3.奴隷販売所
奴隷販売所。
その言葉を聞いてどんな場所を思い浮かべるだろうか。
亮司は、暗くてじめじめした牢屋のような場所をイメージしていた。
しかし、実際は全くの逆だった。
外見はどこにでもあるような普通のビルだった。しかし中に入れば非常に明るく清潔感に溢れていた。
入口付近に受付が置かれており、スーツを着た美人の受付嬢が出迎えてくれた。
来店理由を聞かれたので、奴隷に興味があるが初めての来店である事を告げると、笑顔で頷きすぐに案内係りを呼び出してくれた。
現れたのは四十歳前後に見える男性で、非常に真面目そうな印象を受けた。
「お待たせいたしました。案内を務めさせていただく斎藤と申します。どうぞ宜しくお願い致します」
亮司も挨拶を返し、斎藤と名乗った男の名刺を受取る。名刺には営業スタッフ、課長という文字が書かれていた。
まるで車のディーラーのようだと亮司は感じた。
斎藤の案内で現在いる奴隷を見せて貰う事になった。
緊張しながら付いていくと、六畳程の部屋に案内された。部屋には小さなステージがあり、その正面にソファーがL字型に並べられていて、ソファーの前には小さめのテーブルが置かれていた。その他には何もない殺風景な部屋だった。
促されるままステージと向かい合うようにしてソファーに座ると、斎藤も亮司のはす向かいへと腰を下ろした。
それに合わせるように、ノックの音が響いた。斎藤が返事をすると眼鏡をかけた女性が入ってきて、亮司の前にお茶をおいた。亮司がお礼を言うと、女性はニッコリと微笑んで優雅にお辞儀をして去って行った。
女性が部屋から出るのを確認して斎藤が喋り始めた。
「本日はヒューマノイドご購入のご検討に見えられたという事で宜しいでしょうか?」
「ヒューマノイド?」
聞き慣れない言葉に亮司は首をかしげる。
「はい。ヒューマノイドでございます。一般的には奴隷という言葉が普及しておりますが、形式上はロボットの販売店という事になっておりますのでご承知ください」
「そう言えばそうでしたね。失礼しました。今日来たのはそんな感じです」
「いえいえ。とんでもございません。では、どのようなタイプのヒューマノイドをお探しでしょうか?」
「受付でも言ったのですが、こうゆう所は初めてなんです。どんな奴隷……ヒューマノイドがいるかわからなくて」
「では性別はどちらがいいでしょうか?」
「えっと、女性でお願いします」
「かしこまりました」
斎藤はスマートフォン程の小型の端末を取り出して操作を始めた。何かを調べているようである。
「お待たせしました。現在当店には八十二体の女性型ヒューマノイドの在庫があります。さらに絞り込みを行いたいのですが、何か条件はありますか?」
「そうですね。じゃあ三十歳未満でお願いできますか?」
「もちろんです。三十歳以上の物を一覧から除外いたしますと、全部で四十三体がヒット致しました。ちなみにご存知かと思いますが、一番若い物で十八歳になります。絞り込みを続けますか?」
斎藤のスムーズな対応にやや困惑しつつも該当した四十三人全員を見せて貰う事にした。
「かしこまりました。それではこちらをご覧ください」
渡されたのはタブレット端末で画面には五人分の顔写真とプロフィールのようなものがあった。
「これは?」
「これからそこに表示されている五体が目の前のステージに並びます。少しでも気になった物があれば、顔写真の横にある白丸をタッチしてチェックを入れてください。確認をし終えたら次の五人と入れ替えますのでお伝えください。なにか質問はございますか?」
「とりあえずは大丈夫だと思います」
「では、始めて宜しいでしょうか?」
「はい」
「かしこまりました。それでは少々お待ちください」
斎藤が小型端末を操作して数十秒程でノックの音が聞こえた。斎藤が答えるとドアが開き、全裸の女性五人が入ってきた。
亮司が唖然としていると、すかさず斎藤が説明を加える。
「服を着ていないのは体型をわかりやすくする為です。プロフィールと見比べて気に入った物があればチェックを入れてください。後ほどチェックした物を集めてもう一度同じ事を致しますので、まずは外見とプロフィールのみでご判断願います」
「はい」
日常では考えられない状況に亮司の思考は少しばかり停止してしまった。しかし斎藤の言葉に何とか返事をすると、言われるままに確認作業を開始した。
斎藤の誘導の元、四十三人もの人数の確認がわずか二十分ほどで終了した。プロフィールをしっかりと見れば、もっと時間が掛かったのだろうが、促されるままにほとんど外見のみで判断してしまった。
「お疲れ様です。それではチェックを入れていただいた四体を呼び出します。今度はしっかりとプロフィールと見比べながら、会話などしてゆっくりとお選びください。また、特に気に入った物がなければ他の販売所のデータベースから選ぶ事も可能ですので、ご安心ください」
「はい」
この状況に圧倒されてしまっている亮司は、返事をする事しかできなかった。
そして再びノックの音が響き、亮司がチェックを入れた四人の女性がステージの上に立った。亮司好みの女性が四人全裸で並んでいる。しかもこの中から誰かを買う事になるかもしれない。そう思うと、心臓の鼓動が早まり、周りに聞こえるのではないかと言う程にうるさく鳴った。
このままではダメだと感じた亮司は、プロフィールを見るフリをして自分を落ち着かせる。時間にしてほんの数秒だが少しだけ落ち着いた。大きく息を吐き出すと、再び視線を前に向けた。
「何か質問をどうぞ」
斎藤に促され亮司は質問をする事にした。
「えっと、料理は出来ますか?」
亮司の質問に対して順番に答えが返って来る。どうやら販売所では全員が料理を習っているようで、個人差はあるが家庭で料理をして貰う分には問題ないだけの技術を持っているようだった。
他に何を聞こうかと思ったが特に思い浮かばなかったので適当に自己PRをして貰うようにお願いしてみた。
これは想定されていたようで、全員がすらすらと喋っていた。内容はそれぞれが持っている知識や技術についてがほとんどで、そのどれもが亮司にとってはどうでも良かった。
適当に聞き流していると一人、気になる女性がいた。声がとても綺麗だったのだ。先ほどの質問の時にも感じたが、他の女性の声と比べて非常に心地良く聞こえる。
声が綺麗だと感じた女性のプロフィールを見る。
プロフィールには顔写真と共に値段、年齢、身長、体重、スリーサイズとヒューマノイドになった経緯が書かれていた。名前がない事を今さらながら疑問に思って尋ねてみた。
「ヒューマノイドはロボットですから。お客様が購入時に名前をお付けください」
そういうものかと思い亮司は納得する事にした。
その後、いくつかの質問をして一旦終了となり退室させた。
「気に入った物はありましたか?」
斎藤の質問に対して、亮司は声が綺麗だった女性のプロフィールを指さして一対一で話したいと告げた。




