エンディングという名のプロローグ
──ごめん、無理だ。
校庭の紅葉がひらひらと散る。吹き抜ける冷たい風はそれらを天高く舞いあげた。
それと同時、彼の口から告げられた一言が耳から入り全身を駆け巡る。
理解するのにそこまで時間はかからなかった。
しかし、理解すると同時、激しい憤りを感じる。何故受け入れてくれないのだろう。ここまで尽くしてくれる人はそう居ないというのに。
「君の好意には薄々気付いてはいたんだ」
じゃあ! じゃあどうして……!
しかし、その疑問も次に発せられた言葉により否が応でも理解させられる。
「✕✕が好きなんだ」
……あぁ、そうか。やはりあの女なのね。私の道を潰して行ったあの女なのね。
ここまで積み上げてきたものを全部壊してあの女は奪っていった。
あの女は何時でも私の邪魔をする。
抵抗してみるも最終的には彼があの女の味方をする。
どうして、どうしてあなたは私を……。
「……これ以上するなら本気で取返しのつかない事になるぞ」
最後に彼はそう言った。
違う、違うの。私は、私はそういうつもりでは……。
ただ、あなたに振り向いて欲しくて。ただ、あなたの事を思って。
私は、あなたの為に──。
「それは、違う」
彼が否定する。私の内に秘めた感情を。私のこの想いを。私の、純粋なこの愛情を。
「それは、ただの君の独りよがりな欲望だろう?」
私の愛情を、欲望? 何を、何を言っているの?
愛情に決まっているじゃない! あなたを想うこの気持ちが、あなたを慕うこの想いが、あなたを敬うこの感情が。
私の独りよがりな欲望であると?
何を馬鹿な事を仰るのでしょう。あぁ、そうか。あの女の仕業ね。あの女が彼を惑わせているのね。
なら、力ずくでも彼の目を覚まさせないと……!
「……それが、君の答えか」
彼はそう言うと踵を返して立ち去っていく。
私は声を掛ける。しかし、彼は止まらない。
その彼の背中は、いつものような神々しさはなく、ただひたすらに寂しく見えた。
彼をこのようにしたあの女が許せない。何とかして彼の神々しさを取り戻すのだ。
私は絶対に諦めないですわ!
……この時、私は気付いていなかった。
この後起こる悲劇に────。
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「……死ぬほど不愉快でしてよ」
目の前を通り過ぎる浮ついたカップルに何度目かも分からない言葉を呟く。
そして極めつけに……。
「……りあじゅう爆発しろ、ですわ」
そう、見た目からは想像出来ない、違和感ありまくりの言葉を放つ。
しかし、その言葉はイチャつくカップル共には届かない。
──華翔院綾華。これが私の名前。
政治的権力が高く、財力に関しては横に並ぶものは無いと名高い華翔院家の長女、もとい一人娘として、これまで何不自由なく暮らしてきた。
苗字には色々思う所もあるが、そこまで気にしたことはない。ちなみに『院』が重要らしい。
まぁ、その話は長くなるから置いておいて。
私は見た目、頭脳共にトップクラス。検定などは全て一級を取得済み。
その姿はぱっちりお目目に艶やかな色合いで枝毛一つないロングの黒髪。トップモデルばりに抜群のスタイル。そしてぐらびあなる者達が負ける程の豊満な体型。正しく才色兼備、博学才穎、そんな言葉が似合う。
そして、華翔院家の才女の名をほしいままに、将来はいい婿を取り、その家に嫁ぐ、もしくはそのまま家督を継ぐ予定だった。
……そう、だったの。
全ては高校の時現れたあの女のせいで狂ってしまった。
あの女は、そこら辺でイチャこらしているカップル共の様に平民であるにも関わらず、生粋のお嬢様、そして偉い身分の子達しか受け入れないと評判のこの国屈指の超名門エリート学校、『玲紋学院』におこがましくも入学。
ちなみに玲紋学院は私のような超エリートしか受け入れないと謳っているけれど、小中高一貫制で、中、高と上がる度に外部生の編入試験が行われる。その時にだけ知力と財力がそこそこある者達が入ってこられるらしい。そういう私はお受験戦争に勝ち抜き、小学校からエレベーター式に上がっていったのだけれど。
それはそうと、普通なら平民というだけでお断りする所なのだけれど、あの女はわざわざ高い金を払い、そして高い学力を買われ入学してきたらしい。
まぁ、どうせずるでもしたのでしょう。平民如きが高貴な身分である私達に近寄るだけでも許さるべきではないし、況してやそれより上になる筈などない。
しかし、蓋を開けてみるとテストの席次では毎回上位。トップにはなれないけれど、毎回五番以内には載っていた。
ありえない……。そして、わざと狙っているのか、これまた偶然が連続して起きているのか、いつも私の一つ上にいる。中間試験も期末試験でも。悔しい! こんな何処の馬の骨とも知れない平民如きに、この私が!
