みんなが絶句した日
この世には、大きく分けて二種類の人間がいるらしい。
そう――陽キャと陰キャだ。
彼女によれば、俺は根っからの陽キャで、自分は根っからの陰キャな生き物なんだそうだ。
そして、そんな相見える二つの生き物は、共存していくことが、非常に困難であるのが事実らしい。
しかし、そんなことも知らずに、陽キャの俺はあの日から、陰キャである彼女のことを、ある意味で“好き”になってしまった。
このお話は、俺が自分自身が陽キャだという事実に気付かされる少し前。初めて彼女が、俺達のテリトリー、演劇サークルに現れた日から、全てが始まった――。
◇ ◇ ◇
「それじゃあ、一年生のみんな。今日は来てくれてありがとう」
部長の早川先輩が、一年生達の前に立って話を始めた。
新学期になってから、早三日が経った。今日は全てのサークルが待ちに待っていたであろう、サークル体験入部会の日である。
我ら演劇サークルのもとには、実に七人もの体験入部希望者がやって来てくれた。あまり日の目を見ない演劇サークルに、この人数が集まることは実に異様な光景ではあるが、この七人全員が入部してくれるのなら、部員数もかなり安定することだろう。現状、二年生から四年生を合わせて、十一人の部員数から考えてみれば、かなり嬉しい数だ。
「早速なんだけど、みんなにはこのサークルで何をやってみたいのか、興味があるのかを聞いてみたいんだ。ハッキリと決まってないのなら、ぼんやりとでも構わないから。じゃあ……そっちの、男の子からいいかな?」
早川先輩は、綺麗な横一列の席に並んだ、端に座る一人の男子を指名した。
「あ、えっと。自分は、脚本をやりたいなと思っていて。趣味で小説とか、物語を書いたりしているので、そういうのを生かせたらいいなって」
「そっかそっか、脚本ね! じゃあ次、隣の子」
「はい! 自分は……」
順々に、自分の希望する役割を述べていく。だがいずれも裏方志望が多いようで、肝心の役者志望は今のところ、一人もいなかった。
「おいおい……。この調子じゃあ、一年に役者志望いねぇんじゃねぇの。このままだと、役者は六人しかいないことになっちまうぞ?」
俺の隣に座っている黒澤が、頭の後ろで手を組みながらボソッと呟いた。
「仕方ないだろうね。あんまり表立ってメインをやりたいなんて言ってると、バカ扱いされるようなものだし。よっぽど肝が据わってる奴じゃないと、役者をなんてやりたいと思わないよ。ウチのサークルも特別有名なわけではないし、裏方志望が多いのもまぁ分かる」
「はぁ……。また裏方の奴を説得して、役者に出てもらうしかないかなぁ……」
そう言うと彼は、一つ大きなため息を吐いた。
「それじゃあ、最後。端っこに座ってる女の子、いいかな?」
結局、前の六人全員が、裏方志望だということが分かった。最後の望みをかけた様子で、部長が残りの一人を指名する。
だが正直なところ、彼女の返答は、この部屋にいる誰しもが期待をしていなかったことだろう。
他の六人は、きっちりと席を空けず綺麗に座っているのに対し、彼女だけは唯一、一席分ならぬ二席分も間を空けて、ポツリと孤独に座っていた。
女の子のくせに、気怠そうに両足を広げてだらんとさせるその様は、見るからにやる気は全くのゼロだ。
「……あぁ、もう私の番ですか?」
どうやら話を聞いていなかったようで、指名されてからも数秒間、返答までに空白の間があった。こんな子がサークルに入られてしまっては、少し先が思いやられそうだ。……そんな折だった。
「そうですね……私は……
――役者希望、なんですけども。一応」
そんな彼女の一言に、その場にいた全員が――絶句した。
【辞典】
●陽キャ:陽気なキャラの略。基本的にリア充であり、コミュニケーション能力に長け、友達が多い人を指す。学校の中では、活発な運動部の人達を指すことも多い。
●陰キャ:陰気なキャラの略。単純にオタクを指す場合もあるが、基本は非リア充であり、コミュニケーション能力が乏しく、友達が少ない人を指す。学校の中では、文化部や帰宅部に所属し、比較的大人しい人のことを指すことも多い。