ヒゲモジャとヒキガエルと
恋愛要素一切なしのこの回もうしばらくご勘弁ください。
※投稿がしばらくできておらず、申し訳ありません。引き続きどうぞ、お読みいただければ幸いです。
「倍がえしだ!」
なんて意気込んだオレと勘九郎常務。
海千山千のオッサン達に若い(比較的な意味でな!)オレ達で勝てるのか、不安要素はあった。
しかし、やるっきゃない。異動させられるわけにも、辞める訳にもいかない。二海との約束だしな!
…
「これは、平手さん、ご無沙汰しております。ずいぶん久しぶりの役員会ではありませんか」
「ああ、そうさな。たまには案内をもらったし、若いもんの顔でもみようかなと思ってな。年よりの気まぐれさな」
ヒキガエルのようにヒッヒと鳴く丹羽総務部長
「安心してくださいよ。儂ら、しっかりと引き継いどります。セカンドライフを心置きなく楽しんでください」
割って入るように柴田事業部長の熊のように鬱蒼と繁った髭のなかの口が大きな洞穴をあけて笑う。
「失礼します」
世間話の中で静かな鞘当てをする彼らにオレは一礼し、会議室に入る。
「それでは役員会議を始めます」
丹羽取締役総務部長が進行をするのが慣例である。参加者全員が着座したのを見計らい役員会が始まった。
役員は嗣原社長、勝重専務、勘九郎常務、丹羽取締役務部長、柴田事業部長、平手取締役非常勤顧問、バードウイングスコンサルティング㈱の徳永社外取締役の9人で構成されるが、嗣原勝重専務はアメリカのニューヨーク駐在中のため欠席していて、出席者は8名だ。
「まずはじめに、この間の東京営業所の事案について、社長の許可を得て蒲生営業支援部長も出席をしていることを報告します」
オレは軽く頭を下げる。
「では社長からごあいさつを」
「みなさん、おはようございます。さてこの厳しさを増す経営環境の中で、我が社の存在意義はいや増すばかりです。しかし、この間幹部の退職などが相次いでいる。我々は中小企業のフォローアップを業として行っています。改めて企業の規範となるべく、経営理念を全社の共通認識として徹底するよう努めていきたいとおもいます」
「それでは本日の議案であります。今年度の新規事業展開について、柴田取締役。」
「今年度新規事業として企業相談ホットラインの開設をはじめとして…」
…
会議は淡々と進み
「それでは次に、東京営業所の混乱の問題について、蒲生営業支援部長。」
オレの出番がやってきた。
「それでは報告いたします。私、さる11月1日に東京営業所の担当顧客である㈱サンライズ企画の経営分析に伺いましたところ…」
オレはこの間のサンライズ企画と東京営業所の不適切な会計処理について指摘したところ、営業所長と担当次長ほか数名の社員がそろって急な依願退職をしたこと。二重の帳簿によって管理されてきたこと、事態収拾のため数日間の滞在期間の延長を要したことなどを報告した。
「…以上がお手元にあります報告書のとおりです」
…
「こりゃいかんぞ。もうちょっと丁寧にやりたまえ。これじゃウチのメンツ丸潰れじゃないか」
ヒゲモジャ柴田が吠える。
「東京営業所は社長と常務肝いりの首都圏進出の要となる営業所。ここを潰してしまったら、社長と常務の責任問題に繋がるぞ。キミに責任がとれるのかね」
ヒキガエルもチクチクと社長や勘九郎にまでも嫌味の矛先を向けてくる。
「蒲生部長は明智所長らと、サンライズ企画との不正を発見してくれたわけで、責められる理由にはなっていません。任命責任は常務である私にあります」
勘九郎が気色ばむも、ヒキガエルは矛先を緩めない。
「おやおや、先輩を庇われるのですかな。美しき師弟愛ですな。しかし、ご自身でガバナンスができていなかったことをお認めになられた」
「まあ…今回の一件は、蒲生部長の対応を責めるよりもこのガバナンスができていなかったことに問題があるのじゃな」
頭髪どころか眉までも白く、深いシワが刻まれたじいさん…もとい平手顧問がつぶやいた。この会議中一言も声を発しなかった老人の声にこれまでわめきたてていた、ヒゲモジャもヒキガエルも静かになった。
「…では、この明智所長らの人事の発案はたしかに常務であったろうが、この役員会で合議で決め、総務部長が内示したわけじゃて。…ということは、儂らの連帯責任じゃな」
たしかに。と、徳永社外取締役も同意する。
これまでオレの責任をと喚いていたヒゲモジャとヒキガエルの顔は一気に赤くなる。
「しかしのう、気になるのは、総務で年に一度、営業所の内部監査を行っており、経営状態を掴んでおったはずなのに、なぜ見つけられんかったのかのう…」
表情ひとつ変えずにポツリと呟く老人の言葉に、ヒキガエルの顔は一気に赤から青へと色を変えた。
「そういうことならば、営業所が注文を受けたシステム開発や事務機器等の導入は事業部が一括しているはずですね。導入から販売までを見通せていなかった、ということになりますね」
徳永氏は、自分はコンサルタント。会社のことを客観的に見るのが仕事。と付け加えた。
あ、ヒゲモジャも青くなった。
「お二人とも、ご指摘ありがとうございました。今回の件で常務や両取締役にも落ち度はあれど、最終責任者は私です」
それまで険しい顔をしていた社長が重々しく口を開く。
「まずは再発防止に力をいれましょう。蒲生部長、営業支援部として何か見解はあるかね」
いきなりオレに振られて、ビビったが、以前から考えていたことを話した。
「『営業所』という性質上の問題点、そして我が社が営業所を置く、東京そして上海という大都市の地理的用件も鑑みるに、抜本的な強化が必要だと思います。
例えば営業所から、『支社』に格上げし、取締役級の責任ある立場の支社長をおきガバナンスの再構築をはかります。そして中長期的な展開として、事業部や経営支援部の業務を支社で可能にして、半ば独立した経営を行わせることを目指してはいかがでしょうか」
「うむ、そら、ええ意見じゃ」
「なるほど。蒲生君の意見は参考にさせてもらう。もう下がってもらって構わない」
「それでは失礼します」
社長に退室を促され、オレは役員会議室を後にした。
ふへー!緊張で背中から手のひらから、汗ビッショリ。
なんとか上手くいったよな?な? これは?
「部長、どうなりました!?」
自分のデスクに帰るとみんなが心配そうに詰め寄ってきた。
「うーん、まだわからん」
としか答えられなかったが、一方的なトバシだけは回避できたような…そんな手応えだけは感じていた。




