表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷法  作者: 鈴本耕太郎
2/17

2.たどりついた場所

 雲一つない綺麗な青空を見上げ、坂谷亮司は大きくため息を吐き出した。

 雨ならば良かったのに。

 亮司の気分とは対照的な清々しい青空に嫌気が差す。


 亮司は今、かつてない程の喪失感を感じていた。

 結婚して五年。自分には勿体ない程の良くできた妻と、可愛くて仕方がない娘。二人と共に過ごす毎日は亮司にとって何よりも代えがたい幸せだった。家族の為に頑張って働いたし、疲れていても家族サービスは怠らなかった。何に代えても守り抜くと誓った家族だった。

 

 にも拘らず、気付けば亮司は独りになってしまった。


 妻の不倫に気づいたのは偶然だった。風呂に入っている妻の鞄にジッポライターが入っているのが見えたのだ。亮司も妻も、お互いの両親もたばこを吸わない。不思議に感じて、何となく手に取った。そして亮司は我が目を疑った。

 そこにあったのは、亮司の親友が使っている物だったからだ。

 間違いだと思いたかった。しかしそれはムリだった。

 そのジッポライターは亮司が親友にあげた物だったのだから。亮司が悪ふざけして書いた落書きが何よりの証拠である。

 偶然かもしれない。

 偶然親友と妻が会って、偶然忘れていったジッポライターを持っているだけかもしれない。

 そう自分に言い聞かせて、ジッポライターを妻の鞄に戻すと、いつもの日常に戻った。

 しかし、どうしても気になってしまう。

 何をしていてもその事が頭から離れない。

 悩みに悩んだあげく亮司は、ある日こっそりと妻の鞄にボイスレコーダーを忍ばせた。

 

 結果として妻と親友は不倫関係にあった。

 さらに驚く事に、それは結婚前からの事だった。

 唖然としながらも娘との血縁関係を調べてみれば、予想通りに残酷な結果が出た。


 もしかしたら、どこにでもあるような話なのかもしれない。

 それでもこの辛さは体験した者にしか解らないだろう。

 亮司も出来る事なら、この気持ちを一生知らずに過ごしたかった。

 

 あんなにも愛していたはずの妻が、醜い化け物に見えた。

 目に入れても痛くないと言える程に溺愛していたはずの娘の存在に嫌悪した。

 

 泣き叫びながら必死で謝る妻を冷たくあしらった。

 何も知らない娘は突然変わってしまった亮司に戸惑い、やがて泣き出した。

 この子は悪くない。娘の泣き顔を見て抱きしめてあげたいと思ったが、どうしても身体が動かなかった。

 申し訳なさそうに謝る親友に、亮司は笑顔で一言だけ告げた。


「許さない」


 その後の処理は全て弁護士を通じて行い、離婚が成立した。

 娘は妻が引き取る事になった。

 親友については知らない。

 二人からは通常よりも、はるかに多い慰謝料を取った。

 しかしそれだけだ。

 金なんか幾ら貰っても亮司の心は晴れる事はなかったのだ。


 いっその事、死んでしまおうか。

 何度心に過っただろうか。

 実際に包丁を握った事も、電車に飛び込もうとした事もあった。

 しかし出来なかった。


 そんな亮司がフラフラとたどり着いたのは、奴隷販売所だった。

 亮司自身、なぜこんな所に来たのか理由は分からなかった。気づけばここへ来ていたのだ。

 自分よりも不幸な誰かを見て安心したかったのかもしれない。

 絶対に裏切らない存在が欲しかったのかもしれない。

 理由はいくつも浮かぶが、どれもはっきりしなかった。ただ不思議な衝動が亮司を動かしていたのだった。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