あ……い、いや……」


 せっかくの彼からのお誘いだったというのに、このままではこの話がなかったことにされてしまう。――それだけは絶対に嫌だ。


 ――い、言わなきゃ……私からもう一回言わないと……。


 生唾をゴクリと飲み込んで、ジッと彼の顔を覗き見る。今にも唇を噛んでしまいそうなほど震える口で、私は言葉を発した。


「……い……ない、です」


「え? ……本城さん、いま何か言った?」


「だから……別に、嫌じゃない、です。私も、その、村木先輩となら……文化祭に行っても、別に……いいかな、って……」


「ほ、ホント?」


 そんな彼の問いかけに、私は無言で頷いた。


「そっかぁ、よかった……。断られたらどうしようって思ってたから、なんかちょっと安心」


 そう言いながら、先輩は背もたれに体を預けた。どうやら、だいぶホッとしているようだ。


「そんなに心配されてたんですか……? 村木先輩でも、意外と心配するもんなんですね」


「そりゃあするよ。だって俺、普段はあんまり人のこと誘ったりしないもん」


「……そっかぁ。それなのに、私には頑張ってお誘いしてくれたんですね」


「まぁ、そうだけどさ」


 ――なんか、嬉しい。


 特別感、というものだろうか。彼が滅多にしないお誘いを受けてしまったのだから、それぐらい彼は私のことを、大切な友達として認識してくれているのだろう。嬉しい限りだ。


「あ、でも安心して。別にデートとかではないし、ちゃんと友達として一緒に回るだけだからさ」


「え……?」


 その瞬間、私の中で温まっていた熱が一気に冷めた。


「え? だって本城さんは嫌でしょ、俺の恋人って言われるの」


「……まぁ、そうですけど。それはその……」


 ――あぁもう! なんでこの人はいつもいつもこうなのかなぁ!?


 心の中で、彼に対する罵声を思いっきり浴びせる。いま私がこうして、心の中で貶しまくっていることを、きっと彼は想像すらしていないだろう。


「え、何々? 俺なにか変なこと言った?」


「……はぁ。別に何も言ってませんよ。……バーカ」


「はぇ!?」


 そんな私の一言に、目をカッと見開いて村木先輩が驚いてみせる。そんな彼を横目に、お昼ご飯を食べ終わった私は、立ち上がって次の教室へと向かう支度を始めた。

 一体どうして自分はバカと言われてしまったのか。それを未だに理解していない様子の彼を見て、私は思わずクスッと笑ってしまった。



 ◇ ◇ ◇



 ようやく四限目が終わり、本日の講義は全て終わった。明日は文化祭の準備日で休みなので、実質明日から連休となる。

 早くも薄暗くなった構内を歩きながら、ぼんやりと物思いに耽る。このまま家へと帰るために、私はバス停へと向かっていた。


 ――そうだ、お醤油切らしてたんだっけ。向こう着いたら、そのままスーパー寄らないとなぁ。


 今まさに学校へと入ろうとしている一台の車とすれ違いながら、校門を出ようとする。そのまま左に曲がった先にある、バス停へと向かおうとした――そのときだった。


「あ、あの……本城さん!」


 突然背後から声をかけられて、肩をビクッとさせてしまう。それと同時に、私の頭の中でいくつもの憶測が飛び交った。


 ――え、今の声って、村木先輩? 違うよね、明らかに男の人の声じゃなかった。じゃあ誰、秋那? ……違う、秋那はそんな呼び方しない。だとしたら……。


 この大学で私のことを見つけて、こんな風に声をかけてくるような人物なんて、この世で一人しか存在しないはずだ。そのはずなのに、いま私に声をかけてきた人物は、明らかにイレギュラーな存在だった。

 果たして、声をかけてきたのは一体誰なのか。一気に高鳴り出した胸に手を当てながら、恐る恐る私は後ろを振り返った。






「っ……あなたは」


 長い黒髪を一本に束ねて、赤縁の眼鏡をかけている。私よりも身長が低い割には、大人びた雰囲気の女性だ。……この顔は一度、私は見たことがある。


「あ、お、覚えてますか? 実お兄ちゃんの、従妹です。この間、お会いしましたよね?」


 そうだ。あの時彼と一緒にいた、従妹と言っていた女の子だ。そんな彼女が、何故こんなところにいるのだろうか。


「まぁ……はい。その……なんだろ。この間は、色々と言っちゃって……」


「ですね。色々と、言われちゃいました」


「あ、ごっ……ごめんなさい! あの時はその、色々と頭の中がゴチャゴチャになっちゃってて……!」


 咄嗟に私は、彼女に向かって頭を下げた。まさかこんな再会を果たすとは予想外だったので、突然の謝罪にはなってしまったが、彼女にはいつか謝りたいと思っていたのだ。


「本当ですよ。突然家に来たと思ったら、初対面なのにあの言われようですもん。そりゃあ私だって、その、頭にきちゃいますよね」


「分かってます。もしかしたら、謝っても許してもらえないかもしれないけど……でもその、謝りたいとはずっと思ってて! だから、だから……ごめんなさい!」


 必死に頭を下げながら、謝罪の言葉を口にする。するとしばらくの間、彼女は何も告げずに無言を貫いていた。

 私達の横を通り過ぎていく、学生達の声。大学の前を通っていく、何台もの車のエンジン音。遠くのほうを走る、ガタゴトと鳴らす電車の音。そんな音だけが私の耳を通り抜け続けている。しかし、一向に彼女の声は聞こえない。

 一体この時間は、いつまで続くのだろう。ひたすらに地面を見続ける私は段々と、焦りと恐怖を覚え始めていた。


「……はぁ。頭、上げてください」


 そうしてようやく、何かを諦めるかのようなため息と一緒に、彼女がそう一言告げた。それに従うように、私もゆっくりと頭を上げる。


「何があったのか分からないですけど……その、あんな風に感情的になるのは、本当にやめたほうがいいですよ。今回は実お兄ちゃんに免じて許しますけど、本当なら私、ああいうのは絶対に許さないですから」


「っ……ごめんなさい。あ、ありがとう……?」


「いえ……」


 私がそう言うと、彼女はそっぽを向きながら一息を吐いていた。






「……あの、この後って時間ありますか? よかったら少し、お茶でもしながらお話しません?」


 つかの間。唐突に彼女が、私に向けてそんな誘いをしてきた。


「この後? ……まぁ、特に急ぎの用事もないんで、大丈夫ですけど……」


 一体彼女に、どんな意図があるのかは分からない。だがここで断ってしまうのは、彼女のシャクに障ってしまうだろう。恐怖こそあるが、せっかくの機会だ。ここは勇気を出して、素直に付いていってみてもいいかもしれない。


「よかった。じゃあ、近くのファミレスにでも行きましょうか。こっちです」


 そう言うと彼女は、バス停とは反対方向へと進み始めた。

 渋々ではあったものの、私は彼女に連れられるがままに、近くのファミレスへと向かうことになった。

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