今思うとそこから私の抵抗は始まったのかもしれない。
あの女は実はいつもトップを狙っていたらしい。しかしながら、トップにはあのお方がいらっしゃる。
そう、花月恭介様。そのお姿、人柄、そして席次で毎回トップに居ることから、『玲紋の貴公子』と呼ばれていた。
その言葉が似合う程、彼は輝いていた。
私は、小学校の時彼を一目見てから、絶対彼に嫁ぐ、何としてでもものにしてやると決めていた。
サラサラな少し長めの黒髪。そして、切れ長で鋭いながらも温かさを感じる茶色い瞳。やや幼さが残りながらも大人な色気を醸し出す顔立ち。街中を歩けば誰もが振り向くでしょう。
彼の魅力はそれだけではなく、まず他の追随を許さない程の博学さ。
そしてその性格の良さ。誰にでも優しく接し、平民だろうが差別せずに仲良くするその心の広さ。
極めつけは家柄までいいと来た!
あぁ、私はこの方と結ばれるために生まれてきたのですわ!
心からそう思っていた。
だが、しかし。貴公子はあろう事か高校に上がってからいつもの席次に載っている名前ではない、知らない名前を見かけあの女に興味を持ち、そしてなんやかんやあってやつに惹かれていった。
その変化に私以外は気付いていなかったでしょう。彼が段々あの女に惹かれていった事に。
私は、奪われたの。
そう、見た目平凡、頭以外はぱっとしない平民のあの女が、私の未来の旦那様を奪ったのよ! 許すまじ、許すまじ! あの女が彼を誑かし、弄んでいるんですの!
だから私はあの女から貴公子を取り返……ではなく、貴公子の目を覚まさせるべく、様々な行動をした。
彼女に平民の癖に生意気だと注意したり、近寄ってはいけない、あの女は危険だからと彼に言い聞かせたり、根も葉もない噂を流してみたり。
しかし、私のその努力も虚しく、彼は私の愛を受け取ってはくれなかった。
彼は最後まで私に感謝の言葉一つもせず、それどころか、私の家を潰してしまったの!
私の家の不正を暴き、そしてそれを世間に暴露。それから、家を買収、果てには家督を平民にまで落としてしまった。
まさか親が不正をしていたなんて知る筈もない。これまで純粋に生きてきた私まで巻き込まれてしまった。
……そして、その結果が今の私の状況。
今日は世間が騒ぐクリスマス。
私は一人寂しく平民達が群れを成して歩き回る、『歩行者天国』なる所に足を運んでいた。
毎年家に人を集めて盛大にクリスマスパーティをしていたというのに……。
何故高貴な私がこのような下人共が徘徊する下品な場所に来なければいけないのでしょう。
しかも、歩行者天国? 地獄の間違いではなくって?
