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二海由樹の終わらない夏!

人を好きになるってどういうことなんだろう。


これまで、男の人を“好き”で“好き”でしょうがない

なんて、思ったことがない。


「カッコいいな」って思うことはあっても、どこか冷めてるていうか、ほら打算的だから私。


しかし、小松さんに言われてから、何か変に意識しちゃって、蒲生部長の顔を見ると恥ずかしくてしかたない。


8月28日 8月も最終週に突入だ。


もうすぐ、暑い夏が終わろうとしている。

仕事はあっという間に2年目に突入し、春が過ぎ、夏が終わろうとしている。2年目といっても、まったく余裕のない夏だった。


5月から独り暮らしもはじめてみた。これまでは電車で片道1時間だったけど、これからは会社まで徒歩10分。

会社が寮として借り上げた1DKマンションが安く借りることができた。月2万の負担はこの地域でも、かなり安いよ!


結構な競争率だったから諦めてたら、ある日、蒲生部長が


「出世したら、独身でも寮を追い出されちゃうんだよ~(泣)

せっかくだから二海さんつかってよ。あ!も、もちろん、ちゃんとハウスクリーニングするから!清潔だから!」


と勧めてくれたのがキッカケ。


でもあとで浦野係長(今年から主任から昇格された)に聞いたら、「そんな決まりはないよ」って言われた。

そういえば事業部の部長は自分の名前で借りて、大学2年の息子さんが住んでる。

蒲生部長、譲ってくれたのかな。


--

仕事は相変わらず、空調の効きすぎて少し寒い室内に、籠りっきりの夏だった。

休みの日は実家に帰ったり、ぐったり疲れて休んだりしてたから、海も山も行けてないし。

小松さんはちゃーんと、合コンで捕まえた彼氏と行ってるし、私が要領悪いだけ。イヤになっちゃうなー。ホントに。


9月9日はネクスト経営の年に一度の株主総会を兼ねた経営フォーラムだ。そのため、フォーラムまでに前年度比突破のために、全部局毎に新規顧客獲得目標や売上目標が課せられる。


だから、どこの部局も夏が無いのは当たり前。

目標達成の成否は9月度に支払われるボーナスにも影響しちゃうから必死だ。


「あっちー!!」

大きい声は蒲生部長だ。声が大きくてよくとおるから、すぐにわかった。安原課長を伴って外回りから帰ってきた。

「暑さ寒さも彼岸までとは言うけどね、盆過ぎても、こう暑いとやんなっちゃうね」

とまたオジン臭いこと言ってる部長。カワイイ。

「ただでさえ忙しいのに、こっちまで暑くなるからやめてくださいよ!」

それに浦野係長が厳しいツッコミを入れるのは、いつものことだ。みんなは夫婦漫才だっていうけど、メオトって言葉にちょっと胸がドキッとするのは秘密だ。(あ、小松さんがニヤニヤこっち見てる)


ガタッ!

突然部長席から立ち上がり、部屋全体を見渡すように言う。


「あー!なにもしないまま、もう夏が終わろうとしている!!

よーし!決めた!みんな!今週の土日!県北にキャンプ行かない!?バンガローをおさえるからさ!」


「えー!」「わはは!」「また出たで!部長の変な虫が動きだした!」

どっと笑いが起きる。

先輩たちが冷やかす。


「ていうか、それより、目標どうすんすか!?フォーラムの準備もあるし。」

瀬尾主任が言う。今年31歳、何かにつけて私の世話を焼いてくれる先輩だけど、ちょっとねちっこくてしつこい。


「ふっふっふ!瀬尾くん、心配いらないよ!ねえ、課長?」

部長得意まんまん!

課長は部長のだいぶ先輩で、もうおじいちゃん。


「ああ、そうじゃな。今日3件の契約がとれたけえ、今年の目標は達成じゃな」

「「おーー!!」」


すごい!!歓声がわいた!


こんな和気あいあいとした団結力の良さが、私たちの部局の良さかもしれない。

「でもフォーラムの準備がありますよ。どうすんすか」

「こら瀬尾!そんなネガティブなことばっかり言うな!」

せっかくのもりあがりに水をさす発言にさすがに周りからヤジが飛ぶ。


「ふっふ!瀬尾くん、オレの責任において終わらせる!今日からオレは毎日4時間残業だ!…だから、経営支援部みんな!オラに少しだけ元気をわけてくれ!」


オレの責任…その言葉、カッコいいな。

でもなんで“オラ”なんだろ。なぜか両手あげてるし。

男の先輩達が爆笑しながらドラゴンなんとかっていってるけど、意味がわらない。


「そして土日休むぞ!そして、行きたい奴はオレと一緒にキャンプに行こうぜ!」

立ち上がって《おおー!》という人たち。ヤレヤレという顔をしつつも楽しそうな浦野係長。


おかあさん、あたし、いい会社に就職できました。


あれ?蒲生部長、性格変わってきてません?

→いいえ、あまりのデスマーチに若干ハイになっちゃってるだけです。

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