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冴えないオレと店員の日曜日

作者: 水岸ほたる
掲載日:2017/10/27

佐倉龍一、25歳、土木業勤務三年目、彼女いない歴=年齢


いわゆる

モテない、冴えない男なのだ


〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇


時刻は午前10時、今日は日曜日だ。そんなわけでオレ、龍一は散らかりまくった部屋でゴロゴロしている。なんて至福の時間だ。

土まみれの現場で汚れた体は先日の風呂できれいにしてある。起きたのは先刻のこと。

とりあえずテキトーに髭剃りと朝飯を済ませて布団に潜っていた。万年床万歳。


畳にはギャルゲーとPSP、3DS、PSVitaが転がっている。あと漫画か。

しかしオレには恋人なんていない。朝起こしてくれる幼馴染なんて幻想だ。あんなのは妄想の世界なのだ。

そんなことを考えながら寝返りを打った。


趣味、ゲーム、漫画、アニメ、ネトサ。顔は中の中、とは友人の評価だ。

そしてなぜか背とがたいだけはしっかりしている。モテたくて中・高とやっていたバスケのおかげだろう。

もちろん、モテたのはエースの奴だけだったが。


今日はネトサでもしようか、そう思ってスマホを開いた、その時。


「あれ?メール?」


正確にはメッセージRだ。消すのも面倒なのでオレは迷惑メールやこの類のメールもそのままにしている。


「モテない男からの脱却……?」


またつまらない内容だろう、と開いたメッセージに、普段なら気にしないことを、今日ばかりは気にしてしまった。



――彼女いない歴=年齢のそこのあなた!なぜ自分がモテないのか分かりますか?

  それは格好!おデブさんや髪の毛の少ない人も大丈夫!ファッションは世界を変えます!

  詳しくは↓をクリック★――



さすがにURLは無視したが、大方こんな感じの内容だった。

部屋にある、主にゲームをするTVを見やる。だぼだぼのTシャツ、黒い高校のジャージ、ぼさぼさの頭……

唯一の救いは髭がないことだろうか。


「ファッションは世界を変える、か」


どのみちこのまま彼女が出来ないなら、信じてみてもいいだろうか。


「この近くのおしゃれな服屋はっと……」


くしで表面だけ梳きながら、スマホの検索ページを開いた。



〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇



電車で数分の繁華街に、その店はあった。普段行く電気屋やケータイショップをスルーして、大きなアルファベットが書かれたその店に入った。


……まぶしい


それが第一印象だった。照明だけじゃない、服がキラキラしている気がするのだ。

オレはぼーっと立ち尽くしていると、周囲の目線を感じ、はっとしてそそくさとメンズコーナーへ向かった。

なんせ、服を買いに行く服もないのだ。Tシャツにジャージ姿は、おしゃれなこの店では目立つ。


メンズコーナーに着き、とりあえずボタン式のシャツとズボンを探すことにした。


「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」


……のだが、近くにいる店員に声をかけられて、オレはパニック状態になってしまった。

しかもその店員がリスのように小さくて可愛らしいのだ。


「え!?あー、えっと……」


キョロキョロと辺りを見回し、目に入ったチェックのシャツと茶色のカーゴパンツ?というのか?を指さした。


「あれ!あれとあれ下さい!」


店員は目線を指の先へ移すと、はい!と言ってオレをそこへ連れて行った。


「サイズはいかがなさいますか?」


その問いにオレは逡巡して、


「(身体デカいと思われたらやだな…)

え、S!Sのサイズで!」


と結論付けた。


「S!?Sでございますか!?」

「あと股下は58cmで」

「58!?」


店員が明らかに動揺しているが気のせいだろう。

完璧だ…これなら服のサイズは疑われまい。


「で、では試着室はこちらです…」


店員がオレの選んだチェックのシャツと茶色のカーゴパンツを手に案内する。

あとは試着をこなせばミッションはクリア…


「…あの、すみません、入らないのですが…」


…のだが、案の定、シャツはぴちぴち、パンツは太ももで止まってしまった。

あっ!店員の奴、でしょうねと言わんばかりに苦笑いしてやがる!チクショウ!

フンだ、どうせ俺は冴えない男として生きていくんだ……そう思っていたところに、店員が口を開いた。


「お客様、もしかして服買ったことないですか?」


うるせーなこのアマ!焼いて食ったろか!と泣き叫びそうになっていると、意外な言葉が飛んできた。


「大丈夫、お客様は十分素敵ですよ」


え?なんだって?


「背は高いし体はがっちりしているし、何より髭も剃られて清潔です。臭くもありません。

それだけで十二分にいい男ですよ。お客様、本日のご予算は?」

「えっと、一万とちょっと……」

「でしたら、私めに任せていただけませんか?」


それは、つまり――


「コーディネートしてくださる、と?」

「左様でございます!」


小奇麗なメイクをした店員の顔がにかっと笑う。屈託のない笑顔に一瞬あっけにとられてしまった。


「私、こう見えてもベテランなんですよ?大丈夫、きっとお客様らしく仕上げてみせますから」

「は、はぁ……」


もちろん、予算以内で、ですよ、と彼女はウインクした。



〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇



「いかがですか!?」


試着室のカーテンをしゃっと開けると、店員が女子高生のようにキャッキャッと浮足立った。


「うんうん、サイズもぴったり!カジュアルで背伸びし過ぎず、かといってダサくない絶妙なコーデでしょう?」


確かにそうだった。紺のジャケットにエスニックな黒いシャツ、ストライプの入ったこれまた黒いズボンは店員が自画自賛するに値するものだった。

メジャーで体の各部分を測られた後だからサイズはぴったりだし、これは渋谷で見るチャラ男のような派手さはないが、明らかに先程のオレよりずっと垢抜けた格好だった。

予算は……


「税込みで……」


店員が電卓をぱちぱちとたたく。そして金額をオレに見せてきた。


「こちらになります」


うん、見事。予算を下回る四桁の数字があった。さすが、安さに定評のある全国チェーン店だ。


「最後に、余計なお世話かもしませんが……」


すっと目を細めて店員は言った。


「人間、見た目が全てではありません。しかし、見た目が相手に与える印象が大きいのは否めません。

だからこそ、あなたはあなたらしく、等身大の格好をすればいいんですよ。もし自分で選ぶのが難しいときは勇気を出して私たちにお任せください。

ファッション業界の店員の目、なめないでくださいね」


お買い上げなさいますか?という言葉に、オレはこくんとうなずいた。



〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇



ありがとうございましたー!と見送られて外に出る。天気は雲一つない快晴。正午を過ぎた街中には長めの影が伸びていた。


等身大の自分、か。


青い空と服屋の袋を交互に見つめてリフレインする。脳裏にちらついていたメッセージのことはとうに消えていた。


もう少し研究してみるか。


スマホを手に取り、今しがた出た店のホームページを開く。そしておすすめコーディネートのページへ飛ぶ。

ずらりと並ぶおしゃれな服になれるには、少し時間がかかりそうだった。



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