平民のりあじゅう共があちこちでイチャつく様は正しく地獄絵図だと言うのに。
あちこちでチカチカと点灯する眩しい光、そして客の呼び込みをしている店員、何やら手に提げた籠から長方形の薄い何かを手渡しで渡している人、そしてそこら中に群がる平民共。
そんな目まぐるしい風景に目を回していた私は言葉通り人ゴミに流され揉みくちゃにされ息絶え絶えになりながらも、見つけたベンチに座り込んだのだけれど。
落ち着いてから人ゴミであまり見えなかった景色を見ようと周りを見渡す。しかし、どこを見ても、りあじゅう、りあじゅう、りあじゅうの群れ。
あぁ、爆散してしまえ!
心の中で叫びつつ、ため息をつく。
何故ここはこんなにりあじゅう共が多いんですの? 私への当て付けなのかしら? 半ば諦めながらそう思う私の後ろでは大きな大きなクリスマスツリーがそこそこ鮮やかな装飾を施され鎮座していた。
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私は羞恥で耳まで真っ赤にして怒りながら歩く。
あそこがそんなはしたない意味を持っていたなんて分かるわけないじゃない!
……今しがた座っていたベンチは『成就のツリー下ベンチ』などと呼ばれており、男、もしくは女が一人で座っていると運命の人が現れるというなんとも身も蓋もない噂があるらしい。
……だけどえんこーなるものをしている女が待ち合わせに指定、もしくは誘う時に座る、というのが実際のところなんだと。
どおりで誰も座ってないわけだわ。おまけにあのりあじゅう共は大体それらしい。
ううぅ……危うく汚される所だった……。というか、あそこに居るってだけで汚されたも同然……。もう嫌……。
私があそこに座っていると一人のおじさんが身分の違いも弁えず、鼻息を荒くして声を掛けてきたので制裁を加えた所、この話を聞かされた。
あの時の私の顔は怒りと羞恥で真っ赤だった事でしょう。
あぁ、もう忘れましょう、あんな事!
それよりも、私が美しく舞い戻り、貴公子を取り返し、華々しいフィナーレを迎える計画を……。
……ってもうその事はとうの昔に諦めましたわ。
まだ、私のお花畑な脳はきちんと治っていないみたい。
私はお家を潰されてから一月程かけて彼を諦めた。
理由は簡単。もう既に彼は卒業と同時にあの女に結婚を申し込むなどと言い切ったからよ。
最初は報いを受けるべき、あの女に復讐を! などと憤慨していた。しかし、現状はそんな事をする余裕すらなかったの。
私のやり場のない怒りは、いずれ必ず、必ず果たしてやる。
そう心に決め、諦めたのよ。
そして今の私は、権力者からただの人となっている。
出来ることは少ない。しかし、お金を稼がねば生きていけない。
うん、あんな脳内お花畑な連中は無視よ。勝手に結婚だの出産だのしていればいい。私は没落した今の状況をきっちりと理解し、勉学と貯蓄に励むのですわ!
……せめてもの救いは学院を追い出されなかったこと。
一月の停学になりはしたけれど、その期間だけでも世で噂のあるばいとなるものをしてお金を貯める。
ただ、大学には行きたい。しかし、時給、と言う仕組みの配給制度によればたった一月のあるばいとでは学費は到底補填出来ない。
……もう最上級生。そして大学の試験はもう目の前。試験代は何とか捻り出したのだけれど……。
……勉学とあるばいとを同時に出来るかしら?
財力に関しては横に並ぶ者はいないという程のお金持ちだったと言うのに。
まさかお金の事で苦しむ羽目になるとは。
今は僅かな貯蓄を切り崩しつつ生活している。
昔少しだけ使わずに残していたへそくりがここで役に立つとは思いもしなかった。
少しだけ、と言っても今の私にしてみたら物凄い大金。
あぁ……この大金が貰っていたお小遣いの百分の一にも満たないなんて考えたくもない。
しかし、現実を見なければならない。あるばいとを頑張ってお金を貯め、自力で大学まで行かねば。
両親は謹慎処分で済まないレベルの大事をやらかしたらしいが、それは貴公子側の慈悲により、謹慎処分程度で済ませてもらったらしい。
しかし、社会復帰は難しいでしょう。あそこまでやられてしまっては私でも心が折れますわ。まぁそこに関しては当人の心と世間の反応次第かしらね。
と、いう訳で。停学中の私はあるばいとの募集をしているお店を雑誌で見つけ、そこを目指し歩行者天……地獄を突き進んでいたのだけれど……。
「……このお店、どこのあるのかしら? それと地図上では今どの辺なの……?」
……揉みくちゃになった辺りからずっと迷子です。
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恥を忍んで周囲の人に聞き、どうにか辿り着いたお店。
高貴な身分で多少世間知らずの私でも知っているそこは。
「いらっしゃいませー」
「三点で七百円です」
「チキンをひとつください」
「ピザまんと肉まんちょうだい!」
思ったよりも繁盛している、こんびにえんすすとあという平民の心の拠り所と噂されるお店。
「……ここでバイトしたいんだよね?」
「えぇ、そうでしてよ!」
そこの店長にもう何度目かも分からない質問をされていた。
「……もう一度、志望動機を聞かせてもらっても?」
「お金が欲しいんですの!」
「……名前は?」
「名乗るのであればまず自分から名乗るべきでしてよ!」
「さっき名乗ったけど……」
「忘れましたわ!」
「……年齢は?」
「レディに歳を聞くなど!」
「……履歴書は?」
「そんなもの、私が居れば必要ないですわ! 私は私でしてよ!」
「……働く気ある?」
「まんまんですわ! 平民ごときが来る店など余裕ですわ!」
「うん、不採用」
「だから、なんでですのぉぉぉ!!」
頭の硬い店長は私を認めてはくれない。怒りのあまり勢いよく立ち上がり椅子を突き飛ばす。
あぁ、もう! これだから平民は……!
「……君、見た感じ玲紋の子……だよね? そんな生粋のお嬢様がなんでこんなところでバイトを?」
「えっ? ……あ、いや、その。しゃ、社会勉強ですわ! それと、お金が欲しいんですの! 何としてでも稼がねばいけないんでしてよ!」
流石に問題を起こしてお家を潰されてそのせいでお金が無くて困ってますなんて言えない。
そこは誤魔化してとにかくお金が欲しいことを伝える。
動機などそれだけで充分でしょうに……。
というか、この店長は侮れない。一発で私が玲紋出身のお嬢様だと見破った。
なぜバレたんですの……?!
「やっぱり玲紋か……。君と比べてこんな身分の低い人が集まるとこに来ちゃ悪目立ちしすぎる。悪い事は言わないよ、早く帰った方がいい」
「いえ! 断固として帰りませんわ!」
しびれを切らしたのか、店長は帰れと言い出した。
むぅ……さっきはカマかけていたのね! 苦労してやっとここまで来たんですもの、ここぞと言う時の私の忍耐力を舐めないで欲しいわね!
「もう、困るんだよ、こっちにしても、君にしても。君のために言ってるんだ。もし、学校にこの事がバレたらどうなると思ってるの?」
そう、諭すように店長は言ってくる。
うっ……それを言われるとちょっと厳しいのだけれど。
で、でも!
「バレたらその時はその時です! 腹を括ります。本当に困っているのです。どうか、雇っては頂けませんか?」
しょうがない、少しだけ、ほんの少ーしだけ下手に出よう。まさかこの私が平民ごときに下手に出るなど……。
私の中の大切な何かが失われた気がする……。
「はぁ……ちゃんと履歴書持って来て、ちゃんと質問に応じて、ちゃんとした理由があれば雇っていたんだけどなぁ……。
これ以上は営業妨害だって警察に言わないといけ」
「すみませんでした、それだけは勘弁してくださいませ」
私、華翔院綾華。恥、外聞、そんなものはとうの昔に捨ててきましたわ。
私はそれはそれは見事な土下座をした。
何とでもいってくださいまし。プライド? 高貴さ? それはお金になりますの?
「ちょっ、やめなよ。こっちが悪い事してるみたいじゃないか……。あぁ、もう、分かった。分かったよ。
とりあえず、仮の採用って事で。もし、ダメだと思ったら申し訳ないけど、容赦なく切るからね?」
「あ、ありがたき幸せ……!」
私は失われた何かをもう取り戻せないのかもしれない。
そんなこんなで私は採用されたのだけれど……。
「きゃっ! チキンが落ちましてよ!」
「あぁっ、貴方今私をいやらしい目で見ましたわね! 卑しい身分であるにも関わらず、立場を弁えなさい! 不潔ですわ! 直ちにお帰りなさい!」
「私はまだ入りたてですの。たかが平民の分際で文句を言うなら他のお店に行ってくださいまし!」
このように変な客が多いというのに、全て私の責任となってしまった。
どうして……?! 理不尽だわ!!
クリスマスだなんだと囃し立て、こちらの都合を考えない浮ついたりあじゅう共や下卑た視線を向ける禿げたジジイを追い返して何が悪いんですの!?
しかし、ここで辞めるわけにも行かず、店長にまた頭を下げどうにかこうにか続けること三週間。
大きく息を吸ってゆっくりと吐き出す。冬の空に吐いた白い息がゆっくりと溶けて消えていく。
「……大丈夫。私ならできますわ!」
向かえた大学受験の日。バイトじゃない日はずっと部屋に篭って勉強漬け。バイトの日でも帰ってから勉強。
模試は受けられなかったけれど、これだけ頭に叩き込めば絶対に大丈夫なはず。
神妙な面持ちで受験へと挑む。
……結果は。
「…………あ」
私の受験番号は努力の甲斐あってちゃんと刻まれていた。
よかった……! 二次試験はどうなるかと思っていたのだけれど、無事合格できたみたい。
少しだけ仲良くなったバイトの女の子に公衆電話で連絡。
彼女は自分のことのように喜んでくれた。少しだけ嬉しい。彼女とはもっと仲良くなってもいいかもしれない。
「……あとは、入学金その他諸々ですわね……」
没落した私にとっての最大の難所。
もしかしたら受験よりも困難かもしれない。実際、今こうして壁に当たっているのだから。
と、借りている小さなアパートに帰りつくと同時。
「……綾華。これはあっちにバレないようにこっそり貯めていた父さんのへそくりだ。これを使いなさい。
なに、心配はいらない。悪い金ではない。ちゃんと、父さんが働いて得た金だ」
そう言って封筒に入ったお金を無造作にテーブルの上へと置く。
「……っ?! この金額……。お父様、でもこれは……!」
「綾華、いいかい? 親っていうのはね、子供の前では一丁前に振舞ったり格好つけたりするもんだ。
それを無下にするのは野暮ってもんさ。
それにお前は母さんと父さんの自慢の娘だ。お前なら上手くやっていける。いずれは家を元に戻せるだろう。
だから、その前祝いだ。受け取ってくれ」
「お父様……!」
不覚にもお父様が格好いいと思ってしまった。
昔は両親はずっと仕事で家に帰っても誰もいなかった。私の事何かどうでもいいと思ってる、そう考えてたけれど。
子供の事を思ってくれてるんだと知った。私の事をちゃんと見ててくれていたんだ。
「……ありがとう……ございます……!」
震える声でそう伝え、急いで部屋へと向かった。
だって、今はとっても恥ずかしい顔をしているはずだから。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
──桜が散る。
大きく息を吸い、ふっと吐いてから顔を両手で軽く叩く。
「……よし!」
門の前で気合を入れ、一歩踏み出す。
ここから、私の新たな人生が始まるんですわ!
そう期待に胸を膨らませながら入学式会場へと向かう。
……ふと聞こえた声が気になり、横を見やる。そこには、笑顔で並んで歩く貴公子とあの女が……。
……まさか、大学まで一緒とは。
というか、結婚はどうなったの? あの男、まさか直前でヘタレたとでも言うの?
そんな事を考えている私などいざ知らず、彼らは人目を憚らず仲良く手を繋ぎながら入学式の会場へ……。
「…………」
私はまた大きく息を吸う。
「りあじゅう爆発しろですわぁぁぁぁぁぁっ!!!」
おわり